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51話 神器エトランゼの真価

『右だ!』

「わかってる!」


 アード山というはげ山で行われる攻防は、確実にオレが不利だった。


 炎狼のカゲハは、どこからか矢を取り出し、火のついた矢を放ってくる。

最初は回避し続けていれば矢が切れるかと思ったが、そんな事はなさそうだ。


(異世界だし、矢が無尽蔵でも不思議じゃないってことか!)


『炎に囲まれている。逃げ場を奪われたぞ』


 エトランゼの言う通り、オレの周りは炎でいっぱいになっていた。

あのアルメティアとかいう弓は、番えた矢に炎を纏わせて放つ事ができるようだ。

 確かに攻撃力が高い。もしかすると、ここがはげ山なのも、この弓が原因なのかもしれない。


「どうすればいい、エトランゼ」

『多少熱いやもしれんが、炎を切り裂いて脱出するしかあるまい』


 エトランゼは無茶は言わない。絶対に可能な事しか言わない。


(やるか)


 オレがそう決めると同時に、体は自然に動き出していた。


『敵は右手にいる』

「距離を取るのは下策だろうなっ」

『仰る通り』


 エトランゼと意識を合わせ、一気に駆け抜ける。


 炎を切り裂き、突進するオレとエトランゼ。


 くっ、確かに熱いぜ。

 でも、このぐらいじゃ死にそうにない。


まだまだ、いける!


『奴も動いている、強敵だぞ、キムラ』

「そう、みたいだなっ!」


 カゲハが動いた気配を察知してからの薙ぎ払い。

陽炎が距離感を狂わせている……が、それは相手も同じだと思った。

しかし、空しくもその攻撃は外れてしまう。


『そんな大振りは当たらぬぞ』

「試しただけだって」


「……」


 涼しい顔のまま無言で矢を放ち続けるカゲハに対し、喋りながら戦うオレとエトランゼ。

まるで対比のような二人だが、精神的には二人で戦っているように感じているオレが有利だと思う。


 向こうもオレと同じように神器と話している──念話とかで──かもしれないが、オレにとってエトランゼと話す事は、それだけ心強い事だった。


「でも、これじゃまずいぜ。相手の矢はポンポン飛んでくるのに、俺の剣は届かない。どうしたらいい、エトランゼ」

『難問だ。通常、遠距離攻撃を仕掛ける相手には、接近戦を持ち込むのが定石であるが、あやつめは射った後、すぐに移動している』

「そうだな、しかも撃つ速度が異様に早くて正確だ」

『矢が尽きる事も望めそうにない。となれば、罠を仕掛けて奴の足を止めるしかない』


 罠……?


「いい手があるのか!?」

『……ない』


 ないのかよ!

期待だけ持たされてがっくりと来た。まあ、オレ自身に解決策が浮かんでない事がそもそも問題ではあるんだが。


『主がもっと早く動けたならば、チャンスはある』

「おいおい、悪かったな、遅くて」


 まさかエトランゼにダメ出しをされるとは思わなかった、少しショックだ。


『そうではない。我の力をもっと引き出すのだ。

その為に、一体化を進める必要がある』

「一体化?」

『神器使いは神器と一体化を進める事で、より強力な力を発揮できるようになる。だが、見たところ相手はほとんど一体化できていない。

あれでは、ただの火の矢を放つ弓だ』


 マジかよ──。

相当に強力な神器使いを相手にして、あれでもまだ一体化が進んでいないというエトランゼ。なら……。


「一体化を進めるにはどうしたらいいんだ」

『我に身を任せよ、主が自らの意識のコントロールを外すのだ。

さすれば、肉体の限界を超えて我が力を引き出す』


 なるほど。確かに人間の脳には、限界を超えた力を引き出さないようリミッターがかかっている。

このリミッターを外してしまえば、反動で翌日、身体が大変な事になってしまうだろう。


(それでも、今、必要なら……!)


「やってみる!」

『……応!』


 意識から体を手放す。

腕が、足が、誰かに引っ張られる感覚がある。

多分、これはエトランゼの意識だ。

このままエトランゼの意識に身体を委ねていけば、一体化がきっと進み、奴に、カゲハに勝てる。


 * * *


「……!」


 最初に頌路(ショウジ)の異常に気付いたのは、対戦中のカゲハであった。

頌路(ショウジ)を包む異様な雰囲気、異様な感覚。


「な、なんか様子が、ヘンじゃない……?」


 次いで異変に気付いたのはレーラ。


「ショウジ……どうしちゃったの」


 ここまで異様さが際立っていれば、さすがのエリカも気付く。

セリとラクチャは、警戒を一層強め、動向を見守っていた。


「……ッ」


 カゲハの放つ矢をことごとく切り落としていく。

その動きに無駄はなく、とても先ほどまでと同一人物だとは思えない。


 頌路(ショウジ)の目には怪しい光が燈り、ゆらりと体が動く。

まるで操られる人形のように、腕を振り上げると、激しい剣閃が地面をえぐり、カゲハを襲う。


「チッ」


 カゲハは舌打ちをしながらも回避し、矢を放っていく。


 実のところ、カゲハは頌路(ショウジ)に手加減を加えていた。

相手が格下であることも然ることながら、頭目であるレーラのお気に入りを壊せば、後で何を言われるかたまったものではなかったからだ。


 しかし、そうも言えない状況になっていた。


「ショウジ、何か動きがヘンじゃない……?」

「お嬢ちゃんの言う通り、変だね」

「お嬢ちゃんじゃないわ、エリカよ」

「はいはい、エリカお嬢ちゃん」


 レーラとエリカの軽口も、重い雰囲気が漂う。


「クックック……」


 頌路(ショウジ)の口から洩れる、邪悪な笑み。

それは、神器使いなら、誰もが知る、いや、知っておくべき状態。


「……融合」


 カゲハが苦々しく口にする。

矢でけん制をしながら、少しずつレーラに近づいていく。


「おかしら」

「なんだい、戦闘中に」


「奴が融合した。逃げろ」


 融合。その単語を聞いたレーラは、一目散に団員に散開指令を出す。

慌てるエリカ。


「な、何が起きてるの!?」

「どうやらショウジが神器に取り込まれたようです。急ぎ、火の国へ撤退しましょう」


 セリが今にも飛び出しそうなラクチャを抑えながら、エリカに進言する。その言葉に反応したのは、意外にもレーラであった。


「待ちな、火の国に融合者なんて連れて行ったら阿鼻叫喚の地獄絵図になるよ。どうせ逃げるなら……光砂の国にしな」


「なっ!?」


 知ってか知らずか、エリカの故郷である光砂の国を指定するレーラ。


「新興国については、あたいらも気に入らなかったんだ。

そっちは何とかしてみるから、光砂の国に誘導できないかい?」

「な、なんでそんなことを!」


 エリカが食ってかかるが、レーラは肩をすくめる。


「光砂の国が世界征服をしようとしているからさ。吸収された砂の国の民の現状を知ってるかい?

王妹ロベリアを除いて、王侯貴族一般市民に至るまで、全て奴隷のような扱いだ」

「……」


 その現状についてはエリカも思うところがあった。

このまま侵略規模を広げれば、必ず砂の国と同じ事態が起こる。

故に火の国に、光砂の国を止める助力を求めに来たのだ。


「あんまりゆっくり話してる時間はないみたいだよ。何とか引っ張っていってくれ」


 戦況をぎりぎりの状況で保っているカゲハもそろそろ限界が近い。

エリカは意を決する。


「ショウジ! もういい、もういいから!」


 エリカの言葉に、炎の向こうで頌路(ショウジ)の口角が歪に上がるのが見える。


「……来ます! エリカ様!」


 セリが瞬間的にエリカを抱き、頌路(ショウジ)の斬撃波を回避。

エリカに手を出した事で、ついにラクチャの我慢が限界に達する。


「もう許せん!」

「ラクチャ、無理しないでね。相手は神器よ」

「アハハハハ!」


 ついにバーサーカーの鎖が解き放たれる。

……が、神器相手では心もとないのも事実であった。


「エリカ様、ショウジをひきつけながら光砂の国へ向かいます! よろしいですね!」

「……ショウジ……」


 炎に包まれるアード山中腹。

セリに抱きかかえられ、下山するエリカの目に映ったのは、希望か、それとも絶望か──。


 

のんびり更新の予定です。

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