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SHR 過去にうずもれた不穏

(ユキ、なんでそんな怯えた顔してるの…?)

 ティアと話すユキの様子が明らかにおかしい。

 顔の青さがコネリーたちとは桁違いだ。

「お、おい…あの二人、大丈夫なのか?」

「助けてやった方がよくない?」

 自分の回りにいたユキの友人たちも、ひどく狼狽えている。

 やはり、ユキとティアの間には何か深い事情があるのだ。

 そう確信した瞬間、体が勝手に動いていた。

「ユキ…」

 ユキの傍に駆け寄り、ずっと彼が握り締めている手に触れる。

 氷のように冷たくなっている手が、微かに震えているのが分かった。

 それにナギが目を見開いた瞬間、反射的な早さでユキがナギの手を払いのけていく。

「あ……」

 無意識に自分の手を守ったユキが、傍にいたナギを見て肩をすくませた。

 空色の瞳は恐怖に大きく揺れ、血の気の失せた唇が戦慄いている。

 心底怯えた顔。

 それはティアに向けたものではなく、明らかに自分に向けられたものだった。

「―――……」

 触れれば壊れてしまいそうなほどに危ういユキの姿。

 校舎裏の茂みでユキを押し倒した時に見たものと同じだ。

 どうして彼が今そんな顔をするのか分からず、ナギは何も言えずに立ち尽くしてしまう。

「にぃにー、お腹空いたぁー。」

 ふと下から幼い声か聞こえてくる。

それに、その場の全員が瞬間的に重い空気から解放された。

「え…あ……うわっ、もうこんな時間⁉」

 携帯電話の画面をあらためたユキが瞠目した。

 ルキアが空腹を訴えるのも分かる。時間は夜と言える時間に差しかかっており、太陽はほとんど建物の隙間へと沈んでいて、橙色の空は綺麗なグラデーションを画いて藍色へと染まりつつある。

「そ、そうだよ。ユキとコネリーが研究会なんか始めるからだろー。」

「ったく、体操のことになると時間を忘れるのは相変わらずだよなー。」

 ナギに続いて近寄ってきた友人たちが、からかうような口調でユキの肩を叩いた。

 皆この場の空気をまた重くさせまいと必死だ。

「……う、うるさいな!」

「ごめんねぇ~」

 すぐに周囲の意図を察したユキがぶっきらぼうに言って顔をしかめ、コネリーが茶目っ気を含めた笑顔で舌を出す。

「ごめんな、ルキア。もう帰ろうか。」

 ユキはルキアを抱き上げて、ティアから逃げるように公園の出入口に向かった。

 そんなユキを追いかけて彼を囲む友人たちは、まるで彼女からユキのことを守るようだ。

「悪い、ティア。」

 彼らの態度の意図を肯定するように、ティアにそう詫びたコネリーが遅れてユキたちを追いかけていく。

 その後に続こうとしたナギの腕を、ティアが力強く掴んだ。

「待って。」

 ナギは戸惑ってしまう。

 自分を引き留めるティアの顔が、やたらと険しそうだったのだ。

「ねぇ、あなた…もしかして、ユキのこと好きなの?」

「えっ…⁉」

 まさかの質問に面食らったナギは、それに答えることができなかった。

 彼女が自分の存在を認識したのは、たった数十秒前のこと。それなのに、この短時間の間で彼女は何を頼りにそれを見抜いたというのだろうか。

 ナギの狼狽から答えを得たのだろう。

 ティアはさらに眉を寄せた。

「もしかしてそれ、ユキに伝えちゃった?」

「……えっと…」

「まだなら、伝えないであげて。ユキのことが大事なら、そっとしておいてあげて。」

 矢継ぎ早に訴えたティアは、視線を下げて唇を噛んだ。

 その瞳に揺れるのは悲しみか、苦しみか。

 

 

「好きだって―――そう伝えたら、ユキが壊れちゃうから…。」

 

 

 ティアが告げた決定的な言葉。

 嵐がまた一歩、崩壊の気配を連れて忍び寄る――。

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