100.サプライズ
「よぉ、ラリィ。この事件の犯人、また捕まえてくれよ。あぁ、次は間違えて殺すなよ?」
そう言ってニヤニヤと笑いながら、手に持っていた新聞をラリィに投げつける。
「あぁ? なんだ、てめぇ? 先輩に喧嘩売ってんのか」
「喧嘩売ってんのはてめぇだろ。守護剣士だからって調子乗るなよ、第三部隊のクソガキ」
「第二部隊だか第一部隊だか知らねーけど、偉そうな……むぐっ!」
「忠告してくれるなんて、あんた親切だな。今度飲みに行こうぜ」
「は?」
噛み付くウィルの口を手で塞ぎ、笑顔で男に礼を言うラリィ。
「誰が人殺しのジャンキーと飲みになんか行くかよ!」
「えー、残念。気が向いたら誘ってくれよな。安くて美味い焼鳥屋、紹介するからさ!」
「……ちっ」
挑発に乗って来ないことが面白くなくて、男は舌打ちして仲間のところへと戻って行った。
「おい、ラリィ。これは……」
セイルとリズは、投げて寄越された新聞に目を通していた。そこには、スラム街での連続殺人事件の記事が載っている。
「どっかの馬鹿が真似してるだけだろ? そのうちポリが捕まえるって」
「知っていたの?」
「オレも五日くらい前に知ったとこ」
「だったらすぐに教えなさい! 弥月の仕業かもしれないでしょ!?」
「そうかもなぁ。怪しいよな?」
まるで他人事のようなラリィに、リズたちは呆れた表情を浮かべた。
「ラリィ先輩。今から単独行動禁止ですからね」
「え? 何で?」
「そりゃそうでしょう! 仮に弥月の罠だとしたら、独りになんかできませんよ!」
「便所と風呂は?」
「……仕方ないから、俺が入り口で見張ります」
「そんなんヤだよ! それに、どっちかって言うとリズの方が危なくないか? あの時狙われてたのもリズだったんだし」
ラリィの言葉にウィルははっとして、リズの手を取った。
「二十四時間、俺がリズ先輩を守ります!」
「気持ちは嬉しいけど、女子寮は男子禁制だから」
そっとウィルの手を外し、笑うリズ。
「私は大丈夫。それよりも、本当に気を付けなさいよ。何かあれば、すぐに報告して」
「ウィルもリズも心配性だな。嬉しいけどさ」
「私はあんたの心配じゃなくて、弥月を捕まえたいだけだから」
「はいはい。そーですか。……それにしても、何がしたいんだろうなぁ?」
「復讐と銘を打った暇潰しだろ」
セイルが答える。
「弥月はな。焔真は? なんでわざわざ弥月の封印解いちゃったんだと思う?」
そう言われてセイルは、あの研究所にいた頃の焔真を思い出す。ラグエルも言っていたように、暗い目をして殆ど喋らない男であった。
「――『どうでもいい』」
「?」
「唯一、焔真がよく言っていた言葉だ」
他の囚われていた人間たちが焔真に質問をしても、返ってくる言葉は『どうでもいい』だった。無気力に、虚空を漂うようなその言葉だけが妙に印象に残っている。
「巻き込まれるこっちとしては、全然どうでもよくないんだけどなぁ」
そう言って天井を仰いだラリィは、何かを思い出した顔でウィルたちを見た。
「あ。準備が出来たから呼びに来たんだった」
「準備って?」
「いーから、ちょっと付いて来て」
キョトンとするウィルの手を引いて、ラリィは談話室を出る。その後ろをリズとセイルも付いて歩いた。
「ってゆーかリズ先輩とセイル先輩、俺に話があるんじゃなかったんですか?」
「そんなものは無い」
「はい?」
午後の事務仕事が終わった後、ウィルはこの二人に呼び出されて談話室に居たのだ。しかし特別何か話題があったわけではなく、なんとなく座って過ごしていただけである。
「ごめんね、ただの時間稼ぎだったの」
「?」
わけもわからず、ウィルはラリィに引っ張られて行く。
そして到着したのは、寮の食堂。更に食堂の中を抜けて、従業員たちの休憩室へと向かった。
「はい、どーぞ!」
「?」
「ドア開けて!」
勝手に開けていいものだろうかと戸惑いながら、ウィルは恐る恐るドアを開ける。
次の瞬間。
「ウィル、お誕生日おめでとー!!」
「おめ……でとう……!」
キリーの盛大な声とフォトの控えめな声、それと同時にクラッカーが鳴り響き、カラフルなリボンが宙を舞った。
「は……?」
呆然と立ち尽くすウィル。
部屋の中にはゼン、フォト、キリー、村雨、シュイ、ラグエルがいて、風船や折り紙で室内が飾り付けられていた。テーブルには料理や飲み物も並べられている。
ウィルはポカンと口を開けたまま暫し状況把握に努め、その後ゆっくりと回れ右をすると、ロボットのような動きで来た道を引き返した。
「どこ行くんだよ?」
「いや……無理……ナニコレ……」
「明日、ウィルの誕生日だろ? だからサプライズお誕生日会だ!」
「無理無理無理! ヤだ! 無理!」
これ以上ないほど顔を真っ赤にしてウィルは逃げ出そうともがいたが、ラリィにガッチリと捕まり部屋の中へと押し込まれた。リズはそんなウィルに苦笑する。
「やっぱり、恥ずかしいよね」
一応リズは、このやり方はウィルが嫌がるだろうと反対はしたのだが、ラリィの強い意思によって強行されたのである。
「ウィル殿。御尊誕の日を寿ぎ奉ります」
「この僕が誕生日に立ち会うだなんて、稀代の幸運だよ。僕に感謝したまえ!」
「美味そーだな……久し振りに飯を見たら、食いたくなってきやがったぜ」
村雨、シュイ、ラグエルの言葉も、耳まで赤い顔を両手で覆ったウィルには届かない。
「ウィル。この飾り付け、フォトちゃんがほとんど用意してくれたんだよ? ちゃんと見てよ」
「う、嬉しく……無かった……?」
キリーの言葉に、不安そうなフォトの声。それでようやく、ウィルは少しだけ顔を上げた。
「いや……嬉しく無いとかじゃなくて……」
「じゃなくて?」
「……恥ずかし過ぎて死にたい……」
「やだもー♡ ウィル、可愛いー! こんなに照れるウィルが見られるなんて、ラリィ君グッジョブだわ!」
「だろ? 因みに料理はジーナ筆頭に、食堂のおばちゃんたちからのプレゼント。後から他の隊士とか、ぶたいちょたちも来るからな!」
「ラリィに誕生日を知られると、こんな公開処刑に遭うのか」
「恐ろしいな……」
ラリィに協力はしたものの、セイルもゼンもこれが我が身に降りかかるのは、全力で拒否したいところである。




