ギフトがわかりました。が………
「そいえば、さくらが寝た後にレイトンから預かって来たんだ」
食後のお茶を飲んでまったりとしていれば、アーシュさんが思い出したように小さな封筒を渡してくれた。
そういえば、能力諸々を調べでらって説明受けてる途中だった。
泣きじゃくった挙句、寝落ちしたもんだから、途中になってたんだ。
わざわざ調べてもらったのになんて失礼な………。
しかし、昨日といい私、こっちにきてから泣いてばっかりな気がする。
物心ついてから、人前で泣くことなんてほぼ無かったのに、どうした事か。
慣れないことするからなおさら疲れて結果寝落ちに繋がってる気もするなぁ………。
う〜ん、迷惑。
「………ありがとうございますって、レイトンさんに言いそびれちゃいました」
封筒を受け取りながら、何よりも気になったことを呟けば、慰めるように髪を撫でられた。
「また、次に会えた時でも良いだろう。気にするな」
「………はい」
優しい声に少し恥ずかしさが湧いてくる。
だって、今の私の発言、明らかに誘い受けだったよね。
失敗を慰めて欲しいって下心ありありじゃ無かった?
ウザくない?ウザくない?!
「………見ないのか?」
ヒッソリと後悔に打ちひしがれていると、どこかソワソワした様子のアーシュさんが促してきた。
あ、そうだよね。気になるよね。
シンプルな白い封筒は別段糊付けされている様子もなかったから、コッソリ見たとしてもバレなかっただろうに、律儀な人だなぁ。
隙あらば人の物まで自分の物のように持っててしまう人間が当たり前のようにいる環境に長くいた身としては、その律儀さが不思議というか驚異的。
………だめだ、毒されてる。
自分の育成環境の異常さを改めて再認識して遠い目になりながら、封筒の中身を取り出す。
これまた真っ白な便箋には、綺麗な文字が書かれていた。
ひどく馴染みのある文字が……。
「あれ?日本語?」
お役所での書類は全く読めなかったから、この国の文字は日本とは違う独自のものなんだと思ったんだけど。
「レイトンは渡り人マニアだから。さくらの国の字を書けたとしても不思議じゃない」
首を傾げてたら、向かいからツッコミが飛んできた。
あ、レイトンさんが特別性なだけですか、そうですか。
この世のものとは思えない美形を思い出し、天は二物を与えるんだなぁ、なんて思いながら改めて便箋に目を落とす。
《さくらへ。
目が覚めて、気分はどうですか?
伝えそびれてしまいましたが、さくらには【萌え】というギフトが付いていました。
私の能力ではザックリとした内容しか分かりませんが、どうも他者から庇護や慈しみの感情を引き出す能力のようです。
詳しく知りたければ、大聖堂の水晶球を利用するか、生活していくうえで自分で分析していくしかないと思います。
少なくとも、さくらにとって不利になる能力ではないと思うので、安心してこの世界を楽しんでください。
また、お会いしましょう。
レイトン》
………………はい?
えっと、とりあえず、どこから突っ込んで良いものか………。
まぁ、さしあたり。
「レイトンさんのキャラがずいぶん違うんですが、コレは慣れない日本語での文章によるものでしょうか?それとも、実はさっきの喋り方はからかわれていただけ?」
手紙は伝えたい事が簡潔に。しかも丁寧に描かれていた。
少なくとも、これを読む限りは「真っ当な大人」という感じだ。
「そこになんて書いてあるかは分からんが、レイトンの話し方ならいつもあんな感じだぞ?」
混乱なままに呟いた私の言葉にもきっちりと返事が返ってくる。
アーシュさん、良い人だ。
って、違った。
現実逃避している場合じゃない。
ギフトが【萌え】って………。
芽生え、とかの真っ当な方の意味じゃない………よね。コレは多分。
だって、レイトンさん、庇護とか慈しむとか書いてるし………。
て、なるとコレはやっぱりあっちの意味………?
「庇護とか慈しみ、とか。たぶんなんか違う気もするんだけど………。いや?大きな意味じゃ間違ってないのか?」
「さくら?」
ブツブツとつぶやく私を、アーシュさんが不思議そうに見ている、けど………。
これ、なんて聞いたら良いんだろう?
「あの………アーシュさん。萌えって分かります?」
とりあえず、ストレートに聞いてみる。
「モエ?何か燃やすのか?」
…………うん。煩悩を燃やすって意味では合ってるね!
でも、そうじゃない。
「たぶん、私のギフトみたいなんですけど………。なんていうか私のいた国のスラングで………」
なんで説明すると分かりやすいのか。
正直、私にもよく分からない感覚というか縁遠い言葉だったのでうまい言い方がわからない。
しどろもどろで言葉を探す私を、いつの間にやら側に来ていたアーシュさんが抱き上げて、ソファーの方へと移動していった。
あくまで優しく甘やかすような手つきで髪を撫で、見つめる。
なんだか、嬉しいような居心地の悪いようなムズムズする気持ちに首をすくめた時、ふいに、1つの考えが胸に落ちて来た。
ギフト【萌え】
萌えって、私の考えだと好きでたまらないという衝動、みたいなものだ。
つまり、レイトンさんの言ってた意味もある意味間違ってはいない。好きなら守ろうとするだろうし、甘やかそうともするだろう。
そして、そのギフトを持っている私は、出会った人にそういう感情を無条件で持たせてしまうんじゃないだろうか。
それって…………。
「どうした?」
見上げれば、私を膝にのせたまま私をじっと見つめる青と緑の瞳。
出会って目が合った瞬間から、その優しい色は変わらない。
親切な人、なんだと思っていた。
右も左も分からない、放っておけばすぐに死んでしまいそうな弱い存在を、放っておけずに、何くれとなく面倒を見てくれて。
でも、それは、本当に?
例えば、自分だとして。
見殺しにするのは後味が悪いから森から街までは連れてくるとおもう。
だけど、役所があるくらいしっかりとした社会があって、さらに言えば、私みたいな迷い込んだ人間を保護する仕組みだってあるらしい、そんな場所にきたら、きっと公共機関にお任せする。
だって面倒そうだし。
薄情に感じるかもしれないけど、それが普通じゃない?
人、1人分の人生は重い。
それを、出会って直ぐに抱え込もうとするなんて………。
知らない世界に迷い込んで不安の中、無意識に見ないようにしてきた違和感が、ここにきてムクムクと湧き上がってくる。
思えば、アーシュさんだけじゃなく、役所で会ったラザイアさんやホルンさんだって、出会った瞬間からやたらと好意的だった。
そして、そんな事、元の世界では一度だってなかったじゃない。
だって、私はどこの誰から生まれたともしれない孤児で、体に欠陥を抱えてる出来損ないだ。
他人から無条件に愛されるわけ、ない………。
スゥッと血の気が下がる。
私が望んだわけじゃない。
だけど、いつの間にか手に入れていた能力が無意識に発動してアーシュさんや他の人たちの心を動かしていたんだと、したら。
「さくら?どうした?顔色が………」
心配そうに覗き込んでくるアーシュさんの体を気がつけば押しのけていた。
そうして、膝の上から。
暖かな腕の中から飛び降りる。
突然の行動に、アーシュさんがびっくりしてるけど、気遣う余裕なんてなかった。
だって、私がしたかもしれない事は。
もし、思った通りならば、本当に最低だ。
人の心を操って好意を引き出す、なんて………。
ジリッと体が無意識のうちに後ろへと後ずさった。
「…………さくら?」
ジリジリと逃げる私に、アーシュさんのびっくり顔が心配そうなものになる。
だけど、その気遣いすらも、私のギフトのせいかもしれない………なんて。
出会ってからの優しくしてもらった記憶が、嬉しかった思いが体の中を渦巻く。
私の思いは私のものだ。
だけど、アーシュさんは?
「ごめんなさい!!」
気がつけば踵を返して走り出していた。
唐突な私の行動に面食らっていたアーシュさんが、反射のように追いかけてくる。
だけど、私とアーシュさんじゃ、追いかけっこにすらならない。
部屋の扉にたどり着くことすら出来ず、伸ばされた手に捕まりそうになって、叫んだのは、何を考えてのことでは無かった。
「いや!触らないで!!」
ビクッとアーシュさんの体が不自然にはねだ気がしたけど、確認する余裕なんてなかった。
私はその一瞬の隙に扉を開け、部屋の外へ。
そして、家の外へと走り出していた。
読んでくださり、ありがとうございました。
さて、ようやくさくらのギフトが本人に伝わりました。
『萌え』
ググってみるとなかなか意味が広く面白かったです。おヒマな方はどうぞ(笑
それを踏まえて、さくらの能力として使えそうな現象をピックアップ及び捏造していく予定ですが、あくまで作者の『萌え』という言葉に対するイメジージがメインとなっていますので、なんか違う!という反論は受け付けておりません。
逆に『萌え』ならこんな力もありじゃない?というご提案は随時受け付けておりますm(._.)m
そして、アーシュ視点のお話を1話飛ばして掲載してしまいました。
割りこみの方法がわからなかったので、活動報告の方へ載せておきます。
読まなくとも本編に支障はありませんが、アーシュのイメージはおそらく崩壊していると思われます。
今のアーシュがお好きな方は見ない事をお勧めします(笑




