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I'll  作者: ままはる
第六章
61/114

61.唐揚げ定食ライス大盛りコーラ付き

 ーーそして数日後。


 リズは初めてブラッドフォードが可愛いと思ってしまった。

 面白いほど思い通りに動いてくれたブラッドフォードのお陰で、第3部隊1班は道中の魔物討伐の案件を片付けながらという条件付きで、無事にリムの村までの遠征の許可が下りたのだ。


 ライトの話によると、会議でこの案を出してみたところ嬉々としてブラッドフォードが後押しをしてくれたそうだ。リムの村までの道程がどれほど危険なのかは、報告が上がっているので知っているはず。そして道中の魔物討伐の案件も、危険度の高いものを提示してきた。1班の何人かは死んでもいいと、本気で思っている容赦の無さである。


「俺は嫌だって言ったじゃないですか! 信じらんねぇ!」


 訓練場の談話室でこの話を聞かされたウィルは、案の定大反対の声を上げた。だがもう決まってしまったことである。


「リムの村まで往路は約ひと月。その経路にあるコールサウイ、ケアリス、グランチェスの案件を片付けながら行く。グランチェスでは支部に合流して欲しいそうよ」


 ウィルの抗議を苦笑いで聞き流し、リズは資料を広げながら説明をした。ゼンは少し困ったように資料に目を落とす。


「……3ヶ月か。長いな」

「フォトのことなら、その間ランクの家で預かってくれるそうだ。セアラが学校の長期休暇で帰ってくるし、お互いに遊び相手になるだろ」

「いいのか……?」


 フォトはグリーンヒルに戻ってきてからすぐに、目の手術を受けて視力はほぼ回復した。その入院中にゼンはアパートを探し、寮からの引っ越しも済ませた。ゼンとフォトの2人暮らしが始まってひと月程度しか経っておらず、色々な手続きがまだ山のように残っている。ゼンが長期間家を空ける時の預け先にまで、まだ手が回っていなかった。


「俺の無理に付き合わせて、お前にもフォトにも悪いと思っている」

「俺にも悪いと思ってくださいよ!」

「うるさい。お前は黙って付いてこい」

「……っ!」


 これ以上は言い返したくてもセイルが怖くて言い返せず、ウィルは言葉を無理矢理飲み込んだ。


「ウィルの為でもあるわけじゃん? 弥月にやられっぱなしじゃ悔しいだろ?」

「そりゃそうですけど……俺、村への行き方とか知らないですし」


 フォローするラリィに、いじけた様子で呟くウィル。


「なんで? お前の故郷だろ?」

「だから、すっごいヤバい山の中なんですよ。道らしい道なんか無いし、魔物だらけ。しかもこの時期、あっちは一面銀世界。雪山に遭難しに行くつもりですか!?」

「でも、村から出ることだってあったんじゃねーの?」

「年に1回だけです。創世祭にグランチェスに行く時だけ」

「だったらーー」

「知らないもんは知らねぇの! どうしても行くなら行けばいいけど、俺に道案内とかさせないでくださいね!」


 完全に臍を曲げてしまったウィル。ラリィは苦笑いを浮かべて両手を上げた。

 セイルはひとつ息を吐き、ウィルの首根っこを掴む。


「な、なんですか……?」

「昼飯。奢ってやるから付き合え」


 そのままズルズルとウィルを引き摺って談話室を出て行くセイル。

 リズは心配そうにゼンに目配せした。


「大丈夫かな……?」

「さすがに……暴力で解決はしないと…………………………思う」


「セ、セイル先輩……? あの、ごめんなさい……もう文句言わないんで、痛いのは勘弁してください……」

「何を言っているんだ、お前は?」


 ガタガタと震えるウィルを放し、前を歩くセイル。火のついていない煙草を咥え、食堂の方へ向かって足を進めている。


「……ゼンのクソみたいな親だったなら近寄りたくないのもわかるが、そうでもないんだろ」

「……まぁ。フツー、ですけど」

「だったら墓参りくらいしてやったらどうだ」

「……」


 それが嫌なのだと言いたいけれど、声にならなかった。

 両親が殺されて1年以上経った。けれどまだ目を逸らし続けていて、瘡蓋にもなっていない傷を抉りたくはないのだ。

 セイルは黙って俯いてしまった後輩を振り返り、ため息をつく。


「……どうしても嫌なら、グランチェスで待っていてもいい」

「……え?」


 遠くの方で、教会の鐘の音が聞こえて来た。セイルは足を止めないまま、その鐘の音に耳をすませる。


「俺の親は……少なくとも母親は、いい人間だったと思う」


 面識の無いゼンを引き取り、自分の子供と同じくらいの愛情を注ぐほど慈悲深い人。そして竹を割ったようなさっぱりとした性格の、気持ちの良い人だったーーと、ゼンや父親たちに聞いた。


「母親は俺がいなくなった時、最後まで諦めずに俺を探していたそうだ。俺が帰って来てからも、暫くは片時も俺から離れようとしなかった」


 帰ってきたことを泣いて喜び、記憶が無いと知ってからも、母は失望もせず前向きだった。


「無くなったものは仕方がない。また最初から積み上げればいいと言っていたな」

「……いい人っすね」

「死んだのはその半年後だ。病気に気付いた時には既に手遅れだった。その葬儀で、俺は何を思ったと思う?」


 ウィルは少しだけ想像してみた。子供の身を心から案じる優しい母親だ。当然、悲しいと思ったのではないのだろうか。

 セイルはウィルの答えは待たずに言葉を続けた。


「何とも思わなかった」

「……何でですか?」


 鐘の音が止んだ。セイルの脳裏に、母親の葬儀の日の光景が蘇る。

 棺を囲んで別れを嘆く家族たち。そして、その輪の外にいる自分。


「記憶が無いというのは、そういうことだ」


 所詮、知らない場所の知らない人。


 気持ちが落ち着いて来た頃に、罪悪感は抱いた。もしかしたら自分が突然いなくなったりしなければ、もっと早く病気に気付けていたかもしれない。帰ってきても記憶も無くしていた息子への心労が祟って、病気が進行したのかもしれない。けれど家族の誰もセイルを責める事はなかったし、今もなお家族の一員として扱ってくれている。それがまた、セイルの罪悪感をより一層強くした。


「好きな物を頼め。足りないなら、して欲しいことを言え。なるべく希望に沿ってやるから、それで許せ」


 いつの間にか食堂に着いていた。カウンターの前で、セイルはウィルに注文を促す。


「……ズルいですよ、セイル先輩」

「あぁ?」

「唐揚げ定食ライス大盛り、コーラ付きで」


 あんな顔をされたら、こっちが悪者みたいではないか。

 ウィルは注文を付け足す。


「ネコ、連れてっていいですか?」


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