休演要請
黒と白の巨大な騎士と魔法使いが、朝日を反射して煌く。
それらがゆっくりと立ち上がると、その振動に森の木々の隙間から鳥が驚いて羽ばたいて空へと消えていく。
ボクたちは朝早くから里の外れ、森近くの広場にいた。
これからリリーとコリーの二人が、ドラグーンで一度ウェルチの町に戻るのだ。
『それじゃユーリ。 行ってくるよ。
あちらにはそんなに滞在しないから往復でも1週間はかからないと思うけどねぇ』
「ドランさんとカイルさんによろしく!」
「リリアナ様、コルネリオ様。 慣らしは終わっているとはいえ、オーバーホールで出力がかなり上がっています。
マスターのチューニングはピーキーですので、操作にはお気をつけて」
『……了解した』
二人のドラグーンは整備が終わり、その装甲も新品同様に輝いている。
流石に全装甲をエーテライトに変えるなどは資材の関係もあって無理だったけれど、その分これまで調整さ
れていなかった制御系や流体魔素繊維の高出力化など見えないところではかなりの改善を行っている。
一番大きいのが、魔力放出型飛翔翼の改修だ。
二人のドラグーンが一体どのプレイヤーが利用していたものかは判らないけれど、本体はともかく魔力放出型飛翔翼はほぼ初期性能のブースタータイプのものだった。
そのため、優先的にこちらをボクの製作スキルで作ったウィングタイプのものへと換装したのだ。
製作スキルでの開発の様子は、また折を見て触れることもあるだろう。
とにかく、趣味と実益を兼ねてボクの趣味満載でイチから作った物を搭載したわけだ。
その結果……。
「うーん、なんかロボット同士で戦う某ゲームに出てきそうなデザインになったよね。
アシュケロンなんて戦闘時の展開状態だと黒焔の狩人っぽいし」
「マスター、それ以上はいけません」
ちなみに、コリーさんの白いドラグーン、セイメイの方は白い羽根っぽいタイプだ。
2機とも、厨二心をくすぐるようなデザインとなっている。
……いいじゃん! ボクの趣味なんだよ!
ロボットにはウィング、これは外せない。
くだらないことを考えているうちに二人の出発準備が整ったようだ。
背部の魔力放出型飛翔翼から薄緑の魔力が放出され、低い唸りのような稼動音を響かせている。
一度試運転はしているとはいえ、この世界に来て初めての製作スキルによるパーツ作成だったため正常に稼動するのをみると改めて安堵感を感じる。
『よし、コリーいけるね? それじゃユーリ、いってくる!』
『……では』
二人の機体がゆっくりと浮かびあがると、そのまま森の方へ飛び去っていく。
朝の日の光に照らされるように、薄緑色の光の軌跡が淡く輝いて消えていった。
二人を見送って城に戻ろうと散歩がてらアリスと手をつないで歩いていた所、なにやら騒がしい。
見れば、サリーナとイアンが慌てた様子で門番と話をしている。
「サリーナおはよう! 何かあったの?」
「ユーリ様! 大変なんです、コボルトの村が……!」
「サリーナ落ち着け! 報告はコイツじゃなくて長老にすべきだろう!」
どうやら、未だイアンのボクたちに対する敵対心は抜けきっていないようだ。
この里に来てそろそろ一月が経とうとしているのに、少し寂しい。
ボクなんて、こんなにも愛らしい無害な幼女だというのに。
ここは一つ、かの有名な台詞でも言って無害アピールでもしておくべきだろうか?
「プルプル、ボクわるいハイエルフじゃないよ!」とか……
「マスター、何か変な事を考えていませんか?
こちらの文字が読めないのはしょうがないですが、空気は読まないと」
「っ!? アリスひどい! ボクはいつだって真面目だよ!」
心外である。
「うるせぇ! いいからさっさと長老の所に行くぞ!」
あ、怒られた。
「なるほど、コボルトの集落がオークに襲われた、と……」
エルアリアさんの執務室で、ボクたちはサリーナの報告を聞いた。
コボルトはご想像の通り犬のような顔をした亜人である。
ご多分に漏れず、ゴブリンと並んで弱いというイメージがあるがそれなりに知恵を持ち集団生活を送っている種族でもある。
この森においては、コボルト族は中立という立場ではあるがあまり多種族と関わらないがゆえであり、同じ森に住む種族としてエルフの里とは定期的な近況報告などはやり取りをする間柄だそうだ。
そしてオーク。
こちらもご多分に漏れず、それほど強くはないがやはり集団で生活をし、なにより奪い、襲い、喰らうという非常に厄介な性質を持つ豚頭の亜人である。
奴らは多種族の女とでも子を成す事が出来るため、特に人間を襲っては捉えて嬲るという習性を持つ。
まぁ、エルフにとっては敵ではない程度の強さなので、滅多な事ではオークに捕まることなどないのだけれど。
しかし、コボルトにとっては怨敵とも言うべき相手だろう。
とはいえ、個としては微妙なコボルトも集団としてはそれなりに強く、これまでは小競り合いはともかくとして集落そのものを襲うといった大規模な戦闘は発生したことがないとの話だった。
「森で見つけたコボルトの伝令は、既に致命傷を受けておりその事実を伝えた所で事切れました。
長老、いかが致しますか? 同盟を結んでいる訳ではありませんが……」
イアンが丁寧な言葉でエルアリアさんに報告する。
こうしていると出来るエルフっぽいのに……
「そうですね。 しかし、同盟を結んでいないとはいえ同じ森に住み、同じくオークを敵とする者同士。
なにより、これまでに集落が襲われるなどありませんでした。
何がオークをそのような行動に駆り立てたのかが気になります。
なにしろ、次は我々の番かもしれないのですからね。
……ユーリ様、この婆は救援を向かわせ原因を探らせたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
エルアリアさんがボクに問いかける。
と同時に、イアンがボクを睨みつける。
……いや、別にボク何もしてないでしょうに。
「ボクはこの森について殆ど知りません。 なので、エルアリアさんが良いと思う方針で良いと思います。
なにより、別にボクの承諾を得る必要なんてないって言ってるじゃないですか」
ポリポリと頬を掻きながら答えると、エルアリアさんはとても良い笑顔を浮べて答えた。
「臣下が王の許しを得るのは、当然のことでございますよ? 我がエルフの王よ」
「あぁ? お前らも着いていくだと?
足手まといだ、グレアムの爺さんの所で玩具作りでもしてればいいだろう!」
「イアン! ユーリ様に向かってそんな口を!
すみませんユーリ様、イアンには後できちんと言って聞かせますので!」
うーん、ボクがサリーナを奴隷にしてたって誤解は解けたはずなんだけど。
なんでここまで敵視されるのかちょっと原因がわからない。
ここはやはり一度関係を修復しておくべきだろう。
意を決して、ボクは口を開いた。
「プルプル、ボクわるいハイエルフじゃないよ!」
ボクは前にかがみながら、両手をグーにして胸の前に構えて上目遣いという萌えポーズでそう言った。
若干目を潤ませるのがポイントだ。
アリスがプルプル震えている。
こうかはばつぐんだ!
しかし、イアンにはきかなかった!
……。
もう一押しか。
「ユーリは仲間になりたそうにこちらを見ている。 仲間にしますか?」
……。
あ、イアンの額に青筋が立ってる。
……。
今日はいい天気だなぁ……。
静かな朝の里に、イアンの怒声が響き渡りました。




