町での生活にも慣れてきました〜見守られてたみたいです。
お久しぶりです。
「さくらちゃん!新鮮なお魚が入ってるよ〜。夕飯にどうだい?」
「今日はお肉の日なんです。ごめんなさい!」
飛んで来た軽快な声に笑顔で返事を返す。
市場の賑やかな喧騒は、なんだかコッチまでウキウキした気分になるよね。
この世界に来て、早いものでもう1ヶ月が過ぎた。
初めの頃は普通に歩くことさえ苦労した市場の喧騒も、今では笑顔でやり取りできるくらいに慣れたものだ。
顔馴染みの魚屋のおじさんが「じゃぁ、また今度な〜〜」と笑顔で手を振ってくれるのに振り返しながら、私は半ば駆けるような足取りで先へと進む。
って言っても、杖つきながらだし、小ちゃいから他の人から見たら早足の速度にもなってないんだけどさ!
でもでも、隣を颯牙が歩いてくれてるおかげで、人混みに流される事も潰される事もなくなったし!
1人で外出も平和に出来る。
ビバ!デカわんこ!
うちの子、しっかり者ですごく出来るワンコなんです!
一家に一匹。デカわんこ、いかがですか?!
「さくらちゃん、寄ってかないのかい?」
と、馴染みのお肉屋のオバちゃんの声。
どうやら、さっきの魚屋さんとのやりとりが聞こえてたみたいで、通り過ぎようとしてる私に、不思議そうな顔で声をかけてくる。
「また後で寄ります。先に先生のところにお使いなので〜〜」
「あぁ!気をつけて行くんだよ!」
手を振れば、納得したようにオバちゃんが手を振ってくれた。
《先生》はレイトンさんの事だ。
この世界の一般常識、及び、魔法のことを教わっているのである。
最初に調べてもらった時には一般人にも劣るほどにしか魔力がなかった私は、現在、突如跳ね上がった魔力の制御を覚えるために日々研鑽中なのである。
魔力の跳ね上がった原因?
もちろん、うちのデカわんこの所為だ。
私がうっかり契約してしまったワンコは普通のワンコではなく、かなりの魔力の持ち主だったそうで。
それでも、普通の契約だったら問題なかったのだけど、初めて感じた魔力に浮かれて(たぶん一種の魔力酔いだったんだろうと言われた)やらかしてしまった
『魂魄契約』。
これが曲者だった。
自分と相手の魔力を足して2で割ったものが自分のものになる………って、なにそれ?
しかも、ワンコと思ってた相手は、どちらかといえば精霊と呼ばれる存在寄りの生き物だった為、かなりの魔力を保有しており、結果、私の使える魔力量までどーん、と跳ね上がってしまったのだ。
『さくら、足元危ない』
不意に腰のあたりをぐいっと引かれ、たたらを踏む。
振り返れば、チェニックを咥えてこっちを見上げるデカわんこ。………もとい、颯牙の姿がある。
視線を前方足元に戻すと積まれた木箱があって、どうも考え事に夢中になるあまり、うっかり突撃をかけそうになっていたみたいだ。
「………ありがとう、颯牙」
ポンっと頭を撫でれば、ふわりと桜色の瞳が嬉しそうに細められた。
あの日から、颯牙はいつでも私のそばにいた。
大きな体は威圧感があるはずなのに、不思議と私の気に触ることはなくて、今では、その気配がそばになければ、不安になってしまうほどだ。
自分の依存っぷりにビックリだったけど、『魂魄契約』ってそういうものだと先生に教えてもらった。
魂と魂を結びつけることであらゆるものを共有してしまうらしい。
それは魔力だったり感情だったり。
そして、彼我の距離が離れると様々な弊害も起こるらしく、それに対する反応として、相手の存在が感じられなくなると不安を覚えるそう。
内訳を聞けば聞くほど、良く颯牙がそんなトンデモ契約を受け入れてくれたものだと驚く。
だって、私的にはメリット多数でも、颯牙的にはデメリットの方が多そうなんだもん。
実際、先生に『魂魄契約』の内情を教えてもらった時には、速攻で私の膝を枕にくつろいでいた颯牙に「ごめんなさい」したからね。
まぁ、ちゃんと颯牙側にも拒否権があって、イヤだと思えばあっさりと断れるものだと知って安心したけど。
つまり、颯牙は自分の意思で私と共にいてくれる事を選んだんだって。
その事を理解した時は、何度もありがとうを繰り返してしまった。
なんで、私なんかを颯牙が受け入れてくれたのかは分からないけど、とっても嬉しかった。
『さくら、行かないのか?』
ジッと颯牙を見つめたまま動かない私に、颯牙が不思議そうにこてんと首を傾げた。
「うん。行く」
なんとなく、颯牙の首の辺りに片手を添えて歩き出す。
颯牙は大っきいから、支えにするのに丁度いいんだよね。
颯牙も慣れた様子で、私の速度に合わせて歩いてくれるから、最近じゃ、杖をつくより楽に歩ける。
たまに急ぎ足の人が突っ込んできても、颯牙の誘導のおかげでスルリと避けれるし、本当に優秀。
元の世界で介護犬っていたけど、こんな感じなのかな?
いや、うちの颯牙の方が絶対に優秀ですけどね!
最初はあまりに大きな体に遠巻きにしていた街の人たちも、颯牙がとても優しくて賢い事を知った後は、気軽に颯牙にも声をかけてくれる。
「さくらちゃんのボディーガードお疲れさん」とか「今日もお世話大変ねぇ」とか………。
あれ?
なんか颯牙が私の保護者ポディションとして認知されてない?
あれ?
ま、まぁ。
この街の人たちはみんな親切で優しい。
どこの誰かもわからない小娘を温かく迎えいれてくれるくらい、懐も深い、最高の人達なのだ。
「さくらちゃん、これオヤツに持って行きな」
「わあ!ありがとうお婆ちゃん!」
「ソウガでも食べれるように香辛料は入ってないからね!」
「ワウワウ」
顔見知りのお婆ちゃんに蒸したての肉まんもどきを渡されて、颯牙といっしょにお礼を言えば、笑顔で頭を撫でられた。
………うん。見事な子供扱い。
何も言うまい。
そんなほのぼの交流に夢中になっていたさくらは、ちっとも気づかない。
さくらにぶつかりそうになった男が、わざとだったことにも。
避けた後に、ちらりと視線を流した颯牙が剣呑な眼をしていたことにも。
そして、笑顔の魚屋のおじちゃんその他に、男がさりげなく物陰に引き込まれた事にも。
なんにも、気づいていないのだ。
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『アシュレイ=サンドラング』
それは、冒険者で一国に5人いれば凄いというSSガード所有者の1人であり、副都心であるこの街の住人ならその顔と名前を知らない人間はいないと言われるほどの有名人だ。
中でも有名な逸話としては北の魔の森から溢れたモンスターのスタンピートをわずか数人で抑えたものが挙げられるだろう。
当時はまだAクラスだったアシュレイは、出現したモンスターの中にいたドラゴンを単騎で叩き伏せたというのだ。はっきり言って人間業ではない。
燃えるような紅い髪と美しい紅蓮の花が宿る緑と青のオッドアイがトレードマークで、若い娘なら一度は憧れると言われるほどの整った容姿を持っている。
天は二物を与えず、なんて嘘っぱちだと、彼を見るとしみじみ思うような存在だ。
最も、素晴らしい才能と容姿を与えられた分、笑顔は母親の腹の中におき忘れて来たんだと言いたくなるほどの無愛想の為、たいていの娘たちが声をかけることもなく挫折して行く。
そのおかげで、意外なほどに同性からの妬みは少ないんだから、世の中うまく転がって行くものなんだろう。
国中を転々とした彼が、数年前のスタンビートを機にこの街に居を構えた時はちょっとしたお祭り騒ぎになったものだ。
北の森での間引き作業を国から依頼されたためだと噂されているけど、本当のところは不明だ。
まぁ、彼のおかげで劇的に魔物被害も減ったので、あながち嘘というわけでもないんだろう、というのが街の住人の大まかな共通認識ではある。
そんな大注目の有名人が、ある日どこからか小さな女の子を連れてきたとあっては、街がフィーバーしないわけがない。
さらに言うなれば、死滅しているともっぱらの噂だった表情筋が仕事しているとなれば、一部では阿鼻叫喚が広がったとしても、それはもうしょうがないというものだ。
しかし、表立って騒げばアシュレイの視線が怖い。
さくらの見えないところでひっそりと眼光を飛ばし牽制してくるのだから、暗黙の了解で「あの子は誰だ?」と好奇心を抑え、皆んなで見守る事となった。
そうして、しばらく後にチョコチョコと街を歩くようになった少女といえば、少し伏し目がちで内気だが、慣れてくれば可愛い笑顔で挨拶してくれる、とっても素直な良い子だった。
事、年寄りの話を嫌がるどころか嬉しそうに聞いてくれるとあって、街角で暇を持て余していた老人たちが諸手を挙げて歓迎した。
過去の自慢話に目を丸くし、ウンチクを語れば感心したように賞賛の視線を向けられる。
過去の古傷を見せれば、痛かっただろうと涙ぐみ、些細な贈り物〜駄菓子や手作りの玩具など〜に本気で喜んでくれる。
まさしく理想の孫!
そんな街角の老人たちの中に、ひっそりと過去の英雄〜凄腕の冒険者や魔法使いなどなど〜が混ざっていたこともあり、いつの間にか「さくらちゃんを見守ろうの会」なるものが結成されていたのだ。
時間とともに会員が増えていく(さくらに魅了されていくともいう)その会が、いつしか町ぐるみの大規模なものになり、下手な王侯貴族では手出しできないほどの力を持っていたりするのもご愛嬌。
こうして、稀によそ者が無防備にそぞろ歩くさくらを手を出そうとしてはひっそりと排除される体制が出来上がり。
今日もさくらは颯牙と共に元気に町を歩くのである。
読んでくださり、ありがとうございました。
ギフトがいい仕事してるのか、たんにさくらちゃんが良い子なのか。
お年寄り好きは元の世界からです。
知らない話をしてもらえるし、早く動けないさくらちゃんでも、お年寄りのペースなら付き合えるので、まぁ、ウマが合う感じ?
そして、アーシュくんが空気な件について。
最終的にはさくらちゃんが「嫌」っていえば、アーシュ君すら排除されそうな気が………(汗




