第44話 調査隊2
バルト王歴11年3月25日。
一行は予定通りベースキャンプ予定地に到着した。
途中、魔獣による小規模な攻撃が数回あったものの、兵士たちによって問題なく撃退されていた。
「トール、ちょっと相談というかお願いがあるんだが」と中隊長のロト。
「お前さんの土魔法でつくる小屋、うちの隊員分も作ってくれないか。
テントで寝泊まりするよりもかなり疲労度が低くなるからな」
行軍中、軍は簡易テントで夜営していたが、『百合の乙女』はトールが作る土魔法の小屋に泊まっていた。
「いいですよ、ただ、別料金になりますけど」とトール。
「おお、払うぞ」とロト。
「金額は副官のアンナと交渉してくれ」
「---アンナさん、今、シバスの町ですよね」
「そうだが」
「どうやって交渉しろと」
「帰還してから交渉すればいいじゃないか」
「事後交渉で!追加料金を!出すわけ!ないじゃないですか!あの!守銭奴が!」
「守銭奴とはひどいなあ---そう言えばアンナもお前のことを守銭奴と言っていたな。もうお前とは交渉したくないとか顔も見たくもないとか言ってたぞ」
どうやら依頼料の交渉でアンナとトールは激しい戦いを繰り広げたようだ。
「---そのお言葉、そっくりお返しします。そもそも、なんでアンナさんと交渉しなきゃいけないんですか。中隊長殿も小隊長殿もここにいるのに」
「自慢じゃないが、中隊の財布のひもはアンナが握っている」
「本当に自慢じゃないですね!アンナさんは中隊長殿の奥方なのですか!!」
「そうなればいいと思ってるけど---」横で聞いていたドロシーがつぶやく。
「私はアンナさんのことを、おかあさんと呼んでもかまわないぞ」
「ドロシー!話がややこしくなる!お前は黙っていろ!」
「は~い」
「それでだ、トール。この話、受けた方がお前のためだぞ」
「どうしてですか?」
「第一に、隊員の疲労度が低くなるということはだ、お前たちの身の安全が向上するということだ」
「---僕たちの身の安全は軍が保証してくれるんじゃないですか」
「ああ、そうだ。ただなあ、魔獣の襲撃があったらばここは戦地となる。戦地では何がおこってもおかしくない」
force majeureってやつね。
「第二に、この話を受ければあいつらの信頼というか友好度が格段に上がる」
小隊のほぼ全員がこちらを見つめている。いや、見つめるというよりも睨んでいる。
俺たちにテント設営をさせるんじゃねえぞ、という意思がひたひたと流れてくる。
「まあ、友好度が上がるというよりは、この話を受けなかったらば友好度が格段に下がるってことだがな」
戦場でよくあるんだよなあ。ろくでもない上官が、誤って後ろから射られることが---ああすまん、独り言だ。
「---この狸親父が、わざと隊員に聞こえるようにしゃべりやがったな。伊達に平民から中隊長まで上り詰めたわけじゃないってことか---」
「なんか言ったか?」
「いえ、独り言ですよ。中隊長殿。もちろん、お話をお受けしますとも。見返りは---まあ、貸し一つということで」
アンナと交渉する気はないようだ。
夜営の準備が整った後。
翌日から行われる調査についての行動確認が行われた。
出席者は、中隊長ロト・小隊長サムエル・小隊副官ならびに各分隊長。『百合の乙女』からは、ドロシー・クレア・トールの3名。
「明日以降の行動だが」と小隊長のサムエル。
「予定どおり、第一分隊は北の監視ポイント、第二分隊は北東の監視ポイント、第三分隊は北西の監視ポイントへ向かう。
第四分隊は小隊本部付とし、ここ、ベースキャンプで待機。なお、小隊本部はベースキャンプに設ける。
ドロシー殿、『百合の乙女』はクレア・トール・ティナが第一分隊と同行、それ以外はベースキャンプで待機、ということで間違いないな」
「はい、問題ありません」
「念のための確認だが、ティナも同行、ということで良いのだな」
「はい」とドロシーが苦笑しながら応える。
「この3名で1セット、とお考えください。我々も常にそのように行動しているので」
「俺も第一分隊に同行するぞ」と中隊長のロト。
「娘っ子たちが心配ではあるが、まあ、サムエルがいれば大丈夫だろう」
「ですから、中隊長の娘さんたちに手を出す勇者はいませんって」とサムエル。
続けてサムエルが言う。
「第一から第三分隊は明朝に出発、各監視ポイントには10時前に到着予定。
監視行動後、日の入りまでにはベースキャンプに帰還するものとする。
言うまでもないが、異常があった場合は速やかに小隊本部に連絡のこと。
質問のあるものは?」
「質問!」トールが右手をピッと挙げ、サムエルに正対する。
「何だ」
「当初予定では中隊長殿は小隊本部で待機、と聞いておりましたがこれは変更、ということですか」
「おう、変更だ変更。指揮官先頭、ってやつだな。かっこいいだろう」とロト。
「変更の理由は?」とのトールの質問にしばらく沈黙が続いた後、
「中隊長殿から回答する」とサムエル。
「おい」とロト。「お前が答えろよ」
「---私も正確な理由は知らされておりませんので」
「言っただろう、勘だって。なんか、こう、ひっかかるものがあるというか」
「そんな理由で納得する者はいませんよ」
「承知しました」とトール。
「歴戦の勇者である中隊長に何か感じるものがあるのであれば、それを確認するべきでしょう。納得致しました」
「お、トール、よくわかってるじゃないか。お前さん、軍の経験があるのか。いや、そんなわけないよな、10歳やそこらで」
一度目の転生では山のように軍事経験があるのだが。
「とにかくだ、第一分隊の指揮は俺がとる。これは決定事項だ。すまんな、第一分隊長」
「はっ!」第一分隊長は応答後、若干苦笑しながら付け加える「まあ、いつものことですから」
「他に質問は?ないな。ではこれで解散だ」




