22 出ていくのか?
渉が荷物をまとめていると、岳が部屋に入ってきた。
「本当に、ここから出ていくのか?」
「ああ。」
教科書と、服をまとめながら、渉は答える。
「帰ってこないつもりなのか?」
「多分。」
「防衛大学に受験するのか?」
「…。」
渉は、はじめて、岳を振り返った。
「渉が防衛大に行くなら、俺も受験する。」
渉には、わかっている。
岳が、ずっと自分を追いかけていたことを。
ずっと自分に憧れ、自分のようになりたいと思っていたことを。
体中をあざだらけにされ、階段から突き落とされても、それは、自分自身の望んでいたことであり、岳に対して、恨みなどは一片もない。
岳が、今でも自分を好きでいてくれていることもわかっている。
「岳…。」
渉は立ち上がった。
そして、じっと、この2年で、自分より少し背の高くなった岳の目を見る。
「渉…。」
岳にとっては、久しぶりの渉の強い視線だった。
この目が好きだった。
強い意思と、強い信念を感じさせるこの目に憧れた。
事故のあと、すっかり消えていた、目の光が、再び渉にともったことを、岳は認識した。
笑顔になる岳に、渉は、低い声で言った。
「岳、お前は、もう、俺のあとを追うな。」
「え?」
岳の顔から笑顔が消えた。
「俺に近づくな。」
「え? どういう意味?」
「…。」
渉は、それには答えず、さっさと、荷物を片づける。
「どういう意味なんだ? 渉?」
岳が、渉の肩をつかむと、渉は、その手を振り払った。
「!?」
少し、ためらうような間があき、岳は、渉の言葉を待ったが、渉は、積み込んだ荷物を背負い、そのまま、何も言わず、岳の横を通り過ぎていった。
「渉…。」
岳は、呆然と、渉の後姿を見ていた。
荷物を榊の車にほおりこんだ渉は、沙智子に
「お世話になりました。」
と深々とお辞儀をした。
沙智子は、苦虫をつぶしたような、嫌な顔をしていた。
片桐は、心から、ホッとしたようだった。
「それでは、榛名君のことは、おまかせください。」
片桐は、片桐自身の車で、とりあえず、校長に報告するからと、学校にもどっていった。
渉は、恭平の車の助手席に乗り、車が、二階堂から見えない位置まで走ると
「岳に、あんなに冷たい態度をとったのは、はじめてだ。」
と、深い溜息をついた。
岳を傷つけた。
自分が傷つけた岳の姿を見て、渉自身も傷ついていた。
「二階堂の為だ。」
運転しながら、恭平が言うと、
「わかってます。」
と言った渉は、窓の外を見て、恭平にその表情を見せなかった。




