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I'll  作者: ままはる
第五章
48/53

母との再会


⭐︎


ウィルたちがスラム街で炊き出しをしている頃、ゼンは喫茶店に居た。

いつも通りの無表情のゼンと向かい合って座るのは、ゼンによく似た顔立ちの中年の女性である。


「……ここに来るのは、やめて欲しい」


静かな声で言って、テーブルの上に一枚の小切手を差し出す。女は奪うようにそれを受け取ると、記載された金額に目を通してニコリと笑った。


「手紙を送ったって、一向に返事がないから仕方がないじゃない。どうせ義弟があんたに手紙を渡さなかったんだろうけどさ」


「……手紙」


受け取った覚えは無いが、察しはついた。


「じゃあ……もう用は無いだろう」


「待ちなよ。十年ぶりに会った母親に対して、随分と冷たいじゃないか」


「……」


もう十年も経つのかと、ゼンは胸中で驚いた。


「噂は聞いていたけど、本当にあんたが守護剣士になっていたなんてね。守護剣士ならお給料もいいんだろう?」


「……」


「魔法は父さん似だね。あんたは才能があると思っていたんだ」


「……」


「ちょっと。何とか言ったらどうなの。陰気臭い子だね」


「……話が終わったなら、帰る」


「ちっ。いいさ、また来るよ。あんたを産んで育てたのはあたしなんだから、恩返ししてもらわないとね」


「必要なら、送金する。もう……会いたく無い」


伝票を持って、ゼンは立ち上がった。

酷い目つきでこちらを見上げている母親を、ゼンは静かに見下ろす。


「……年を取ったな」


十年ぶりに顔を見て、声を聞いても、驚くほど何も感じない。ただ、迷惑だなと思っただけ。

女は目を見開き、汚い言葉で罵っていたが、ゼンは無視して店を出た。







ーーその日の夜。

激しく部屋のドアがノックされ、ゼンとセイルは顔を見合わせた。


「ゼン! ゼンはいるか!」


第三部隊長のライトの声。

ゼンは読みかけの本を閉じて立ち上がると、ドアの鍵を開けた。


「ゼン! 来たのか!? あの女が!」


血相を変えたライトが部屋へ入ってきた。

あまりにも騒がしいその声に、隣の部屋のラリィとウィルも、何事かと顔を覗かせる。


「どしたー?」


「おっさん。こんなトコで何やってんの?」


二人が部屋に入ってきても、ライトは構わずゼンに詰め寄ったまま。


「……どの、女?」


「お前の母を名乗る女が訓練場に来たと、さっき聞いたんだ!」


「あぁ……はい」


ゼンが頷くと、セイルは目を見開いた。


「は? 来たのか? 今日?」


「今日」


「どの面を下げて来たんだ……」


セイルは不快感を顕に舌打ちし、新しい煙草に火を付ける。


「ゼンて、母ちゃんいたの?」


「普通は、いるだろ……」


「何かされなかったか? 何を言われた? 何故私に知らせなかったんだ!?」


額を押さえて部屋の中を落ち着きなく歩くライトを、ウィルは不思議そうに見る。


「ゼン先輩の母親って、おっさんに関係ある?」


「関係ある! 可愛い私の甥だぞ!?」


「甥……おい? ん? 誰が?」


ウィルの頭の中を疑問符が飛び交った。


「ゼンは、ぶたいちょの兄貴の子供なんだっけ?」


ラリィの補足に、ゼンは小さく頷いて肯定した。


「え、マジで? おっさんとゼン先輩、血ぃ繋がってるんですか!?」


「ちなみに……これ、息子」


と、セイルを指差すゼン。


「……………………は? だ、誰の?」


「私のだ。知らなかったのか?」


ウィルはライトとセイルを何度も見比べる。


「いや、え? いやいやいや、だって有名でカッコイイ人だって……」


「第三部隊でぶたいちょ知らない奴いないしなぁ?」


「俺はカッコイイと思う……と言った」


「嘘だろ……」


頭を抱えるウィル。まだしばらくは現実を受け入れられそうにはない。


「そんな事よりも、ゼン! 母親は何と言ってきたんだ!?」


「金の無心を」


「渡したのか」


頷くゼンに、ライトは深いため息を吐く。


「一度渡せば、これから先もずっと続くぞ」


「会いたく無いので、送金すると、言いました」


「そういう問題ではない! どこまでゼンの人生を踏み潰す気だ……! 滞在先は? 私が直接話をしてくる!」


「……さあ」


「ひとりだったのか? 義父も一緒か!?」


「……さあ?」


あまりにもマイペースなゼンに、ライトも徐々に冷静さを取り戻していく。


「お前が剣士になってから、時々お前宛ての手紙がうちに届いていた。不愉快な字で不愉快な事しか書いていなかったから、お前には渡さずに全部破り捨てた。まさか直接会いに来るとは……すまなかった」


「いえ……読みたくないので、構いません」


「なんか、家庭環境複雑そうですね」


「だな。ややこしい母ちゃんなんかな?」


よくわからないまま部屋に居座るウィルとラリィは、こそこそと囁きあっている。


「母親が俺を身籠もっている時に、俺の本当の父親は死んだ」


「ゼン」


わざわざ話す必要は無いとセイルは止めたが、ゼンは少し考えてから、また口を開く。


「この間、弥月が俺の記憶を取っていっただろう。他人が見て面白い記憶は無いが……隠す事でもないし、知っておいて貰った方がいい、かもしれない」


そしてゼンは続けた。


「俺は、親から虐待されていた」

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