四話 秘地眺黙
日々の鍛練や勉強というのは繰り返しに近いもの。
だから、その日々が過ぎ去るのは、とても早い。
勿論、繰り返しとは言っても日々が全く同じという意味ではなく、ある程度の規則正しい生活、という意味で。
何しろ、全く同じ内容の日々を繰り返すという事の方が不可能なのだから。
違いは有れど、大差の無い日々。
それを人は“日常”と呼ぶ。
しかし、「退屈だ」「平凡だ」等と言う。
その日常が如何に尊く、大切で儚いものか。
それは失って初めて気付く事だったりする。
そして、一度失われた、崩れた日常は戻らない。
その日常を取り戻す為には、努力も時間も資金も人手も膨大な量が必要となってくる。
それを、人々は知らない。
──否、日常が在る時には想像すらしない。
だから、そうなってから人々は困り果てる。
「嗚呼、こんな事なら……」と後悔する。
そうなってからでは何もかもが遅いというのに。
「──という訳で、いざという時に備えてよ!」
「よし、取り敢えず、御前は説教だな」
「横暴よっ!」
問答無用とばかりに孫策の左耳を引っ張り、連れて行く周瑜の姿を黙って見送りながら、後に残されてしまった面子は困った様に顔を見合わせる。
「……え? これ、どうするの?」と。
いつもの事ながら、孫策の思い付き。
「私達の“秘密基地”を作りましょう!」と。
田静の書いた子供達が主役の冒険物語。
その中に登場する、“自分達だけの秘密基地”。
それを実際に作ろう、となった。
「何を馬鹿な……」と言うだろう周瑜には内緒で。
皆には「冥琳を驚かせましょう!」と唆して。
事後報告にする事で済し崩し的に押し切ろう。
そんな孫策の悪知恵が手に取る様に判る。
判るのだが……
曹丕達は何だかんだで素直であり、流される。
孫策の思い付きは大変だし面倒だが、楽しくはある。
その経験の積み重ねが有るから、誰も疑わない。
これも、ある種の洗脳──いや、刷り込みだろう。
繰り返し、繰り返し、経験する事で耐性が付く。
孫策が周瑜の説教を恐れない様に。
──という話は置いておくとして。
残された曹丕達は悩む。
この場に居る最年長は楽進である。
最年長者が方針を決めるのなら、彼女の判断に委ねる。
しかし、生真面目な彼女に、その責任は重い。
重過ぎて圧し潰されてしまう。
それが判っているから、曹丕達は楽進を見ない。
──という訳で、その判断は必然的に曹丕に委ねられる事になる。
まあ、曹丕の判断を楽進を始め、皆に問うのだが。
先ず、反対する者は居ない、というのが現実だ。
「折角材料も用意したんだし、遣ってみようか?」
そう曹丕が言うと皆は頷く。
孫策が言い出した事だが、材料集めから自分達で遣り、準備を整えたのだから、途中止めにはしたくない。
そう思う気持ちは強い為、誰も異論は無かった。
さて、孫策が作ろうとした秘密基地だが。
それは木の上に建てる小屋の様な形だった。
勿論、子供達だけでは難しい。
氣を扱え、十歳を越えていれば出来るかもしれないが。
少なくとも、今の曹丕達には難しい。
孫策にしても、流石に一人では出来無い事。
その為、自分達に作れる秘密基地となると、使われない小屋等を見付け、手を入れる程度。
勿論、自分達だけの秘密の場所である。
当然ながら、安全は考慮するが、大人達の目は届き難い事が望ましいと言える。
そうなると中々良い条件の物件というのは無いのだが。
それを見付けてくるのが、孫策だったりする。
今回の話を聞いて、曹丕達が真っ先に思い浮かべたのは以前に行った幽霊の出るという小屋。
しかし、彼処は自分達で手を入れる事は困難。
その位の事は、孫策も理解している。
だから、孫策に案内される場所に心当たりは無かった。
判らないから不安は有るが、ワクワクしてもいた。
恐怖心や慎重さよりも好奇心が勝る。
何だかんだで曹丕達も孫策に負けず劣らずの行動力。
孫策と違う点は、「これを遣ったら……」と。
後の事を考えられる辺りだろう。
孫策は兎に角、目の前の事を楽しむだけに注力する。
まあ、その結果が周瑜の御説教なのだが。
それさえも孫策を止める理由には成り得ない。
「いや、其処で考えて踏み止まれ」と周瑜は言いたい。
言いたいが、言っても無駄な事も判っている。
判ってはいるが、言わないという選択肢は無い。
言わなければ助長・増長し、暴走するだけなのだから。
それが判っているから、周瑜の気苦労は絶えない。
曹丕という癒しが無ければ疾うに見限っているだろう。
そう、周瑜自身も思う程だったりする。
話を戻して。
状態の良い物件だったとしても、曹丕達はまだ幼い。
三歳から五歳が中心だ。
普通なら自分達で秘密基地を作る事など至難。
普通の子供ならば。
まだ無意識とは言え、両親が氣を扱い、その影響を常に受けている様な環境で育てば恩恵を受けるのは必然。
同い年の子供達と比較しても、曹丕達自身の身体能力や思考力は確実に高いと言える。
その為、手入れ用の資材を運んだり、加工したりもする事が問題無く出来る。
その中でも曹丕は親譲りなのか、手先が器用。
曹崇に習い、木工細工も上手い。
──という訳で、愛用の大工道具を使い熟して加工。
それを楽進・韓羽・曹忠が金槌で釘を打ち、止める。
残る呂布達は四人の手伝い、作業を円滑に進める。
二刻程で床と壁の傷んだ場所は綺麗になった。
それを皆で見ながら達成感を味わう。
遣っている最中は会話は必要最低限。
しかし、別に気不味いという事は無かった。
同じ目標に向かって意識が揃っている。
ちゃんと集中が出来ているから成り立つ。
寧ろ、室内に響く作業の音が心地好く思える位だ。
だから、誰も余計な会話を必要としなかった。
「随分と綺麗になったな」
「──あっ、冥琳ちゃん」
不意に聞こえた声に曹丕達は振り返った。
其処に立っていたのは孫策を連行して行った周瑜。
ただ、先程の様な怒りを纏った周瑜ではない。
年長者──皆の頼れる姉の周瑜だ。
だから、呂布や馬岱は当たり前の様に抱き付く。
周瑜も二人をしっかりと抱き止める。
「仕方の無い娘だな」と言うかの様な微笑を浮かべて。
その為、その様子を見て曹丕達は自然と笑む。
周瑜の優しさ──包み込んでくれる温かさを知るから。
言葉にはしなくても、周瑜への確かな信頼が有る。
「ちょっとぉ~……手伝ってよぉ~……」
そんな和やかな空気に紛れ込む不粋な声。
その発生源──周瑜の背後に皆が顔を向けると、両手に背中にと荷物を携えた孫策の姿が有った。
額に、首筋に汗を掻き、呼吸も乱れている。
まあ、それだけの量の荷物だから可笑しくはない。
そして、周瑜が罰として運ばせている、と。
それ相応に付き合いの長い曹丕達は察した。
だから、余計な事は誰も口にはしない。
曹丕でさえ、此処で「雪蓮ちゃん、大丈夫?」といった言葉を掛けたりはしない。
勿論、孫策を気遣いたい気持ちは有るのだが、言ったら孫策が周瑜を悪者にしようとする。
しかし、悪いのは孫策の方なのだと判っている。
だから、言わない。
それで周瑜が再度怒ると長引く事も知っているから。
「頑張ったみたいだからな、少し休もう
御茶と饅頭を持ってきてあるからな」
そう言うと周瑜は孫策の背負っている荷袋に手を入れて一つの風呂敷包みを取り出した。
孫策には「御前は荷物を片付けろ」と言って。
「冥琳の鬼ーっ!!」という孫策の叫びに楽進は苦笑。
しかし、韓羽達は無視。
寧ろ、饅頭の方が気になっている位だ。
曹丕は自分の役目は後だと判っている。
周瑜は厳しいが意地悪ではないし、無慈悲でもない。
遣る事を遣れば、ちゃんと孫策にも御褒美が有る。
そう、曹丕に甘えられるという御褒美が。
それを曹丕も理解しているから、今は何も言わない。
言うと御褒美としての価値が下がってしまうから。
遣る気を出させる為に言うのとは違うから。
孫策が荷物を置き、曹丕に膝枕をして貰っている一方で休憩を終えた楽進達が荷物を確認する。
孫策が運んできたのは小さな座蒲団や木箱。
いや、木箱というよりは小さな箪笥だろうか。
収納量は多くはなさそうだが。
しかし、自分達が使う分には十分だと言える。
どうせ、高価な物等は置いてはおけないのだから。
「姉様、これは?」
「それは“飾り布”だ
どうせなら、殺風景な壁のままではなく、私達の好きに飾ってみるのも面白いかと思ってな」
荷物の一つを見ていた夏侯雲が布切れを手に取ってから周瑜に訊ねると、そう答えた。
要らなくなった端切れや捨てる服や布を貰ってきた。
それだけなのだが、御金を使わずに資材を集める。
これが子供にとっては重要な事であり、勉強になる。
その為、孫策にしろ周瑜にしろ大人達を相手に交渉し、色々な資材を入手している。
周瑜が暫く戻って来なかったのは、それが理由。
「折角の秘密基地ならば……」と考えての事。
まあ、孫策に対して怒っていた理由は、自分だけを仲間外れにしようとした事も有る。
思い付きで動く孫策とは違い、周瑜は準備を怠らない。
だから、直ぐには動かないと孫策も判っている。
判っているから、事後報告にしたかった。
周瑜に話せば「準備するから待て」と言われるから。
「私は今遣りたいの!」が孫策の本音。
楽しむ事に対して我慢が出来無いから。
嫌いな訳ではないが、其処だけは折り合えない。
何れだけ時と経験を重ねたとしても。
こればっかりは本人の気質や性格、価値観だから。
甘え終えた孫策と、甘やかし終えた曹丕も加わり、荷を解いて秘密基地の内装が完成する。
孫策が運んできた幾つかの木箱を土台にして板を渡した簡単な寝台は子供達が寝るのには十分。
曹丕が作った長椅子も簡素だが強度は問題無し。
孫策が作った一人掛けの椅子は壊れたが。
それは曹丕が修復──いや、作り直した。
孫策が“雪蓮専用”と彫り、周瑜に拳骨されたが。
まあ、それはいつもの戯れ合い。
誰も気にはしない。
気にはしないが──羨ましく思う気持ちは否めない。
その辺りを察するのが曹丕。
伊達に両親に教育されてはいない。
皆の分も作りたいが、資材──材料が無い。
しかし、それは諦める理由には成らない。
最適の素材が無くても、有る物を使って工夫する。
物作りの技術の行き着く先とは“省略と代替”。
そう、両親は言っていたのだから。
秘密基地となった小屋の外に出ると、辺りを探索。
一本の倒木を見付け、半分にしてみる。
その断面を見て、十分に乾燥している事と、虫食いにはなっていない事を確認したら運ぶ。
必要な椅子の数は全部で八脚。
材料が足りなければ自分の分を削ればいい。
そう思うのだけれど、それを遣ると皆が気遣う。
──というか、気にする。
だから、自分の分も忘れずに。
──で、倒木を材料にして椅子を作るのだけれど。
六脚は小さくていい為、少ない材料で済む。
その為、重要なのは周瑜と楽進に合わせた物。
作る以上は、使い辛い椅子は作れない。
そんな形だけの、作ったという行為だけの物は嫌だ。
それを、誰よりも曹丕自身が受け入れられない。
そんな訳で、曹丕は黙々と椅子作りに没頭する。
その様子を孫策達は見守りながら過ごす。
「へぇ~、秘密基地か~
そう言えば、そんな話を玲生ともしたっけな……」
そう言いながら韓浩は懐かしむ様に天井を見上げた。
韓浩達──夫達だけが集まった飲みの席で今日の話題に上がったのが子供達の作った秘密基地の事。
当然ながら、子供達が話した訳ではない。
それでは秘密基地ではなくなってしまう。
自分達だけしか知らないからこその秘密基地である。
だから、例え家族にでも話足りはしない。
尤も、自由にさせてはいても監視を兼ねた護衛は付く。
子供達には気付かせないだけで。
まあ、孫策や周瑜は察していて無視しているのだが。
御互いに、態々言う事ではない。
話を戻して。
以前──と言うか、昔、まだ曹操達と出逢う前の事だ。
曹晧が卞姓の頃に幼かった二人で、そんな話をした。
そう曹仁達に話す。
まあ、話をしただけで実現はしなかったんだけどな。
──と、落ちを付ける様に苦笑する。
だが、その辺りは仕方の無い事でもあった。
曹丕達とは違い、昔の二人の生活環境では下手に大人の目が届かない場所に行く事は危険でしかなかった。
当時は曹晧も実力を隠しに隠していた事も有る。
それを理解しているから、曹仁達も苦笑するだけ。
「あー……まあ、そうだよなぁ……」と。
昔は大人しなかった事に納得する。
曹晧が自重しなくなったのは間違い無く曹操の影響。
──否、二人が揃った事で刺激し合った為だろう。
……まあ、曹操は以前から行動的だったのだが。
本人が居なくとも、誰も余計な事は言わない。
それで祟られても困るのだから。
そんな事を、誰が言うでもなく、一様に考える。
同時に、睨み付ける曹操の顔もだが。
「けどまあ、言い出しっぺは雪蓮だろ?
見た目だけは美人なんだけどなぁ……」
「中身は悪ガキ──ガキ大将だもんなぁ……」
口にはしないが「残念な娘だよなぁ……」と。
韓浩と馬洪は顔を見合わせ、頷く。
尤も、曹仁と夏侯丹にしても同じ意見ではあるのだが。
「誰に似たんだか……」とは言えない。
ある意味、両親のそういう所だけを貰った。
そう言うしかないのだから。
──とは言え、孫策に対して「御淑やかにしろ」等とは言わないし、そんなつもりも無い。
何故なら、それが彼女の魅力でもあるからだ。
……まあ、振り回される方は大変だろうが。
それは自分達には直接は関係が無い為、煩くは言わず、見守っているというのが実状である。
絡むと面倒臭い事も察しが付いてしまうから。
「しっかしまあ、よく見付けたよなぁ……
ああいった鼻の良さは春蘭っぽいな」
「春蘭の場合は戦いか康栄関係だけだけど?」
「翠だって似たようなものだろ?」
「…………確かに」
韓浩を揶揄う筈が切り返され、納得する馬洪。
この場に二人が居れば反論し、騒いでいた事だろう。
似た者同士なだけに。
そうなる様子が容易く思い浮かぶ。
愛妻ではあるが、同類だと思うと少し複雑に思う。
「それにしても、秘密基地か……
雪蓮の読んだ物語なら昔、読んだ事が有る
確かに想像し、憧れはしたが……
アレは作中では木の上に作るからな
普通の空き家等を使って、とは思わなかったな」
「そうですね、アレは木の上に有るからだと思います
──とは言え、自分達だけの秘密の場所という意味では形に拘る必要は無いのでしょうね」
「あー……玲生達が作ってた隠れ家と同じか」
曹仁と夏侯丹の言葉に韓浩が心当たりを思い浮かべる。
この“隠れ家”というのは悪い意味ではない。
普通に聞くと、悪事や背徳的な印象が付き纏うのだが。
曹晧達が商売──宿屋や飲食点の営業形態の一つとして日常や周囲の環境から離れた楽しみ方を提供する。
そういった考え方から生まれたのが、隠れ家的な店。
庶民ではなく、富裕客を狙ったものなのだが。
これが意外にも大当たりをしている。
ただ、その相手が相手である。
秘密の厳守等に信頼が無ければ利用客は失われる。
勿論、御客側にも悪用する様な真似は許されないが。
曹家の成功を真似したり、悪用しようとした連中は悉く商売としては失敗したり、捕まった。
その為、隠れ家というのは曹家の商売の代名詞の一つに成っていたりもする。
因みに、私的な施設も存在している。
利用者は曹家の関係者に限られるのだが。
男性専用・女性専用、そして夫婦・家族専用。
これらは韓浩達も時々利用していたりする。
その為、子供達も知らない訳ではない。
ただ、それはそれ、これはこれ。
その隠れ家は用意されていた物、既存の施設。
対して、秘密基地は自分達で作ったもの。
その過程が、達成感と共に特別な付加価値となる。
子供の時の経験という意味では尚更だろう。
だから、大人の自分達が手を貸すのは筋違い。
一緒になって木の上に作ったとしても、それは秘密基地ではなくなる。
思い出としては悪くはない事なのだろうが。
それはそれ、これはこれ。
其処を間違えると子供達からは鬱陶しく思われるだけ。
見守る事も、大人としては必要な姿勢だと言える。
「……にしても、獅琅は器用だよな
玲生に教わってたからってだけじゃなくて、獅琅自身に向いてるって事なんだろうけど……」
「……玲生様ではないが、行き過ぎると困るな」
「玲生様の場合には華琳様が居たからいいけど……」
「正妻の筆頭候補が雪蓮ですからね……」
「歯止めを掛ける所か、逆に一緒になって遣ってる姿が容易く思い浮かぶからなぁ……」
そう韓浩が言えば、揃って溜め息を吐く。
「冥琳だったらな……」と言いたいのを飲み込んで。
勿論、可能ならば愛娘を推したい。
しかし、それは難しいのも親子だから判る。
韓羽は世話焼きだし、真面目だが曹丕には甘い。
曹忠は母性的だが、曹丕の意思を最優先にする。
馬岱は真面目だが、止めるまでは行けないだろう。
夏侯雲は言うだけ言ったら、一緒に楽しむだろう。
つまり、誰もが曹丕を止められない。
まあ、周瑜にしても、曹丕の意思を尊重はするのだが。
周瑜であれば、厳しい事も言えるし、遣れる。
其処が、他の娘等とは違う。
尚、楽進は真面目だが、立場が弱い。
それ故に、押し切れずに引いてしまうだろう。
呂布は曹丕が遣りたいのであれば何も言わないと思う。
曹丕と一緒に居られれば、それでいいから。
「……もう少し、娘達の事を考えないとだな」
「雪蓮の悪影響を受けない様に?」
「「それは手遅れだな」」
馬洪の言葉に韓浩と曹仁が声を揃える。
その様子に夏侯丹は苦笑してしまう。
本音を言えば、馬洪も夏侯丹も同じ意見だ。
実際、今更遠ざけるという事も出来無い。
孫策は曹丕の許嫁であり、政治的にも重要な存在だ。
曹丕とは距離を取らせられない。
──となると、曹丕と離れるのは娘達の方になる。
そうなった場合は──想像したくもない。
そう、父親達が揃って思う程度には面倒だ。
女としては母親達の性質を受け継いでいるのだから。
敵回したら、どうなるのかは言わずもがな。
だから、もう今更な話だと言える。
「取り敢えず、雪蓮にだけは要注意って事で」
「あの娘だけは何を遣らかすか判らないからな……」
そう言って曹仁が深い溜め息を吐く。
これまでにも幾度と遣らかしてくれている。
その度に後始末をしているのが曹仁である。
韓浩も手伝った事は有るが。
正直、その苦労は比べるまでもない。
その為、三人は「まあ、飲もう」と促す。
滅多に愚痴らない曹仁だが、事、孫策の件に関しては別だったりする。
社会的・政治的には問題ではないのだが。
成長と共に、好奇心と悪知恵もだから困る。
親──黄蓋の目が届かないから尚更にだ。
その分、周瑜には感謝もしている。
周瑜の存在がなければ曹仁は胃を病んでいるだろう。
そう言い切れる位に、周瑜の存在は大きい。
だから、周瑜への評価は高まるし、信頼も厚い。
周瑜からの要望──御願いなら、誰もが二つ返事だ。
……孫策? 数日は掛けて聞き取りと議論だな。
「理不尽よ!」と孫策は叫ぶだろうが。
それは日頃の行いの差であり、自業自得というものだ。




