第46話 杉野あかりの過去#5 変化
どうも!斎田遊矢です!
更新少し遅くなりました!
今回、かなりかなり長いお話です。
何度もどこかで切ろうかと思いましたが、あかりの過去編にとって大事な話になるのでこのまま投稿しようと思いました。
休憩しながら時間をかけながらでいいので最後まで読んでいただけると嬉しいです!
あれからあたしの周りは少しずつ変わっていた。
今まで話したことがない子たちから話しかけられたり、移動教室も誰かと一緒に行ったり、お昼ご飯も誰かと一緒に食べたり……
何よりも嬉しかったのは演説に少しだけ人が集まってくれてあたしの話を聞いてくれたり、応援してくれることだった。
今まで過ごしてきた学校生活とは180°変わった生活に困惑しつつも楽しいと思えた。
「ねぇ遥香、こんなに簡単に上手く行っちゃっていいのかなぁ……」
今日は遥香と2人で葉山先生に科学室を借りる許可も取って弁当を食べている。
連日みんなとわいわい食べるのもよかったけど、さすがにもともと根暗のあたしにはまだ少し明るすぎた。
「ん〜、いいんじゃないですか?先輩が頑張ってる証拠ですよ。」
遥香はもぐもぐ自分の弁当を食べながらそう言う。
「そうなのかなぁ……上手くいきすぎな気がするんだよね……」
「考えすぎですよ。現に先輩頑張ってるじゃないですか。でも、ぎこちなさすぎてソワソワしてるのは可愛いって思いますけど。」
「ちょっと!遥香!」
クスクス笑う遥香に少しだけ腹が立った。
でも、遥香が言うことは正しい。
たまに話に着いていけなくなったり、口調が戻ってしまうことが多々ある。
しまったと思った時は周りの子たちは笑ってその場を濁してくれるか、やっぱり藤田は藤田だよねという顔をされる。
「遥香の言う通りでもあるよね……もっと頑張らないと!」
「その意気です!先輩!」
残りの弁当を頬張って自分に気合を入れた。
(でも、みんなの輪に入るってこういうことだよね。もっと頑張らないと……!)
************
「なんなのあいつ。調子に乗って。」
「ほんと。急に可愛くなったからって周りにアピールしちゃってさ。」
2人組の女子がぶつくさ文句を言いながら廊下を歩いている。
「あぁ、なんか思い出しただけでイライラしてくる〜!」
「ほんとそれ。名前聞くだけで嫌気さすもん。」
2人の文句は止まらない。
すると、2人は掲示板前に止まった。
「本当に懲りないよね。こんなことしても金山くんに勝てるわけないのにね。」
そう言うとその女子はあかりのポスターを剥がすだけではなく、ビリビリに破り割いた。
しかもその一枚だけではなく、片っ端から全てのポスターをビリビリにしていた。
「これで懲りるでしょ。何をやったって無駄なんだよ。」
と言ってケラケラ笑いながらどこかへ消えていった。
***********
-次の日の朝あたしは嘘みたいな光景を目の当たりにしていた。
「えっ……なんで……?また……?」
最近なくなってきたと思っていたのにまたポスターが剥がされていた。
剥がされているだけならまだいい。
ポスターがビリビリに引き裂かれていたのだ。
「……ひどい。なんでこんなこと……」
さすがにここまでされるとメンタルに来るものがあった。
「先輩っ!これってまた……」
その場で膝から崩れてるあたしのところに遥香もやって来た。
「……なんでなんだろう……最近はなかったのに……しかもひどい……」
「ポスターいろんなところに風で舞ってるみたいです。こんなことして……許せない……!」
ポスターのことはすごく悲しいけど今はなんかもうどうしたらいいのか分からないしか脳内で勝たなかった。
「おい!藤田!大丈夫か!?」
そこに葉山先生も慌てた顔で駆けつけて来た。
「先生……どうしたら……」
気の抜けた声で葉山先生に涙が溢れそうな顔で問う。
「……さすがにこれはなぁ……それともう一つ残念な知らせだ。このポスター校外にまで舞ってるらしい。今朝からクレームの嵐らしい……」
あしたの顔から血がサッと引いていく感覚がした。
このポスターが周りの人たちの迷惑になってる。
しかもあたしの名前がしっかり書いてある。
これはもう選挙どころではないってことを。
「……どうしよう……どうしよう……」
「先輩……」
泣き崩れるあたしに遥香が背中をさすってくれた。
「……すまん藤田。選挙で忙しいかもしれんが原因分かったら教えて欲しい。……俺は今から近隣住民に謝罪を入れに行かないといけない……いつまでかかるか分からんな……」
先生は困った顔で頭をポリポリ掻きながら職員室に戻ろうとしていた。
「……先生。あたしも一緒に謝りに行きます……」
「いや、お前今そんなことしてる場合じゃないだろ。ここは先生に任せて……」
「いえ、あたしも行きます。だって……もう……」
俯いて答えるあたしに葉山先生は
「……分かった。ただ辛くなったらやめていいからな。辛くなる前に引けよ。」
「……はい……」
「私も一緒に行きます!」
どんよりした雰囲気を遥香の言葉が切り裂く。
「……いや、遥香は……」
「もう、前言ったじゃないですか、1人で抱え込まないでくださいって!私も手伝ってる身、協力しますよ!」
「……もう、遥香……」
もう自然と涙が止まらなかった。
でも、それと同時に絶望感があたしを襲う。
「とりあえずホールルームが始まる直前まで学校の近くから順に潰して行こう。青山と藤田は一緒に回るといい。とにかく無理をするな。」
「分かりました!さ、先輩一緒に行きましょ!」
「う、うん……」
今は前向きな遥香がいてくれてやっと心が落ち着いてる。
遥香に強引に手を引かれてまず一軒目に辿り着いた。
「じゃあ行きますよ。先輩。」
遥香は躊躇いなくインターホンを押そうとする。
「ちょっ……!ちょっと待って……!」
あたしは強引に遥香の腕を掴む。
「先輩……でも早くしないと……」
「……うん、分かってる……けどちょっとだけ心の準備させて……」
まだ整理しきっていない気持ちを整理して落ち着かせるように自分の胸に手を当てて大きく深呼吸した。
「……よし!行こう!遥香!」
ーピンポーン
緊張してるのかいつも以上にチャイムの音が大きく聞こえた。
「……どちら様?」
インターホン越しに声が聞こえる。
「あ、あの……!すぐ近くの高校の者なんですけど……!」
そうあたしが言った瞬間に、向こうの態度が急変した。
「おい!なんなんだよこれ!この紙切れ!おかげで家中汚くしやがって!」
「す、すみません……」
急に声が大きくなったと思ったら次々と罵声を飛ばされた。
それに怖気付いてしまい、インターホンを押す前の勇気はどこかへ飛んで行った。
「ったく!朝から無駄な仕事増やしやがって……!」
インターホン越しから相手の怒りがひしひしと伝わってくる。
「……顔覚えたからな!2度と来るんじゃねぇ!」
と言ってブツっとインターホンが切れた。
「……」
あまりの怒号に2人とも黙ってしまった。
そして、なんとも言えない無力感だけが襲ってきた。
「……あたしって……なんのために……」
また涙が出てきそうだった。
自分の無力感、目的を見失いそうになってもうその場から逃げ出したくなった。
「……先輩!明日もここに来ましょう!このままじゃ絶対ダメです!」
「分かってるけど……分かってる……けど……」
このままではダメなのは分かってる。
だけど、どうすることもできない。
あたしは本当に無力なんだと思い知らされた。
事情の知らない生徒があたしたちの横を通り過ぎるたびに恥ずかしさと気まずさが襲ってくる。
そして、その生徒達の顔が本当は笑ってもいないのにやけにニヤニヤしているように見えてしまう。
ふと、すぐ近くで謝っている葉山先生の方を見ると玄関先まで相手を出して深々と謝っているのが目に入った。
(なんであたしはああじゃないの……)
それを見てあたしに本当に生徒会長なんてなれるのかどうかと言う不安も襲ってきた。
「……先輩……」
遥香が心配そうにあたしを見つめる。
あたしはもう顔すら上げることができなかった。
「藤田。もういい。今日は戻るぞ。」
葉山先生があたしの肩をポンと叩いて学校へ向かわせる。
「……先生……あたしってなんなんでしょうね……?」
その言葉に葉山先生は目を丸くしたけど、すぐに
「藤田、今は何も考えるな。お前自身を見失うな。今はそれでいい。」
と言われたけどもうなにをどうして良いのか分からなかった。
教室に戻る時もこれからどうするかで頭がいっぱいだったのと周りが敵にしか見えなかった。
「藤田さん、大丈夫?」
あたしを心配して声をかけてくれる子もどこか裏で笑っているんじゃないかとよくないことを考えるようになってしまった。
そして、翌日もポスターが破られて校外へ飛び散るのは収まらなかった。
根気強く破られてもポスターを貼り続けたけど全て破られる。
あれだけ刷ったポスターももう数少ない。
これだけ大事なのに手がかりが見つからない。
そして、毎朝謝罪する毎日。
もうほとんど限界だった。
でも、これを乗り越えなきゃいけないとも思っていた。
そして、ある日こんなことを耳にしてしまう。
「ねぇ、知ってた?あの藤田さん葉山先生と密会してるらしいよ。」
「聞いた!あれ本当なの?」
「2人で誰もいない教室に入っていくの見たらしいよ。」
「それほぼ黒じゃん!」
「葉山先生も葉山先生だよね……そんなことする人じゃないって思ってたけど……」
と耳をつんざくような一切聞きたくない言葉が聞こえてきた。
「……えっ……えっ……」
あたしはその場で腰が抜けてしまった。
「な……なにそれ……あたし……そんなことしてない……」
ポスターのことで頭がいっぱいなのに次はとんでもない噂が流れていた。
なぜそんな噂が広まったのかつい考えてしまった。
「誰もいない教室なんて行ってない……化学室に一緒に入る時……?最近ほとんど先生と一緒だったから……?」
思考を駆け巡らせるけどどれも決定打としては薄すぎる。
やっぱりないことを噂として流されてるとしか思えなかった。
「……なんで……私が何したって言うの……ただ……ただお母さんみたいな生徒会長に……なりたいだけ……なのに……」
絶望にまみれてその場を立ち上がれなった。
そして何度もその噂話をしている生徒たちが脳内でずっと再生される。
「……やめて……もうやめて……私は……そんなこと……しない……」
自然と私の目から大粒の涙が流れていた。
何が悪かったのか。
あたしがしようとしてることはみんなに受け入れられないことなのか。
「もう……やめたい……」
必死に溢れてくる涙を堪えようとしたけどついには止められなくなり両手で顔を隠した。
「先輩っ!」
聞き覚えのある声があたしに近づいてきた。
「先輩っ!大丈夫ですか!?」
遥香の声は安心する。
だけど今はそれすらもうあたしの救いにはならない。
「……遥香……私……わた……し……」
堪えていた涙が一気に溢れ出た。
「先輩……今日はとりあえず帰りましょう。今日はゆっくり休みましょう。」
遥香も噂の話を知っているとは思うけどそのことについては言及しなかった。
遥香に抱きしめられてあたしは大声で泣くことしかできなかった。
ー次の日もその次の日も朝早く登校しては近隣へ謝罪する毎日。
だけど、噂話が出てから一向に身が入らない。
葉山先生も何も言わないし。
もう私自身今何をしてるのか分からない状態で日々を過ごしていた。
あたしの周りからはだんだんと人が離れていった。
あれだけ楽しかった休憩時間もお昼ご飯の時間も嘘かと思うように前のでしゃばりな私の頃の時間に戻っていた。
そして、通り過ぎる生徒たちの視線が怖い、何か私の嫌な噂をしてるかもしれない、私の横を通り過ぎる度に笑われてるのかもしれない。
そんなことを毎日毎日教室で家で考えるようになってしまった。
夢にもみんなに後ろ指を刺されて笑われてる夢を見る。
「……もういや……もう!いや!」
放課後になる度に化学室に逃げて1人でそう嘆くことしかできない。
その嘆きは虚しく消えるだけ。
「……もう、何もかもが……いや……」
もう涙は枯れたのかというくらい流した。
もうこのままなら全て投げ出してしまおう。
そうすれば全て楽になる。
「もう、やめちゃおう……」
このまま選挙なんかやってても勝てない。
私の夢はただの理想物語。
それで終わり。
もう、それでいいんだ。
そう思ったら、次の日から学校に行けなくなった。
行けなくなったというより行かなかった。
**********
朝起きたら藤田先輩から1通のメッセージが入ってた。
“ごめん遥香“
これを見た瞬間すぐに電話をかけた。
だけど、なんコールしても藤田先輩は電話に出なかった。
あんなことあったばかりだからすぐに立ち直るなんて無理だとは分かってた。
だけど、藤田先輩らしくないともどこか思っていた。
「……私がなんとかしないと!!」
藤田先輩のお手伝いを始めてからずっと早起きになった。
普段ならこんな時間に起きてるわけがない。
でも、なぜか藤田先輩のためならできてしまう。
そう思ってずっとお手伝いしていた。
「選挙終わったら先輩にわがまま聞いてもらわないとね!」
早速準備して朝一番で学校に向かう。
「うーん、なんとかしないとって気合い入れてきたけど、何をしようかな……」
藤田先輩には生徒会長になってもらいたい。
そのために今私ができることは何かと考えるけど、劇的に変えることはできないのは私でも分かっていた。
「やっぱり、今は先輩を元気にする方が先かなぁ……?でも、ポスターのことは絶対やらないとね!」
迷っていても仕方ない。
今私にできることは先輩を伝えることだ。
それにはまずは目の前の問題を片付けないといけない。
終わらないかもしれない。
けど、誠意こそ藤田先輩の全てだから。
「いつも通り……いつも通り……」
なぜかチャイムを押すだけなのに緊張していた。
いつもはこんな緊張しないのに。
ーピンポーン。
恐る恐るチャイムを押す。
「……はい。」
数秒後チャイム越しから返事が返ってくる。
「あ、あの!ポスターの件で……」
と言いかけたところで
「あ、いいから。」
と冷たく拒否されてしまった。
その次もその次も、同じような反応をされるかいつもは藤田先輩へ向く怒号が私の方へ全集中した。
「な、なんで……?」
確かに覚悟はしていたけれど、もっと上手くいくと勝手に思っていた。
みんなの怒りは全て藤田先輩に向いていると思ってたから。
人が変われば葉山先生のようにちゃんと顔を見て真正面から謝ることができると思っていた。
(あぁ……いつも藤田先輩はこれをみんなから受けてたんだ……)
改めてというか初めて藤田先輩が受けている心の傷を直に感じた。
そして、藤田先輩のためと思いポスターを持って
「藤田先輩を……よろしくお願いします……」
選挙活動をしたけど、全くみんなは見向きもしない。
「藤田先輩みたいにやってるのになぁ……」
ここでも藤田先輩が人の視線を集めることがどれだけ大変なのかも思い知らされた。
次の日もその次の日も謝罪も選挙活動も全くうまくいかなかった。
そして、いまだにポスターが破かれることが終わらなかった。
「どうしたらいいんだろう……私には何にもできないのかな……」
何も上手くいかないことにあの日のことを重ねて思い出してしまった。
でも、
「……藤田先輩が今の私をここにいさせてくれてるんだ!絶対に諦めない!」
孤独だった私に光を与えてくれたのは藤田先輩だけ。
今その藤田先輩が暗闇に閉じこもろうとしている。
次は私が藤田先輩を助ける番なんだ。
全く上手くいかない日ばかりだけれど根気強く葉山先生にもアドバイスをもらいながら続けた。
数日後、根気強くやってるけど一向に上手くいくことはなかった。
「うーん……このままじゃ……どうしよう……」
もう選挙の日まであまり日にちがない。
なんとか藤田先輩のためにやってあげないけどどうも全く上手くいかない。
「……藤田先輩、ごめんなさい……」
上手くいかない後悔より藤田先輩のために何もできない自分に虚しさが襲った。
完全に気を落とした状態で破かれたポスターの破片を拾ってると、
「遥香ちゃん。」
「やほー。」
急に後ろから肩を叩かれて名前を呼ばれた。
「え……?あ、はい……」
振り返るとあの時話しかけてかれた2人がいた。
「最近藤田さん来ないね。どうしたの?」
「やっぱ、これ関係ある〜?」
2人はポスターの破片をビニール袋いっぱいに持っていた。
「え……もしかして、お二人拾ってくれていたんですか!?」
そう、最近以前と比べて散らばっているポスターの破片が少なくなっていたように感じていた。
風に飛ばされていると思ってたけどまさかだった。
「やっぱりね……」
「これ、よくないよね。」
多分元々2人もあっち側の人たちだったはず。
なのにどうしてという感情でいっぱいだった。
「どうして……?2人がこんなことしなくてもいいんですよ?」
そう言うと、2人は笑って
「なんで他人事みたいに言うのさ。」
「あたしたち藤田さん応援してるんだよ〜」
まさかの返答だった。
「最近の藤田さんの行動見てさ、私たちこのままじゃいけないって思ったんだよね。」
「そうそう、あと藤田ちゃんせっかく可愛くなったのに急にいないんだもん。寂しいよ〜」
と言った。
さらに続けて、
「いろんな人に話聞いたらさ、もういろんなところで藤田さんの悪い噂流れまくりじゃん!?」
「それにあたしたちも最初藤田ちゃんみたいな感じだったしね〜。このまますぐ終わりは良くないよ。」
この2人からは出てきそうにない言葉に驚いた。
「え、え……?なんで!?」
そして、つい本音が漏れてしまった。
「遥香ちゃんひどい!……まぁ、そう思われても仕方ないよね。」
「最近藤田ちゃん頑張ってるからね〜はるっちも。これで応援しないとかありえないでしょ。」
2人はニコニコしてポスターの破片を拾いながら私にそう言ってくれた。
「……お二人ともありがとうございます……」
なぜか自然と涙が出てきた。
「もう!遥香ちゃん泣かないでよ!さっき言ったみたいに応援してるから!それとお二人じゃなくて私は小山ね。」
「あたし小林だよ〜」
「あ、ありがとうございます……小山先輩、小林先輩……」
2人は泣いてる私によしよしと頭を撫でてくれた。
「それと、このポスターの犯人探してるんでしょ?」
「え!?なんでそれ知ってるんですか!?」
驚いた。
まさかそんなことを言ってくるとは思わなかった。
「実はね、藤田さんとはやせんの話たまたま聞こえたんだ。」
藤田先輩の相談のこと知ってたんだ。
よりも、
「は、はやせん……?」
すると、小林先輩がお腹を抱えて笑って
「こやっち、はやせんのこと葉山先生って呼ばないんだよ〜」
「え?なんでですか?」
「そ、それはいいの!今はその話じゃないでしょ!」
小林先輩はずっとお腹を抱えたまま笑っているのを小山先輩が恥ずかしそうに睨んでいた。
何か訳ありなのかも知れない。
「……こほん。それは置いといて。とりあえず犯人についてはだいぶ当てが当たってきたからって言うのも2人に伝えたくってね。」
それを聞いた瞬間、私は小山先輩の手を握っていた。
「ほ、ほんとですか!?ありがとうございます……ありがとうございます……!!」
ついには目からも涙が出てきた。
「あ、また泣いてる!もう泣かないでって言ったじゃん。あともう少しだから。待っててね。」
その温かい言葉にもう目から溢れ出るものを我慢できなかった。
泣いてる私に2人はそっと頭を撫でてくれたり、背中を優しくさすってくれた。
(藤田先輩……よかったですね……ちゃんと藤田先輩のこと見てる人いましたよ。)
**********
「どうしたもんかな……」
俺は頭をポリポリ掻く。
何か行き詰まると頭を掻いてしまう癖だ。
どうやってもポスターが破かれる手がかりが見つからない。
少人数なのか、複数人なのかそれすらも分からない。
藤田のことはなんとかしてやりたい。
あいつはここで終わってちゃいけない。
あいつの想いは絶対に今のこの学校を良くしてくれる。
それは分かっている。
だが、俺が生徒会顧問とあるだけ深く干渉してはいけないと一歩手前で引いている。
ただこれはもう引く引かないの話ではないのでないだろうか。
それに俺絡みの変な噂も流されている。
別に俺はどうなったっていい。
生徒を守ることが教師の役目だから……
いや、まだ俺は保身に走っている。
そう思っているなら、すでに引いた考えの行動はしないはずだ。
「それは分かってる……だけど……」
助けてやりたい。
それは本心だ。
だけど、ここを乗り越えたやつは一回りも二回りも大きく成長する。
俺が憧れた“藤田生徒会長”のように……
そう思って手を出そうにも出せずにいた。
こんな問題を抱えながら生徒には気づかれないように振る舞うのに精一杯だった。
しかも、1番精神的に来るのは大人同士の会話だった。
ポスターの件で毎朝近隣住民に謝罪入れを行なっているが、そこでの対応でかなり精神を消耗する。
藤田達は案の定上手くいってない。
それは目に見えていた。
俺もなんとか目と目を合わせて話せるところまでは行けるがそこからが大変だ。
感情で怒鳴るやつ、理論を並べて批判してくるやつ、そもそも喋らず嫌な態度を取って睨みつけてくるやつ……
毎朝こんなのと対峙していると俺自身も変になってくる。
今はそれはどうでもいい。
それはなんとでもなる。
今は藤田とポスターのことだ。
「何か少しでも手がかりがあれば……」
今は少しでも情報が欲しかった。
現時点で全くと言っていいほど情報がなかった。
最悪うちの生徒じゃないとも考えるほどだった。
周りの大人達にも協力してもらって聞き込んではいるが曖昧だったり何も知らないと言う回答が多数だった。
「はぁ……」
職員室の机で項垂れていると
「はやせ〜ん?どこ〜?」
ふざけた呼び方で教師を呼ぶやつが職員室に入ってきた。
「……おい、俺ははやせんじゃねぇ。葉山先生って呼べって何度も言ってるだろ。」
「う、うるさいな!別にいいでしょ!」
俺のことをふざけた呼び方をするやつは小山だ。
「……で、なんだ?またからかいに来たのか?」
いつもこいつにはおちょくられる。
何の目的があるのか全く分からない。
「んー。それもいいけどさ。今はやせんが知りたいこと教えに来た。」
なぜこいつが知ってる?と思ったが何か鎌をかけてるに違いないだろう。
「お前になんか頼み事なんてしたっけか?」
「してないよ。藤田さんのことについてだよ。」
俺は驚いた。
こいつみたいなやつは藤田には無関心だと思っていたから。
「……で、なんのことだ?お前藤田のことなんて興味ないだろ?そもそも金山側だろ。」
あえて冷静に。
だけど少しは聞く耳を持つように聞いた。
「ん、これ。ポスターのやつ。」
小山はポスターの破れた切れ端を俺に向けた。
「……なんでだ?そのことは気にしないで大丈夫だとみんなに伝えてるはずだぞ……?何でお前が……?」
さすがに驚きを隠せなかった。
なぜこいつが干渉してくるのか。
「はやせん勘違いしてると思うけど私、藤田さん応援してるから。それと藤田さんとはやせんの話してるところ盗み聞きって形になっちゃったけど聞いたから。」
いまだに不思議だった。
こいつと藤田には関わりはないはず……
「あんまり過信はしてほしくないんだけど、夜の学校内部気を付けてみたら?」
「夜……?」
「うん、夜。花宮と桜川が夜の校舎に入ってくのを友達が見たって言ってた。それだけ。」
と言って小山はひらひらと手を振って職員室を出ようとする。
「……おい、待て。なんでその情報を俺によこした?」
「だから言ってんじゃん。私は藤田さんを応援しててはやせんとの話聞いてたからって。」
「……本当にそれだけで教えてくれたのか?」
「うん、そうだよ?頑張ってる人のためになるなら協力するでしょ。だから藤田さんのこと助けてあげてよ。」
聞いたか、藤田。
なんて力強い言葉なんだろうな。
藤田、お前はまだ終わってないぞ。
「……ふっ。それだけ……か。ありがとうな、小山。とりあえず夜気にしてみる。……小山、お前案外いいとこあるんだな。」
これ以上ない情報に小山には感謝しかなかった。
それと同時に藤田の頑張りがようやく報われた気がした。
「う、うるさいなぁ!私はもともとこういう人間!これ以上言ったら髪の毛むしり取るからね!」
と襲いかかろうとしてきた。
「分かった、分かった。ただ本当に助かった。でもいいのか?花宮と桜川ってかなり上位層のやつらじゃないのか?俺もあいつらは手に負えんぞ。」
「別にいいよ。私好きでもなんでもないし。なんなら今は藤田さんと遥香ちゃんが好き!」
と言ってニコニコしながら職員室を出て行った。
「……あぁ、これだよな……藤田ひかり……藤田あかりも君と同じ道を今歩き始めようとしてるよ……」
あの時の藤田生徒会長の他人への寄り添い方を思い出した。
その時の光景とよく似ていた。
「……藤田、ここからだぞ。俺は少しだけ手を貸してやる。よくないと周りから言われるかもしれないが、俺はこれが最善だと思ってる。」
俺は心の中で小さく決心をした。
そして、俺はこの日から夜ひっそりと見回りを開始した。
1日目。
むやみにいろんなところを探すより1箇所に目星をつけて待つ方が得策だと思った。
この日は特に成果なし。
2日目。
この日も特に成果なし。
3日目。
この日も特に成果なしだが、やはりポスターが破かれることは止まらなかった。
「毎日ご苦労なやつだ。……というか、全てのポスターを破ってるわけじゃないんだな……」
全ての掲示板のポスターを破ってるのではなく数ヶ所を狙って破っているのが見回って分かった。
見つかるのも時間の問題だろう。
4日目。
この日も特に成果なし。
5日目。
いつも通り掲示板の近くに綿の少ない腰が痛くなる椅子を置いて観察してるいると、ビンゴだった。
「最近1年生のあの子。名前なんだっけ?しつこいよね〜。藤田もう諦めてるんだしさ一緒に諦めればいいのに。」
「ほんとほんと。もう無理っしょ!」
と言って藤田のポスターだけ強引に剥がし破った。
「生徒会なんて興味ないけどさ〜あれなんの意味があるの?」
「わっかんな〜い。自己満じゃね?」
ケラケラ笑いながらどんどん藤田のポスターを引き裂く。
ここが潮時だな。
「そういうお前達こそ、これに何の意味がある?」
と言って、そこにいる生徒に懐中電灯の光を最大にして浴びさせる。
徐々に姿が現れていく。
小山の言う通り、花宮と桜川だった。
「は、はぁ!?何で葉山がいんだよ!」
「ちっ!誰かチクったな!」
2人の顔からは驚きと怒りが滲み出ている。
「……まず俺の質問に答えろ。これに何の意味がある?」
今までの2人の会話を聞いて少し腹が立っていた。
だから少し圧をかけるように問いかけた。
「そんなん決まってるじゃん。藤田を落とすためだよ!」
「あのでしゃばりなんか生徒会長なんか向いてねーし!ちょっと可愛くなってチヤホヤされただけで調子のんじゃねぇっての!」
2人がギャーギャーなんか言ってるが、
「……だから?それだけが理由か?」
としか思わなかった。
「な、なんだよ!あ、あ!そういや葉山と藤田って関係持ってるんでしょ?だから藤田のこと守ってんだ!」
「生徒会顧問が生徒会がらみで手を出しちゃ行けないんじゃないんですか〜?」
やはりそこまで読んでやっていたか。
いらんことばっかに頭を使う奴らだ。
「その噂を流してるのもお前らなんだろ?別にそんなもん俺は気にしてもないぞ。」
「じゃあなんのためにこんなことしてるんだよ!」
「あ!分かった分かった!藤田に弱み握られてるとか〜?先生だっさ〜!」
「はぁ……」
本当にため息しか出なかった。
こいつらは危機感が足りない。
「そんなに知りたいなら教えてやる。お前達を告発したやつがいる。情報提供をしてくれた。」
「ちっ!やっぱりか!炙り出してやる!」
「片っ端から問い詰めるか……脅せばなんかなるっしょ!」
この期に及んでいまだにそんなことしか考えられないこいつらに落胆した。
「お前達の頭はお花畑だな。俺に見つかって危機感とかないのか?」
「別に〜?葉山なんて怖くないし〜?」
「それに生徒会に関しての特定生徒への肩入れだし〜?こっちが言えばそっちがやばいっしょ!」
それで切り抜けられると思っているところがこいつらの頭の中がお花畑なんだよ。
「告発したやつから言われた。藤田を助けてくれと。頑張ってるあいつのために犠牲になると。」
「何それ。」
「正義感ぶってんの?」
2人は呆れた顔で言う。
ここまで使うつもりはなかったが、こいつら2人には決定的なものが必要だと思った。
俺はスマホを取り出し2人にスマホの画面を見せた。
「それに、お前達ここにカメラあるの気づかなかったか?お前達生徒は気づかなかっただろうが、今日ここだろうなと思って仕込んでおいた。全部撮れてるぞ。」
それを聞いた途端、花宮と桜川は一気に顔が青ざめた。
「きょ、教師がそんなことしていいの!」
「と、盗撮だよ!」
後退りする2人。
そして俺は追い打ちをかけるように
「……それに今からお前達に暴力を振るって成敗してもいい。だけどそれは野蛮がすることだ。俺は教師だ。今ここでお前達に忠告した。やめるやめないはお前達の好きにすればいい。だけど……だけどな、次藤田を陥れたり、別の生徒に危害を及ぼすようならその時は容赦しない。俺が出来る最大限のことを駆使してお前達を徹底的に追い詰める。」
いつもは本気で物を言うことは俺自身あまりなかった。
だけど、なぜかこの日は本気で言葉をぶつけた気がする。
「……は、葉山に何が出来るんだよ!やれるもんならやってみろ!」
「こ、これも立派な脅しだから!」
2人は相当焦っているのか今にも走り出しそうにしていた。
その2人の背中に向けて、
「……よく聞け。藤田と藤田の周りは変わり始めたぞ。お前達はまだそのまま変わらないでいるつもりか?」
2人はうるせえと一言残して走って去っていった。
「……これでなくなればいいんだがな……」
これが正解かどうかは分からない。
教師がやっていいことの範疇は超えてるかもしれない。
だけど不思議と悔いはなかった。
「もう、こっちはいいとして……次は……はぁ、もうこんな時間か。早く帰ろう。」
俺はあくびをしながらスマホに残ってる動画データを削除した。
この日を境に少し変わった。
だんだんと破られるポスターが少なくなっていった。
多少は破られているが前みたいに酷い量破られることはなかった。
それをきっかけに青山の存在感が増した。
よほどポスターの件が嬉しいのか他にいいことあったのか、藤田がいないのに放課後、
「藤田先輩をよろしくお願いします!」
「藤田先輩はこの学校を1から変えようとしてます!」
「藤田先輩はそれが出来る人です!」
と当初1人でやってた時とは打って変わってハキハキと笑顔で大声を出してる青山がそこにいた。
そして、青山の周りには少しばかりの人だかりと小山と小林がポスターを配ってた。
「藤田さん頑張ると思うから応援しない?」
「藤田ちゃんはやってくれると思うよ〜」
まさかこいつらがそっち側につくとは思いもしなかった。
「……おっと、いけない。感傷に浸ってる場合じゃないな。」
俺は自分のスマホを取り出してこの眩しい光景を動画に収めた。
すると、青山にそこを見つかってしまった。
「あ!先生!何やってるんですか!?盗撮ですよ〜?」
盗撮と言う言葉に少しドキッとしたが、ちゃんと目的はあった。
「そう悪いこと言うなよ。これ撮って後日藤田に見せに行くんだよ。」
そう、今まさに変わろうとしてるこの光景を藤田に見せてやりたかった。
あわよくば、復活してくれれば……
「ふーん、そういうことですか……」
青山は一瞬だけ考える表情を見して俺にスマホを青山に向けるようにとジェスチャーした。
「藤田先輩!いつでも戻ってきてくださいね!待ってます!」
と藤田のポスターを持って笑顔で言った。
そして続けて小山と小林が来て
「藤田さん、辛いと思うけど一緒に頑張ろ?」
「藤田ちゃ〜ん、もっとお話ししようよ〜」
と言って選挙活動に戻って行った。
そこで録画を止めた。
「よし、材料は揃ったかな……あとは……」
これを本人に届けるだけ。
上手くいくのかどうか……
少し不安だったが、青山、小山と小林の顔を見たらここで止まってる場合じゃないと思わされた。
そして翌日。
俺はこの動画を届けるため、いい加減学校に来ないといろいろやばいぞと伝えるため放課後に藤田の家へ向かった。
ただ行く分には何も問題ない。
そこにはおそらく……あの藤田ひかりがいる。
しかも事情は藤田あかり自身から聞いている。
それに俺の憧れた人だ。
今会ったところで何か変わらないと思っている。
そうじゃない。
今は藤田あかりのことだろう。
いろいろ葛藤はしたが重くて進まない足を頑張って引きずって藤田家の前まで来た。
「……」
やはり、インターホンを押す勇気があまり出ない。
藤田ひかりとなんて話せばいいのか。
俺がここにいていいのかどうか……
また余計なことを考えて立ち止まっていた。
すると、インターホンを押してないの玄関のドアがゆっくり開いた。
「……えっと、葉山……くん?」
ドアから藤田ひかりが出てきた。
「……お、お久しぶり……」
俺と分かった途端目を逸らした。
昔とはかなりかけ離れた姿で言葉一つ一つもかなり弱々しかった。
「あ、ひ、久しぶり……藤田ひかり……」
俺も動揺しすぎてちゃんと目を見て話せなかった。
「え、えっと……あ、あかりのこと……?」
藤田ひかりは俺の目的を分かっていた。
外でモジモジしてる俺を見かねて出てきてくれたんだろう。
「あ、実は……その件でな……」
俺はいまだにはっきりと喋れなかった。
「……あかり、ずっと部屋から出てこなくって……私には何もできなくって……学校で何かあったんでしょうけど……ごめんなさい……」
あぁ、なんでこんなに変わってしまったんだ藤田ひかりは。
昔の君はそんな人じゃなかっただろう。
こんな絶望さえ乗り切れるようなとても前向きな顔していたのに。
「藤田ひかり、君は何もできない人じゃない。それは俺が証明してやる。……俺が……君を……いや、今は藤田あかりの方だ。また今度ちゃんと話をしよう。だから今は家にあげてくれないか。」
また一つ問題が増えてしまったのと今俺がここにいる目的を思い出した。
藤田ひかりは何も言わず俺の目をまっすぐ見て頷き、家へとあげてくれた。
「藤田あかりはどこにいる?」
藤田ひかりにそう問うと上と指を差した。
藤田あかりは自室にずっと篭ってるようだった。
「ありがとう、藤田ひかり。それとなんでそこまでなってしまったか俺には分からないが、もう自分を見失うなよ。君は……いや、なんでもない……」
そう言い残して俺は2階へ上がった。
2階へ上がりあかりと書いてある掛け札がかかってる部屋の前に来た。
物音は一切しない、誰もこの中にいないような。
その静かさに少し不気味に思いながらも藤田あかりに届けたいものを届けにその部屋へノックをする。
「おい、藤田。俺だ。今話せるか?」
ノックして数秒後
「え……?え!?先生!?」
と聞こえて何かが床に落ちる音が聞こえた。
だが、部屋は開かなかった。
「な、なんですか……?今は学校には……」
部屋越しから藤田あかりの弱気な声が聞こえる。
「もう、生徒会長は諦めるのか?」
相当弱っている藤田あかりにかけれる言葉がなかなかない。
最初から動画のことを見せてやりたいが、これはちゃんと音声だけじゃなくて映像も見せてやりたい。
「……」
藤田あかりは沈黙を続ける。
「ここで辞めても別に構わんぞ。でも、お前が今までやってきた功績は大きい。」
こんなことを言いたいわけではない。
だけど、かけてあげれる言葉が見つからない。
「……先生……」
ようやく藤田あかりが話し始めた。
「……私がやってきたことって無駄だったんですよ……今のみんなの反応がそう言ってるじゃないですか……私がやってるのは夢物語の真似事。私にそれをやる資格がないんです……」
「……」
すぐにそうじゃないと返してやりたかったが、口から言葉が出なかった。
そうじゃない、だから頑張れと伝えてまた折れたら?
今の藤田あかりの言葉を肯定することは論外。
藤田あかりにどう言葉をかけてやればいいのか分からなくなっていた。
「……あ、あのな藤田……」
これ以上言葉が出てこない。
その場を繋げようとなんとか言葉を出してみるが、それ以上が言えなくて俺も黙ってしまう。
「……もう、もういいんです……私には無理なんです……このまま何もかも……」
少しだけ啜り泣く声が聞こえた。
そして、向こう側の扉から人の気配が離れていく気がした。
「ま、待て!お前はまだ……!」
そこまで言いかけた時、俺の肩を叩かれた。
「……!藤田ひかり……!」
藤田ひかりが俺の目をまっすぐ見ていた。
さっき玄関であった時とは別人のような目つきをしていた。
まさに、俺が憧れ、尊敬した生徒会長“藤田ひかり”の目をしていた。
藤田ひかりは部屋の前に立って一つ深呼吸してから部屋をノックした。
「……あかり?ごめんね、先生との話聞かせてもらったわ。それとごめんなさい。あかりがこんな状態なのにお母さん何もしてあげられなくって……」
藤田ひかりの言葉に相当驚いたのか
「え?え!?お母さん……!?」
藤田ひかりは相当変わっていたのだと思い知らされた。
「……あかり、今は辛いかもしれないけど逆にここが頑張りどきじゃない?あんまりお母さんが言えたことじゃないけど……お母さんもね生徒会長やる時いろんな問題に直面したわ。」
俺と藤田あかりは静かに藤田ひかりの話を聞く。
「その時お母さん何したと思う?お母さんはね、周りを頼ったのよ。」
昔のことを思い出す。
確かに藤田ひかりは1人で解決しようとしなかった。
問題解決の周りには誰かしらいた。
……そこに少しだけ俺もいたっけか……
「今あかりは1人で全部抱え込もうとしてるでしょ?もっと周りを頼りなさい。先生の力に頼ってもいいのよ。」
「……うん、うん……!」
扉の向こうから藤田あかりが泣きながら頷いているのが分かる。
「あなたの周りには誰にもいない?そうじゃないでしょ?みんなとあなたであなたの作りたいものを作るのよ。」
あぁ、そうか。
藤田ひかりの奥底にはこれがあったのか。
あの当時は1人でなんでもできる生徒会長とも見れた。
だけど本質はこっちだったか。
「それに一度決めたことを諦めることは簡単。だけどそれをやり通すことが本物の上に立つ人じゃないのかな?」
俺がこの言葉を言っても藤田あかりには届かなかっただろう。
藤田ひかりだからこそ親子だからこそかけてやれる言葉だ。
これには俺は手も足も出ない。
「だから、諦めないでとは言わないわ。もし本当に成し遂げたいなら最後までやってみなさい。最後までやってダメでもあなたの中に残るものはたくさんあるわ。」
俺は少し笑ってしまった。
悪い意味ではなく、藤田ひかりは俺の憧れでもあって母親もしっかりやってるんだなと俺の惨めさに笑った。
その言葉を聞いてか藤田あかりの部屋の扉がゆっくり開き始めた。
開いた先にいる藤田あかりは髪の毛がボサボサ、目は真っ赤に腫らしていた。
「……お母さん……私……私もう1回頑張ってみてもいいのかな……?こんな私だけど……」
と、藤田あかりは弱々しくそう言う。
その瞬間藤田ひかりが藤田あかりをギュッと抱きしめる。
「大丈夫。みんなとそれと葉山君を信じなさい。……私も今日葉山君が来なかったらあなたにこんなこと言わなかったわ。」
抱きしめられて背中をさすられた時、藤田あかりの目から大粒の涙が溢れた。
「……お母さん、私……私……もう1回頑張ってみる。最後まで……やり切ってみる……」
泣きながら、もう一度決心をする藤田あかり。
それに応えるように
「ええ、最後までやってみなさい。あなたなら……いいえ元生徒会長の藤田ひかりの娘ならやり切れるわ。」
それは反則だろと微笑ましくにはいられなかった。
だって、藤田あかりはそれを追いかけて今までやってきたんだから。
それとここで藤田あかりにもう一つの用を思い出した。
「……あぁ、すまん2人とも……実はな、藤田あかりに見せたいものがあったんだよ……」
俺は気まずそうに割って入る。
「……!あっ!せ、先生いたんだった……ちょっ、こっち見ないでください……今とんでもない顔してるので……」
と、慌てて顔を隠す藤田あかり。
ニコッとして藤田ひかりはその場を離れようとした。
「あ……その、ありがとうな……俺にはあそこまでできなかった……」
「ふふっ。葉山君がちゃんと教師しててビックリした。私が今こうしてれるのも葉山君のおかげよ。……で、またしっかり話そうは期待してるわね。」
そう言って、藤田ひかりは下がっていった。
「え、えっ!?せ、先生もしかして……!!」
見られたくなかったんじゃなかったのかその顔を。
藤田あかりは驚いた顔でこっちを見てくる。
「あぁ……もう、めんどくさいな……違うからとだけ言っておく。」
「へぇ〜ふ〜ん?」
ニマニマしながら藤田あかりが見てくる。
「それはいいもういい!これを見ろ!」
と言って昨日撮った動画を藤田あかりに見せた。
最初は何の動画?という顔で見ていたが場面が写り変わるごとに表情を変えて真剣に見ていた。
「……これが、今の学校なんですか……?」
真顔のまま動画を真剣に見つめてそう言う。
「……あぁ、そうだ。お前のお母さんは今からでも変えられると言った。だけどな、もうすでに変わり始めてるんだよ。これはお前が蒔いた種だ。」
真剣な藤田あかりの顔を見ながらそう説明する。
すると藤田あかりは真剣な表情からだんだん目元が潤んできて
「私がやってたこと……意味はあったんですね……」
「……そうだ。だからもっと胸を張れ。」
そう言っていると動画はもう終盤だった。
そして、あの3人のメッセージを聞く。
「え……遥香だけじゃなくて小山さんと小林さん……?あの時話しかけただけなのに……」
藤田あかりは驚きの顔をしていた。
「だから、言っただろ?これがお前の功績だ。あとはどうしたいかはお前自身で決めろ。」
そう言って藤田あかりの顔を見ると顔つきが変わって目が元生徒会長藤田ひかりの瓜二つになっていた。
「……先生、ありがとうございました。私……いえ、あたし頑張ります!」
もうその顔には決心が固まっていた。
「……いい顔つきになったな。それとポスターの件小山が手助けしてくれた。もしかしたらそのうち収まるかもな。」
小山の功績はちゃんと伝えておくべきだと思った。
藤田あかりはそのままの顔つきで
「そっかぁ……お礼ちゃんとしないと。」
「じゃあ、頑張れよ。悔いないように。」
藤田あかりは強く頷いた。
もう、何も問題ないだろう。
俺の役目はここまで。
********
「……よしっ!」
鏡を前にあたしは気合を入れる。
お母さん、葉山先生、そして遥香たち……
たくさんの人からじゃないけど確かにあたしを見てくれてる人たちのためにあたしがやれることを最後までやり切るべきだと昨日決心した。
それでも……怖さはまだあった。
でも、
「一度決めたことを諦めるのは簡単。それをやり通すことが本当に上に立つ人なんじゃないかな?」
このお母さんの言葉。
まさにその通りだと思った。
あたしは全てをやり切る前に投げ出そうとしていた。
「……でも……やっぱり怖いなぁ……」
まだ完全に今までのことを振り切れた訳ではない。
それでも、
“自分を信じてくれている人のためにやり切りたい”
今はただそれだけだった。
「……よし!今日も頑張るぞ!」
いつも通り朝食を食べるためにリビングへ向かった。
「あら、あかり。おはよう。」
「あれ?お母さん?」
いつも自室に篭っていたお母さんがリビングにいた。
「あかりの言いたいことは分かるわ。私もあかりにあれだけ言って私自身が変わらないのはちょっとね。」
まだ完全に昔のお母さんの笑顔じゃなかったけどニコッとあたしに笑ってくれた。
「……そっかぁ。」
リビングの机の上には2人分の朝食が用意されていた。
「ありがとう、お母さん。いただきます。」
いつぶりだろう。
こうやって2人で食卓を囲むのは。
なんだかあったかい感触がした。
食事を終えて学校へ行く支度をしていたら
「あかり。言うの忘れてたけど今日も可愛いわよ。」
お母さんにそう言われた。
「……うん、ありがとう。行ってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけて。あかりならできるよ。」
お母さんのその言葉一つ一つがあたしの背中を押してくれた。
いつもより少し遅く学校に着いた。
登校しながらやっぱりいろいろ考えた。
そして少し怖くなったこともあった。
やっぱり引き返そうとも思ったけど葉山先生が見せてくれた動画がどうしても気になった。
「遥香たち……あたしがいない時に頑張ってくれてたもんね……」
そう思うとあたしが今ここで挫けてはいけないと思えた。
学校へ着いてまず確認したかったのがポスターだった。
まだ完全ってわけじゃなかったけど、以前に比べてかなり少なくなっていた。
そして……
1人で黙々とポスターを拾う遥香を見つけた。
「……遥香っ!!」
私は遥香を見つけた瞬間に飛びついて抱きしめた。
「え……?えっ!?せ、先輩!?」
いきなり抱きつかれたことに遥香は驚きを隠せてない。
「……遥香。ありがとう。本当にありがとう……あたし……あたし……もう1回、頑張るね……」
自然と涙と遥香への感謝の言葉が溢れ出てきた。
「……先輩、おかえりなさい。」
遥香もぎゅっと抱き返してくれた。
「はいはい。そんなことしてる場合じゃないでしょ。藤田さん戻ってきたんだし、今日から選挙活動再開しないと。」
「お。藤田ちゃんだ〜。やっほー」
遥香と抱きしめあってる背後から声が聞こえた。
「あ、えっと……小山さんと小林さん……ありがとうね。あたしがいない間手伝ってくれて……」
「いいのいいの。ほら、最近ポスター無くなってきたから。今みんなで拾えば今日の夕方からは選挙活動できるっしょ?」
と言われ、周りを見渡すと多くないけど何人かの生徒がポスターを拾ってくれていた。
「みんな……ありがとう……」
また涙が滲み出てきた。
「ほら、泣かないの。せっかく今日も可愛いんだから。」
「そうそう。今日の藤田ちゃんアレンジ効いてて可愛いよ〜」
一時はどうなるかと思ったけど、こうしてみんなのおかげでなんとかなりそうだった。
「……お。藤田来たか。まぁ、また頑張れよ。……それと最近は近隣住民の反応も変わってな。もう分かったから来るなって言われる。」
葉山先生も化学室から出てきて、あたしの顔を見てどこか嬉しそうに言った。
「よーし!今日から藤田あかり生徒会長目指して頑張るぞー!!」
咄嗟に気合を入れるために言っちゃったけど、登校時間もあってか、周りの生徒に見られて少し恥ずかしかった。
その後、教室へ行っても何も違和感なくこれまで通りに接してくれたりしてくれた。
あたしのことを笑って見えるような幻覚はいつの間にか消えていた。
ただ、まだ壁を感じる子はいた。
でも、それを全て輪に入れるのがあたしのやりたいこと。
今はこの状態でもいつかはみんながみんなで笑って過ごせる学校生活に……
それからの選挙活動も前よりより一層やる気が上がった。
もちろん、あたし自身の覚悟が決まったというのもあるけど、それ以外にあれだけ周りに人がいなかったあたしの選挙活動に人が集まりだした。
あの折れた藤田あかりが復活した。
という興味本意でいる人もいるけど、それ以外にも心配、応援、さらにはあたしのことを見直したと言ってくれる人まで出てくれた。
そういう人たちが集まってくれるおかげで選挙活動のギャラリーは少しづつだけど金山くん陣営に対抗できるようになってきた。
そして、変わったことと言えば近隣への謝罪回り。
前はインターホンを押しても出てくれなかったり、怒鳴られて終わりだったのがちゃんと目と目を見てお話できるようになった。
これは葉山先生と遥香のおかげ。
あたしがいない間にも何度も何度も謝りに行ってくれてついに誠意が届いた状態にまでしてくれた。
「これからもご迷惑をおかけするかもしれません。その時はまたこうやって頭を下げに来ます。でも、あたしもこの戦いは引けないんです。ご迷惑なのは重々承知ですがこれからもよろしくお願いします。」
目と目を見てあたしはこれを言いたかった。
すると、近隣住民の方は表情を変えて、分かったよと一言言って自宅へ戻っていく。
「先輩。これでほとんど学校周りの人たちに伝わりましたね!」
「まだだよ。これからも毎日来るよ。これだけじゃまだ迷惑かけた分は謝りきれてないから。それとご近所と仲良くなったらそれもそれでいいんじゃない?」
遥香はそうですねと笑って言ってくれた。
これからもあたしのこの姿勢は変えない。
例え許してくれなくてもあたしはこうするしかないと思っている。
でも、やっぱり思うのはこの状態は1人じゃ出来なかったなって。
それからポスターが破かれることがほとんどなくなってあたしたちの選挙活動がとてもやりやすいものになった。
それに以前に比べてあたしの選挙活動に協力したいって言ってくれる子が増えた。
それが何より嬉しかった。
そしてお母さんの言葉を思い出す。
「周りを頼りなさい。」
協力してくれる子達にいろんなことを頼んだ。
今まで1人でやってきたことをみんなに分配した。
その中でいろんな問題が出てきたけど、3人集まれば文殊の知恵じゃないけど
「じゃあこうしたら?」
「ここはこうがいいんじゃない?」
と、あたしが気づかない視点を指摘してくれた。
そう言ってくれるおかげで今まで1人で悩んでたことが嘘のように片付いていった。
「……こういうことだったんだね。お母さん。」
まだこんなことだけじゃないと思うけど周りを頼るということが何か少しだけ分かった気がした。
いろんなことがいい方向へ向いていったある日の朝。
いつも通り朝の選挙活動を終えて教室へ戻ると2人の生徒があたしの机の周りにいた。
「……あれ?どうしたの?」
あたしの呼びかけに2人が振り返る。
「あ……あの……えっと……」
「その……藤田……さん……」
2人はとてもぎこちない返答をした。
あまり話したことない2人だからなぜあたしの机にいるのか分からなかった。
「ほら、ちゃんと言いたいことは目を見て言う!」
「藤田ちゃんごめんね〜花宮と桜川から藤田ちゃんに伝えたいことがあるんだって。」
小山さんと小林さんがその間を割って入る。
「そうなんだ。どうしたの?」
「えっと、私たち……実はあなたのポスターを破いてたの。」
「……ちゃんと謝ろうと思って……」
2人は照れくさそうに言った。
周りからは視線が集まる。
あたしは何も言わずに2人の言葉を聞いた。
「……最初は藤田さんのことが気に入らなくって……もともとあんな感じだったのに生徒会長なんてできる訳ないって思ってて……」
「金山くんもいるし、無理って思ってた……」
なんとなくここで察した。
やっぱりあたしはこういう子達には受け入れられてなかった。
あたしのことが気に入らなかったの一言が全てなんだろうなって。
「……でも、藤田さんが全然辞めないし折れないからなんでだろうって思ってた。そしたらもっとむかついちゃって……」
「どんどんヒートアップしちゃって……でも、これでも懲りないから……」
ここであたしは少し勘違いをしていたことに気づいた。
確かに悪意でやったことかもしれないけどここまで発展するとは思ってなかったんだろうって。
でも、それは結果論。
なぜこういうことが起きてしまうのかも考えないといけないと思った。
「毎日謝ってたり、ポスターを拾ってる藤田さん達見てたら……」
「あたしたちこのままでいいのかなって……葉山にも言われたし……」
謝ろうとしたのは分かった。
でも、まだあたしを認めきれてないのも伝わってきた。
すると、モジモジしてる2人を見かねてか小山さんが
「もう!いつもあんたらそんな感じじゃないでしょ!
いい加減言いたいこと言いなって!」
その言葉に観念したのか、2人ともあたしに向かって頭を下げて
「……ごめんなさい!藤田さん!」
「もうしないから……本当にごめん……」
と謝ってきた。
あたしは最後まで聞いた。
2人は明言しなかったけど多分主犯格なんだろう。
許せなかった。
許したくなかった。
どれだけ不安になったか。
どれだけ怖くなったか。
どれだけ遥香達や周りの人達に迷惑をかけたのか。
思い知らせてやりたかった。
でも、それはあたしのやりたいことじゃない。
人間だからこういう人たちがいてもおかしくない。
でも、あたしはこういう人たちも含めてみんなを輪に入れたいのだから。
「……うん、いいよ。もう、次はやらないでね……」
多分声は震えていたと思う。
怒りと悲しみが混じってたと思う。
でも、あたしがここで逆上したら今までやってきたことに意味がない。
だから、あたしは2人を許すことにした。
すると2人はその場にいることが相当恥ずかしくなったのか走って教室を出て行った。
「……これでいいんだよね……」
なぜか一粒の涙が流れ出てきた。
でも、これは悲しさや悔しさではないと気づいていた。
「ごめんね、藤田さん。朝から嫌な思いさせちゃって。」
「でも、藤田ちゃんやさしーね。」
小山さんと小林さんが私の方へ寄ってそう言った。
「……そんなことないよ。2人も機会をあの子達に作ってくれてありがとうね。」
「藤田さんがそんなこと言わないでよ!悪いのはあっちなんだから!」
「そうだよ!藤田ちゃん優しすぎ〜」
そうかな?と照れながら2人に返すと2人はやれやれみたいな顔をして笑っていた。
この出来事があってからか、校内では
「藤田さんの件あの2人が原因らしいよ。」
「それを許せる藤田さんって寛容すぎじゃない?」
「あの噂もデマだって。」
とか
“なんでも許してくれる藤田さん”
とかいう評判が生徒の間で広まったりしていた。
そんな噂が広がり、ますますあたしの周りに応援してくれる人や興味を持ってくれる人が増えていく一方で、金山くん陣営はあまり動きがなかった。
そんなある日の夕方、選挙活動を終えて教室に忘れ物を取りに行くところだった。
「今日は部活動どこもお休みなんだ。」
いつもはこの時間部活動の生徒の声で溢れかえっているけど、今日は怖いくらい静かだった。
あたしは小走りで教室へ向かった。
教室へ入ろうとすると、男の子と女の子2人で教室で喋っているのが聞こえた。
邪魔しないように隙間から覗いた。
あたしは息を殺した。
今は入れる雰囲気じゃなかった。
中で金山くんとあこちゃんが話していた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
この話から視点を変えるときに*を使うようにしました。
見づらい、読みにくい等ありましたら誤字報告にて教えていただけると嬉しいです。
感想もお待ちしてます!
Xもやってます!→@yuuya_saida
最近短編小説的なものもときたま上げてますので興味があれば見てみてください!




