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277  作者: Nora_
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06

「つぐみさんや……少し寄りかかってもいいかい?」

「うん」


 今日はどうしたんだろう、いつもの鳩羽ちゃんらしくない。


「なんかこの前から気持ちよく寝られていなくてね、これはもしかしたらつぐみさんとの時間が減ったからかもしれない」

「四関先輩と喧嘩をしちゃったとかじゃないよね?」

「ううん、私と太一君は仲がいいまんまだよ」


 それなら夏の暑さに参ってしまったのかもしれない。

 お布団を敷いてそこに寝てもらうことにする。


「……こういうときだけ頼ってごめんよ」

「そんなの気にしなくていいよ」

「太一君との時間も大事だけどやっぱり私はつぐみといられないと駄目だ」


 体調が微妙だからか弱気になってしまっているなあ。

 積極的にするわけじゃなくてもそういうのは私がやって「マイナスに考えない!」と彼女に注意されるのがいつものことだったのに。


「夏休みのここまでの話を聞かせておくれ」

「大谷君とも一緒に遊んだけど澤村君との時間が多いかな。この前は一緒に虫を捕りにいったんだよ? バッタは触れなかったけどダンゴムシは可愛くてよかったかな」


 あれから三日ぐらい時間が経過しているものの、毎日ダンゴムシの写真を送ってきてくれていた。

 ただ名前に関しては結局変えてくれなくて『つぐし』のままになっているみたいだ。


「はは、繰り返していけばカブトムシとかも問題ないようになるかもしれないね」

「あ、ああいう子達は無理だよ」


 そもそも近所に野生の子達はいるのだろうか?


「昔、私も湊志君といったなあ。どっちも虫が得意だったからさ、どっちが多く捕まえられるか競争したぐらいだよ。で、私は全勝ってわけ」

「おお、すごいね」

「なんでか虫の方から来てくれるんだよね。まあ、だからこその問題というやつも出てくるんだけど……」


 学校に向かっている最中に襲われたら嫌だな。

 この前みたいに自ら虫がいるところに向かうのとは訳が違うんだ。


「お祭り、湊志君を誘ってみたらどう?」

「きゅ、急だね?」

「大事なことだからね」


 八月の十一日にやるから大谷君は無理、となると確かに澤村君だけか。

 でも、ただ遊ぶのとはやっぱり違うから受け入れてくれるかどうか。

 呆れような顔で「俺らはそういう仲じゃないだろ」とか言われたら……あとは逆に優しすぎて無理やりにでも合わせてくれそうなところもあるのが怖いところだった。


「ふふふ」

「あっ、もしかしてさっきのって嘘!?」

「はははっ、そりゃそうだよ、私が弱るわけがないじゃん!」


 くそくそう……たまにこうやって攻撃を仕掛けてくるから彼女の相手をするのが大変なときもある。


「だけど湊志君に関しては嘘じゃないからね」

「じゃあ鳩羽ちゃんが送ってよ、その返事次第だよ」

「任せておきなあ!」


 余計なことを言わなければこれは私が誘ったのと同じことだ。

 そわそわしながら待っていると「送ったよ」とスマホを返してくれた。

 澤村君も突撃タイプだからどちらにしても反応してくれるのは夜かな――と思っていたのに。


「『いいぞ』だって」

「よかったじゃん!」

「あっ、鳩羽ちゃんが送ったからかも、なにか感じ取ったんだ――」

「はいはい、そういうのはもういいから。浴衣、貸してあげるからね」


 いやそれならもう着慣れている物があるから問題ない。

 彼女と出会う前は一人でそれを着てお祭りを楽しんでいたぐらいだ。

 だってやっぱりいかないともったいないから。


「十五日ぐらいには『お、お付き合いを始めたよ』と報告してくれるんだろうなあ」

「そうはならないよ」

「そんなの分からないじゃん」


 もう寝かせておく必要もないから彼女をリビングまで連れていった。

 今度は私もソファに座って扉を見つめる。

 夕方頃に集合とかにするとさっきみたいにそわそわ落ち着かなくなりそうだから朝かお昼から集まりたい。

 その場合はここでだ、澤村君のお家で二人きりになったらいつも通りでいられるかは分からないから来てもらう。


「お祭りが終わったら今度またゆっくりと四関先輩とお喋りしたいな」

「分かった、ちゃんと言っておくね」

「不安にならないでね」

「大丈夫」


 お祭りにもいってお友達ともちゃんと話せたら夏休みはそれだけで十分楽しめたと言える。

 それでこそまた九月から頑張れるというものだ。


「ぐぇー……お腹が減っちゃったー」

「なにか作るよ」

「目玉焼きをお願い……」


 卵焼き派の彼女にしては珍しい選択だ。

 だけど目玉焼きの方が楽でいいから受け入れて作っていく。

 炊き立てのご飯というわけじゃないけど炊き立てのご飯を冷凍して保存してあるからまあ似たような物を味わえる。


「今度作ってあげなよ」

「求めてきたらね」


 澤村君の場合なら走るか虫捕りのことで頼んできそうだ。

 ただ付き合うだけなら私でもできるから遠慮なく頼んできてくれればいい。

 暑い夏でも軽くなら走ることだって表には出さずにちゃんと付き合うからさ、と。




「いく前に会えてよかった」

「うん」


 樫崎さんとはここに来る前に話してきたのかな?

 とにかくこれが終わったらもういくみたいだ。


「お土産を買って帰りたいから駄目な物を教えてほしい」

「私ならなんでも大丈夫――じゃなくてっ、む、無理はしなくていいからね」

「はは、分かった」


 あーこういう点を考えると旅行が当たり前のお家じゃなくてよかったかもしれない。

 あれやこれと悩むことを楽しめる人達ならいいかもしれないけど私の場合はそっちにばかり意識がいってしまいそうだから。


「どんな場所なの?」

「木や草ばっかりの場所かな。前にも言ったように子どもは僕だけだから歩いて過ごすんだ」

「夜になったら怖そうな場所だね」


 夜と言えばお祭りの日にびくびくとしないようにしないと。

 それでも会場なら賑やかだし、隣には澤村君がいるから問題は起きないはずだ。


「遠井さんの言う通りですぐに暗くなる場所なんだ、だから油断していると真っ暗だった、なんてこともあったかな」

「き、気を付けないと」

「はは、拗ねて家から離れると酷いことになってね」


 仮に嫌でも合わせてしまいそうな子なのに意外だ。


「余計なお世話かもしれないけど遠井さんはちゃんと澤村君と一緒に過ごしてね」

「うん」


 午後から会う約束をしているぐらいだから大丈夫だ、本当のところを知ったら「え、そこまで一緒にいなくても……」となるかもね。


「それぐらい……かな」

「あ、戻った」

「はは、それでも遠井さんが話しやすいおかげだよ」

「はは、ありがとうございます」

「こちらこそありがとう」


 大谷君が少し離れた後に振り返ってこちらに手を振ってくれたから振り返しておいた。

 楽しめるといいな、どうせならやっぱりその方がいいからさ。


「おい」

「うひゃあ、とはならないよ。でも、流石に早すぎない?」

「そうか? 一時間ぐらい前ってだけだろ」


 あれ、今日は黒一色の装いのようだ。


「もしかして――」

「イメージチェンジだ」

「ふふ、黒色もいいね」

「だろ?」


 が、私はすぐにその選択をした理由を知ることになる。

 なにも聞かずに付いていっていた私も悪いけどまさか敢えて汗をかくためだったとは……。


「太ったからダイエットだ」

「ぶっ!?」

「そんな反応をするところか? 男だってダイエットをするときもあるだろ」


 だ、駄目だ……あまりにも真面目な顔で言うものだから違うところを見てなんとかするしかない。


「私も走らなくていいの?」

「ああ、見ていてくれればいい、遠井の場合はこれ以上細くなったらやばいからな」


 確かに太っているつもりはないけど見ているだけなのも微妙だから合わせることにした。

 たまには悪くないよね、気持ちのいい汗のかきかたというやつだ。


「遠井は少し天邪鬼なところもあるのかもしれないな」

「ううん、どうせ一緒にいるなら見ているだけで終わりにしたくないんだよ」


 決めていたことを一回ぐらいはちゃんと守りたいというだけでしかない。

 細かいところまでは知らなくていいことだ、私はこれだけで満足だった。


「ここまでにするか」

「え、早くない? まだ大丈夫だよ」

「いや……なんかもったいない気分になった」

「そうなの?」


 もしかしてもう解散のパターン……?

 お祭りはもう明日だ、微妙な状態で解散にしてしまったら響きかねない。


「なあ、あれは本当に遠井の意思で誘ってきたのか?」

「う、うんっ、そうだけど!?」


 落ち着け、私から頼んだんだから送信者が鳩羽ちゃんでも関係ないだろう!


「鶴原に無理やり送られたとかじゃないならいいんだ」

「鳩羽ちゃんはそんなことしないよ、鳩羽ちゃんを好きになった澤村君なら分かっているはずだよね?」


 それどころかあなたと同じで協力してくれる女の子だよ。


「そう……だよな、これは鶴原に悪いか」

「そうだよ。そのことなら大丈夫、私が一緒にいきたくてお誘いしたんだからね――じゃなくてっ、澤村君は本当に大丈夫なのっ?」

「当たり前だろ、そうじゃなければ断っているよ」


 ここでいい顔をしないでくれぇ……。

 いやまあ彼的には普通に受け答えをしているだけなんだろうけどやっぱり、うん。


「そうだ、つぐしでも見に来ないか? あいつも遠井に会いたがっていると思うんだ」

「それならいこうかな」


 解散にされるぐらいならお家にぐらい付き合うよ。


「つぐし、遠井を連れてきたぞ」


 あのときから分かっていたことだけどつぐし一匹に対して凄く大きいお家だ。


「ぴゅうぴゅう」


 え、なにいまの……。

 やっぱりさっきのことといい本調子じゃないようだ。

 心配になってソファに寝転ばせると「積極的だな」と更に変なことを言ってくれた。


「もしかしたら夏バテかもしれないからね」

「だってなにも返事がないままだと寂しいだろ?」

「ぷ――ま、真面目な顔でなにを言っているのっ」

「俺は無視をされたくないってだけだ、虫だけにな」


 離れよう、いますぐにでも廊下に逃げよう。

 また笑わせてくるものだから危うく彼の顔に唾が飛んでしまうところだった。

 咄嗟に抑えられたからよかったものの……。


「茶でも飲むか?」

「いただきます」


 水分摂取は大事だ。

 だからここでは遠慮をするべきじゃなかった。




「着られたか?」

「うん、こんな感じ」

「いいな、似合っているぞ」


 黄色の浴衣だ。

 これも私服と同じで買ってもらったから着られるだけ着ようという考えで毎年お世話になっている。

 一年に最大二回までしか着ないから余裕だ、これからもお世話になろう。


「でも、まだ少し早いか」

「もう十六時半だから大丈夫だよ、いこ?」

「そうか、じゃあいくか」


 目標は二品ほど食べることと鳩羽ちゃんカップルを見つけることだった。

 ポテトは絶対に食べたいからあと一品はどうするか、甘い物の方がバランスがいいかな。


「ひょえー人がいっぱいだ」

「小学生とか見ているとさ、俺らよりも金を持っていそうな感じがしてくるよな」

「はは、どんどん買っていくからありえるかも」


 お友達と心の底からお祭りを楽しもうとするところが可愛い――じゃなくて、自然と楽しくなってしまうの方が合っていたか。


「変なことを考えないでただ食べたいから買っていた時代が俺らにもあったのにな」

「そ、そこまで汚れていないはずだよ」


 私が離れてほしくないから彼の腕を掴む、これについてはなにも聞かずになすがままとなってくれていた。


「なにが欲しいんだ?」

「ポテトっ、あとは悩んでいるんだよね」

「ポテトは列がすごいから最初に並ぶか」

「ごめんね、だけどちゃんと合わせるからね」


 後回しにしていたら売り切れてしまったことがあるからここは全力で甘えておこう。

 これが私にとっての一番の戦いだった、だから終わってしまえばもうそこには達成感しかない。


「満足満足。さっ、澤村君はなにを食べるっ?」

「一つくれ」

「はい」


 くぅ、立ちながら食べるなんて意地汚い(私限定)ことはできないから私はまだ持っていることしかできない。

 ある意味で精神的に追い詰めてくる子だ、恐ろしい……。

 並んでいる間も精神のなにかが削れていく。

 けどだからこそっ、食べられるとなったときにはいつも以上に回復したけど!


「ほらお返しだ」

「いやいや、くれすぎじゃ?」

「無理やり食べさせることはしないけど流石にそれだけだと寂しすぎるだろ」


 お、おぅ、私の目の前には大量の食べ物の山ぁ……。

 そこに意地悪がしたい気持ちがあってくれればまだよかったものの、そういうのじゃないただの善意百パーセントのものだから受け取るしかなかった。

 ここで変に抵抗して彼ががっかりしたような顔になる方がダメージ大なので覚悟を決めて食べよう。


「あの二人見つからなかったな」

「ああうん、きょろきょろあっちを見たりそっちを見たりを繰り返していたけど駄目だったよ」


 もちろん大量に人がいたから怪しさMAXだったと思う。

 通報されなかったから若者だったからかも? 女性パワーというのも影響していたかもしれない。


「今日に限って弱っているとかないよな?」

「どうだろう、この前は弱っているふりをしてくれたけど」


 あ、嘘の嘘という可能性もあるか。

 弱っているときに素直に甘えようとする子でもあるし、隠そうとすることもある子でもある。

 彼との話を聞いて敢えてああしたのなら……分かりやすく失敗をしていたということだ。


「勇気を出して誘った年に熱を出して一緒にいけなかったことがあってな」

「え、風邪を引きたくて引いているわけじゃなくてもそれは残念だったでしょ?」

「断っていたのにそれでもまた男友達が誘ってくれたおかげで残念感は薄れたけど流石にノーダメージとはいかなかったな」


 それはそうだ、私だって彼が急に「無理になった」となれば今年はここに来ていなかったかもしれない。


「どっかで盛り上がっているということにしておこう。俺らはこれだ、花火の時間までには食べ終えるぞ!」

「お、おーう」


 って、流石に大袈裟すぎたか。

 問題のないレベルでくれているだけだから気にしなければならないのはお金のことだけ。

 後でしっかり払おうと決めて一つずつ味わいながら食べていった。

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