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10.会社を壊す優先順位の逆転

 

 会社が壊れる時、必ずしも誰かが明確な悪意を持っているとは限らない。


 利益を出そうとする。

 効率を上げようとする。

 人件費を抑えようとする。

 現場に努力を求める。

 顧客対応を強化しようとする。

 管理を厳しくしようとする。


 一つ一つは、会社にとって必要な判断に見える。


 しかし、優先順位を間違えると、それらは会社を強くするどころか、会社を内側から弱らせる。


 会社を壊すのは、「大事なものを完全に無視すること」だけではない。

「大事なものの順番を間違えること」でも会社は壊れる。


 たとえば、利益は大事である。


 利益がなければ、会社は続かない。

 給料も払えない。

 設備も買えない。

 人も育てられない。

 将来への投資もできない。


 しかし、利益のために信用を削れば、長期的には利益も失われる。


 品質を落として利益を出す。

 必要な確認を省いて利益を出す。

 社員に無理をさせて利益を出す。

 教育を削って利益を出す。

 顧客に分かりにくい形で負担を押しつけて利益を出す。


 これは、本当に利益を生んでいるのではない。


 未来の信用、品質、人材、現場の余裕を削って、現在の数字を良く見せているだけである。


 効率も大事である。


 無駄な作業は減らすべきである。

 意味のない会議も減らすべきである。

 重複した手順も整理すべきである。


 しかし、効率のために必要な確認や教育まで削れば、会社の基礎は弱くなる。


 確認が減れば、ミスが増える。

 教育が減れば、人が育たない。

 記録が減れば、状況が追えない。

 報告が減れば、問題が見えなくなる。


 効率化とは、無駄を減らして仕事をよくすることである。

 必要な基礎まで削ることではない。


 顧客対応も大事である。


 顧客がいなければ、会社は売上を得られない。

 顧客に価値を届けることは、会社の重要な役割である。


 しかし、「顧客第一」という言葉で現場を使い潰せば、会社は長く続かない。


 無理な納期を受け続ける。

 過剰な要求を断れない。

 現場の人員や時間を無視して仕事を詰め込む。

 顧客のためという名目で、社員の休息や安全を削る。


 これを続ければ、現場は疲弊する。


 疲弊した現場では、品質は落ちる。

 対応も雑になる。

 ミスも増える。

 人も辞める。


 結果として、顧客への価値提供そのものが弱くなる。


 社員のやる気も同じである。


 やる気は大事である。

 仕事に前向きな人が多い会社は強い。

 改善も進みやすく、問題にも気づきやすい。


 しかし、やる気を根性だけに頼る会社は危うい。


 人のやる気は、本人の性格だけで決まるわけではない。


 正当に評価されているか。

 必要な道具があるか。

 上司に相談できるか。

 仕事量が限界を超えていないか。

 休める環境があるか。

 成長できる感覚があるか。

 理不尽な扱いを受けていないか。

 自分の仕事が何に繋がっているか分かるか。


 こうした条件によって、やる気は大きく変わる。


 つまり、やる気は個人の内側だけにあるものではない。

 会社の構造によっても生まれ、会社の構造によっても失われる。


 やる気がない社員が多いなら、社員の精神論だけで片づけてはいけない。


 仕事の意味が伝わっているか。

 評価は納得できるものか。

 努力しても報われない構造になっていないか。

 負担が一部の人に集中していないか。

 管理職が現場の声を聞いているか。

 基礎条件が整っているか。


 そこを見る必要がある。


 余裕も重要である。


 余裕という言葉は、会社では軽く見られやすい。


 余裕があるなら、もっと仕事を入れられる。

 余裕があるなら、人を減らせる。

 余裕があるなら、まだ頑張れる。


 そう考えられることがある。


 しかし、会社にとって余裕は単なる遊びではない。


 余裕があるから、確認ができる。

 余裕があるから、新人に教えられる。

 余裕があるから、小さな異常に気づける。

 余裕があるから、改善を考えられる。

 余裕があるから、急な欠勤やトラブルに対応できる。

 余裕があるから、ミスを報告し、修正できる。


 余裕をすべて削った会社は、一見効率的に見える。


 だが、実際には非常に脆い。


 一人休むだけで回らなくなる。

 少し予定が狂うだけで混乱する。

 新人教育が後回しになる。

 ミスがあっても確認できない。

 問題が起きても立て直す時間がない。


 余裕は無駄ではない。


 会社の安定性を守るための余白である。


 福利厚生も同じである。


 福利厚生というと、社員へのサービスやおまけのように見られることがある。


 もちろん、何でも増やせばよいわけではない。

 目的のない福利厚生は、ただの費用になる。

 使われていない制度や、現場の実態に合わない制度は見直すべきである。


 しかし、福利厚生そのものを無駄と見るのは浅い。


 適切な福利厚生は、社員の生活の安定、健康、定着、回復、働きやすさを支える。


 社員が生活不安を抱えすぎていれば、仕事への集中力は落ちる。

 休めなければ、疲労は蓄積する。

 健康を損なえば、欠勤や離職につながる。

 働き続ける見通しがなければ、人は定着しない。


 会社は人を使って価値を生み出す組織である。


 ならば、人が働き続けられる条件を整えることは、単なる優しさではない。


 会社の能力を維持するための現実的な投資である。


 ここでも優先順位を間違えてはいけない。


 福利厚生を会社の目的そのものにしてはいけない。

 だが、福利厚生を不要な飾りとして扱ってもいけない。


 重要なのは、それが会社の基礎能力にどう繋がっているかである。


 健康を守る。

 離職を減らす。

 採用力を高める。

 社員が回復できる。

 長く働ける。

 仕事への集中力が保たれる。


 こうした効果があるなら、福利厚生は会社の基礎条件を支える役割を持つ。


 会社を壊す優先順位の逆転は、さまざまな形で現れる。


 利益のために信用を削る。

 効率のために品質を削る。

 顧客対応のために現場を使い潰す。

 管理のために仕事を増やす。

 コスト削減のために教育を削る。

 人件費削減のために現場能力を削る。

 短期の数字のために、長期の基礎を削る。


 これらはすべて、順番の間違いである。


 会社にとって、利益は必要である。

 効率も必要である。

 顧客対応も必要である。

 管理も必要である。

 コスト削減も必要である。


 だが、それらは会社の基礎を壊さない形で行わなければならない。


 基礎を削って得た利益は、長く続かない。

 余裕を削って得た効率は、トラブルに弱い。

 やる気を削って得た管理は、人を動かさない。

 福利厚生を軽視して得た削減は、人材の定着を弱める。


 会社は、人、仕組み、信用、品質、時間、余裕によって動いている。


 どれか一つだけを見て判断すれば、他の条件が壊れる。


 本当に必要なのは、単純に「何が一番大事か」と決めることではない。


 利益を出すために、何を守るべきか。

 効率を上げるために、何を削ってはいけないか。

 顧客に価値を届けるために、現場にどれだけの余裕が必要か。

 社員にやる気を求めるなら、どの条件を整えるべきか。


 この順番を考えることである。


 会社は、正しいものを大事にしていても、順番を間違えれば劣化する。


 だから、会社の優先順位を見る時は、目立つ目的だけを見てはいけない。


 その目的を支える基礎条件まで見る必要がある。


 強い会社は、利益を否定しない。

 効率を否定しない。

 顧客対応を否定しない。

 管理を否定しない。


 ただし、それらを支えている基礎を軽視しない。


 会社を壊すのは、目的そのものではない。

 目的のために、土台を削ってしまう判断である。


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