表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メッセージ  作者: K
PR
29/30

29 伝えていいんだね

夜、『ありす』に行くのは初めてだった。

遅くまで開いているという話は凛から聞いていたが、店は確かに

煌々と明かりを灯していた。

「爽君は、来ているかどうかわからないぞ。」

「いいよ。凛が、おまかせディナーが美味しいって自慢してたんだ。」

よく考えると、志筑兄弟については、恭平もほとんど知らないのだ。

わかっていることと言えば、兄が薬剤師で、弟が大学生であること。

兄が、バイクを持っていること。

『ありす』の近所に住んでいて、弟の方が、バイトのない時は、しょっちゅう食事に来ているという事ぐらいだった。


3台しか置けない駐車場には、恭平の車以外に止めている車はなく、もちろん、巧のドラッグスターの姿も無かった。

ドアを開けると、カランカランと音がした。

夜だからか、そのベルの音がやけに響く。

こじんまりした喫茶店の中には、やはり、志筑兄弟の姿はない。

志筑爽の定位置らしい、入って右の奥のテーブルには誰もいない。

ドアからは反対側になる左のテーブルの奥には、以前、見かけたことのある背の高いサラリーマンとOLがいるだけだった。


凛の母親であるママに、何時まで開いているのかと尋ねると、

「お客さんがいるまでは、あけてるんです。」

と、笑った。

もともと、わかりにくい辺鄙な場所にある。

「爽君は、今日は来たんですか?」

ママに聞くと、

「今日は、ランチに来たんですよ。夜は、多分バイトの日だと思うけど、でも…帰りに寄るかもしれませんよ。」

と、意味ありげに笑った。

「?」


会えるのではないかと期待していた恭平は、少しがっかりしたが、渉は、懐かしそうに、喫茶店を見渡していた。

ここから、全てが変わったのだ。

あれから半年もたっているのが信じられない。

「ここで、俺、バカみたいに泣いたんだ。」

少し気恥ずかしそうに渉は笑った。

「色々あったな。」

「先生には、本当にお世話になりました。」

ペコリと、渉は、頭をさげた。

「ほんとに素直になったな。」

「人が折角感謝しているのに。」

「いや、俺も勉強になった。教師生活1年目で、お前に出会って良かったよ。」

「俺が超問題児だったから?」

「いや、すごくいい奴だったから。」

「何だよ、いったい。」

恭平と渉との間に、こんな穏やかな空気が流れるなんて、一学期には、思ってもみないことだった。


おまかせディナーは、ワンプレートだったが、期待以上のものが出てきた。

爽が、バイトのない時は、毎日、ここで夕食を食べると言った理由がよくわかる。

凛が言うには、凛の母親の唯一の趣味が料理だったとかで、料理に関しては自慢できると自慢していた。

そして、食後の珈琲を飲み干したところで、カランカランとドアにかけられたベルが鳴った。

ドアに向かって座っていた渉が、見つけたのは、爽だった。

何となく、会える気がしていたのだ。

「爽さん。」

爽は、目を丸くして、恭平たちのテーブルのそばにやって来た。

「恭平さん、榛名君、お久しぶりです。」

「食事?」

と、恭平が聞くと、ママが、カウンターから声をかけた。

「これでしょ。」

取り出したのは、教科書のようだった。

「ああ、それ。すみません。」

どうやら、ランチに来た時に、忘れて帰ったもののようだった。

「爽君でも、忘れものするんだな。」

恭平が、意外だと言うと、

「ここは、あまりに居心地がいいもんだから、緊張感なくて、しょっちゅう忘れています。」

「へえ。」

そう言えば、チャネリングしていない時の、爽の普段の様子は、想像がつかなかった。

爽について、信頼できると思うと渉には断言したものの、実際のところ、普段の爽の姿を恭平は知らないのだ。

「珈琲でも飲まないか?」

と聞いてみると

「明日、試験なんで…。」

と、ママから受けとった教科書を掲げてみせた。

「そうか。」

志筑兄弟に、会えたらいいなと思ってはいたが、会って何をしたいわけでもなかった。

それは、渉も同様で、爽に会えただけで、満足しているようだった。

「じゃあ、俺達も、帰るか。」

「はい。」

恭平が、支払いを済ませるまで、爽も一緒に待っていた。

3人で『ありす』を出て、

「じゃあ、また。」

と、駐車場で、爽と別れようとすると、爽が、軽く微笑みながら、つぶやいた。

「伝えていいんだね。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ