第61話 スタンピート10
4月13日 払暁
「第一中隊、緊急出動!トール、クレア、ティナも頼む!!」ロトの声が響き渡る。
「ドラゴンが出た!可動式バリスタを使う!急げ!!」
トール達が第一小隊とともに北門に到着、そこで見たものは---
「ティラノサウルス!?」
頭の位置は城壁よりはやや高い。ということは全高は5~6mといったところか。
そのティラノサウルスとおぼしき個体が1頭。北門を押し破ろうとしている。
「あれがドラゴン---地竜だ!」とロト。
魔術親衛隊の攻撃魔術ならびに、第二大隊のバリスタによる攻撃が地竜に降り注ぐが有効打はない模様。
「飛びますか!?」トールがロトに問う。
「なに!?」
「地竜は空を飛びますか!?」
「あんなでかいもの、飛ぶわけがないだろう!!」
「ブレスは!?火を吐いたりしますか!?」
「吐くわけない!地竜は魔術を使わない!!」
ならばなんとかなる!
「意見具申!っと!」
ドゴーン!という轟音とともに地竜が北門へ体当たりし、門扉を完全に打ち砕いた。土煙の中から、地竜がのっそりと城内へ踏み込んでくる。
「意見具申!各隊は地竜への攻撃を中止!地竜は当方で対応する!」
風系統初級魔術『風鳴拡声』を発動、各部隊に聞こえるよう意見具申をする!すると、
「了解!親衛隊!地竜への攻撃を中止!!トール殿、任せた!!」
魔術親衛隊長が、同じく拡声系の魔術で攻撃中止を命じる。
それにつられるようにして、バリスタによる攻撃も止まった。
「(ストーンバレット!)」
トールはストーンバレットを地竜に連発。有効打はないもののヘイトを取る。
地竜はトールに向けて突進してくる、そこを!
「(穴掘り!土寄せ!固まれ!)」
トールが得意の土魔術『穴掘りシリーズ』を発動!地竜は下半身が穴にはまり身動きがとれない。
「地竜は抑えた!姉上、ティナ!後続の魔物に『ふたりがけ』を!」
「親衛隊!後続敵勢力を攻撃せよ!!」
「第一中隊、第二、第三、第四小隊は後続敵勢力を攻撃!あいつらを入れるな!!」
「第一小隊!第一分隊を除き後続敵勢力へ!小隊副官、指揮を取れ!!」
地竜のもとに残ったのは、ロト、サムエル、第一分隊、そしてトールとユメのみ。
地竜は暴れて咆哮しているが、穴からは抜け出せない。
「よし、後続も押さえ込めそうだ。トール、地竜はお前に任せる!」とロト。
「え?」
「地竜を仕留めれば、お前さんはドラゴンバスターだ。お嬢ちゃんたちの保護者としてふさわしくなる。魔術親衛隊も手が出しにくい」
籠城戦でクレアとティナの攻撃魔法が目覚ましかった。ユメは『氷の聖女』として名を広めた。一方でトールはストーンバレットでのオーガへの攻撃。極めて有効であったが地味であることは間違いない。であれば、地竜のトロフィーをトールに与えれば---。
「やれるんだろう、お前さんなら」
トールはサムエルを見る。サムエルはニコリと笑いながら頷く。
「ありがとうございます。やります」トールは続けて、
「どなたか、槍か剣を貸していただけますか」
おう、これを使え。と第一分隊長が槍を差し出すが、それをサムエルが抑え、
「トール、この剣を使え」
「ですが、その剣は」
子爵家とはいえ、武家の名門であるエルズルム子爵家の三男サムエル・エルズルム。
この男が手にしている剣は代々エルズルム子爵家当主に伝わっている名剣。
しかしながら現当主であるサムエルの長兄は、この剣を使いこなせるのはお前だ、と言い、次兄も、兄さんはサムエルに甘いから、と苦笑しながらもサムエルに剣を渡すことを容認したもの。
この事情を知っているトールは剣を渡されることを固辞しようとするも---
「かまわん」とサムエル。
「返す必要はないぞ」
ここで剣を使い潰しても良い、とのサムエルの思い。
「---ありがとうございます」
そのサムエルの思いを受け止めるべくトールは剣をサムエルから受け取り、右手で剣を天に向ける。
「(ライトニング!)」
光魔術ライトニングを無詠唱で唱える!剣は徐々に輝きを増し、直視することが困難になるまで輝いた!その時に!!
「(穴掘り!土寄せ!固まれ!)」
上半身を地面から出していた地竜は全身が埋められる。
しばらくの間、地面の下で地竜がもがくような気配があったが、それが完全になくなったところでトールは重力反転魔術を使い地竜を地面の上に取り出す。
光魔術がおさまったとき、そこにあるのは地竜の死体。
沈黙---皆がトールを見つめている。
その沈黙と視線に耐えられなくなったのか、トールは、
「ふう、強敵だった(棒)」
腕で額の汗を拭う仕草。なお、汗は全くかいていない。
「え~と、トールさんや」とロト。
「剣とか光とか、必要だったのか?」
「はい、必要でした。様式美です」
「様式美?」
「はい、様式美!」
「---つまりは格好つけるためってこと?」
「はい、様式美です!!」
再びの沈黙---
「---返せ」つぶやくように言うサムエル。
「え?」
「その、剣を、俺に、返せ」
「だって、返さなくてもいいって---」
「返せ!!」
返さなくてもいいって言ってたのになあ、とぶつくさ言いながらもトールは剣をサムエルに差し出す。サムエルはそれをひったくるように受け取ると、あいつにお前を貸した俺が馬鹿だった、すまん、許してくれと剣に語りかけるサムエル。
「くっ---ぶはあっははは!」
第一分隊長がたまらず吹き出すと、その笑いが全員に伝染。ただしサムエルとトールを除く。
「敵勢力、後退します!」
地竜が討ち取られたことを感じたのか、魔物達は算を乱して逃走する。
「追撃だ、追撃!第一小隊、我に続け!!」
怒りをぶつけるように追撃を開始するサムエル。しょうがねえなあ、という気持ちで第一分隊がそれに続く。
「返さなくてもいいって言ってたじゃん」
まだぶつくさ言いながらも追撃に参加するトールであった




