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1.会社は「上下」ではなく「基礎と応用」で見る

 

 会社を考える時、多くの人は役職の上下で物事を見てしまう。


 社長が上にいて、管理職がその下にいて、現場社員がいて、新入社員がいる。

 命令を出す側が上で、命令を受ける側が下である。


 もちろん、会社には指揮命令系統がある。

 責任の範囲も違う。

 決定権にも差がある。


 しかし、会社の仕事そのものを「上か下か」だけで見てしまうと、組織の本質を見失う。


 会社とは、偉い人が下の人を動かす場所ではない。

 会社とは、人が役割を分担して価値を生み出す仕組みである。


 このことは、会社という形が存在しない時代を考えると分かりやすい。


 たとえば、昔の小さな集団が狩りをして暮らしていたとする。


 最初は、全員が同じように動いていたかもしれない。

 獲物を探す。

 追いかける。

 仕留める。

 運ぶ。

 捌く。

 保存する。

 分ける。

 道具を直す。

 次の狩場を考える。


 人数が少なければ、一人が多くの役割を抱えるしかない。


 しかし、集団が大きくなり、獲物が増え、生活が複雑になると、一人ですべてを担うことは難しくなる。


 足が速い者は獲物を追う。

 手先が器用な者は道具を作る。

 力のある者は獲物を運ぶ。

 経験のある者は若者に教える。

 保存に詳しい者は食料を管理する。

 周囲を見るのが得意な者は危険を警戒する。

 判断力のある者は、次にどこへ向かうかを決める。


 こうして役割が分かれていく。


 ここで重要なのは、役割が分かれた理由である。


 誰かを偉くするために役割が分かれたのではない。

 集団として生き残り、より安定して価値を生み出すために、役割が分かれたのである。


 獲物を仕留める者だけが重要なのではない。

 道具を作る者がいなければ、狩りは難しくなる。

 食料を保存する者がいなければ、獲物は無駄になる。

 若者に教える者がいなければ、次の世代が育たない。

 危険を見張る者がいなければ、集団全体が危うくなる。

 分配を誤れば、仲間割れが起きる。


 つまり、集団の仕事は、単純な上下ではなく、役割の繋がりで成り立っている。


 会社も同じである。


 物を作る人がいる。

 売る人がいる。

 運ぶ人がいる。

 記録する人がいる。

 確認する人がいる。

 整える人がいる。

 教える人がいる。

 管理する人がいる。

 お金を見る人がいる。

 会社全体の方向を決める人がいる。


 これらは、偉い順に並んでいるのではない。

 会社が価値を生み出し、それを広げ、維持し、未来へ繋げるために分かれた機能である。


 本書では、この関係を「基礎」と「応用」という言葉で整理する。


 基礎業務とは、会社が価値を生み出す土台となる仕事である。

 製造、販売、接客、介護、配送、整備、確認、記録、清掃、保管など、現場で直接価値を支える仕事がそれにあたる。


 応用業務とは、その基礎業務を広げ、守り、安定させるための仕事である。

 管理、経理、人事、営業、品質管理、教育、企画、法務、経営判断などがそれにあたる。


 応用業務は、基礎業務より偉いから存在するのではない。

 基礎業務だけでは会社が大きくならず、安定せず、継続できないから必要になったのである。


 逆に言えば、応用業務が基礎業務を軽視し始めた時、会社は静かに劣化していく。


 現場の道具を軽く見る。

 新人教育を後回しにする。

 確認作業を無駄扱いする。

 人員不足を現場の努力で埋めさせる。

 報告しにくい空気を作る。

 数字に出ない仕事を価値がないものとして扱う。


 これらは一つ一つを見ると、小さな問題に見えるかもしれない。


 しかし、基礎条件の劣化は、すぐには数字に出ない。

 だからこそ危険である。


 道具が足りなければ、作業精度が落ちる。

 教育が足りなければ、人が育たない。

 確認を削れば、ミスが増える。

 人員が足りなければ、余裕がなくなる。

 余裕がなくなれば、報告も改善も遅れる。

 その結果、品質が落ち、信用が落ち、人が辞め、利益も落ちていく。


 会社は、大きな失敗だけで壊れるのではない。

 小さな基礎条件を軽視し続けることで、気づかないうちに劣化していく。


 本書の目的は、会社を役職の上下ではなく、基礎と応用の構造から見直すことである。


 社長には社長の役割がある。

 管理職には管理職の役割がある。

 現場社員には現場社員の役割がある。

 新入社員には新入社員の役割がある。


 だが、それらは別々に存在しているのではない。

 すべては、会社が価値を生み出し続けるために繋がっている。


 会社の優先順位を理解するとは、単に「何が大事か」を並べることではない。

 上に見える成果を支えている基礎条件を見抜き、何を軽視してはいけないのかを理解することである。


 基礎がなければ、応用は成り立たない。

 応用が正しく働かなければ、基礎は広がらない。

 基礎と応用が噛み合って初めて、会社は安定して成長できる。


 この本では、その構造をできるだけ分かりやすく整理していく。


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