第12話 熾烈
アシレーヌは、翼から羽を引き抜き、剣に変えて切りかかってきた。ジャンヌもすかさず羽を抜いて剣を生成し、アシレーヌの攻撃を切り返した。アシレーヌはひるんで、一歩下がった。
「ぐっ。来い、カメレオン男」
「メレ、メレ」
アシレーヌの呼び声に答えて、カメレオン男が姿を現した。さっきまで透明になっていたようで、いきなり現れたかと思うと、アシレーヌの前まで近付いて行く。
「またそれか。自分じゃあ勝てないから、手下を使おうってわけ。有象無象で私が倒せるとでも思うのか」
「はあ？ バカにしないで。ジャンヌ、あなたはあたしに殺されなきゃいけない。カメレオン男、おいで」
「メレー」カメレオン男は、アシレーヌに抱き着くように重なった。かと思うと、アシレーヌの体表に、ぐんぐんと吸い込まれていく。カメレオン男が、アシレーヌに吸収されているのだ。今では、体の八割以上が飲み込まれている。
「え！ 凄い画だな」
「あたしは、怪人を生み出すときエネルギーを分け与える。逆にこうやって吸収することで、初めて全力を出せるってことよ」アシレーヌはすでに、カメレオン男を完全に吸収した。
「負け惜しみにしては上出来だな」
ジャンヌはそう言ったが、アシレーヌが強くなったのはよく分かる。翼のつやは増し、両手足はより鳥に近く、太く鋭い爪も生えている。
「いくぞ、ジャンヌ！」
「来い」
アシレーヌが剣を突き刺してくる。ジャンヌはそれを剣ではじくが、すぐに二撃目、三撃目がくる。突き、切り裂き、横の一閃、縦の一閃、複数の切り方を混ぜ込んでくる。
アシレーヌはとどめに強い突きを放ってきた。
ジャンヌはガードしたが、足を床に擦りながら後方へ下がっていく。
「どうだ、あたしの方が押し勝っているわ」
アシレーヌは言って、ぐんぐんと距離を詰めていく。そして、とどめと言わんばかりに剣を振り上げた。
瞬間、ジャンヌが目にも止まらぬ速さで剣を一閃。アシレーヌの胸の上に、切り傷が入る。その傷は広がり、緑色の血を噴き出した。
「あ、あれ……？」
「アシレーヌ、てめえは怠けすぎた。これまでの戦いやマサミチとの出会いが、私を成長させた。てめえにはもう勝てない」
「くっ、妹のくせに！」
アシレーヌがまた剣を振ろうとしたが、ジャンヌはその刃が届く前に、相手の腕を切りつけた。アシレーヌが右腕から血を噴く。
「遅いよ、アシレーヌ」
「ちくしょうちくしょう、ちくしょう！」
二人は、間合いをはかるかのように、剣を構えて歩いた。二人で円を描くようにして。
「アシレーヌ、諦めないか？」
「え？」
「てめえのやってきたことはお下劣だけれど、今からやり直したって良い。これからはもう人を殺さない、無暗に傷つけないと約束してくれ。そして、私たちで一緒に暮らそう」
「あたしに負けるからってそんなことを言うのね」
「違う。なあ、下らないことを言わないでくれ。私は、姉貴と一緒に罪を背負いたいだけ」
「甘いわね。だからあなたは負けるのよ」
アシレーヌが両手で剣を握った。応えるように、ジャンヌも両手を剣に添える。次の一撃が、勝負を決める。
ほぼ同時に、剣が振りかざされた。片方の剣が折れ、刃が宙を舞い、床に刺さった。
「あっ！」
戦いに息を飲んでいたマサミチが、声を発した。
膝をついていたのは、アシレーヌだ。攻撃の瞬間、アシレーヌの剣は折れ、ジャンヌの剣がアシレーヌの肩を裂いたのだ。その攻撃は、肩を斜めに切り、胸の近くまで到達している。
「どうして負けたの……」
アシレーヌは、血の出ている肩を抑えながら、膝をついた。
「アシレーヌ、すべて終わった」
ジャンヌが、アシレーヌの顔を覗きこんだ。
「いいえ、まだよ」
「ジャンヌ、離れろ！」
と博士が言ったときには、既に遅かった。
突然にアシレーヌの目が光り、両目から紫色の光線が放たれた。レーザーのごとき攻撃である。
ジャンヌは避ける間もなく、腹に二つの穴を開けたまま、後方へ吹っ飛んだ。壁に激突し、瓦礫を落としながら床へ落下する。ジャンヌは穴の開いた腹を抑えた。
「まだこんな技が……。博士、先に言ってくださいよ」
「アシレーヌは、わたしが知らない次元にいる……。自らを試し、わたしが知らない技をも習得しているのだ。さっきのは、雰囲気で離れた方が良いと言えただけだ」
