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真・恋姫†無双 星巴伝  作者: 桜惡夢
三章 紡絆育繋
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七話 試功初故


日が登り、軈て沈み、月が満ちては欠けて、星は瞬き。

吹き抜ける風に乗って行く様に季節は移り変わり。

積み重ねた時は、止まる事無く、進み続ける。



「──待て、後ろの留め具が服を噛んでいるぞ」


「え? 嘘っ、冥琳、ちょっと直して~」


「はぁ~……だから、きちんと遣れとあれ程……」


「御説教は後で、今は早く準備して行かないと!」



「そう遣って誤魔化す気だろう?」と言いたくもなるが事実でもある為、周瑜は言葉を飲み込んだ。

背中を向けている孫策の鎧の留め具を外し、服を直して噛まない様にしてから留め直す。

「だから、自分で遣らずにして貰えと……」と。

要らぬ手間を掛けさせられた小言が腹の中に溜まる。

“腹黒”というのは悪意や害意を持つ者等を指すが。

負の感情が溜まった自分の腹も十分に“腹黒”だろう。

そんな風に思ってしまう周瑜。

そして、腹黒さを理由に放置して遣ろうかとも思う。

まあ、そんな真似は実際には出来無いのだが。






「雪蓮、遅れてはいないが、もう少し余裕を持って行動出来る様に心掛けろ」


「はーい」



一緒に居た周瑜は何も言われず、自分だけが注意される孫策は不満なのを隠そうともせずに返事をする。

それを側で見ている周瑜は孫策に拳骨を入れたくなる。

実際には遣りはしないが、遣りたくは有る。

注意をした夏侯淵が叱らないので堪えるが。

出来る事なら、思い切り殴り、怒鳴って遣りたい。


──が、そんな憤怒(感情)を抱えていては集中が出来無い事を理解している為、溜め息と共に吐き出す。

切り替えなければ笑い話にも出来無くなるのだから。



「さて、賊討伐(これ)が御前達にとっては初陣だ」



そう夏侯淵が言えば、二人の表情と態度が変わる。

普段と変わらず飄々としていた孫策は剣呑な気配を瞳に宿しながら抜刀したかの様な鋭さを見せる。

周瑜の方は一段階、緊張感を上げた様に少しばかり身を強張らせるが既に頭の中では具体策を講じ始める。

その様子に夏侯淵は内心で嬉しく思う。

出陣前の為、表情や態度には出しはしないが。


現在地は徐州北部にある山間部の野営地。

十二歳に成った事で、二人には実戦の許可が下りた。

当然だが、孫家・周家の同意を得ての参加。

本人達も遣る気となれば、誰も文句を言いはしない。


文句は無いのだが……

「今更、その辺の賊徒程度が相手になるか?」と。

韓浩が言っていたが、夏侯淵としても同じ様に思う。

孫策が曹丕と婚約して一緒に暮らす様になってからは、自分達が直に指導し、鍛練を行ってきたのだから。

「賊徒ごときでは……」と思うのは当然の事。


しかし、一対一や、数人を相手にするのは訳が違う。

しかも、二人は各々に部隊を率いての戦い。

御互いを頼れず、しかし、背負う兵の命が有る。

この状況で、どう考え、どう動けるのか。

それを自らが知る為の戦いである。


──とは言え、普通に考えれば、早過ぎる事である。

必要に迫られて戦うのではなく、自ら戦場に身を置く。

十二歳で元服とは言え、滅多に無い事だ。


しかし、これは曹皓達(二人)が書き残した指針。

そして、自分達が歩んだ道の一端でもある。

それ故に、「この位の事も出来無いようであれば共には歩めないわね」と言われているのも同然。

孫策にしろ、周瑜にしろ、遣る気が出ない訳が無い。


夏侯淵からすれば、力み過ぎるかが心配だったが……

それは要らぬ心配だった様だと思う。



「孫策隊は東の山の一団、周瑜隊は南の谷の一団だ

事前に渡しておいた報告書は読んだな?」


「勿論!」


「第三勢力が居る可能性も書いて有りましたが?」


「ああ、小規模だが他所から流れて来たばかりの連中だ

漁夫の利を狙って乱入してくるかもしれん

その可能性を忘れぬ様に注意・警戒は怠るな」


「ふ~ん、まあ、此方に来れば纏めて屠ってあげるわ」



そう言って不敵に鼻で笑う孫策。

「お前はまた……」と視線で睨む周瑜。

だが、それだけで口に出したりはしない。

此処からは別行動。

気を抜けば自分達に返ってくる事を学ぶ事となる。

勿論、そうは為らない方が良いのだが。

それを意識し、行動出来るかが問われる。

御互いが責任を負う立場となるのだから。




野営地を出発し、孫策が率いる隊は山中を進む。

報告されている敵の数は凡そ二百。

一時期を思えば少ない様に思えるが、現在では大規模と言っても間違いではない。


黄巾の乱により、大きく賊徒の数は減少した。

だが、それでも連中は何処かからか涌き出してくる。

同一個体ではないと判っていても、害虫にも等しい。


対する孫策隊は六十人。

山の中腹に拠点を構えている為、其処までは徒歩になるという事も有り、大人数での行軍は目立ってしまう。

目立たず、しかし、戦力は揃える。

その妥協点が六十人。


ただ、そうは言っても彼等彼女等は新兵ではない。

曹家の兵歴は全員が二年以上。

孫策の事は既知であり、鍛練で手合わせをした事も有るという者が半数以上。

更に、一ヶ月以上、孫策隊として調練もしている。

準備不足という事は無い。


しかし、どんなに準備をしても何が起こるのかは誰にも判らないし、予想は出来ても確定ではない。

その為、行軍には慎重さが求められる。


──筈なのだが、孫策は先頭を迷わずに進む。

本来であれば斥候を出し、敵の目や耳が無いかを調べ、慎重に進む所なのだが。

孫策は持ち前の勘で、躊躇無く前に進む。


普通であれば、戸惑い、不安感・不信感を懐く所だが、孫策の事を知っているが故に誰も進む足を鈍らせない。

「伯符様だからなぁ……」と。

何処か呆れや諦念に近い、しかし、信頼もしている。

そんな不思議な意思統一の下に。




道程の半分以上は来た所で小休止。

孫策も兵達も鍛えられてはいる為、バテてはいない。

この程度でバテていたら特別訓練(・・・・)行きとなる。


しかし、それなりに傾斜が有る山で、進むのは賊徒達が使っている山道ではなく、道無き道。

生い茂る草木を大きな音を立てずに伐り、道を拓く。

孫策が先頭だから出来ている芸当である。


そんな真似をしているから一気に近付く事はしない。

疲労が戦闘に与える影響は、よ~く知っているから。



「此方の連中って元は冀州に居たのよね?」


「その様に聞いていますが……何か?」


「んー……何て言うか、引っ掛かるのよね……

連中、何で態々此方に来たのかしら?

私だったら、向こうに居た方が良いと思うのよね~」


「それは…………縄張り争い(・・・・・)に敗れた、とか?」



孫策の言葉に副官の一人を務める男性は答える。

「逃げる事で必死だったのでは?」等と。

追い詰められた可能性は即座に除外した。

それは孫策も理解している事だろうから。

諸侯──冀州の官吏達は其処までの脅威ではないと。


そして、それは賊徒達からしても同じ筈。

そう考えると、賊徒同士の争いの可能性が高まる。



「そうだとしてもよ、此方に来る?

連中に罪を悔いて自ら首を差し出す潔さが有るだなんて私には思えないのよね~」



何気無い、ちょっとした会話なのだが。

その孫策の一言は隊全体に緊張感を持たせた。


戦力的には相手が三倍強。

だが、一人が三人屠れば互角である。

それが出来無いとは思ってはいなかった為、心の何処か片隅には侮りが有った事は否めない。

しかし、それが今の一言で侮りによる隙を潰した。

目の前に居る賊徒だけではない(・・・・・・)可能性が有る。

そう考えれば油断は出来無いからだ。


尤も、そう言った孫策自身は力を抜いている。

油断はしていないが。

考えられる事としては、誘導された(・・・・・)可能性が有る。

それは誰によってなのか?

韓浩達──いや、曹家によって、だと。


そう考えれば、自分達の初陣の為に用意された(・・・・・)

そう思えてくる──と言うか、そうとしか思えない。

だから、孫策の一言は念の為(・・・)のもの。

万が一の可能性も否定は出来無いのだから。




休憩を終え、孫策達は前進。

そして、特に問題も無く賊徒の拠点の側に到着。

孫策は副官二人を含めて二十名ずつの三班に分けた。

各々が拠点の正面・背後、左手の崖上で待機。


孫策の居る正面の班の動きで戦闘は開始される。



「──てっ、敵襲うぅーーーっっ!!」



呑気に欠伸をしていた見張り役を射殺せば、それを見て叫び、木版だろう警鐘を叩いて仲間に報せる。


賊徒の拠点は城や砦の様に門扉が有る訳ではない。

山の中腹に建てられた複数の小屋の集まり。

丸太等を使った外壁等も無い為、奇襲はし易い。

まあ、その分、周囲を見易くも有るのだが。


まだ連中は徐州では何もしてはいない。

飽く迄も侵入し──無断で住み着いているだけ。

勿論、賊徒である為、問答無用で排除対象なのだが。

何もしてはいないから、自分達の存在を気付かれたとも思ってはいなかった。

その為、見張りは居ても警戒心は低かった。

だから、孫策達の接近──違和感にも気付かず。

反応は後手後手に回る。


相手の虚を突くのが、奇襲としての基本中の基本。

そういう意味では奇襲は成功した。

見張りは多くはなく、即座に声に反応して小屋の外へと出て来た者は動きもバラバラ。

容易く討ち取り、数を減らせる。


──とは言え、相手も馬鹿ではない。

直ぐに外には出なくなり、小屋の中に身を潜める。

火矢──火攻めをすれば容易く炙り出せるが、山の中の戦闘という事で山火事を懸念して出来無い。


「小母様なら遣るんでしょうけどね」と。

火攻めが得意な陸遜の事を思い浮かべる孫策。

黄蓋()が「穏に火を扱わせるのは危険じゃ」と。

真剣な顔で言っていた位に、火攻めが好きだから。


──という雑念を直ぐに消し、状況を把握する。

膠着状態になると奇襲した意味が無くなる。

相手を混乱させ、その隙を突き、一気に攻める。

此方等に被害を出さない為にも主導権を握り続ける。


その為には次の一手が重要になる。

出来る事なら、自らが小屋の一つに乗り込みたい所。

地道な作業だが、小屋を一つ一つ潰した方が容易い。

しかし、今回は指揮(・・)が自分の仕事。

個人の武に関しては疑う余地も無いのだから。

「ぅぅ~……もどかしいわね~……」と。

突撃したい衝動を抑え込みながら孫策は指示を出す。


左手を上げて──下ろす。

それに合わせて、崖上の班が麻布に乗せた幼児位の重さはある石を二人で麻布を揺らして崖下へと放る。

小屋の簡素な天井を容易く破壊し、賊徒を襲う。

小屋の外に逃げ出せば正面の孫策班が射殺す。

効率的で効果的で嫌らしい連携攻撃である。


その様子に一団の頭目だろう男の声が響く。



「ビビってんじゃねえっ! 一気に数で攻めろっ!

見ろっ! 目の前の相手は高が数十人だっ!

弓が主体なら近付いちまえば、どうって事無えっ!!」



その檄の後、確認して納得したのだろう。

僅かに間を置いて、複数の小屋の中から一気に賊徒達が駆け出して孫策班へと襲い掛かろうと迫る。


それは孫策達にとっては望んでいた流れ。

その為に、態々三班に分けてもいるのだから。

近付く賊徒を削る様に射殺しながら引き付ける(・・・・・)

敢えて、十人ずつ、交互に射つ仕草を見せ──此方等の間合いに入った所で抜刀(・・)

弓矢は邪魔に為らない様に後方に放り投げる。


斬り掛かろうとした所で、逆に斬り捨てられる。

全力で走っているから止まれない。

止まろうとすれば体勢を崩すか、転んでしまう。

そうなれば何も出来ずに殺されるだけ。

また、一人、そうなれば後続にも連鎖的に影響が及ぶ。

十人が斬り、十人が射殺す。

少数だろうと、きちんとした形で前衛と後衛が機能する状況になれば数よりも質が勝る事は言うまでも無い。

そして、混乱と「話が違うっ!」という不信感によって賊徒側の連携や統率は皆無となる。

そうなれば、後は単純な作業でしかない。


そんな中で孫策は頭目だろう男の姿を探す。

──が、自分達に向かってきた中には居なかった。



「う~ん、残念、ハズレ(・・・)だったみたいね」



そう呟いたのと同時に背後に待機していた班の方向から声が上がったので確信する。

頭目は叫んだ後、自分は身を隠し、仲間を囮に使って、こっそりと真逆の山に上って逃げようとした。


その可能性を考えていたから一班を配置して有った。

だから、驚きはしないが。

少数だからと仲間を焚き付けたのだから、「自分も立ち向かって来なさいよね」と言いたくなる。


──とは言え、特に此方等には被害も無く終わる。

先ずは、それが何よりの成果だと孫策は考えた。




一方、周瑜の方はと言うと。

孫策とは違い、二つの山の間の谷に拠点が有る。

谷である為、崖の側か、谷川の側。

つまり、進める道というのは限られる。


雪蓮(彼奴)なら正面突破だろうな」と。

その厄介な地形を前に周瑜は胸中で苦笑する。

同時に、だからこそ、自分に宛がわれたのだとも納得。

孫策では、相性が悪いと判断されての事だと。


さて、それはそれとしてだ。

どう攻めるのかを周瑜は検討する。


事前に報告書を読み、大体の事は判っている。

敵の数は八十程。

孫策の方と比べれば半分以下だ。

だが、それには拠点の有る場所が関係している。


孫策の方は山の中腹の開けた場所を利用している。

一方、周瑜の方は谷川に沿って上流に向かい、崖沿いの大人が二人、横に並べる程度の細い道を進んだ先に有る洞窟を拠点として利用している。

それ故に、百人を超える人数が居ると一団の拠点として使うのには向いてはいない。

一部の者だけで使おうとすれば仲間割れに繋がる。

そうなれば数が減り、自分達の首を絞めるだけ。

相手も其処まで愚かではない、という事だ。


つまり、数ではなく、その地形が厄介な相手な訳だ。



「公瑾様、戻りました」


「御苦労、どうだった?」


「はい、やはり、徒歩で進めそうな道は有りません」


「そうか……」



待っていた報告だが、それを聞いた周瑜は俯く。

それは判ってはいた事だ。

夏侯淵の、曹家の情報収集を疑ってなどいない。

だが、実際に現地で確認する事も必要な事でもある。

その為に斥候を出して調査を命じたのだから。


しかし、事前情報から何度考えても、此処は正面突破の他には適切な策が思い付かなかった。

だから、現地で新しい情報が得られる事に期待した。

期待しなければ、遣る事は孫策と同じになるのだから。


──が、それならば適材適所となる筈。

つまり、孫策が此方等で、自分は彼方等に、だ。

だから、此方等を任された以上は他の手段は必ず有る。

そうでなければ意味が無いのだから。


周瑜は考える。

自分の思考の何処かに誤りが有るのではないか?

或いは、何かを見落としているのではないか?

それとも──これは「偶には何も考えずに行け」という意味なのだろうか?

そんな風に頭の中で複数の思考が絡み合う。


──と、周瑜は唐突に自身の頬を両手で叩いた。


それには側に居た者達は驚くが──直ぐに落ち着く。

周瑜の眼差しには一切の揺らぎは見えなかったから。

その文官──いや、軍師としての才器は周知の事。

それ故に、周瑜隊の誰もが周瑜を信じ、命を預ける。

周瑜の手足となり、動く事だけに集中して。


その信頼が判るから、周瑜は思考を強制放棄(・・・・)した。

考え過ぎて、見えなくなる(・・・・・・)

それは珍しい事ではなく、他人事でもない。

だから、頬を叩き、その痛みで強引に思考を止めた。


そうして一息吐き、改めて考える。


正面突破以外に、となると、崖を降る方法が有る。

しかし、それは流石に兵達の力量では至難。

命懸けではなく、命を捨てる事になる。

周瑜だけなら、その奇襲は可能。

孫策ではないが、単騎で乗り込んでも殲滅させられる。

そう言い切れる程度には実力も自信も有る。

相手も強敵という訳でもないのだから。


しかし、それでは指揮をしているとは言えない。

いや、寧ろ、そんな事をして、それを孫策に知られたら今後の自分にとっての重要な手札を失う事になる。

それは流石に周瑜としては受け入れ難い。



「……連中の拠点は谷川を遡った先に有るのだったな?

谷川から崖を登れそうか?」


「……可能か不可能かで言えば可能かと

ですが、垂直に近いか、逆に反り返っています

登れるとしても場所は限られると思いますので……」


「奇襲を仕掛けるにしても適さないか……」



崖下に身を隠して近付けば気付かれはしないだろうが、移動手段としては難が有る。

何より、戦闘が主目的なのだから、不向きだ。


──と、其処で、周瑜の脳裏に甦る記憶が有った。


それは曹家の管理する山にある川で水遊びをした時。

何処ぞの馬鹿が小さな洞窟を見付け、皆で探検と称して入ってしまって後で叱られたのだが。

水辺に有る洞窟というのは、その多くが水の浸食により形作られるのだと。

そう教わった。

勿論、例外も有りはするのだが。

今、重要なのは其処ではない。


だが、自分の考えに対し、慎重な自分が声を上げる。


実は、この慎重さこそが周瑜の大きな課題。

勿論、悪い事ではない。

だが、今の周瑜に求められているのは決断力。

孫策という稀代の先導者が物心が付いた時から側に居る周瑜にとっては定まった道を見てから動く事が多い。

ある意味、不可抗力と言えなくもないのだが。

その所為で周瑜は構え過ぎる(・・・・・)傾向に有る。

これは曹皓達の予想していた事。

そして、その脱却の為に必要なのが、思い切り(・・・・)


文官や軍師としては無視し難い色々を度外視(・・・)

思い付いた(・・・・・)事を信じて遣ってみる。

周瑜にとっては悩みの種で、羨望を懐く親友の様に。

自分自身の声もすらも押し退けて貫く


まあ、「割り切れないが、致し方無いか……」と。

渋々と、苦笑しながら、といった感じでだが。



「拠点の近くに滝は有ったか?」


「はい、拠点の洞窟からは少し奥にはなりますが……」


「よし。十人は私と滝の上に向かって貰う

残りは此処で待機だ」



そう言うと周瑜は直ぐに行動に移った。




拠点に続く道からは遠い為、多少は雑に移動しても音で気付かれるという事は無い。

その為、山歩きに自信の有る選抜をすれば、速く着く。


周瑜は滝の上部に行くと眼下の拠点の入り口を確認。

見張りは居るが気付いた様子も無く、笑い声がする。


滝から更に上流へと遡る様に歩きながら、川沿いに穴が開いていないかを調べる。

岩と岩の隙間、という事も有る為、複数人で確認する。


その結果、程無くして川から少し離れた岩場に斜め下に続いている穴を見付けた。

周瑜は氣を用いて穴の先を探る。



「…………よし、思った通りだ

その辺りの木を伐り倒してくれ

それを使って川の水を穴の中に引き込む」


「──っ! 了解しました!」



そう返事をすると連れてきた十人は作業を始める。


周瑜の狙いは水攻め。

だが、洞窟を拠点にしている連中が気付けば失敗する。

しかし、周瑜には成功する確信が有る。

何故なら、あの洞窟を拠点にしている連中は遣って来て間も無い事から、知らない可能性が高い。

加えて、この縦穴から川の水が入るには、かなりの増水がなければ起こり得ない。

それだけの雨が最近降ったという事は無い。

つまり、雨漏りする程度なら有り得るが、連中は洞窟が何処かに繋がっているかもしれないと思う程度。

調べた限り、途中が狭い為、通り抜けは不可能。

この穴の周囲に人が来た様な痕跡も無い為、知らないと判断出来る訳だ。


水を引き込む準備が出来れば五人を残し、周瑜達は山を急いで下って皆と合流する。

上手く行く自信は有るが──後は待つしかない。






「糞がっ! どうなってんだっ?!」


「何で雨も降ってねぇのに──」


「おいっ、邪魔──っ?! てっ、敵襲うぅーーっ!!」



浸水(・・)により、洞窟から賊徒が逃げ出してきた。

其処を高い位置から狙い撃ち、仕止めてゆく。

混乱している為、注意力は散漫。

山鳥を狩るよりも容易く射殺せる。

それでも、流石に刺さった矢を見れば気付く。

気付くが──気付いた所で、何も出来無い。

既に勝敗は決しているのだから。






「──といった具合で終わった」


「冥琳にしたら大胆な手を使ったな」



夏侯淵からの報告を聞き、韓浩は苦笑する。

一緒に聞いている面々も似た様なものだ。


二人の読み通り、今回の賊討伐は用意されたもの。

その意味では、孫策は韓浩達の想定内の結果だったが、周瑜の方は想定外の遣り方をされた。

だが、武官──軍将である自分達とは違って当然。

寧ろ、想像を超えてくれた事は歓ばしい。


まあ、遣り過ぎな気もしなくもないが。

二次災害を引き起こしたりはしていない為、口煩く言う理由も無い。

孫策とは違って、ちゃんと判っているから。



「そう言えば、オマケの連中は?」


「……何故か私と接触してな……済まない」


「謝る事じゃないって」



放置する訳にもいかないのだから、問題は無い。

──が、誰も気付いても余計な事は言わない。

夏侯淵が偶然(・・)で遭遇するとは思えない。

勿論、賊徒が優れていたともだ。

そうなると──夏侯淵が暇潰しをしたか、二人の戦いを見て当てられた(・・・・・)か、だろう。

後者の可能性が高い様に思うが、触れはしない。

どうでもいい事なのだから。



「さて、そうなると、いよいよって訳か……」



そう言って韓浩が見詰めるのは曹晧達の残した書。

其処には子供達の指導の指針が記されている。

今回の事も力量等を見る為の試験(・・)

それに合格したのだから、()へと進める。

嘗て、韓浩達自身が経験し、歩んだ道を。

次代の英傑が歩み出す日が遣って来た。



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