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2度目の転生に関する報告書  作者: トール
第三章 領主編

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第79話 株式会社設立

前話から2年後です。

トール15歳、成人の年齢です。

王歴15年1月 辺境伯家宰執務室


「ほう、トールから面会の申し入れがあったか」

辺境伯家宰が、秘書を務める長男に確認する。

「はい。トール殿は二日後に叙爵式典に出席。その翌日は第一夫人との結婚式を教会で挙げるとのことです。面会希望日は結婚式の翌日もしくは翌々日とのことでした」

本来、叙爵は国王が行うもの。したがって式典は王都で行うのが通常だが、辺境伯寄子については、辺境伯が国王代理として辺境伯都で叙爵式を行うのが慣例となっている。

「そうか。で、表敬訪問をしたいということか」

「それが---借入金についての話をしたいとのことです。返済期限は王歴16年6月末、いまから1年半後です。この時期に、なぜ借入金の話を持ち出すのか---」

「なるほど---すでに返済不可だと判断したのか」

「は?」

「イスタン領は人口が500人に届こうとしている。開墾も順調なようだ」

「はい。まさか『悪魔の植物』を主食にするとは思ってもいませんでした。

 あれで住民を飢えさせなくした」

「それだけではない。塩と砂糖だ。塩はわずかながらも辺境伯領に入ってきている。

 砂糖も同じだ。イスタン領の砂糖菓子は貴族や大商人から大好評だ。塩産業と砂糖産業に投資を集中すれば 10年後にはイスタン領の収益はかなり良くなるだろう。それこそ、貸し付けた大金貨500枚を返済できるほどにな」

「あと10年---ですか」

「ああ、今から10年もすれば、だ。つまりは10年後の話。返済期限の16年6月の話ではない」

「では、返済期間の延長を求めてくるとお考えですか」

「おそらくは。いや、その話しかないだろう」

「ですが、当方には返済期限の延長に応じる必要はありません」

「当然だ。契約書には16年6月末までに返済すること、その返済ができなければイスタン領における全ての権利は当家に移ることを明記している。契約は守ってもらわないとな。

 まあ、トールがほどよくイスタン領を発展させ、その果実を当家が得る。理想的な形になったというところだ」


「念のために確認いたしますが、トール殿が他家や商家から借り入れる可能性は、ないと考えてよろしいでしょうか」

「大丈夫だ。お前も知ってのとおり、辺境伯寄子の貴族家にはそれとなく圧力をかけている。

 ソンダルク子爵家が妙にトールを応援しているのが気がかりではあったが、あの家には賦役を課した。とても大金貨500枚を出せる余力はない」

「いえ、私が気にしているのは商家のほうです。特にブルック商会。あの商会がイスタン産の塩を取り扱っています。

 彼らが先行投資として借金の肩代わりをするのではないかと」

「その懸念はわからないではないが、大丈夫だ。

 イスタン領の発展はこのあたりで頭打ちとなる。その理由は---わかるな」

「はい、道路です。イスファからイスタンまでは馬車が使えず、徒歩で4、5日かかります。物資の輸入、生産物の輸出ともきわめて困難です」

「そのとおり。当家の不興をかってまで、そのような領地に投資をする商家はいないだろう。それに---」

家宰はニヤリと笑い続けて言う。

「相手はあのブルック商家だぞ」

長男も苦笑いを浮かべて言う。

「『石橋を叩いて渡らない』ブルック商会---ですか。確かに彼らが投資するとは思えませんな」

「それでは、トールとの面会は4日後とする。面会時間は10時から20分間。20分後に次の予定を入れておけ。トールには面会時間を守ってもらわないといけないからな」

「承知しました」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


時は少し遡った王歴14年12月 王都ブルック商会本店応接室


「トール・イスタン男爵予定者殿、クレア・イスタン騎士爵殿。わざわざ王都までお越しいただき大変恐縮でございます。私が当商会の当主を努めさせていただいているアベルでございます」

かなりの老齢である店主の傍らには、次期当主である長男、大番頭、それにイス

ファ支店事務員にして当主の三男であるカポ氏。


「ご丁寧なご挨拶、痛み入ります」と、クレア。

「早速で恐縮ではございますが、例の短剣をあらためさせていただいてもよろしいでしょうか」

「はい、こちらになります」トールが鞘ごと短剣を当主に手渡す。

 当主はそれをまじまじと見た後にトールに返す。

「間違いありません。これは私の兄、トーマスのもの。失礼ですがトール様と兄とはどのようなご関係で」

「一言では言いにくいのですが---養父であり師であり恩人であるといったところです」

「承知いたしました。それでは、当家はトール様に貸付けをさせていただきます。金額は大金貨1500枚。

 条件は無利子・無期限。事前にお伝えしたとおりです」

「大変ありがたいのですが、何故そこまで当家をご支援いただけるのか」

「理由は2つございます。

 1つは兄トーマスのこと。詳しい事情をお話することは出来ませんが、当商会が大手商会となったのは兄の力によるもの。しかしながら家督は私が継いだ。私は兄の恩に報いるため、兄の頼み事を1個だけ、どんな内容なものであってもかなえようと考えておりました。幸か不幸か兄からの頼み事はありませんでしたが、今、ここで兄を父と思っていただいているトール様からのお話がありました。兄の頼み事をかなえるかわりにトール様の頼み事をかなえることとします」


「2つ目の理由ですが、単純に投資先として有望だからです」

「この先、辺境伯家から様々な嫌がらせを受けることになりますが」

「少し話が回りくどくなりますが---当商会は先々代、先代がそれぞれ一度ずつ大博打とも言える投資をして大きくなりました。そのためか、当商会の当主は一生に一度だけ大博打を行うことを許されるという不文律がございます。これもまた幸か不幸かわかりませんが、私にはそのような大博打を行う機会がなかった。

 そこに来て今回のお話があった。これは私の一生に一度とするに足りる案件だと考えた次第です」

「そこまでのお覚悟がおありであること、深く受け止めさせていただきます」

「いやいや、先ほども言いましたが投資先としては極めて有望です。辺境伯家からの圧力というリスクを考えても投資する価値は十分にあります」


それはそれとして、と当主が話題を変える。

「先に申し入れがあった『株式会社』の件、あらためてご説明をしていただけるとありがたいのですが」

「承知しました。

 先ず、前提となりますが、イスタン領は自由競争市場、ええと、楽市楽座とすることを基本とします。

 それと同時に独占資本、すなわち大商家を育成します。この大商家を中心として産業を発展させます」

「産業を発展させるのは領主、すなわちトール様の役割であると思いますが。それに商家に『独占』させると民に弊害が出るのでは」

「領主による統制、すなわち国家統制は初期段階では必要かつ有効ですが、いずれは限界がきます。

 独占資本の弊害はおっしゃるとおり。これは法整備による規制を行う必要があります。

 しかしながら、イスタン領が制定する法律で、他領を本拠とする商家に規制をかけることが難しいと考えました」

「なるほど、他領の領主からの圧力がくると」

「はい。はっきり言ってしまうと辺境伯家と王家の圧力を懸念しています。そうであれば独占資本をこちらで育成することで、こちらのコントロール下に置くべきと考えました」

「それでは今回の話しに出てくる株式会社を、その独占資本にするということですな」

「はい。前提として、資本と経営を分けます。今回の提案としては、当家と貴商会が半々の資本、すなわち株式を保有します。経営については、資本の持ち主による話し合い、すなわち株主総会により、誰に経営をさせるかを決定します。詳しくはこちらに記載しました株式会社の定款案と合弁事業協定書案に記載しておりますので、後ほどご確認をしていただきたく存じます。

 また、経営者についてですが、当面の間は、貴商会から経営者を出していただきたく存じます」

「それで、その株式会社には何をさせるのですか」

「当面は、イスタン領で生産される全ての商品の取り扱いを委託します」

「それは---大きな、いや、大きすぎる力を持つことになる」

「あくまでも当面は、です。先にも言いましたがイスタン領は自由競争市場であることが基本。近い将来に他の商家も誘致し、競争原理を働かせることにします」

「その株式会社が十分に力を持った後に、ということですな。そうでないと他領の商家にイスタン領が食い散らかされる恐れがある。まあ、私が言うのもおかしな話ですが」

「そのとおりです。ご理解をいただいたこと、うれしく存じます」

「全て承知しました。それでは、今回の貸付けは大金貨1000枚に減額。トール様はうち500枚を辺境伯家宰家に返却、もう500枚を株式会社に投資。一方、当商会は貸付けの1000枚とは別に500枚を株式会社に投資。

 貴家ならびに当商会あわせて大金貨1000枚の資本金を持つ株式会社を設立する、という理解でよろしいですな」

「まさにそのとおりです。それで、経営者については---」

「幸い当商会に当てがあります」当主は三男に向けて言う。

「カポ、お前をブルック商会から解雇する」

「は?」

「で、だ。失業者となってしまった息子に、父親として職を紹介する。株主会社の経営者だ」

「喜んで引き受けさせていただきます」

「ブルック商会イスファ支店の従業員はいくらでも引き抜いてかまわん。ただし、こちらからは口を出さない。

 お前が自らの言葉で、従業員に説明しろ。この株式会社の重要性と将来の発展性を」

「承知致しました」


「トール様、他に何か議題はありますか」

「いえ、本日はこれで十分です。大変有意義な打ち合わせとなりましたこと、感謝いたします」

「それでは、と。そうそう、来月はトール様の叙爵式とお二方の結婚式ですな。誠におめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ご祝儀について、いろいろと考えておりましたが、今、決めました。大金貨1枚です」

「?」

「株式会社への投資額、大金貨500枚のうち1枚をトール様にご祝儀として差し上げます。従って、株式会社の資本金は、トール様大金貨501枚、当商会大金貨499枚となります」

「---これ以上にないご祝儀、謹んで受け取らせていただきます」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


後日談1


王歴15年1月

 イスタン家は辺境伯家宰家からの借金全てを返済。

同   3月

 老齢であることを理由に辺境伯家宰が隠居。

 同時に辺境伯長男が長期病気療養に入り、辺境伯家宰には次男が就任。

 一部では何らかの政変があったのではないかと噂される


後日談2


王歴15年4月

 イスファ北方山脈を貫通するトンネルが完成。

 これにより、イスタンーイスファ間の馬車利用が可能となり所要日数が徒歩5日であったものが馬車利用2日と大幅に改善。

 あわせてイスファ側トンネル出口に大規模な物資集約設備ならびに宿泊設備をイヌタン領として建設。

 この地域をエリコと名付け、イスタン男爵家が実行支配した。


後日談3


 王歴15年4月 株式会社を設立、会社名は「東インド会社」。ただし、この名称はきわめて不評であり、「トール商会」と通称される。

 「トール商会」は設立直後にブルック商会イスファ支店の全ての資産・事業を事業譲渡のスキームで獲得。この背景には、イスファ支店全従業員が退職の意思を表明。支店業務が崩壊する恐れがあったブルック商会は、安価で従業員の再就職先であるトール商会に事業譲渡をしたもの。


おまけ(よい子は読んではいけません)


「それでだな、トール様。ふ、夫婦の寝室はどこにするんだ」

「え?いままでと変えるつもりはありませんよ」

「いやいやいや、さすがに夫婦の寝室は別にしないとまずかろう」

「クレアお姉様、おにいちゃんはお姉様のことを考えてそう言っている」

「?」

「未だにクレアお姉様はおにいちゃんと一緒でないとないと十分な睡眠がとれないご様子。

 夫婦で寝室を別にするとなると、来年からは2日に1日、再来年からは3日に1日しか睡眠がとれなくなる。

 なぜならば来年にはティナお姉様が、再来年は私が結婚するから」

「あ、そうだね」

「そ、それはそのとおりだがな、さすがに恥ずかしいぞ。その、何だな。夫婦生活をだな、見られるのは」

「姉上、見られるのは恥ずかしいですか」

「そりゃまあ、恥ずかしいぞ」

「見られるのが嫌ならば、二人に手伝ってもらいましょう」

「「ええ~!?」」×2

「ん、わかった」


資本比率が50:50の合弁会社は、ロクなことはありません。

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