27 快挙です
岳が6組から出ていくのと入れ違いに、埜々下佑人が、勢いよく教室に飛び込んできた。
「6組の皆さーん!」
入るなり、大声で、叫ぶ埜々下。
「快挙です!」
昼休みが終わる2分前だから、6組の生徒は、そのほとんどはクラスにもどってきている。
バラバラと集まってきた生徒たちが、一斉に埜々下を見る。
埜々下は、十分に間をとって、6組全員が、自分に注目したことを確認すると、
大声で、嬉しそうに報告したのだ。
「何と、我が6組から、学年1位が誕生しましたー!!」
一瞬、静まりかえる6組。
埜々下が、何を言っているのか、把握し損ねた顔が、お互いの顔を見合わせる。
そこへ、別の生徒が、教室にかけこんできた。
「おい、榛名が、学年1位になってるぞ。」
「ええー?!」
どっと、歓声があがった。
3年6組は、4月の始業式の日、クラスに編入された瞬間から、あきらめた1年が決定づけられる。
学校中から、落ちこぼれのレッテルを貼られ、自分自身も、どんなにあがいても、このクラスから逃れることが出来ないことを実感する。
教師の質は、1組が優先され、6組で、スーパーティーチャークラスが授業を担当することはない。
更に、授業も1組から順に、やりやすい形で優先される。
6組の授業は、あまった時間、あまった教師で埋められている感じさえする。
そんな、学校から、先生から大事にされていない雰囲気は、感受性の強い少年少女たちには、ストレートに伝わり、ますます自己評価を低くしてしまう。
文化祭にしても、体育祭にしても、3年6組は、いつも、協調性もやる気もない、ただ参加するだけのお荷物集団となっていた。
一生懸命やるということが、無意味に思えてしまうのだ。
何をやっても無駄。
上のクラスには、何もかも、かなわない。
ただ、自分の今の分に見合った場所に落ち着けばいい。
そんな、目標をなくした生徒たちのクラスだったのだ。
その何をやっても駄目なクラス、誰かも期待されない、勉強においては、どこよりも不利なクラス、その6組の生徒が、学校から、何もかも全てに優先され、全ての条件で、受験に有利な1組全員を差し置いて、学年1位になったという。
他人のことに、興味を持つ6組じゃない。
団結して、誰かを応援するような6組でもない。
けれども、何もかも駄目だと思っていた6組から、学年1位のクラスメイトが誕生した事は、彼等自身にとっても、十分意外だったのだが、意外に愉快で、意外に痛快だったのだ。
また、クラスメイトの快挙に喜ぶ雰囲気も、3年6組になって、はじめてのことで、皆で喜ぶことを、身体で表現しているうちに、それも楽しくなってきたことに気が付いたのだ。
6組が湧いた。
こんなことは、4月のクラス編成以来はじめてのことだった。
どこか、いつも醒めていて、他人のことには無関心で、一生懸命、何かをすることを忘れてしまったような6組の生徒が、何だか、よくわからないけど、楽しい雰囲気を一緒に味わったのだ。
それは、遠巻きで見なければならないほど、人を拒絶するオーラを放っていた渉が、夏休み前から、少しずつ変わっていき、6組に少しずつ打ち解けてきたせいでもあった。
凛が、いたずらっぽく笑いながら、
「二階堂の叔母さん、きっと、今月の学級通信、破り捨てるよ。」
と、渉を見上げると、
「じゃあ、叔母さんは、もう、学級通信を卒業するまで破り捨てることになるな。」
と、渉は自信ありげに笑った。




