side01 人知超越
嫌な予感は的中する。
正直初めて会った時から予感はあった。
それが確信に変わったのは、先刻の奴との接触。無論、月野が生身の時の話ではない。
奴がリアクトに変身していた時のことだ。
俺はあの時、生徒会や俺のクラスの人間―――しかも、さらに近い位置にいる人間だと絞った。
それだけではなんとも言えなかったが、あの時奴の弟にあたるトルーパーが言ったのだ。
『兄貴』と
俺の近くにいる人間で、男は奴しかいない。
その時点で、断定した。
しかし、俺がその時点で攻め込まなかったのは、俺が完全な悪役になることを避けるためだ。
その時点では上にいる会長やその他生徒会メンバーは俺に疑いの目を向けている。
奴が不審な死を迎えれば、必ず俺が疑われ、行動の阻害がなされていただろう。
それは避けたい。
好感度云々はどうでもいいが、邪魔をされるのは非常に煩わしい。
あなただけ知っていればいいなどという綺麗事は、現実でやると非常に愚かなものだ。
まあいい。結果として、多少強引なやり方だったが、今いる全員の前で姿を露見させることができた。ここからは、ただ一直線に奴を殺すことだけを考えればいいのだ。
俺は自身の外殻を剝がして、剣を作る。
「野蛮だな……」
「だからなんだ?お前はその野蛮に負けるんだよ」
今の剣を作るための行為が野蛮かどうかなんて興味はない。
俺はこういう風にしか武器を作れない。素手でやってもいいが、ことさら加減がきかなくなる。
ねじ伏せたいのならそれでいいじゃないか?
俺の能力がそれを許さないだけだ。
それに―――
俺は強く踏み込んで、一気に距離を詰める。すると、月野はその速度に驚き、体勢が少しだけ後ろ向きになる。この体勢なら、避けきれないはず。
振り下ろした剣は肩口から入っていき、流血を促す。
そのままにしておけば死は免れないが、そこはさすがというべきか、リアクトの再生能力をふんだんに使って回復する。
しかも、流血した際の血液を振りまき、それを爆破させる。
小さなものではあるが、数が多いので、俺も下がらざるをえなくなる。
ヒットアンドアウェイ……これが今できる最良の戦い方だろう。
腕を横凪に振り、まっすぐ剣を飛ばす。
「くっ……!?」
「そのまま刺さっとけよ。そうしたら簡単に殺せたのに」
奴は飛ばされた剣をとっさに炸裂させた。だが、少しだけ刃先が奴の体に侵入していたのか、またも血が流れていることを確認する。
ここまでは若干の苦戦を強いられる。だが安心しろ。
すぐに殺す。
―――殺し以上に醜く、野蛮な行為などないだろうからな。
だが、奴の俺の想定外の動きをする。
「クソッたれがああっ!」
咆哮し、自身の傷を抉る。
人体の自然治癒速度は早いし、痛みに対して鈍くもなる。
だが、そんなことをすればはっきりとした痛覚を感じるはず。いや待てよ……
俺が嫌な予感がして、とっさに距離をとる。
「吹っ飛べよ!零陵っ!」
そう言うと月野は、俺に向けて血の玉を投げつける。
広範囲にわたって血が飛び散り、俺の目の前の地面まで赤々としたものが広がる。
すでに流血によって、地面にはいくばかの血だまりができている。
これはまた……
「血の地雷ってやつか?」
「お前に能力が通じないのはわかってるんだ。簡単に近づかせられるかよ!」
……とにかく会長や美晴たちに被害はない。
それならいい。
状況は、周辺一帯に地雷原が点在している。
目に見えるものではあるものの、踏まないという選択肢もできない。
なら―――
「自爆は覚悟……いや、爆破する前に走破すればいい」
そう言って、俺は思いっきり走り出す。
自身の脚力の限界を引き出し、奴の動体反応速度を超えた速さで接近する。
だが、奴の判断は早かった。
ズガァン!
奴に肉薄する直前、俺が踏んだ血だまりが爆発した。
今まで食らった爆発威力の比じゃなかった。体が浮き上がり、意識が飛びそうになる。
奴は俺を目で追いきれないとわかった瞬間、山勘で自身に一番近い位置を爆破したのだ。
単純に考えが抜けていた。
ただの地雷と考えた俺のミスだ。
踏む以外にも奴の意思のスイッチがある。
「本当に無様だな……」
俺は空中を舞いながらそう考え、体を回転させながら着地に向けて足を下に向ける。
しかし、よく見ると着地点は奴の血だまりになる。なので、さらに上体を倒し、腕を振り上げる。
そのまま振り上げた腕から外殻をはぎ取って、それを血だまりに向けて投げつける。
奴が起爆の判断をするよりも早く、衝撃―――地雷の特性を使って、爆破を起動させた。
爆風波俺に届く前に弱くなり、俺にダメージを与えるほどではなくなる。
爆破後の少しだけ沈んだ地面に着地し、一気に駆ける。
奴の目の前の血だまりはない。
その場所に爆撃が届くような場所にもそれはない。
今がチャンスだ。
「ふんっ!」
俺は奴が反応しきる前に、その顎を打ち抜いた。
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生徒会室から下を眺める者たちの感想は一致していた。
『あれが人間同士の戦いなのか』と
だが、本質的に彼女たちの認識が間違っている。
零陵一は無論人間ではないし、今リアクトに変身している月野も正確なところを考えれば人間ではない。
当たり前だが、そうなれば筋力も何もかもの能力が人間とは比にならないレベルだ。
彼女たちが見ていたところから姿が消え、その次の瞬間にはどこかが爆発する。
脳の処理が追い付かないうちにすべてが始まって、終わっていく。
「会長、月野先輩は―――」
「悪いけど、ハジメが相手なら死ぬと思うよ」
三条としては、会長への質問の言葉のつもりだったが、言い終わる前に美晴が言う。
それにムッとするも、それ以上に聞き逃せない言葉もあった。
「零陵君が殺すってこと?じゃあ、警察を呼ばないと……」
「あれが警察の対処できること?そもそも、リアクト関連の事象は珪砂も動かないらしいよ」
「らしい?」
「私も聞いただけ。でも、あの時のことが調べられてない時点で、ハジメの言う通りだと思う」
「どうして……」
「ん?」
三条は、少しずつ情緒を壊していく。
どうにか平静を保とうとするが、自分以外にこの状況を驚いている様子がなかったからだ。
会長は一度戦闘の当事者になっているため、相対的に冷静に見える。
三春は言わずもがな。
書記の荻原もあくまですまし顔。むしろ、なにかを画策するような顔だった。
そんな彼女たちの情緒が、三条を混乱に誘う。
「どうして、そんなに―――冷静でいるの!」
「三条、私も冷静とは言いづらい。突き落とされて、戦闘が始まって―――私の心臓の音が他人に聞かれるんじゃないかと思うくらいに早鐘を打っている」
「でも、会長も荻原先輩も―――月野先輩が怪人で、死ぬかもしれないっていうのに……
なんで、そんなに表情が動かないんですか!」
そんな叫び声が生徒会室に響こうとするも、外の爆発音がそれをかき消してしまう。
だが、そこまで口を閉じていた荻原が口を開いた。
「三条さん―――私は、月野君が死ぬべきだと思う」




