side02 近づけなければ体術も意味なく
「ぐあああっ!?」
僕の攻撃がサイコリアクトに命中すると、火花とともに後方へと吹き飛ばされる。
「零蘭君!?ど、どうしてあの人を攻撃するの!?」
「君は忘れている。奴も、人の命を奪っている、ということを」
「そ、それは……」
「君は理由に使われているだけだ。奴は奴自身の感情で動き、人を殺した。世にはびこるゴミに変わりはない」
花音はまだ何かを言おうとしたが、僕の意見に対して反論の余地がないことを理解し、押し黙ってしまう。
人の感情が、サイコリアクトをかばいたい気持ちを覚えるかもしれないが、この件は本来奴がいじめのメンバーを殺さなければ起きなかった事案だ。
無論、少なくとも雨宮柚葉も恐怖で力に手を延ばすことはなかっただろう。
すべての元凶は奴だ。
リアクトとしての影響も考えたうえで、レベル5への進化も危惧しなければならない。
ここでつぶさなければならない。
飛ばされたリアクトに対して追撃を加える。
奴はなにがなんだかわからずに絶叫する。
「や、やめろ!今の俺たちに戦う理由は―――」
「ある。君がリアクトだからだ」
「クソッ!花音が好意を抱いているから手を出しづらいけど……お前が悪いんだからな!」
そう言うと、奴は僕に向けて手をかざしてきた。
しかし、何も起こらない。
「なんで!?なんでお前は飛ばないんだよ!」
「君は先の戦闘を見ていなかったのかい?まあ、いい。レベル5ですらない君の能力など恐れるに足りない」
「こんのっ!」
僕の煽りに対してサイコリアクトがこちらに向かって走ってくる。
まあ、遠距離からの攻撃が通じないのなら、君にはそれしかないだろうね。
奴は手で顔を覆いながら走ってくる。
致命打さえなければ僕に近づけると踏んだのだろう。しかし、僕もそれに簡単に乗るほど馬鹿ではない。
戦いにおいて、相手の土俵に乗らないのは鉄則だ。
遠距離戦では僕に軍配があるが、近接は奴のフィジカルも相まって非常に面倒だ。
負けることはないだろうが、不確定要素によってはあり得ないこともない。
なら、一定の距離をとり続けるのみ。
僕は照準をサイコリアクトから、奴の少し前の地面に変え、発砲する。
放たれた弾丸は地面の中へと入り込んでいき、地面を変質させた。
形質を変えた地面は、一気に盛り上げって奴の顎先を殴り上げる。
「うぐあっ!?―――なんだそれ!」
「おこがましいね。レベル4の分際で僕に勝とうなど―――」
「身の程知らずってか。さすがに分が悪いのかもな!」
そう言ってサイコリアクトは瓦礫を持ち上げて僕に投げつける。
さすがに戦術を変えるか。まあ、ただの物理攻撃ならなおのこと通じないのだが。
飛んできた瓦礫を射撃で迎撃する。その差に砂埃が発生して試合が奪われるが、奴からの追撃はなかった。
その代わりにもう一度爆発が起こり、僕の視界が完全に封鎖される。
さすがに、僕もこれには対応しきれない。
なので、紀里谷花音を回収し、抱き寄せて彼女を守るようにする。
おそらく二段目の爆発は、雨宮柚葉の仕込んでいた爆弾だろう。
まあ、おそらくサイコリアクトは―――
砂埃が消え、光が差し込んできて視界が確保されると、その場に敵の姿がなくなっていた。
「やはり撤退したか。レベル5への素質を持っているか……」
「あ、あの……零蘭君……」
僕が独り言をしゃべっていると花音から声が上がった。
ああ、化け物に抱かれているのは気分が悪いか。
「悪かったね。でも、ああするしかないというのは理解を―――」
「そ、その、ありがとね」
「感謝……?君は僕が怖くないのかい?」
「え……?怖くないよ。だって、零蘭君でしょ?」
「……君はすごいな。人は自分と違うものを恐怖か嫌悪を覚えるものと認知していたが」
「そりゃ、零蘭君が知らない人だったら怖いけど。でも、私はずっと一緒にいたんだよ?姿が変わっても、雨宮さんたちみたいなことはしないでしょ?」
なんだろうか。温かい気持ちになるという表現が今なら理解できるかもしれない。
「僕は君のそばにいてもいいだろうか……」
「いいよ。私は、零蘭君と一緒にいる時間がすっごく大切だから」
「そうか……なら僕と恋人になれるかい?」
「え……?」
僕のその告白に彼女は驚きの声を上げた。
そこに恐怖は純粋に驚いているだけ。なら、僕もこの姿であり続ける必要はない。
変身を解除して、彼女の目をしっかりと見据える。
「僕はいくつもの本を読んで、人はどういう感情を示せばいいのかを学んだ。だが、君といると、それ以上に得られるものがあることを知った。だから―――」
「だから……?」
「だから、僕は君と一緒にいたい。男女が共に日常を過ごす関係を恋人というのだろう?君に、僕とそういう関係になってほしい」
花音は静かに僕の言葉を聞いてくれた。
どうすればいいなどと結論を急ぐようなまねはしない。
ただ彼女の中で整理をつけられれば―――
「いいよ」
「……は?」
「いいよ。私が零蘭君の―――颯二君の恋人になる」
「何度も聞くようだけど、本当にいいのかい?」
「うん、私も颯二君のこと好きだし……その、それこそ颯二君はいいの?私で」
「問題ない。むしろ、君以外に誰がいるんだい?僕の認識では、君以外に僕と仲良くしている人物はいない」
「あ、あはは……そうだよね。うん、じゃあこれからよろしくね、颯二君」
そう言って、彼女は僕を抱きしめてくる。
それに応じて、抱き返したのだが、不思議なもので、彼女から一切の恐怖を感じない。
あんな姿が一般人に露見すれば怖がられると言われていたから、拍子抜けだ。まあ、他に誰かに見せるつもりもないが。
そういえば、彼女の母が安否を気にしていたな。
早く帰らないといけないか。
しばらく時間をおいてから、あたりが暗くなる前に彼女の手を取って歩き始める。
「る、颯二君?」
「君の母親が待っている。君を心から愛す人間は、僕だけじゃないってことだ」
「愛す……恥ずかしいことを平然と言うよね。でも、私もこういうのについていかないとだめだよね―――颯二君!」
「なんだい?」
「愛してる!」
「―――そうか。じゃあ行こうか」
「くっ、思ったより響いてない―――って、あれ?顔真っ赤だね」
愉快そうに彼女は笑う。彼にわかるかな?この時の高ぶりを
僕は決めたよ。この笑顔を一生守り続ける。




