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メッセージ  作者: K
11/30

11 本当にごめん

恭平が、渉を連れて、二階堂家に着いた。

学年主任の島と担任の片桐が、二階堂家に連絡し、岳を連れて、先に二階堂の母親沙智子に説明に来ていたおかげで、恭平が、改めて事情を説明する必要は無かったが、沙智子は、不安で、まだ色々恭平に聞きたいようだった。

「渉!!」

二階堂家から、真っ先に飛び出してきたのは、岳だった。

「悪かった。本当にごめん。大丈夫なのか?」

「…。」

「ギプスがとれるまでは、俺が、全部、お前の面倒をみるよ。」

「岳…。」

「本当にごめん。ふざけすぎた。」

恭平には、岳が、本当に心から謝っているように見えた。

「ごめんな。大丈夫か?」

そして、恭平など、見向きもせず、渉の身体を抱えるようにして、家の中に連れ帰ってしまった。

「お兄ちゃんったら、渉兄ちゃんの面倒みれて、幸せなんじゃない?」

中学生らしい岳の妹が、呆れたように、二人の後を追っていった。

残された恭平は、二階堂の母、沙智子に、単純骨折なので、1ヶ月弱でギプスはとれることを説明し、利き手の骨折なので、生活面で、配慮してほしいなどの簡単な報告をした。

詳しいことは、片桐と島から連絡を受けていたはずだったから、それ以上を語るつもりはなかった。

しかし、沙智子は、帰ろうとする恭平の腕をつかむ。

「あの…、岳が、渉をふざけて押したと、片桐先生から伺ったのですが…」

「ええ。そういうことでしたね。」

「これって、大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫とは?」

「その…、身内とはいえ、全治一ヶ月もの怪我を負わせてしまったというのは…。いえ、身内のことなんで、話がこれ以上、大きくなることはないんですけど…。」

沙智子は、困ったように眉を寄せていた。

「岳も、ふざけてたって言ってますし、渉も就職希望で、受験に差しさわりがあるわけではないので…。」

恭平は、沙智子の腕を、ゆっくりほどいた。

「榛名は、二階堂と仲がいいんですか?」

母親は、待ってましたとばかり、オーバーなリアクションでこたえる。

「勿論です。小さい頃から、岳は、渉が大好きで、いつも、くっついてました。渉がすることは全て真似て…。柔道も、渉がやってたからはじめたようなもんです。いつも、コテンパンに負けてましたけどね。うちの主人は、自分が昔、柔道をかじってたもんで、岳が負けるのが悔しくて、何度もやめろって言ったけど、岳はやめなかったんですよ。だもんで、根負けした主人が、家を建てる時、地下の部屋を柔道のできる和室にしたくらいです。本来、倉庫にするつもりだったんですけどね。まあ、岳は、本当に粘り強い子ですから。渉は小学校で柔道はやめてしまいましたが、岳は続けたんです。今は、あの頃とは違って、岳の方が、身体も大きいようですし、今だったら、公式戦で、渉にも勝てるんじゃないかと思いますけどね…。」

沙智子は、根がおしゃべりで、しゃべりながら、話が脱線していくタイプのようだ。

恭平が、そのおしゃべりを軽く止めると、

「岳は、とにかく、渉が小学校の時、この町に転校してきてから、ずっと渉のことが、大好きで、いつも、渉のあとを追っていた子です。悪気があったわけじゃないんです。」

と、慌てたように付け加えた。

「わかりました。」

「あの、岳の大学は、その…、推薦も考えてまして…。」

沙智子のの言いたいことはわかった。

渉の怪我よりも、岳の入試が心配なのだ。

母親なら、当然かと思いつつ、渉が不憫だなと思う。

「島先生と、片桐先生と、お話しはされたのでしょう?」

「あ…はい。一応、事情は、聴きました。あの…、二人で、ふざけてたんで、押してしまったのは岳ですけど、もしかしたら、岳が被害にあってた可能性もあるんですよね。仲のいい二人なんで、きつくは叱っておきますけど…。」

二人の仲がいいことを、強くアピールしたいようだった。

恭平は、沙智子に安心するように、伝えた。

「僕の口からは、何とも言えませんが、二階堂も十分反省しているようだし、事件になることは、ないと思いますよ。」

沙智子は、あからさまに、ホッとした顔をした。

「榛名は、骨折のせいで、少し微熱があるようです。今日のところは、ゆっくり休ませてください。」

これ以上いると、長い話を聞きそうで、、恭平は、そそくさと退散することにした。

「また、改めて、お話しすることになると思いますが、今日は、これで、帰ります。失礼します。」

さっさと、車に乗り込む恭平に、沙智子は、まだ、何かいいたそうにしていたが、恭平は、窓を開けず、会釈だけして、車を発進させた。



その二階堂家の和室では、抱えるように連れてきた渉の前で、岳がいきなり土下座していた。

「渉、本当にごめん。魔がさしちまった。」

「…。」

「許してくれ。」

「岳、やめてくれ。」

「いや、渉が許してくれるまで、やめない。」

そう言って、ずっと、土下座のまま、岳は渉の言葉を待っている。

「渉の腕が治るまで、俺がずっと渉の右手になる。」

「…。」

渉は、あの時、落ちた階段の踊り場から、岳の姿を見た。

一瞬だったが、あの時の岳の顔を、覚えている。

覚えていると思ったが…。

錯覚だったか、と思わせる程、岳の態度は真摯だった。

「岳…。」

渉が、声をかけると、岳は、ようやく顔をあげた。

「たいした怪我じゃない。気にするな。」

岳は、ホッとしたように明るく笑った。

「食事、持ってくるよ。渉が使いやすいように、スプーンにする。」

立ち上がって、すぐに食事を持ってきそうな勢いの岳を、渉は止めた。

「いや、今日はいい。少し、熱があるんだ。もう、休むよ。おばさんたちには、心配しないように、岳から言っといてくれ。」

「俺が看病するよ。」

「馬鹿言うな。」

渉は、だるそうに、首を振った。

「寝たら治る。」

「だったら、ポカリ持ってくるよ。確か、冷蔵庫にはいってた。」

渉が、

「助かる。」

と、言うと、岳は、嬉しそうに笑って、台所に行く。

渉は、深くため息をついて、着替えを済まし、布団にもぐりこんだ。

骨折した腕がジンジンする。

身体中、あちこちも痛い。

そして、怪我のせいであるらしい発熱に顔をしかめる。

熱を出すことは、滅多にない。

滅多にないが、熱には弱いのが、渉の体質だ。

身体が、だるい。

頭が痛い。

疲れた…。

岳は、すぐに戻ってきた。

机の上にポカリスエットをおく。

濡れたタオルも持ってきていて、渉の額に、そっとのせた。

「大丈夫か?」

岳が、心配そうにのぞきこんだ。

返事をするのも億劫だった。

うなづいた渉は、そのままゆっくり意識を手放した。


岳は、ずっと渉の顔を見ていた。

眠ってはいるが、どこか身体に苦痛を感じているのだろう。

眉が寄せられ、息も、寝息にしては少し荒い。

「つらそうだな。」

返事はもちろん帰ってこない。

けれども、岳は、その表情を見て、身体の芯がゾクリとするものを感じていた。

「渉…。」

岳は、その寝顔にじっと見入っていた。



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