表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I'll  作者: ままはる
第四章
37/114

37.頭のおかしな民間人?

「あ。先輩。あいつです」


 ウィルが指を差したところにいたのは、ラリィに地面に押さえつけられながらも暴れる、黒髪の男だった。


「魔物の駆除をしててあぶねーって言ってんのに、なんかユリがどーのこーのって、言う事きかねーの」


「何かを……探しているらしいが……」


 ゼンも困惑した様子で、男を見下ろしている。


「放せっ! お前ら、緑国(りょくこく)のサムライだろ!? これだから外国人は野蛮で嫌いなんだ! ユリを知らないかって聞いてるだけじゃないか!」


 男の言い回しに、リズの眉が跳ねた。


「あなた、蒼風国(そうふうこく)の人?」


「ああ、そうだ! ちょっと、痛いって……」


 顔を上げてリズを見上げる男。そしてそのまま、ピタリと動きが止まった。

 リズの顔を凝視し、口を開けたり閉じたりしている。


「あ、か、かみ……髪……え……?」


「ほら、頭がおかしいでしょ?」


「だな」


 囁くウィルに、頷くセイル。


「ゆ……由利?」


「え……?」


如月由利(きさらぎゆり)! 俺……覚えてないかもしれないけど、海斗! 霜月海斗(しもつきかいと)!」


 リズは目を大きく見開いた。


「ラリィ、放してあげて。この人、私の知り合いだわ」


「リズの?」


 ラリィが力を弱めると、海斗と名乗った男は慌てて立ち上がった。


「海斗……なんでこんな所に……」


「由利に会いに来たんだ! 由利だよな? 間違いないよな!?」


「え、えぇ? ちょっと、海斗!?」


 と、興奮気味の海斗は、リズを思い切り抱き締める。


「おい、コラてめぇ! 気安くリズ先輩に触るな!」


「リズ……?」


 海斗はリズを放すと、その顔を覗き込むように、もう1度よく見た。


「リズって……名乗ってるの?」


「……うん」


「嘘だろ……」


「リズ? どゆこと? ユリって?」


 疑問符だらけのラリィ。

 リズは、自分でもよくわからないこの状況をどう説明しようかと思案する。


「取り敢えず、街に戻りましょうか」







「私、蒼風国出身なの」


 樹海の外で待たせていた馬車に乗って、滞在中の街へ戻る一行。その馬車の中で、リズが口を開いた。


「『如月由利』は、そこでの私の名前。蒼風国の孤児院で育ったんだけど、その孤児院で一緒だったのが、彼。霜月海斗」


 海斗は憮然とした顔で小さく頭を下げた。


「でもリズ先輩って、蒼風国の人っぽくないですよね?」


 蒼風国の人間は、そのほとんどが海斗のような黒髪で、肌の色も少し違う。小さな閉鎖的な島国で、着る物や家屋など、独特の文化を持った国である。


「蒼風国の血は入っていないのだと思う。生まれた時に捨てられて、父親も母親も誰なのか知らない。ただ『由利』って名前が書かれた紙だけが、一緒に置いてあったらしいわ」


 両親に関しては、どんな人たちなのか興味はあるが、特段会いたいと思ったことはない。


「あの国にいたのは、4年前の14歳まで」


「ある日突然、急にいなくなったんだ。みんな由利のこと探したんだよ」


「みんな、ねぇ」


 リズの呟きに、海斗は一瞬だけ目を逸らした。


「そ、それで、1年前くらいだったかな。風の噂で、緑の守護剣士? とかいうサムライが、紫の目をした綺麗な女だって聞いて」


 蒼風国では、他国を色で呼ぶことが多い。イシュタリアは『緑』、ティルアは『(せき)』、自国のことは『(せい)』と言う。


「そう言えば昔、緑のサムライになるって……『あいつ』が言ってたのを思い出して。だから、まさかと思ってダメ元で来てみたんだ」


 船で海を渡り、グリーンヒルに向かう途中で、近くに剣士がいるという話を聞いた。


「あの樹海で妖狩(あやかしが)りをしてるサムライがいるって聞いたから。サムライたちに直接聞けば、由利のことがわかるかと思ったんだよ」


「だからって、丸腰でのこのこ入って来られたら迷惑なんだよ」


「それは後先考えて無かったと思う。迷惑をかけて悪かった」


 ジト目でウィルに言われて、海斗は頭を下げる。


「本当に出会えるなんて思ってなかった。だって、由利がサムライだなんて……それに、髪……」


 リズの紫の髪を、哀しげな目で見つめる。


「そんな髪、由利らしくないよ」


「そう? じゃあ次は黒にしてみようかな」


「じゃなくて! 由利は、何もしないままが綺麗……なんだ」


「ありがとう」


 ニコリと微笑むリズ。

 海斗は赤くなる顔を両手で押さえた。


「海斗とこんなに喋るの、初めてね」


「……あの頃は、俺、ホントにガキだったから……でも、由利のこと本当に忘れられなくて……」


 足元に視線を落とし、口を閉ざす海斗。

 その横顔を見て、リズは突然心臓を冷たい手で掴まれたような、そんな妙な感覚を覚えた。


(嫌な予感って、本当にあるのね……)


 リズは何度か心の中で躊躇った後、口を開いた。


「吉良さんは?」


「……死んだ」


「そ」


 静かに窓の外に視線を向けるリズ。

 ガタガタと馬車が揺れる音だけが流れた。


「……え、何? 何でこんな暗い感じなの? 久しぶりの再会なんだろ? なんかもっと、明るい話題とかねーの?」


 なんとか場の空気を良くしようと、ラリィが努めて明るい声で言った。

 すると海斗は意を決したように顔を上げ、リズの手を取る。


「由利。結婚しよう」


「ぶっ……!」


 水筒の水を飲んでいたゼンが吹き出した。


「違う違う! 明るい話題って言ったけど、いきなりプロポーズしろとは言ってない!」


「海斗、何を言っているの?」


「4年間ずっと、由利のことを考えてた。いや、由利がいた頃からずっと、由利のことが好きだった! 今すぐ結婚して欲しいとかじゃなくて、とにかく一緒に青に帰ろう!」


「無理よ」


「どうして!?」


「……こういう話は、2人きりでして欲しいものだな……」


「俺たちが見えていないんだろ」


 呆れ返るゼンとセイル。


「私、守護剣士なの。自分の意思で辞められないのよ」


「じゃあ逃げよう!」


「頭のネジのぶっ飛び方が、ラリィ先輩以上だ……」


「海斗。お願い、やめて」


 静かな声で言うリズ。その頬に涙が一筋流れて、馬車内の全員がぎょっとする。


「ゴラァ! 土下座しろこの野郎!!」


「あ、えと、ご、ごめん! 悲しませるつもりはなくって……!」


「リズ? え? リズ? ど、ど、どした?」


「ち、違うの……これは……」


 慌てて頬を拭い、顔を逸らす。

 ーー馬車が街の入り口で止まった。


「由利……」


「ごめん、先に行って。あの人たちに泊まってる宿を教えておいてくれたら、後で訪ねるから」


「でも……っ!」


「ほい、海斗。しつこい男は嫌われるぞ? 折角だし、一緒に飯食いに行こうぜ!」


 ラリィに背中を押され、馬車から引き離されていく海斗。


「俺たちも宿に戻るぞ。リズのことは放っておけ」


「はい……」


 馬車から降りて力無くベンチに座り込んだリズを、ウィルは心配そうに遠目に見る。


「プロポーズされたのがそんなに嫌だったんですかね?」


「……誰か死んだと言ってなかったか」


 ーー吉良さんは?

 ーー死んだ。

 リズの頭の中で、この短い会話が何度も反芻する。


(……分かってた)


 きっともう、生きていないこと。

 分かっていたけど、足掻いていたかった。知りたくなかった。

 リズは夕焼けに染まり始めた空を仰ぐ。


「私、何やってるんだろ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ