寝起きドッキリは勘弁してください。
(なんか、あったかい・・・・・)
ゆるゆると覚醒していく意識の中、自分が何かに包み込まれるようになっていることに気が付く。
少しだけ自分よりあったかいそれは、とても心地よくて、ほんの少しだけあった隙間がもったいなくて頬を押し付けると、すぐに引き寄せられた。
さっきよりももっとあったかくて、思わず満足そうなため息が漏れる。
すりすりと密着した頬を擦り付ければ、すべすべでそれでいて程よい弾力。
ついでに押し付けられた耳が穏やかなリズムを拾い、規則正しいそれにつられるように覚醒しかかっていた意識がまた眠りの中に沈み込みそうになる。
(むう・・・。これはけしからん。これじゃ、いつまでたっても起きれない・・・・・。ダメ・・・・起きなきゃ・・・・だって、まだやらなきゃいけないことが・・・・)
辛うじて生き残った理性さんの声がする。
けど・・・・気持ちいいんだよ。起きたくない。
大体・・・やらなきゃいけないことって・・・。
理性の声に逆らうようにいやいやと首を横に振り、ついでに温もりも堪能していた時、私の耳にクックッと押し殺したような笑い声が聞こえてきた。
耳に優しい、低い音・・・。これは、なんの声?
孤児院を出て一人暮らしの私の部屋に、他の人はいない。
って、言うか、布団は安物のせんべい布団でこんなに極上の温もりを与えてくれるものなんて、私の部屋にはない!
一気に覚醒したというよりは、ほとんど反射のように、ガバリと半身を持ち上げる。
「・…ああ、悪い、起こしたか」
そうして無理やりこじ開けた視界に飛び込んできたのは鮮やかな青と緑。
私の突然の動きに驚いたように見開かれた目がすぐにやさしく溶けた。
「すまない。どうにもくすぐったくてな」
…………はい。
アーシュさんの胸に乗り上げるようにして寝てました。
あげく、どうにも寝ぼけたままシャツをはだけさせ、素肌にスリスリしてた模様で………。
それは、擽ったいですよね………。
………………………。
「ウッキャァァァ〜〜〜?!!」
現状を把握した途端、飛び上がって叫んだ私に、アーシュさんの目が再び丸くなる。
あ、その表情なんか可愛い…………じゃなく。
寝ぼけてたとはいえ、男の人に抱きついたあげく、シャツの中に手を突っ込んで触るとか、スリスリするとか!!
痴女?痴女なの?!
お巡りさん、コッチです!?!
「あ〜〜、落ち着け、さくら?」
奇声をあげて後ずさった後は、どうしていいのかもわからずワタワタと手を振り回す私の頭を、アーシュさんが宥めるようにポンポンと叩いた。
「悪かった。連れ帰ったのはいいけど、俺も思いの外疲れが残ってたみたいで、さくらにつられてつい隣でうとうとしちまったんだ」
優しい指先にあやす様に髪を撫でられ、穏やかな声に少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
「私こそ。寝ぼけてたとはいえ…………ごめんなさい」
何を、とは言いたくありません。
と、いうか、恥ずかしくていえない。
触りまくってごめんなさいって、痴女か!
うぅ。分かってなかったんです。ごめんなさい〜〜。
「気にしてないし、気にすんな。それより、腹減らないか?」
もう一度軽く頭を撫でると、アーシュさんがベッドを降りる。
「用意しとくから、ゆっくりおいで」
そのまま、その場を後にしたのは未だ涙目で真っ赤の私を思いやってくれたんだと思う。
うぅ。イケメンめ。
こういう時の対応も完璧ですね!
深呼吸を数回。
どうにか顔の熱いのも落ち着いてきたから、急いで義足をつけてキッチンへと向かう。
て、いうか、よく考えたら義足外してるのってアーシュさんだよね。
私の足は膝下5センチくらいから生れつき無かった。
お腹の中で何かがあってうまく成長できなかったのだろうって事だけど、詳しくはよく分からない。
ひざ関節はあったから、義足も太ももで固定するタイプのものなので、外すにはズボンをたくしあげれば大丈夫…………な、はず。
けど、かなり際どいところまではあげられて……触られて………。
うん、私の精神衛生上、これ以上は考えない方向で。
義足作るときにはそれこそ、もっと色々見られたし触られたし。
意識ない時なんだから、これは介護よ、介護!
だいたい、アーシュさん、私のこと子供だと思ってるし、イケメンだから、色々慣れてそうだし。
クソゥ、イケメンなんて滅びてしまえ!
迷走する思考回路に振り回されつつもたどり着いたキッチンでは、アーシュさんがテーブルにカトラリーを並べてるところだった。
料理もできるイケメンとか、隙なしですね!ケッ!
と、振り返ったアーシュさんと目があったと思ったら、ふいにその顔が曇った。
「どうした?なんか疲れてる顔になってるが。もう少し休んでたほうがいいんじゃないか?」
………すみません。
恥ずかしさのあまりアーシュさんに責任転嫁してました。マジでごめんなさい。
だから、真剣に気遣わないでください。
罪悪感、半端無いんで。
「大丈夫。なにか手伝います」
思わずスライング土下座しそうになったのを気力で押しとどめ、誤魔化す様にヘラリと笑う。
「いや、もう終わるから座っててくれ。椅子の高さは調整したから、大丈夫だと思うが」
手にしていた皿を机に置きながら、目で椅子を示される。
クッションが重ねられて高さ調整されていた椅子は、いつの間にか新しいものへと変わっていた。
座面の高いカウンタースツールみたいな感じで、足をかけるところがあるから、私でも無理なく登って座ることが出来る。
おお、これは便利。
出かける前にご飯を食べたテーブルの上にはサンドイッチらしきものと具沢山スープ。中央にはフルーツらしきものが山盛り積んであった。オレンジにリンゴ…………後は、なんだろう?
「出来合いのもので悪いが味は保証つきだ。食べれるだけ、どうぞ?」
さっきの私の食事量を見て、自分で好きなだけ取れる様にしてくれたみたい。
本当に気遣いが細かい。コレだからイケメンは……。
サンドイッチは、チキンっぽいお肉が甘辛いタレに和えられたくさんの野菜と挟んであって、シャキシャキの歯ごたえと相まって美味しかった。
スープはいろんな根菜と肉団子がたっぷり入ったトマト味(?)。さっきよりは一回り小さなお椀に入ってた為、完食出来た。
良かった。ご飯残すのって、なんか罪悪感あるんだよね。
「もう良いのか?果物は?」
カゴごとズイッと押しやられたので、イチゴっぽい赤い実を1つ取ってみる。まぁ、見た目はイチゴだけど大きさは手の平サイズなんだけどね!
「このまま食べれるんですか?」
「ああ。先の方が甘くて美味いぞ」
尋ねれば頷かれた。
そこは、普通のイチゴと同じなのね。
そうして、すすめられるまま噛り付いた味のイメージとのギャップに思わず吹きそうになるけど、根性で飲み込む。
うん。ソロソロこんな落とし穴がある気はしてた。
してたけども、ね。
見た目はイチゴなソレは、スイカ味だった。
確かに、どっちも赤いけど…………甘いけど………。
「苦手だったか?」
「…………ううん。美味しい」
微妙な顔の私に気づいたアーシュさんが取り上げようとしてくれるのを、首を振って拒否すると、もうひとくち。
うん、やっぱりスイカ。
水分たっぷりで美味しいし、大好きな味で…………でも、見た目は巨大イチゴ。
なんだか、異世界に来たんだなぁ、って改めて感じちゃったよ。
ははは…………。
読んでくださり、ありがとうございました。
予想と違う味かくると、脳みそが混乱しますよね。
昔、麦茶と思って飲んだ水筒の中身がコーラだったことがあり噴き出したことがあります。
母め………。




