無双は脱獄の後で
「サリーナさん、ボクの後についてきてください。 脱出します。
そうだ、この首輪はどうやって外せばいいんですか?」
ボクはまぁある意味問題ないのだけれど、サリーナさんにとっては死活問題だ。
ボクの場合は魔導兵装に向いている魔法ばかり覚えていて、高火力・広範囲の殲滅型魔法ばかり覚えている。
そのため、首輪を外すと火力が高すぎてとんでもない事になりそうなのだ。
多分、今の状態でもこの建物一つくらいなら吹き飛ばせる。
「解除用の言葉があるけど、恐らく騎士団長しか知らないでしょうね。
後は……高位の解呪でも解けると思うから、里に戻りさえすれば」
解呪はアリスが覚えていたはず。
……とすると、リリアナさんたちの隷属の首輪も外せていたかもしれないな。
そうだったら、こんな苦労もしていなかったのに……まぁ、サリーナさんと出会えて魔法が使えるようになったから、収支プラスということで、うん。
「わかりました。 では、いきましょう」
ボクはゆっくりと階段を上る。
後ろにつく形でサリーナさんも後に続く。
「まだこの辺りには誰もいないみたいだね。
サリーナさん、この建物の大枠の作りってわかります?」
「そうね、1階に詰め所があり、常時何人か詰めているはず。
中庭は練習場になっているけど、多分ここの連中はまともに訓練なんてしてないだろうから、そこには誰もいないと思う。
2階には隊長室。 ……目立つのはそれくらいかしら」
「充分です。 さて、それじゃぁ……生命探査」
生き物の生命を検知して、その位置と生命の強さを知らせてくれる魔法を発動する。
ちなみにこの魔法、ドラグーンでの救出クエストなどでかなり役に立つ。
また、レーダーで検知できないようなステルスタイプのドラグーンも、この魔法と魔力を検知する魔力探査の二つで完全に補足できたりとかなり便利なのだ。
さて、生命探査の結果脳内に浮かぶ図のうち、恐らくサリーナさんの言う詰め所だろう場所に生命力が集中しているのがわかる。
2階の隊長室には生命力が存在していない。 どうやらこの建物にはいないようだ。
逃げる事を優先しても良いのだけれど……
サリーナさんの事を考えると、同じ目に合っている子が居そうな気がする。
「サリーナさん、詰め所に騎士団の連中が集まっているようです。
……もしかして、他に奴隷になっている人がいますか?」
「……えぇ。 私と一緒につかまった里の子が一人。
ただ、そちらの子は……おかしくなってしまったけれど」
耐え切れなかったのだろう。
ボクだって人事ではなかった。
この世界は、現実世界以上に命や尊厳が安売りされる世界だという事をもっと認識しないといけないだろう。
……でも。
そんな安い命でも、助けられるものは助けたい。
「詰め所に行きます。 ……みんなで、里に帰りましょう」
詰め所のドアを開けると同時に中を確認。
敵は8人。 保護対象1人。
「な、お前! どうやって牢を……グガァッ!」
こちらに気付いた一人に銃を抜き打ちでヘッドショット。
と同時に、詠唱していた魔法を反対側の男に放つ。
「水刃!」
左手から放った高圧縮された水流は、男を通りすぎてそのまま背後の壁に黒い線を刻む。
「は……え?」
男は何が起きたのか気付かないまま、斜めに二等分されて床に崩れ落ちる。
「チッ! てめえら、腑抜けてないであのガキを殺せ!」
奥で喚き声を上げるあの男が一番位が高いのだろう。
隊長クラスだろうか。
ただし、1人だけ真っ裸なので目立つことこの上ない。
そして、男の前にはエルフの少女が1人。
恐らく、隊長権限で一番乗りをしようとしていたところだったのだろう。
隊長の声に反応した二人が、それぞれ詠唱を終える。
「「火炎!」」
アホか!
密閉空間で火炎系呪文とか、敵味方関係なく窒息してしまうぞ!
むしろこっちは廊下側だから大丈夫だけど……
「ユーリさん! あぶない!」
後ろからサリーナさんの悲鳴が聞こえる。
まぁ、普通はこんなん食らったら死んじゃうしね。
だけど、サーバントの魔導兵装すら無効化するボクにとっては何の心配もなかった。
左手で目の前の炎をなぎ払うと、何もなかったかのように視界が晴れ炎が一瞬で拡散する。
「な……! ウアッ!」
村を襲った帝国のシュタイクバウアー相手だとここで油断したせいで大怪我を負ったけれど、もうそんな油断はしない。
視界が晴れるとともに銃の3点バーストで魔法を使った2人を撃破。
これで残り4名。
「……さて、大人しく降伏しない? そしたらボクは殺さないであげるけど」
「ふざけるな! 何なんだお前! その首輪、魔封じの首輪だろうが!
なのに何で魔法が使える! 何で魔法が効かないんだよ!」
恐怖に暴走した男詠唱を始めたので再び銃で額を打ち抜く。
ゆっくりと崩れ落ちるその姿に、隊長を除く2人の男は戦意を喪失したようだ。
構えていた剣を捨て、へたり込んでしまった。
さて、隊長は……
「く……貴様エルフだな! 仲間がどうなってもいいのか!?」
隊長がサリーナさんの言っていた奴隷の首筋に剣を当ててわめく。
まぁ、お決まりのパターンですよね。
当然、それに対しての対策は考えてある。
「……防壁」
奴隷の子の周囲に魔法陣が浮かび、剣と首筋の間に割り込む。
たとえ隊長が全力で剣を振るったとしても、1、2回は耐えるだろう。
もちろん、そんな事はさせないが。
「さて、これで人質を殺せない。 ……どうする?
戦うにしても聞きたい事もあるから1人くらい生かしてもいいけど」
などと言いながら、座り込んでいた二人のうち1人の足を銃で撃ち抜く。
「貴様! 無抵抗の者に対して……」
「無抵抗なそこの奴隷に酷い事してたの、キミたちの方でしょ?」
今度はもう1人の右肩を撃ち抜く。
慣れ親しんだこの銃の扱いは、この部屋の中程度の距離ならばもはや意識しなくてもある程度狙い通りに打ち抜くほどである。
「……わかった、降伏する。 わ、私の命は助けてくれるんだな?」
「あぁ、ボクは殺さないよ」
ボクはね。
「じゃぁ、色々聞かせてもらおうか。 まずは騎士団長の事だけど……」
どうやら、ベルファウスは領主に会いに行っているとの事。
恐らくは、ボクの事を報告に行っているのだろう。
だが、予定ではそろそろ戻ってくるらしい。
そして、今の所ここに囚われているのはここにいる3人のみらしい。
ボク、サリーナさん、そしてそこの奴隷の少女だ。
その他こまごましたことを聞いて、満足したボクは隊長の股間に照準を向け、そのまま発砲する。
股間が真っ赤に染まり、醜い叫び声が部屋に響き渡る。
「が……あぁ……! き、貴様、ころ、殺さないって……」
「殺してないでしょ? 吹き飛ばしたそれでどれだけ奴隷の子を傷つけたと思ってるのさ?
あぁ、大丈夫。 ボクは殺さないから。
所で、キミうるさいよ。 沈黙」
青い光が隊長の喉を包むと、うめき声が聞こえなくなる。
魔法を使えないよう、念のため声を殺したのだ。
残る二人にも同様に魔法をかけると、さらに念のためそれぞれの剣の根元を撃ち抜いて武器を破壊した。
「サリーナさん、復讐をするならこれを貸してあげる。
狙いをつけてこの引き金を引くだけ。
あと4発しか残ってないから、残弾には気をつけてね」
ボクは銃をサリーナさんに渡すと、隊長の声にならないうめき声を感じながら奴隷の子を連れて部屋を出る。
約束通り、ボクは殺さないであげたよ。
そして、少しした後3回の銃声が聞こえ、静かになった部屋からサリーナさんが出てくる。
その顔は少しの罪悪感と、そして復讐を果たした喜びをないまぜとした不思議な表情を浮べていた。
「……さて、それじゃとりあえず脱獄しようか」
まずはアリスと合流して、それから。
次の目標は騎士団長だ。




