9 中三の秋③
寒くなってくると、尊のアパートの部屋へツレたちが入りびたるようになる。
夏場はまだしも、寒くなってくると外をうろつくのも侘しくなってくる。寒くて暗いという状態は、意味もなく人を落ち込ませるものだから。
それなら家へ帰ればいいだろうと言うのは、家に居場所がある者の理屈だ。
家に安らげる居場所があって、それでもヤンキーになる者などまずいない。
常時保護者がいないと言って過言ではない尊の家は、昔からツレたちの冬の居場所だった。
その辺の事情もあって尊は、わざわざ泰夫の部屋から自宅へ戻った、部分も実はある。
後輩たちの来年以降が気にならなくもないが、そこは自分たちでなんとかしろと、尊は強いて思うようにしている。
学校が終わるとツレたちは、尊の家へやって来る。
連れだって来る者もいるし、ひとりでフラッと来る者もいる。
炭酸飲料やスナック菓子、菓子パンなどを手土産代わりに持ってくる者もいる。
ドアのすぐそばにあるダイニングキッチン(と呼べるような良いものでもないが、そうとしか呼びようがない)へコタツを設置すると、皆嬉しそうにそこへ足をつっこむ。
別に何をする訳でもない。
持ち寄った菓子をつまんで他愛のない雑談をしたり、寝転がって漫画を読んだり携帯ゲーム機で遊んだりと、まあそんな感じで過ごす。
時々タバコをふかすのが唯一?不良っぽいくらいで、他は普通の中学生の少年と同じようなものだろうと尊は思う。
少なくとも尊とツレ、尊の周りに集まってきた後輩たちは、ワルというよりも大人が望む型に上手くハマれなかった馬鹿、なのだろう。
はみ出し者がそれなりの矜持を保って立っているには、不良になるのが一番手っ取り早い。
ただそれだけの、寂しがりの馬鹿なのだ、自分たちは。
そんなことを思うともなく思いながら、尊はスケッチブックに鉛筆を走らせる。
夏休み以降も尊は、自主的にスケッチを続けている。
酒井から特に指示はなかったが、スケッチは『物をきちんと見て、捉える』為の訓練だろうと解釈しているので、続けて悪くはない筈だ。
一枚一枚スケッチが増える度、一歩一歩魔法の王国……自分が気分よくいられる場所に近付いている気がするので、やめるつもりもない。
家主?の尊が真面目な顔でスケッチをしていることが多いからか、ツレや後輩も大人しくしていることが多い。
時々ふと我に返り、しーんとした部屋の中で漫画を読んだりうたた寝したりしているツレたちを見て、こいつら何が楽しくてウチへ来るのだろうと思う瞬間がある。
あるが、ここでうだうだしている連中の気持ちもわからなくない。
こうしてただ、気の置けない者の気配を感じる場所で、ボーっとしていたい。
そんな、当たり前すぎて普通なら考えることもないくつろいだ環境が、こいつらにはないのだ。
「ハヤカワさん」
手を止め、なんとなく部屋を見回していた尊の気配に気付いたのか、漫画を読んでいた林が顔を上げ、声をかけてきた。
「お茶かコーヒーでも淹れましょうか?」
「おー、エエな。淹れてくれや。俺はコーヒー、砂糖抜きのミルク多めでな」
尊より先に、寝転がって古い漫画雑誌のページを所在なくめくっていた川野が答えた。
「え?俺はハヤカワさんに……」
もごもご言いかけた林へ、川野はコタツの中で素早く脚を伸ばして林のすねを蹴る。
「こら。俺も先輩やぞ。ああ、ついでやから、うたた寝してるヤツの分も淹れたれや」
林は軽くため息をついたが、わかりましたと立ち上がる。
倉田も立って林を手伝う。
こういうやり取り、最近ではお約束になってきている。
やがてそれぞれが持ち込んだマグカップに、なみなみとミルクコーヒーが満たされてコタツの上の食卓に並ぶ。
丸まって眠っていた田中が川野にゆり起こされ、前に誰かが持ち込んだスナック菓子の袋が開けられた。
そして、どことなく侘しいながらも楽しい、オヤツの時間を皆で過ごすのだ。
バリバリとポテトチップスを噛み、コーヒーでのどを潤しながら馬鹿話をしていると、ふっと泣きたいような気分になって尊は戸惑う。
小波の町や小波中にいい思い出なんかほとんどないが。
この連中と過ごすこの時間だけは、ずっと続けばいいのに、と思った。




