10 十五歳の厳冬④
色々あった年がようやく明けた。
泰夫の怪我はゆるゆると治ってきているが、まだ退院出来そうもない。
年明け後に母名義の銀行口座へ、申し訳程度の金が入っていた。
家賃に足りないくらいの金だが、まあ無いよりはずっといい。
ただ、気が変わって再び引き出されでもしたら目も当てられないので、気付いたその時に尊は、速攻で金を引き出しておいた。
あの女に関しては神経質なくらいこちらが用心しておかないと、あっさり裏切られるし足元をすくわれる。
今回のことで尊は、骨の髄までそう思い知らされた。
金の入った袋の中身を、尊は日に何度も確認する。
何度数えても増えはしないことくらいわかっているが、確認せずにはいられなかった。
金はまだ、半分強残っている。
今月はさほど心配しなくてもなんとかなるだろう。
だが、それ以降はさすがに難しい。
いくらなんでも来月になれば、泰夫の怪我もかなり良くなっているだろう。
来月になったらこの事態を、泰夫に相談しようと尊は思っている。
でも……今月は。なんとか自分で乗り越えたい。
十歳の頃よりは料理も出来るようになったし、出来るだけ金を使わずに腹を満たせる食事を、あの頃よりは工夫できるようにもなった。
同じような食材を使った同じようなメニュー……カレーとか豚汁、野菜炒めや芋の煮っころがしくらいしかできないが、チヂミもどきしか出来なかった頃よりはかなりマシだ。
今ある米がなくなったら買い足さず、スーパーへまめに行って値引きシールの貼られたうどんでも買って食いつなごう等々、今後の作戦を立てる。
ふと我に返り、ああうまいものが食いたいなァ、と切実に尊は思った。
冬休みも終わりかけた、ある日のことだった。
どうしても我慢が出来なくなり、尊は、いざという時の為に置いておいたツレたちからもらった金を握りしめ、ハンバーガーショップへと駆け込んだ。
ハンバーガーやポテト、チキンナゲットなどを値段を見ずに次々注文し、店内で彼は、何も考えずひたすら食べた。
ものすごい充実感と、同じくらいのひどい虚しさを抱え、尊はとぼとぼと自宅へ戻る。
ふと、母がホストクラブで遊ぶ気分は、こんな感じなのかなと思った。
この祭りのような高揚感は、確かに癖になるかもしれない。
だが、毎日祭りの中にいなければ気が済まなくなっているのならば……その人間は、完全にイカレている。




