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2度目の転生に関する報告書  作者: トール
第三章 領主編

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78/124

第78話 辺境伯領都での会話

王歴13年6月 辺境伯領都


辺境伯軍第一大隊第一中隊第一小隊第一分隊長 チョージ家


2年ぶりに家族との再会を果たしたチョージ分隊長は、居間のテーブルに座り家族との団らんをすごしている。

6歳になる長女は久しぶりの父親とのふれあいに大喜び。4歳になる長男は父親のことを全く覚えておらず、どちらかというとおびえている様子。


「あなた、単身赴任お疲れ様でした。だけど、帰還は7月末と聞いていたけど 早まったの」とチョージ夫人。

イスタン領に派遣されている第一分隊8名は、2年間の派遣期間が満了し全員が辺境伯領都シバスに帰任。

入れ替わりに第二分隊がシバスに派遣されることとなっている。

なお、隊長のサムエル少佐は派遣が継続している。


「いや、今回は君に話があってな。指揮官殿---トール様と少佐殿に無理を言っ  て特別に家に立ち寄らせてもらった」

え~、パパ、またどっか行っちゃうのとの娘の声に、すぐに一緒に暮らせるぞと答えるチョージ。

「話というのは何?」

「俺はイスタン領に残ることとした。君にイスタン領についてきて欲しい。もちろん子供たちも一緒にだ」

はあ、とため息をつく夫人。

「あなたがそう言い出すのではないかと思ってました。トール様に大きな恩があると言ってましたから」

「それでは」

「いいえ、私たちは行きません。あのような寒い土地に子供を連れて行くなんて」

「ああ、寒いけど暖かいぞ、いや、言い方が変だな。家の中は暖房が完備していてこの家よりよほど暖かい。まあ、外は寒いがな」

「食べるものだって」

「俺、太っちまったよ。食い物は断然イスタンがいい」

「---確かにふくよかになられましたね。でも、行きません。子供たちに教育を受けさせるためです」

「ああ、それな」


チョージは父親から継いだ小さな商会を営んでいた。経営が思わしくなく従業員に退職金が出せる時点できれいに清算。腕に覚えのある(実は無意識に身体強化を行っていた)本人は辺境伯軍に一兵卒として入隊。

腕っ節の強さと、事務処理能力があることを買われ、下士官に昇進した。

そのようなことから、子供には教育が必要であることを常々言っており、夫人もそれに同意していた。

「それなんだがな、間違いなく教育水準はイスタンが高い」


6歳から12歳までの教育が義務化されていること、12歳から3年間の中等教育を受けることができ、

これも近い将来は義務化される予定であること。さらには高等教育についても構想中であることを説明。


「---にわかには信じられません」

「まあ、そうだろうな。いったんこの話しは中断しよう。そうだ、お土産があるぞ」

チョージはお菓子が入ったバスケットをテーブルの上に置き、夫人と子供たちに食べるように促す。

「甘い!」「おいしい!」

ビスケットを1枚ずつ食べた親子。子供たちの歓声。

「あと、これは日持ちしないらしい。今すぐに食べてくれ」

指さしたのはカスタードタルト。4つある。チョージを含めて4人で食べる。

「!!」無言で頬張る4人。

「---あなた、いつもこんなものを食べているのですか」と食べ終えた夫人。

「いや、ビスケットは週に1回だ。今食べたやつ、タルトっていうのは、実は俺も初めて食べた。

 領の子供たちの誕生日にトール様から下賜される。その子供の家族全員にな」

「---」

「そうしたら女ども、ああ、お前も知っているだろう、ドロシーさんたちだ。

 ドロシーさんたちが、私たちにも食べさせろ、せめて月1回は食べさせろって騒いでいてな。

 今回、辺境伯領にきたのは、月1回食べるための材料手配のためでもあるんだ」


「---ずるいです」

「は?」

「こんなものを子供たちに食べさせたら、イスタンに行くって言い出すでしょう。子供たちが」

「ああ、それでは君もイスタンに---」

「子供たちが!行きたいと言うでしょう」

「---」

「わかりました。仕方ありません。イスタンに行きましょう」

「それって君がお菓子を食べたいから---」

「子供たちが!行きたいと言うからです!」

トイレのことを言及するまでもなかったな、俺がイスタンに留まる最大の理由はシャワートイレなのだが。


なお、他の第一分隊員7名も、辺境伯軍を辞任、イスタンの領民になることとなった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

同日 シバス辺境伯孤児院 院長応接室


トール、クレア、ティナ、ユメが並んで座っている。対面には院長。

その部屋に入ってきたのは、10歳の孤児アン。間違ってはいけないが男の子だ。

「アン、ここに座りなさい」と院長が自分の隣に座るように促す。

「久しぶりね、アン」1歳年上のティナがニコニコしながら話しかける。

「元気にしてた?」

「それで、話しって---」アンはティナには応えず、院長に向かって尋ねる。

「うん、アンにイスタンに来て欲しいと思っているんだけど、嫌だって言ってるんだって?」


トール達は、10歳と11歳の孤児をイスタン領に連れていくべく孤児院を訪ねてきた。

アン以外の3人は一も二もなく同意したが、アンはかたくなにイスタンに行くことを拒んでいる。

「---僕は体が大きくなく、魔術も発現しない。イスタンに行っても役にたたない。それに---」

「それに、何?」ティナが優しく促す。

「僕はユメにひどいことを言ってしまった」

ああ、やっぱりね。とうなずくティナ。


「アン、私は気にしていない。むしろ感謝している」とユメ。

「いつかはトールお兄さまに言わなければならなかった。字を読めないことを。でもあの時にアンが言ってくれた」

「でも、それは---」

「そのおかげでトールお兄さまと結婚することができる。だから感謝している」


「アン、君の力が必要だ」とトール。

「今、イスタンには2つの大きな問題がある。これを解決できるのは君しかいない。まず一つ目は」

と、トールはそこで『収納』から犬を取り出し、アンに渡す。いや、犬ではなく魔狼の仔だ。

「その仔は、今、どんな感情を持っている?」とトールがアンに尋ねる。

「おびえている。特にトールにいちゃんに」

「じゃあ、安心するように言ってやってくれ」

「はい---もう大丈夫っ、うわっ!」

魔狼の仔は尻尾をブンブンと振り、アンの顔をペロペロとなめ回している。

「そう、それが君の力だ。以前に君が鳥たちと戯れていたことがあっただろう。その時に君は鳥たちや動物たちの気持ちがわかると言っていたね。その時に僕は確信したんだ。君は『魔獣使い』の才能があると---おい、いい加減、顔をなめるのをやめさせろ」

アンが仔狼に何ごとかをつぶやくと、仔狼はおとなしくアンの膝の上に座る。


「今、イスタンは大がかりな羊牧をしようとしている。だが、人手が足りない。

 君の『魔獣使い』の力で羊を統率してほしい。その仔といっしょにな」

その仔を生け捕りにするために、4人で辺境伯領の奥地までいったんだぞ、とトール。


「2つめの問題は?」とアン。

「ああ、今、イスタン領は重大な危機に直面している。先ずはこれを見て欲しい。コカトリスの卵だ」

トールは『収納』から大きな卵を取り出す。

「コカトリスは孵化してすぐに尻尾を切れば、『石化』の魔術が使えなくなる。『石化』がなければコカトリスを育てることは可能なはずだ。ただ、残念ながらコカトリスを育てるノウハウを持った人がいない。『魔獣使い』であるアンならば、養鶏業---じゃなくて養コカトリス業のノウハウを確立できるのではないか、いや、確立させられるはずだ」

「言ってることはわかった。だけど、それと重大な危機ってどういうつながりがあるの」

「卵が必要なんだ!」とトール。

「卵がないと、ケーキが作れない!お菓子のレシピも大幅に減ってしまう!!

 イスタン領は、今まさにケーキを求める女性たちが反乱の狼煙を上げようとしている。

 それを鎮圧できるのはアン、君しかいない!」

アンはものすごい圧力を感じた。クレア、ティナ、ユメの3人の圧力だ。仔狼もすごくおびえている。

ああ、イスタンに行かないと言ったら、あの3人に何をされるかわからない。僕にはイスタンにいくという選択肢しかないんだ、と感じるアンであった


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