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I'll  作者: ままはる
第四章
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友達になろう

「……つ、疲れた……」


へなへなと力無く地面にへたり込むリズ。その後ろ頭を、セイルが軽く小突いた。


「顔、叩いて悪かったな」


「俺はドン引きしたけどな……」


セイルはゼンをジト目で睨み、そんな二人にリズは笑顔を浮かべた。


「リズ! このおバカ! 今日は有給休暇だって言ってんのに働いちゃって、ホントにバカ!」


「……ごめん」


「いや……リズがオレに素直に謝るとか、すげー怖いからやめて!」


笑いながら逃げるラリィ。


「リズ先輩」


「ウィル、ありがとう。ごめんね」


リズに抱き付き胸に顔を埋めるウィル。


「……ウィル?」


「あ。もうちょっとこのままで」


「こら、エロガキ! お前、さっきどさくさに紛れて自分の下心を暴露してたのわかってるのか!?」


「十三歳ならまだ許されるかと思って」


「許されねーよ!」


海斗に引き剥がされるウィル。


「とにかく街に戻って、セイルの肩とウィルの足、手当てしようぜ。もう疲れたし、撤収、撤収!」


と、ラリィが樹海の出口に向かって歩き出そうとした時、頭上から拍手の音が降って来た。


「ハッピーエンドだったね。良かった良かった!」


「弥月!」


高い木の上で、弥月はニコニコと笑顔でウィルたちを見下ろしている。


「ねぇねぇ、今回の作品はまあまあ良かったでしょ? リズの意外な一面も見られたしね」


「降りて来いよ、この野郎!」


ウィルは守護剣で、弥月のいる木を斬り倒した。弥月はふわりと軽く飛んで、地面に着地する。


「さてと。次は誰にしようかな?」


セイル、ゼン、ラリィを指差す弥月。

ウィルは構わず弥月に剣を振り下ろす。


「あー……ウィルはまだダメだね。この間のラリィみたいに、もっと迷いなく斬りつけなきゃ。人殺しになれないよ?」


「うるせぇ! 俺はお前とは違う!」


ダンスのステップのように、ウィルの斬撃を容易く躱す弥月。


「よし、次は君に決めた」


弥月はウィルの前からふっと姿を消し、ゼンの背後に現れた。咄嗟にセイルが短剣を向けたが、指先で剣を弾かれる。


「動かしちゃダメだって言ったでしょ? 手元が狂うと大変なことになるんだから。ーーさぁ、君はどんなドラマを僕に見せてくれるのかな。楽しみだなぁ」


リズの時のように、ゼンの首の後ろから光の糸が伸び、弥月の手中に手繰り寄せられていく。


「それ、記憶よ。勝手に人の記憶を取り出して、盗み見ているの!」


「記憶……?」


弥月の手の中に収められた光の球。そこに一瞬、ゼンの母親の顔が見えた。


「悪趣味だなぁ、おい!」


剣を奮うウィル。だが今度は、見えない防壁のようなものに弾かれた。


「ーー弥月。もう行こう」


焔真(えんま)


木立の陰から、白いフードを頭から被った男が出て来た。ウィルの剣を弾いたのは彼の魔法である。


「仲間がいるのか!?」


弥月に焔真と呼ばれた男は、目だけを動かしてウィルたちを見る。その視線がセイルに向いた時、一瞬だけ動きが止まった。しかしすぐに逸らして踵を返す。


「……帰るぞ」


「はいはーい。じゃあ、またね」


弥月が気さくに手を振ると、二人の姿はその場から消えた。


「な……何なんだよ、あいつらは……外国って、こんなんばっかりなのか!?」


状況についていけていない海斗は、不安そうに弥月たちが消えた空間とリズとを見比べた。


⭐︎


翌日、グリーンヒルに帰るリズたちと、蒼風国に戻る海斗は、馬車の停留所にいた。


「せっかく会えたのに、もう帰っちゃうのね」


「昨夜、色々と考えたんだ」


ウィルたちとは少し離れたところで、リズと海斗は挨拶を交わす。


「俺、今回は大学の研究の一環てことにして、なんとか無理矢理こじつけて出航許可を取って出てきたんだけどーー」


「大学って……海斗、すごいのね」


「……兄貴みたいになりたくなくて、必死なだけだよ」


「ううん。孤児院から大学に入れるなんて、並大抵じゃないわ。すごく立派だと思う」


「由利にそう言って貰えたら、なんだか自信がつくよ。ありがとう。ーー俺、これからもあの国でめちゃくちゃ頑張って、もっと皆んなが外の国に出入りできるようにしたいんだ。あの国の風通しを良くしたい」


実際にイシュタリアに来て、自国との違いに愕然とすることが沢山あった。

海斗は、蒼風国が嫌いではない。ずっと暮らして来た自分の国だから。だからこそ、このままではいけないと思った。


「それでいつかまた、由利に会いに来るよ。出来れば由利のいる街で暮らしてみたい」


「うん。すごく素敵だと思う」


「だから、さ……その……」


海斗は歯切れ悪く言いながら、右手をリズに差し出した。


「友達に……なってくれる?」


「もちろん」


リズは笑顔で海斗の手を握り返した。

何年も恋焦がれた。由利がいなくなってからは、後悔ばかりが押し寄せた。

どうしてもっと優しくできなかったのか、どうして救いの手を差し伸べる事ができなかったのかーー好きだったのに、笑顔を向けられたことなど一度もなかった。


「海斗? 大丈夫?」


「ごめん、嬉しくて……」


潤んだ目を強く擦る海斗に、リズは苦笑する。


「結婚しよう、ってもう言わないのね」


「もちろん、諦めてはいないよ。簡単に諦められるような、生半可な気持ちじゃないから。本当に俺、由利が好きだから!」


リズの頬が、微かに色付く。

こんな風に真っ直ぐに気持ちを伝えられたのは、初めてかもしれない。


「ありがとう」


「それから、渡すべきかどうかすごく悩んだんだけど……」


海斗は荷物の中から何かを取り出すと、それをリズの手の上に乗せた。


「これは……?」


ネックレスだ。細い銀の鎖に、綺麗な紫の石が付いていて、太陽の光を受けて光っている。


「銀の髪に、紫色の目……これを見た時、すぐに由利が頭に浮かんだ。多分あいつもそうだったんだと思う」


「え……?」


「それ、吉良が最期に握ってたらしい」


リズはもう一度ネックレスに視線を移した。

そして手の中に包み、静かに瞼を閉じる。


ーーあの出発の日。約束の場所に現れなかった吉良は、何を想っていたのだろう。

リズと一緒に行けないことを悔いただろうか。

それとも彼女をこの国から出すことが出来て、安堵していただろうか。

あの日吉良が語った夢が実現していたら、今頃自分は何をしていたのだろう。


「リズせんぱーい! もうすぐ馬車が来ますよー!」


ウィルの声に、リズは目を開く。

今は吉良が示してくれたこの道を、前を向いて歩きたい。


「ありがとう、海斗。会えて良かった」


「元気でな。ーーリズ」


手を振って、リズはウィルたちの方へ歩き出した。

海斗はリズたちの馬車が見えなくなるまでずっと、その姿を見送っていた。


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