side01 泡沫
ソフトクリーム―――ないしアイス等々は口に入れても問題ないと発覚した。
よくよく考えてみれば当たり前のことではあった。
美晴の作った離乳食が食べれたのだから、流動性さえあればある程度は食べれるということだろう。
ならそこいらのスムージー系もいけるだろう。
まあ、味もなにもないんだから、何食っても変わんないのは確かなのだが。
ただ、そうだな。アイスは冷たいがゆえに、味がないながらも食べている時の良さがあった。
あれはまた食してみたいと思えるものだった。
小さいときには、あまりアイスなどは食べていない。
あまり甘すぎるものを食べると、子供のうちは薬を飲まなくなるからだと聞いた。なんでも、母さん曰く子供用の薬はとんでもなく甘い味付けをされているらしいから、普段から菓子類を渡さなければ、喜んで薬を飲むそうだ。
まあ、この話をの内容を理解できたのは、話を聞いた数年後だったけどな。
子供に何を言ってるんだか……
本当に母さんは抜けてるな。
抜けてるから、俺みたいなのを育ててしまうんだろうな。
そんな風に考えてしまって、俺は気を落とす。
持っていたアイスも机に置いて、ため息をついた。
いまはPCをにらみながら、SNS等で怪しい話がないか探している。
人力が故に、掲示板サイトなどを同時に見ることはかなわないが、警察やマスコミの介入がない分リアルタイムの話を見ることができて、情報が仕入れやすい。
まあ、SNSとかだと陰謀論とかも多すぎて精査が難しいところもあるが。
俺も俺とて、時間を割く気はないので、リアクトと断定できるものにしか動かない。いちいち県外に出ていくのもしんどい。
とは言っても、俺の住む高天市でのみ、というほどではないが、この市にリアクトの案件は集中している。
高天市の土地事情というのが―――いや、俺という存在がそうさせてしまっている。
悪いとは思うが、どうしようもないし、その分の生活地域もここにして対処はしている。
できることはしているのだから、文句を言われる筋合いはない。
ただ、そうだな。
会長たちには文句を言われても、俺はなにも言い返せないな。事実をわざわざ伝える理由もないが、彼女とその父親が置かれている状況は、俺が原因だ。
まあ、知らずに済むのならそれに越したことはない。知らぬままにすべてが終わる。
それは彼女たちにとって幸せなことだろう。
俺はすべてを知ることが幸福だとは思わない。
俺もできるなら、なにも知らぬままただ死にたかったよ。
そんな思いをはせていると、玄関の扉が開けられる。
「やっほーハジメ、来たよー」
「なんの用だ?今日、学校はないぞ」
「それ昼に言うセリフ?さすがにあったとしても、朝に来るよ―――って、なにこれ!?」
「なにって、アイスだよ。お前は死ぬほど食ってるだろう?いろんな男引っ提げてたし、女友達もいっぱいいるだろう?一緒に食ったとかないのか?」
「お、男引っ提げてるとかいうなし……今はもうそういうのないから―――でも、なんでこんなに?」
そう美晴は散乱したアイスの空箱の山を見て言う。
「アイスとかが食べられることが分かった。だから、いろいろ試してみただけだ。結局味覚はないから、なんにも感じないけどな」
「辛いのとかだったらどうなるんだろうね?」
「まあ、『辛い』は痛覚だから、なんかしらはあるんじゃないのか?俺も、体に傷ができれば痛いしな」
「へー、痛くなければ戦いとか有利だと思うけど……」
「そんなことはない。むしろ痛みを感じられないほうが、戦いに不向きだ」
痛みとは、人間の―――ましてや生物の、一番原始的な危機信号だ。
それがないのは、自分がどれだけ危険な状況にいるのか判断できない。
俺ならそんな奴、いくらでも殺せる。
撤退という手段を失った相手ほど、簡単に追い詰められるってものだ。
それをほんの10分ほど使って説明してやると、彼女は露骨にげんなりとした様子を見せる。
「ハジメ……私、あんまり戦うとかわからないからさ。そうやって、簡単に殺せるとか言われるとついていけないよ……」
「そうか―――お前を引き離すなら、一生殺す殺せないの話をしておけばいいのか」
「ええ……」
「冗談だ。俺もそういう話は好きじゃない」
「だね!で、ご飯食べる?」
「俺はあれば食べるし、なければ食べない」
「食べたいかどうかを聞いてるのに……まあいいや。私はハジメと一緒に食べたいから、キッチン借りるね」
「好きにしろ」
そういえば、なぜ彼女が施錠されたドアから普通に入ってこれたのか。
答えは単純だ。俺が合い鍵を渡した。
割と頻繁に俺の家を出入りすることが多くなった美晴は、俺が出先にいるときに来るということも多かった。その時はあきらめて帰ればいいのに、玄関前に座ってるのだからびっくりした。
俺から日常生活で意表を取れる奴も、こいつくらいなものだ。
だから、鍵を渡した。
あんまり玄関前に座られてると、他の部屋の人間に厄介な噂を立てられてしまう。
立ち退きになることはめったにないと思うが、よけいな波風で異常事態を起こされるのはごめんだ。
会長みたいな正義をはき違えた阿呆はどこにでもいるしな。
女関係は特にトラブルのもとだ。
しばらくすると、美晴が料理を持ってくる。
「じゃあ、今日はそうめんで!ここしばらくは、離乳食とかだったけど、もうそろそろいいかなってことで、ちょっと柔い目に湯がいてみました!」
「あっためて食うのなら、にゅう麺じゃねえのか?」
「それだ!名前忘れちゃってた」
彼女はそう言って、俺の目の前にどんぶりを置く。
中に入っているのは、あまり多くない麺と出汁、俺がアイスを食っていたことを考慮した上の量なのだろう。
こういうところは非常に好感が持てる。
彼女は、大人になって誰かと結婚するってなったら幸せな家庭を築けるタイプだろうな。まあ、自分があんなことをしていたから、少し厳格過ぎになりそうだが。
まあ、彼女に選ばれた男は幸せになれるだろうな。
「ん……どうしたの?」
「いや、相変わらず味がしないなあ、と」
「いつか取り戻せるよ。ハジメの味覚」
「だといいな」
「オムライスだっけ?思い出の味―――いつか、私が作るからさ」
「まあ、楽しみにしておく。それまでにちゃんと生きといてくれよ」




