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エルフの里技術部

 

 さて、グレアムさんを巻き込んで作り始めた車椅子は実際の所、そう簡単には完成をしなかった。


「は、速い! これは速すぎて怖いでござるよほぉぉぉぉ! 停止停止!」


「あ、ローリーさん! そんな急に停止すると……!」


「ファッ!? あ、拙者今、空を駆ける男……ふげべっ!」


 異世界の空にローリーさんが舞った。




 今、ボクたちはグレアムさんの工房横の空き地で車椅子の試作機のテストをしている所だ。

 凝りもせず川の方へ行こうとしていたローリーさんを捕まえ、強制的に被験者にしてみたがどうやら正解だったようだ。


「マスター。 制御用の詠唱回路(キャストパターン)は正常に稼動しております。

 問題は、出力の制御ですね。 このままでは出力が高すぎます」


 アリスの冷静な声で分析の結果が語られる。

 ……まぁ、見たままの結果だよね。


「パワコンを司る式を追加する必要がありますね。

 稼働時間も長くなりますので、一石二鳥かと。

 早速インプットしますので、セラサスの起動をお願いします」


 うん、その通りだ。

 駆動制御に気を取られて、出力制御の事を全く考えていなかったというしょうもないミスだ。


「そうだね。 考えてみれば、魔導兵装(ソーサリーウェポン)に利用できる品質の魔石を使ってるんだし。

 むしろこの程度の出力で問題が発覚して良かったよ。

 下手したら車椅子ごと空を飛んでいたかもしれない」


 失敗は成功の母である。

 ここは素直に失敗を認め、次の成功を目指すべきだろう。


「……なぁ、お前ら」


「グレアムさん、なに?」


「引力に囚われたあの坊主が地面と接吻をしながら痙攣してるんじゃが。

 まずあ奴を助けてやるのが先じゃぁないのか?」


 グレアムさんの指差す方向を見ると、尻を突き出した格好でローリーさんがピクピクと痙攣をしていた。




「いやぁ、酷い目に合ったでござる! しかし、人の身で空を飛ぶとは、中々貴重な経験をしたでござるな!」


 癒し(ヒール)の魔法をかけると何事もなかったかのようにローリーさんは復活した。

 普通トラウマになってもおかしくないように思うけれど、この人は変にタフだ。

 グレアムさんはというと、出力制御用の式をインプットするために起動したセラサスに夢中のようだ。


「ローリーさん、危ない目にあわせてごめんなさい」


 ぶっちゃけそんなに心配していなかったのを隠して神妙な顔で謝罪をする。

 どうもこの人、不死身な気がしないでもないのだ。

 先ほどの事故ですら、骨折の一つもせずただ身体の前面をすりむいただけで済んでいたという事実から、察して欲しい。


「いやいや、幼女の頼みとあれば拙者、この命喜んで差し出すでござるよ。

 なんなら、土下座するのでそのおみ足で踏みつけてくれればよろしい」


「それはちょっと勘弁」


 ローリーさんがいそいそと土下座しようとするので制止する。

 少し残念そうな顔をしたローリーさんが、セラサスを見上げながら話を続けた。


「……しかし。 魔力を持たぬ者でもこのように複雑な制御が出来るとは。

 これならば、騎士(キャバリエ)以外でも動かせるドラグーンなど作れてしまうのでは?」


「流石にそれは無理でしょうね。

 仮に出来ても、魔法が使えなければ魔導兵装(ソーサリーウェポン)が使えないでしょうし」


「ふむ……兵器として考えるならば、そうでござるなぁ。

 しかし例えば。 小型の……そう、間接が曲がるだけの、手足だけならば」


 ローリーさんがカツンと失った右足で石畳を突いた。


「っ! 言われてみれば……駆動系の再現はできたし、外部からの魔力供給も問題ない。

 あと一つ足りないとすれば制御系の半自動化……アリス!」


「是。 セラサス起動の際の魔法的接続(コネクト)の応用が考えられます。

 研究が必要ですが、あるいは……」


 どうやらこちらの話を聞いていたらしい。

 セラサスのコクピットからアリスの答えが返る。


「可能性はありそうだね。 ローリーさん、時間を下さい。

 いつか義手と義足を、ローリーさんの思うままに動く手足を作って見せます」


「それはありがたい。

 のんびりと期待してその時を待つとするでござるよ。

 足はともかく手の方は特に」


 元はボクをかばって失った手足だ。

 なんとしてでも実現させてみせると心に誓った。


「いやぁ、このままだと幼女を抱っこしたり、高い高いしたりが出来ないでござるからなぁ!

 フヒヒ、義手が出来たらまずはユーリ殿を抱っこさせて貰いたいでござるよ!」


 腐りきった夢だ。

 なんとしてでも実現させないと心に誓った。




「マスター。 出力を抑え、リミットを設ける式を作成しました。

 動作は……問題ないようですね」


 コクピットから身を乗り出したアリスから声がかかった。

 アリスの視線の先を見ると。


「おお! これは面白い、ここでこう……フヒ、フヒヒ! 思うままに動くでござるよ!」


 うん、楽しそうでなにより。

 左右への転回も特に問題はなさそうだし、これで完成といっても良さそうだ。


「これでお母さんも少し楽になりそうだね。 アリス、お疲れ様。

 グレアムさんも……あれ?」


 グレアムさんの姿を探して視線を動かすと、未だグレアムさんはセラサスを見つめていた。


「グレアムさん? どうかしましたか?」


「あ……あぁ。 これがお前さんのドラグーンか。

 いや、あまりにも美しく、そして珍しいモンで夢中になっておった」


 グレアムさんがセラサスのつま先の装甲をひと撫でする。


「エーテライト鋼による装甲……いや、それだけではないのぅ。

 噛み合わせの部分に見える赤いのは、ヒヒイロカネじゃな?

 儂ですら扱えん、しかも今では貴重すぎて市場には出んようなモンで全身出来ておるとは。

 まさか儂の生きとる内に、このようなモンを見るとは思いもせなんだ」


「グレアム様はドラグーンにもお詳しいのでしょうか?」


「あぁ、儂ぁ元々、ドワーフの集落においてドラグーンの整備をしておった。

 集落が帝国に落とされて、昔々の伝を頼って生き残った幾人かとこの里へ逃げ込んだのじゃ」


「……グレアム様。 少々離れていただけますか?

 マスター、脚部のメンテナンスハッチを展開します。 ご許可を」


「うん、いいよアリス」


 アリスがキーボードに指を走らせると、ガコン! という音を立ててセラサスの左足の装甲が浮き上がる。

 ゆっくりと装甲が開放されると、普段は見ることの無い無骨な内部フレームがあらわとなる。


「おお……! これは、魔神大戦以前のドラグーンによく見られる構造じゃな!

 ふむ、しかしこの機構の配置、空きスペースの活用……なるほど、こりゃぁ見事な作りじゃ!」


「グレアム様。 もし……私が機構の説明を差上げたとしたら、グレアム様でも整備は可能でしょうか?

 パーツの生成はマスターが、整備は私が出来るのですが、いざという時の為整備の出来る人材は増やしておきたいのです」


「うむ、うむ! 内部の部品はミスリルやアダマンチウムのようじゃし、設計があれば出来るじゃろうよ!

 むしろ、儂の方からお願いしてでもやらせて欲しい!

 まさか、この年になってこのようなドラグーンをいじる事が出来ようとはな!」


 グレアムさんの顔が満面の笑みに覆われる。

 やはり職人なのだろう、自分の技術を高めることに喜びを感じるのだ。


「それからユーリ、お前さんパーツの作成が出来る……のか?

 それなら、もしかして聖地から引き上げたドラグーンが直せるかもしれん。

 10機ほどあるが、うち8体はパーツ取りに使っておって今まともに動くのは2体だけなんじゃ。

 残り8機もパーツが作成できれば、あるいは……」


「乱華の倉庫にあったドラグーンか……乱華はナイトメアしか使わなかったから、多分イベント配布機体とかかな?」


 ボクのホームにも死蔵していたけれど、イベント配布の機体はそれなりの数になっていたはずだ。


「是。 恐らくはそうでしょう。

 ですが、それでも今のドラグーンよりは高性能でしょうから、戦力として期待できます」


 実際の所、課金機体には今一歩劣るもののイベント用機体は特殊なものが多かった。

 ワルキューレ系列の実装の前に先行配布された可変型や、上下に分離して遠隔操作できる合体型、ステルス機能を実装した偵察・暗殺型に4足歩行の獣型……。

 うまく使えば面白いことになりそうだ。


「グレアムさん、是非後でボクたちを案内して下さい。

 ……乱華の残してくれたドラグーンは、ボクたちが直して見せます」


 10機の、この世界で言う魔神大戦以前の機体。

 それらが全て生き返れば、帝国や王国とも対等以上に渡り合えるはずだ。

 ココルネ村の悲劇は、絶対に繰り返させない。


 ローリーさんと車椅子を見つめて、ボクはそう誓った。


少し更新頻度が落ちていてすみません。


極力毎日更新したいのですが、仕事が落ち着くまでは隔日更新になりそうです……

のんびりとお待ち下さいませ。

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