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I'll  作者: ままはる
第五章
59/114

59.一緒に

 夕方――ウィルとリズは宿に戻り、公園での出来事を聞かされた。


「弥月の野郎、また訳のわからねぇこと言いやがって……誰と誰の喧嘩に巻き込まれたってんだよ」


「それで結局焔真が誰なのか、思い出せたの?」


「いや……」


 この場にいないセイルの代わりに、ゼンが答える。セイルは気分が悪いからと、外に出ている。


「セイル先輩の記憶が無いって、どういうことなんですか?」


「……」


 ゼンは少し考えてから、重い口を開く。


「セイルは13の時……誘拐されたことがある」


「誘拐……?」


「学校帰り……俺と離れていたほんの少しの間に、姿を消したんだ」


 当時の騒動をゼンは思い出す。

 待てど暮らせど家に帰って来ないセイルに、次第にランク家はパニックに陥った。近所、学校、友人の家――思い付く限りの場所を家族総出で当たり、警察も出動した。

 資産家の家柄の為、誘拐だろうと結論付けられたものの、犯人からの要求も無い。

 焦燥と諦めが入り混じり始めた半年後に、唐突にセイルは帰ってきたのである。


「帰って来た時には……それまでの記憶を全部、失くしていた」


 身体に怪我は無かったものの、自分がどこの誰かもわからない。

 父も母も、家族の誰の顔を見ても何も思い出せず、カウンセリングにも通ったが無駄だった。ただただ酷い頭痛だけがセイルに付き纏った。


「落ち着いていた時期もあったが……最近、煙草の本数が増えている。頭が痛むことが増えているみたいだ」


「セイル先輩の誘拐と焔真。それから弥月と、俺の指輪。全部繋がってる……?」


「……かもな」


 沈黙が落ちる。

 それぞれが何かを考えていたが、不意にフォトがクシャミをして、沈黙が破られた。


「あ、ご、ごめんな……さい」


「風邪……ひいていないか?」


「だ、大丈夫……」


 フォトの額に手を当てるゼン。フォトは少し嬉しそうにはにかんだ。


「距離、縮まったみたいね」


「その事なんだが……」


 ゼンはフォトの小さな手を握る。そして彼女の目を見て言った。


「俺と、一緒に暮らしてみるか?」


「え……」


「……色々考えた」


 フォトが幸せになる方法。

 どこか評判の良い施設を探すか、良い里親を見つけるか――

 いつか母親と同じ事をしてしまうかもしれない自分が引き取ることは、出来る限り選択肢から外して考えた。

 けれど同時に、この子が受けて来た痛みを理解出来るのは、自分だけではないのかとも思った。だとすれば、この子に必要なのは愛情だ。自分が救われたのは、間違いなくランク一家の温かい愛情だったから。


「こんな俺でも……お前にとって必要だと、思ってくれているのなら、俺はそれに応えたい。……どうだろう?」


「あ……ほ、本当に? お兄ちゃんのお家で?」


「新しい家を、探すところから……だな」


 寮では一緒には暮らせない。


「この街は離れることになるし……俺は、仕事で長く家を空けることもあるから……その間どうするか、問題は沢山あるが……」


「い、一緒に暮らしたい! 私、お兄ちゃんと……一緒が、いい!」


「じゃあ……そうしよう」


 弾けるような笑顔を浮かべたフォトの頭を、撫でるゼン。そしてそんなフォトに、ラリィが抱きついた。


「良かったなぁ、フォト! これでオレとも、いつでも遊べるぞ!」


「うん……!」


「本当に大丈夫なの?」


 小声でゼンに尋ねるリズ。正直、ゼンがその選択をするとは思っていなかったので驚いている。


「……わからない。大丈夫……ではないと、思う」


「だったら――」


「だから、助けてくれないか。俺が……道を踏み外さないように、見張っていて欲しい」


 ゼンはウィルにも目線を配る。


「俺ひとりでは、難しい事がたくさんあると思う……そんな時は、相談に乗って欲しい」


「まぁ、俺は別に」


「正面から助けて欲しいって言われちゃったら、助けてあげるしかないじゃない」


 リズは苦笑する。


「女の子だもんね。手は貸すわよ」


「……ありがとう」


 そう言ってからゼンは、フォトにべったりとくっついているラリィを引き離した。


「過剰なスキンシップは禁止だ」


「なんでー!? 今まで何も言わなかったじゃん!」


「今から禁止」


「急に兄貴面かよ!」


 言って笑うラリィ。


「そういや、この事セイルにはもう話してあるのか?」


 ゼンは頷き、この話をした時のセイルの顔を思い出した。


「物凄く……渋い顔をされた」


「でしょうね」


 リズが笑う。

 ゼンが寮を出ると言うことは、セイルの部屋に新しく人が入ることになる。あのセイルが、今更他人と同じ部屋で暮らせるとは思えない。


「セイルも、寮を出ると思う」


「2人ともいなくなるのは、それはそれで寂しいなぁ」


「班を離れるわけじゃない。嫌でも毎日、顔を合わせる」


「そりゃそーだけど」


 ゼンは再度フォトの手を握った。


「不甲斐ない兄だが……よろしく頼む」


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