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I'll  作者: ままはる
第四章
38/114

38.吉良


⭐︎


 弥月の手の中に、淡く光る球が握られていた。その光があるだけで、周囲には何もない。

 深い闇。天も地もない深淵に、弥月は立っている。


 光の球を覗き込むと、万華鏡のように色々な景色が見えた。弥月ではない、誰かの目を通して見える景色、声ーー


「ふぅん」


 それらを眺めながら、弥月は口元に笑みを浮かべた。

 この光の球は、リズの頭の中から取り出したもの。映像は、彼女の記憶。

 彼女自身も覚えていないような一番古い記憶から、順番に辿っていく。

 弥月はそれを映画でも観ているように、鑑賞した。

 とても、興味深い。


「可哀想な子だね、由利」







 蒼風国では異質な見た目の由利は、物心ついた時から異端児として扱われていた。

 白い肌に、宝石のような紫の瞳。ガラス細工のような銀の髪。

 他国の情報がほとんど入ってこない閉鎖的な国の田舎だからこそ、由利の見た目は特異であった。


 同世代の子供たちからは見た目を揶揄され、大人たちからは不吉を呼ぶ忌み子と疎まれた。

 それでも中には、赤子のまま捨てられた彼女を憐れむ人、優しい人も勿論いて、彼女は疎外感という感情を常に抱きながらも成長した。


しかし由利が8歳まで過ごした孤児院が火事で消失する事件が起きて以来、やはり呪われた子供だという烙印を押され、更に人々は彼女から遠ざかっていった。

 他の子供たちは方々に引き取られたのに、由利だけはなかなか行き場が決まらない。


 たらい回しの末ようやく引き取られたのが、海斗のいる孤児院。

 初老の院長と、母親代わりの職員が日替わりで3名。子供の数は10人ばかり。


 そこでも由利は仲間に入ることができず、勉強を教えてくれる寺子屋も由利を歓迎しなかった為、日中はひとりで本を読む生活をしていた。

 仲間には入れて貰えないが、衣食住は与えられていたので、生きていく上で困ることは特に無かった。


 そんな孤独だけの毎日に歪な亀裂が生じたのは、由利が12歳を迎えた頃。


「由利。熱いお茶を1杯運んでくれるかな」


 消灯時間になると、院長はそう言って彼女を時々部屋に呼びつけるようになった。

 言われた通りお茶を運ぶと、今度はお茶が冷めるまで、院長室の布団に横になるように言われる。


 初めは添い寝だけ。

 由利が孤児院の誰にもそれを言わないのを見ると、少しずつ院長の手は由利の身体に触れるようになった。そして程なくして、一線を超えた。


(……馬鹿みたい)


 自分の肌の上を這う舌も、荒くなっていく院長の息遣いも。

 身体の痛みが慣れていくにつれて、気持ちはどんどんと冷めていった。


(いつまでこうやって生きていくのかな)


 誰にも受け入れられず、性欲の捌け口となるだけの毎日。


(死んだら楽になれるかな)


 行為の最中は、そんなことばかりを考えた。

 そんなある夜。


「おい、クソジジイ」


 突然襖が開いて、男が部屋に入ってきた。


吉良(きら)……!? お前、なんでここに」


「久しぶりに弟の顔を見に来てやったんだよ。客間借りようと思ったら、随分楽しいことしてるじゃねーか。あぁ?」


 吉良と呼ばれた青年は、裸の院長の背中を踏み付け、由利を覗き込む。


「ガキじゃねーか。救いようのねぇクソだな! 2度とその汚ぇもん使えねーようにしてやろうか」


「ま、待て! 待て! ワシに何かすれば、海斗だってもうここにはおれなくなるぞ。それでもいいのか?」


「知ったこっちゃねーな。ーーおい。あんたは、どうして欲しい?」


「……え?」


「お前だよ。殺して欲しいなら殺してやるし、役所に突き出すなら呼んできてやるよ」


 金と黒のまだら髪を掻き上げながら、吉良は由利に尋ねる。


「殺すか?」


 由利は首を横に振る。


「じゃあ、通報するか」


 これにも首を横に振った。


「院長先生がいなくなったら、他のみんなが困るもの」


 吉良は大きな口を開けて呆れた。


「すげーお人好し」


 それから、襖の隙間から差し込む月の明かりに照らされた、由利の髪に触れる。


「何だコレ。金……銀髪?」


 由利は、また奇異なものを見る目で見られるのだろうと思った。

 だが吉良の反応は違った。


「すっげー綺麗だな!」


「え……」


「おい、ゲスエロジジイ。こいつ、ここのガキか」


「……そ、そうだ」


「ふぅん」


 吉良は由利に着物を被せると、抱き上げて院長室を出て行く。


「あの……?」


「オレは吉良。霜月吉良(しもつききら)。5年前までここにいたんだよ。海斗ってのがいるだろ? あれ、オレの弟」


「海斗……」


 誰のことかはわからなかった。


「ひでーことするよなぁ。この時間じゃ風呂も湧いてないし、身体拭いてやるよ」


「……大丈夫。慣れてるから」


「アホか。こんなもんに慣れちゃダメだろ」


 吉良は客間に入ると由利を下ろした。


「待ってな」


 そう言ってどこかへ行き、お湯を張った桶と手拭いを持って戻って来た。


「そういや、名前は?」


「……由利。如月由利」


「由利ねぇ……」


 固く絞った手拭いで由利の身体を拭きながら、吉良は首を傾げる。


「由利って感じじゃねーな。こう……エリザベス、みたいな」


「エリザベス……?」


「よし。お前、エリザベスな。だから、リズって呼ぶわ」

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