101.ショータイム
「取り敢えず、乾杯でもする?」
リズがそう言った矢先、ウィルは目の前にあったビールを飲み干した。
「あっ! ウィル!」
「あーあ。後でぶたいちょも来るって言ったのにー」
「……よしっ。開き直った! 折角用意して貰ったんで、ありがたくいただきます!」
まだほんのり赤みの残る頬で、ウィルは料理に手を伸ばす。
リズたちも、それぞれ飲み物を手にした。
「誕生日会なんて、子供の時以来だな。あれは……セイルの11歳の誕生日……」
「おい、ゼン。それ以上口を開くな」
「お前の記憶が戻ったら、俺は昔の話をすると言ったはずだ」
「え? 何? 11歳のセイルの誕生日がどうしたんだ?」
「招いた同級生の中に、ソフィアというーー」
「やーめーろっ!」
「なになに? 私も聞きたーい!」
「私も興味があるわ」
「おい、貴族かぶれ! この飯、どうにか頑張ったら食えるようにならねーか?」
「それは僕のことかな? 頑張ってみたらいいのではないかな。食せるようになった暁には報告してくれたまえ。首を長くして待っているよ」
「なるほど! 頑張れば食えるようになるってことだな!」
「ラグエル殿……シュイ殿は、不可能だと言っていると思われるのだが……」
「おゎ!? て、てめぇは俺に話しかけるんじゃねぇ!」
「精霊さんたち、面白いね」
それぞれが賑やかに食事と会話を楽しむ中、キリーがそっとウィルの側へとやって来た。
「ねぇ、ウィル?」
「んー?」
骨付き肉にかぶり付きながら返事をするウィル。
「私のこと、嫌いになった?」
「はぁ?」
「だって最近、目も合わせてくれないし……」
「そんなこと……」
自覚はあるだけに、何も言えない。けれど勿論、嫌いになったわけではない。
「私、ウィルとずっとこんな感じだと悲しいんだけど」
「……」
ウィルは久しぶりに、キリーの顔を正面から見た。
いつも明るい笑顔の彼女の顔には、今は不安そうな表情が浮かんでいる。
(俺が避けたって何にもならねぇよな……)
「ちょっと、考え事してただけ。別に嫌いになったとか……そんなんじゃねーから」
「ホントに?」
頷くウィルに、キリーは嬉しそうに笑った。
そんなふたりを、ラリィは離れた席から満足そうに眺めている。
「ずっとこうやって、みんなでワチャワチャ出来たらいいなぁ」
「……ラリィ。お前、何を考えている……?」
静かな声音で尋ねるゼン。するとラリィは含み笑いで、ポケットの中に手を入れた。
「ふっふっふっ……オレの新技を披露してやろうと考えていたのだ!」
高らかに宣言したラリィは、ポケットから次々と、色とりどりの連なったハンカチを取り出して見せた。更にハンカチをひらひらと翻すと、それは一瞬で一輪のバラの花へと変化する。
「ラリィ君、すごい……!」
目を輝かせ、ラリィの手品に魅入るフォト。前回ラリィの手品を見た時は目がほとんど見えていなかったので、ちゃんと見るのはこれが初めてである。
バラの花はゼンの目の前で消え失せ、一個の小さな卵へと姿を変えた。卵はラリィが手を振る度に、指の間に一個ずつ増えていく。
「……?」
ゼンは不思議そうにラリィを見た。ラリィはニコリと笑い、両手を閉じる。
手の中から卵は全て消えた。
そして両手をパンッと打ち鳴らした次の瞬間、両手の間から真っ白な本物の鳩が現れたのだった。
「お見事ではないか、お猿君」
シュイを筆頭に拍手が起きる。
「シュイに褒められると嬉しいなぁ」
ラリィは鳩を撫でながら、満足げである。
「ホントにただの手品ですか? 実は魔法とかじゃないですよね?」
「オレが魔法なんか使えるように見えるか?」
「見えないですけど。ねぇ、ゼン先輩。ホントに魔法じゃなかったですか?」
魔法士にしか見えない魔力の痕跡は無かったかと、ゼンに尋ねるウィル。
「……あ……ああ……」
「目の前で見ても分かんなかっただろ?」
「……そうだな」
「また新しい技覚えたら見せてやるからな」
そう言ってラリィはビールを喉に流し込んだ。
やがてキリーたち精霊と入れ替わりに他の隊士たちやライトが合流し、ウィルのサプライズ誕生日会は賑やかに過ぎていった――




