第53話 スタンピート4
4月8日夕刻、B地点到着。防御陣地を構築。
4月9日、七回にわたる魔物襲来あり、これを撃退。
同日夕刻、第一小隊はC地点に到着。
「前回同様だ!小隊は規律訓練後、夜営準備!小隊長!頼むぞ!」
「はい、指揮官殿。小隊長の指揮のもと小隊は規律訓練実施後、夜営準備に入ります!」
サムエルもだいぶノリがよくなってきた。
「よし!僕・中隊長・姉上・ティナは陣地構築に向かう!解散!」
陣地構築に着手して間もなく---
「指揮官殿、報告!シバス方面から騎兵2、当方に向けて行進中!伝令騎兵と思われる!到着まで10分程度と推測される!」
「---いや、これはどう考えても中隊長案件でしょう。中隊長が対応し、僕は引き続き陣地構築。よろしいでしょうか」
「いや、陣地構築の時間的余裕はある。俺とトール、小隊長、小隊副官で応対する」
「中隊長殿!ご無事でしたか!!」
「おう、無事だ。時間がおしい。以下を中隊本部に伝えよ!」
・第一小隊は遅延戦闘を複数回実施した。現時点での死傷者なく疲労度小、士気は高い。
・第一小隊は明日4月10日、現地点での遅延戦闘を実施した後、同日夕刻から深夜の間にシバスに帰還する予定。
「以上だ」
「明日夕刻帰還---ですか」
「何か問題あるか」
「避難民最後尾のシバス到着予定時間が、早くとも明後日4月11日正午と見込まれています」
「---今、どこにいる」
「シバスまで徒歩1日半の地点です。具体的には---」
「小隊副官、地図!」
「はっ!」
伝令騎兵はちらとトールを見るが何も言わずに地図を指さす。
「このあたりを行進中です。疲労が激しく今晩はこの周辺で夜営の必要あり。明日中のシバス到着は困難なため明日も夜営の必要ありとの判断です」
「護衛は?」
「第三中隊が直接的に護衛、第一中隊がしんがりを務めています」
「さて、どうする、指揮官殿」ロトがトールに回答を促す。
指揮官とは?と戸惑う伝令騎兵をスルーしてトールが回答。
「案1、避難民を見捨てる」
「なにを言うか!」と伝令騎兵。それを遮りロトが言う。
「なかなか有力な選択肢だな。伝令騎兵、避難民の数は?」
「おおよそ500です」
「なるほど---指揮官殿、他の案は?」
「案2、第一小隊は直ちに、もしくは明日の遅延戦闘終了後に第一中隊本隊に合流すべく移動。本隊合流後、しんがり戦を実施」
「オーソドックスな案だな、他には?」
「案3、第一小隊は明日の遅延戦闘終了後に、この地点」とトールは地図の1点を指さす。
「仮にD地点としますが、D地点に陣地構築の上、明後日4月11日に遅延戦闘を実施、同日夕刻シバス帰還を目指す」
「なるほど。他には」
「ありません」
「で、どうする?」
「これ、僕が判断する事項じゃないですよ。ここにいるなかで最も上位の階級は中隊長殿ですか、それとも伝令騎兵殿?」
「ああ、俺だ。伝令騎兵は大隊長直轄だが階級は小隊長と同格だ。トール、お前に求めているのは、お前がよく言う意見具申ってやつだ」
「意見具申であれば、案1 避難民を見捨てる ですが、これ、中隊長が決定できないですよね」
「ああ、第三中隊が絡んでいる。少なくとも大隊長の同意が必要、下手すると辺境伯の同意が必要だな」
「間に合いませんね」
「間に合わないな、絶対に」
「じゃあ、案3 D地点での遅延戦闘一択じゃないですか。僕にそれを言わせたかったんですか?ひどいなあ」
「ははは、まあ、そう言うな。伝令騎兵、聞いてのとおりだ。第一小隊は明日、現地点での遅延戦闘。明後日に仮称D地点での遅延戦闘を実施し、同日夕刻シバス帰還予定だ」
「ちょっと待ってください、中隊本隊に合流するのではないのですか」
「いや、陣地構築なしでの迎撃は難しいな。小隊長、どうか」
「一昨日ならびに昨日と同等レベルの襲撃であれば案3一択です。中隊が横隊で対応してもどこかしらが食い破られる。そうなると被害甚大、下手すりゃ全滅ですな」
「---納得できない。敵勢力の今までの襲撃回数ならびに規模を教えろ」
「指揮官殿、いいか?」ロトが確認。トールがうなずくのを見た後、
「小隊副官、たのむ」
「はっ!襲撃回数は一昨日4月8日 6回。昨日4月9日 7回。
襲撃の規模について。最大の襲撃は昨日第7回目襲撃時、ゴブリン約120、魔狼約20」
「信じられん、その数をたかが1個小隊で撃退したというのか」
「4月9日第7回時戦闘結果、ゴブリン約20、魔狼5の逃走を許すもそれ以外は殲滅」
小隊副官は淡々と、事務的な口調で報告を続ける。
「ばかな---」
「敵戦力の無力化数について、4月8日 ゴブリン約430、魔狼 34。
4月9日 ゴブリン約450、魔狼 約50。
両日合計 ゴブリン900弱、魔狼80程度。以上」
「ありえん!」
「信じないというのか」とサムエル。
「ああ、信じられるか!1個小隊30名が2日間で約1000の魔物を討伐しましたって言われて、誰が信じるか!!」
「我々を侮辱するのか!」
「侮辱する意図はない!信じられんと言っているだけだ!」
「あの~」とトール「ちょっと提案があるのですが」
「中隊長殿、そもそもこの少年は何者ですか!なぜ部外者をこの打ち合わせに参加させているのですか!」
「部外者---じゃないぞ。なんというか、そう、俺たちは---仲間だ!」
「ふざけないでいただきたい!先ほどからこの少年を指揮官と言っていますね。まさか指揮をとらせているなんてことは」
「しゃあないだろう、こいつの指揮が的確なんだから---あれ?中隊本部から報告はなかったのか?」
「ありません!部外者に指揮をとらせるなど、軍法会議ものですぞ!!」
しばらくの沈黙---
「伝令騎兵殿、僕はスカウトとして第一小隊に雇われている冒険者見習です。
指揮官というのは、まあ、あだ名です。スカウトとしての参考意見を求められる可能性があるので本打ち合わせに参加させていただいています。ご納得いただけますか」
「まあ、建前はそういうことになっているな」ぼそっとロトがつぶやく。
「建前が重要な時があります。あまり伝令騎兵殿を困らせてはいけません。それで、先ほど申し上げた提案、まあ参考意見ですが、これから実施する陣地構築ならびに明朝に発生するであろう戦闘を伝令騎兵殿に観戦していただくのはいかがでしょうか。伝令騎兵殿としてもご自身がご納得できないことを、上層部に報告するわけにはいかないでしょう」
「ああ、是非ともそうさせていただく!」と伝令騎兵。
「いいのか?」
ロトがトールに言う。いろいろなことがばれるがいいのか、と。
「毒皿です。それに、そろそろ陣地構築に移らないとまずいです、時間的に」
「わかった、すまんな」とロト。
「ところで、だ。トール」
「なんでしょうか」
「毒皿って、なんのこった?」




