side02 正義感に勝るほどの愚行
「んぅ……」
「よお、お目覚めか?」
目を覚ました紀里谷花音は、まだ眠気のする頭で声のする方に意識を向ける。
そこには、中学生のころに何度も見た同学年の姿だった。
しかし、その相手に良い思いではない。
むしろ忌々しいともいえる記憶しか存在していない。だが、相手もそれは同じこと。
次々と友人の命が奪われていき、その共通点が彼女と関わっていたこと。端的に言うのならいじめを行っていた仲間だ。
完全な逆恨みだが、いじめを行い気分を良くするような人間に、そんな言葉は通用しない。
しばらくすると、彼女も状況を理解し始める。
「雨、宮さん……?どうしてここに?」
「まだ自分の状況が理解できないの?それとも、あの時より頭馬鹿になっちゃったの?」
「私は……」
彼女はなんとか記憶が途切れる前の記憶を呼び起こす。
最後に零蘭颯二と別れた後、家に向かっていたのだが、そのあとの記憶がない。
いや、正確には存在する。だが、本当に一瞬だけの記憶。何者かに口をふさがれるような感覚を覚えた後、そのまま眠ってしまったのだ。
「はぁ……まさか、丸一日以上もしっかり眠るとは思ってなかった。あんた、どんだけ睡眠不足なんだよ」
心配というわけではないが、計画が狂うほどに眠られ、さすがに主犯の彼女もあきれているのだ。
当の紀里谷花音は、夜中に零蘭颯二のことを考えて一夜を過ごすということを繰り返し、行っていた。
連れ去られる前の日は、運悪くその日だったのだ。毎日そういったことに更けているわけではない。
「まあいいや。もうこいつらにあんたを抱かせるとかそういうのもできないし……どうしたものかな」
「抱かせる?って、なに言ってるの?」
「まだわかんないの?ていうか、あんたにも連絡という噂とか話とか行くでしょ?いじめていたとはいえ、あんたはクラスメイトなんだから」
「知ってるけど……あれ?みんな―――」
雨宮の言葉で彼女はようやく気付いた。自分の周りにいる男が一切言葉を発しないことに。
そして、みんな死んでいると話を聞いた人たちばかりなことに。
「え、え……?」
「やっと気づいた?もうこいつらはみんな死んでる。あんたのせいよ」
「え、私そんなことしてない」
「じゃあ、誰がやったんだよ。こいつらは全員、内臓が破裂して死んでた!医者曰く、人間にはできるようなことじゃない、そういわれたよ!」
「でも、それと私がやったって証拠には……」
「うるさい!お前が、お前がみんなを!」
空気が変わった。それを敏感に感じ取る。
激高している雨宮はおもむろにスマホを取り出してアプリを起動する。
「私はみんなと仲よく遊べればよかった!体の関係もあった。本気で好きな人もいた!お前がお前がいなければ!」
「そんなの―――そんなのってないよ!私をいじめてたのはそっちでしょ!」
「関係ない!ここであんたを―――殺すんだ!」
そういって雨宮は起動されていたアプリのスイッチを押す。
すると、スマホを持った手から体が変化し始める。それと同時に周りの死体の男たちが怪人に変化し始める。
その恐怖の空間に一人で立たされる。
並の人間なら失禁しながら泣き叫んでもおかしくない。あまりメンタルの強いと言えない彼女ならなおのこと。と言いたいところだが、彼女はなぜか何も言わない。
「なんで何も言わない!もっと叫べ!泣けよ!」
「ううん、私は泣かないよ。絶対に助けに来てくれるから……」
「誰がだよ!警察か?期待しないほうがいいと思うけどな!」
「違うよ。もう私は見つけてるの―――一生好きでいたい。ううん、愛したいって思う人が。その人はね、たぶんどんな時でも私を助けに来てくれる」
「はあ?お前を好きになる人なんて……なんだ?」
怪人に変貌した雨宮が異変に気付く。
どこかから重く唸るような音が近づいてくる。
彼女にはその音はよく聞いたことがある音だった。
一時期あこがれた先輩が乗り回していたもの。無免許で乗っていたことが発覚して、高校を退学になって落ちぶれていった先輩。
そんな人が乗っていたものの音に似ている。
「バイク……?いや、まさかこんなところまで聞こえるくらいのところに道路なんて……」
「な、なに?どうしたの?」
雨宮にはバイクのエンジン音が聞こえているが、花音の耳には届いていない。それにここは敷地内の奥まったところにあり、バイクなどの一般車両の音が近づいてくることもあり得ない。
しかも、想像に反してバイクの音は近づいてくる。
と、思ったところに―――
ズガァン!
突如、壁をぶち破ってそれが入ってきた。
それと同時にバイクは怪人に変貌した死体をそれの前面に乗せながら走行し、花音の目の前で止まりながら吹き飛ばす。
「な、なんだ!?だれだ!」
雨宮のその問いかけに搭乗者―――零蘭颯二は反応しない。
そのまま、バイクから降り、ヘルメットをとりながら周りを見渡す。
「無事でいてなによりだ。いや、見えないところに怪我でもあったかい?」
「零蘭君!」
「思ったよりも絶望が薄いようだね。まだなにもされてなさそうだね。まあ、それがわかればいい。後は僕のすることをすればいいだけだ」
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僕が到着するころに紀里谷花音がなにか凌辱を受けていたという感じはなかった。
まあ、その程度は感じていた。
彼女を周りの男たちを使って犯すことなどできないだろうからね。
死体であるがゆえに、三大欲求が死んでしまっているから当たり前のことなのだが。
だったら殴るなりなんなりとでも思うだろうが、それは当人が悲鳴を上げなければ雨宮柚葉は満足しないだろう。
つまるところ、彼女が眠っている限り、そういった手は出されない。
眠っていることがなぜわかったかと言われれば、彼女《雨宮》の交友関係だ。
彼女の近くに法外の薬物を取り扱っている人物を発見したまでのこと。その売人との間とのやり取りを発見。彼女の自室にて即効性の麻酔薬の空き瓶を発見した。
ちなみに、そいつは今回の要件のついでに警察に情報を渡しておいた。
そちらの対処は司法に任せよう。
僕は僕なりに、片を付ける。
「やあ、君が雨宮柚葉かい?聞いていた話では、よくモテる容姿をしていると聞いていたが、ずいぶんとおぞましい姿をしているんだね?」
「お前、状況がわかってるのか?単なる正義感でここに来たのなら大間違いだよ」
「正義感―――僕は他人がどうなろうが知ったことではない」
「ならなぜ!」
「君は馬鹿なのか?僕がここにいる。それが答えだ」
どうでもよくない人がいる。それだけのことだ。
「それに、彼女の無事が確認できたのなら、もはや目的はただ一つ
君を殺すことだけだ」
そう言うと僕は、制服の内ポケットからショットガンを取り出した。




