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I'll  作者: ままはる
第六章
62/114

62.グランチェス


⭐︎


 コールサウイ、ケアリスでの魔物の討伐は大きな問題もなく終えて、第3部隊1班は無事にグランチェスに到着した。


 雪で覆われた街並みを、ウィルたちはグリーンヒル専属剣士隊グランチェス支部を目指して歩いている。


 グランチェスはそれなりに大きな街で、グリーンヒルに次ぐ栄えた都市である。繁華街は大勢の人で賑わい、もうすぐ訪れる創世日ーー神々がこの世界を創ったと言われる日ーーを祝うため、華やかな装飾で彩られていた。


「どんな育て方をすれば、そんな肝の座った猫になるんだ」


 白い息を吐きながら、セイルは隣を歩くウィルを見下ろした。

 ネコはウィルの上着の中に入り込み、襟元から顔だけを外に出している。


「見知らぬ土地に行こうが、魔物が出ようが、怯むどころか逃げもしない」

「親に似たんでしょうねー」

「親ってウィルか? 似てるのは寒さに弱いことくらいじゃねーの」


 と、ラリィは笑う。

 ウィルは毛糸の帽子に耳当て、マフラーと手袋、そして羽毛の入った上着を着て、防寒装備は完璧である。


「顔が寒い……リズ先輩、あっためて」

「もう少しで着くと思うから、頑張って」


 ポケットの中で温めた両手で、ウィルの頬に触れるリズ。ウィルは満足そうにその手に顔を擦り付ける。


「確かに……似ているな」


 ネコを撫でるようにウィルの頭を撫でたゼンは、街から見える山に視線を移した。灰色の雲に覆われてその全貌は見えないが、決して小さな山ではない。


「……あの山のどこか、か?」

「あー……そーですね。行くの嫌になったでしょ? 帰りますか?」

「ここまで来て、さすがに帰るわけには……」


 しかし正直この雪の中、あの山を登るのは気が進まない。


「下手をしたら遭難するわね」


 リズも山を眺め、げんなりとする。想像していたよりも雪が深く、山は高い。


「しますよ。おっさんが村に来た時も、隊士がひとり滑落して遭難しかけたって言ってましたし」

「ウィルって、とんでもない場所に住んでいたのね……」

「だから今まで国も知らなかったんでしょうね」


 そこで生まれ育ったウィルにとってはそれが普通のことだったので、まさか自分の村が秘境にあるとは思ってもいなかったが。


「どうやって村からグランチェスまで移動していたの? 雪山用の装備が必要よね?」

「さぁ?」

「……じゃあ、1日で到着出来る距離?」

「わかりません」

「わからないって……創世祭の日はここに来てたって言ってたじゃない」


 ウィルの目が泳ぐ。明らかに失言したという顔をしている。


「……俺、そんな事言いました?」

「言ったわ」

「リズ先輩の……勘違いじゃないですか?」


 リズは眉根を寄せてセイルを振り返った。


「ウィル。お前、隠し事があるなら今のうちに話せ」

「な……無いです!」


 露骨にセイルから目を逸らしたウィルは、胸元のネコを抱き締めて足早に歩き出す。


「村に帰りたくない理由、ご両親のことだけじゃなさそうね」

「だな」

「ま、言いたくないんだから無理に聞き出さなくてもいーんじゃねーの」


 ラリィはヘラヘラと笑いながら、見知らぬ街の景色を見て楽しんでいる。長時間の馬車移動はしんどいが、こうして知らない街を歩くのは観光旅行をしているようで好きだ。


「あそこ、でっかい家だな」

「……ディアス侯爵の邸宅、じゃないか?」


 なだらかな坂道の上に見えた屋敷を指差すラリィと、答えるゼン。


「なんか聞いた事あるような無いような名前だな」

「以前、俺たちが社交界に招待された……」

「あー! あのお騒がせ侯爵か!」


 ふたりの会話を聞きながら、そう言えばディアス侯爵はグランチェスを統治しているのだったとリズは思い出し、苦い表情を浮かべた。


「ハイヒールの痛みが蘇るわ」

「俺も失恋の痛みが……」


 ガクリと肩を落とすラリィ。元カノ、チェリちゃんはさすがにウィルにはまったく相手にされず、最近はグラウンドにも顔を出さなくなった。今はどこで何をしているのか、ラリィも知らない。


「早く次の彼女作れば?」

「そんな簡単にできるかよ」

「いつもグラウンドでキャーキャー言われているじゃない」


 呼べばリアクションを返してくれるラリィの人気は高いのである。しかし。


「リズはわかってないなぁ。アレはキャーキャー言って楽しんでるだけで、そーゆーのじゃないの」

「ふぅん? ……まぁ、あんたの好みは幼女だもんね。せいぜいフォトには手を出さないように気をつけなさいよ」


 珍しくゼンが、目つきを変えてラリィを睨むように見る。さすがに妹に手を出されるのは許せない。


「無いって! 子供は可愛いから好きだけど、恋愛対象とは別に決まってるだろ!」

「説得力が、ねぇ……」

「あー、そうかよ! 男が出来たからってオレのことバカにして! みんなにあの事バラしちゃうからな!」

「……」


 リズは1度意味もなく空を見上げ、それからゼンとセイルを見て、そして首を傾げた。


「誰に何が出来たって?」

「リズに! 男! せっかく気を遣って黙っててやったのに、オレはもうバラすと決めたぞ!」

「……どうぞ?」


 心当たりが全くなくて、リズは躊躇なくラリィを促した。


「ゼン! こいつら、実はデキてんだぞ!」


 と、自信満々に指を差したのはリズとセイルのふたり。


「…………………なる、ほ……ど?」

「なんでそんな話になるのよ」


 キョトンとするゼンと、呆れるリズ。セイルも眉を顰めたが、ブラッドフォードに見せ付けたあの件のことかと気が付いて、思わず吹き出した。


「オレ、見てたからな! この目ですっげー見てたから!」

「……何を見たんだ?」

「こいつらさぁ、訓練場の廊下でチューしてたんだぞ! チュー!」

「……ほう」

「あぁ……わかった。あの件ね。ゼン、違うの。アレは違うのよ」

「……チュー、したのか……」

「ゼン、聞いて? 違うんだってば。ラリィ、あんたもよ! 見るならちゃんと正確に見なさいよ!」

「正確に見たぞ! イチャイチャしてた! オレは班の中でそーゆーの、よくないと思うけどな!」

「違うって言ってるでしょ! ちょっとセイル! 笑ってないでちゃんと誤解を解いてよ!」

「いや……こいつ、ひと月近く気を遣っていたのかと思うと……」


 セイルは笑いながら先に歩いて行ってしまった。


「……で、2人はいつから?」

「ゼン! 違うって言ってるじゃない!」


 寒空の下、リズの悲痛な叫びがこだました。

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