第六話 諦めた幽霊と諦めない死者⑥
いつの間にか鈴木は消えていた。
成仏の瞬間を見逃してしまったが、彼女は間違いなくこの世から去ったのだろう。
そんな確信があった。
「私はそろそろ帰る。もう迎えが来る時間だから。それじゃ」
「ちょいちょいちょい! ユッキーちょっと待ちなよー」
雪乃がいきなり帰ろうとするので、フリーネが慌てて両肩を掴む。
「一人で夜道は寂しいでしょ? あたしもついていってあげる!」
「いや寂しくないからいい」
「またまた~」
フリーネが満面の笑みを浮かべて、頬をつつく。
が、雪乃は無表情を全く崩さないので、笑顔も徐々に凍り付いていった。
「……この際皆で送っていけばいいじゃないか。俺も雪乃さんともっと話してみたいしさ」
「そのとおり。皆で送れば問題なーし。つーわけで全員行きましょうや」
みかねた和也と武蔵が助け船を出し、雪乃をバス停まで送る部隊が誕生した。
道すがら雪乃に学校の話をしつつ、バス停を目指して歩く。
楓も懸命に説明していたが、クルミに肩を叩かれ、集団の最後尾まで下がった。
「どうしたの?」
「あのスズキとやらだが、どうやら殺されたようだ」
クルミが声を潜めて言った。
楓は息を呑み、歩調を一段と遅くさせた。
「先週の話だ。まさか生まれたての幽霊とはな」
クルミは肩を竦める。
「それはどこで……」
「風魔の忍がまとめている、怪事件被害者のデータベースだ。私と連中は協力関係にあるからな。多少は融通が利く」
それではいくら調べても、情報が出てこないはずだ。
世間に不安感を持たせないために、妖怪の実在を知らせないように、事件の隠蔽をしてしまうというのは珍しくない。
こうやって大きな勢力と繋がっているあたり、やっぱりクルミは魔王なのだと、改めて思う。
「つまり、妖怪か異能者の仕業」
「そういうことだ。しかも奴の事件は最高機密指定だった」
クルミは、チッ、と舌打ちをする。
「私では閲覧できる情報に限りがあってな。詳しい情報は得られなかった」
「仕方ないよ。部外者だもの」
「私を除け者にするとはいい度胸だ……と言いたいところだがな。今回は許そう」
安心と安定の上から目線で、どうにか納得しているようだ。
「不運な娘だったということだろう。貴様だけでも覚えておいてやるがいい」
鈴木さん、と、心中で呟く。
一日しか過ごせなかったが、幽霊と鍋パーティーなんて滅多にするものではない。
忘れる方が無理な話だ。
「しかし、まさか貴様に出し抜かれるとはな。やられたよ」
「なんのこと?」
「私が一日で片付けるつもりだったが、貴様は私よりも早く解決法を見出し、実際に成功してみせた。なかなかやるじゃないか」
「違うよ。皆のおかげだから」
楓は断言した。
友人と囲んだ鍋だから、あの結果になったのだ。
どう考えたって楓の手柄ではないし、言葉のとおり、皆のおかげだ。
「ふん、貴様もキリューのようなことを言うようになったな」
クルミが不満げに呟いた。
「え。私、桐生君に似てるの?」
「ええい顔を近づけるな! 別に褒めたつもりはない。キリューなら言いそうだと思っただけだ」
「あの幽霊のことは、時間があれば調べてやってもいいが、近々私は故郷に戻る。帰ってきた頃には忘れているやもしれんぞ」
「え、帰っちゃうの」
「私の国を放置するわけにはいかんからな。妖怪共が馴染んだか、確認もせねばならん」
普通に馴染んでいるから忘れがちだが、クルミは異世界の出身だ。
当然、帰省もするだろう。
「帰省する前に、ゲームを一本クリアしておくか。しばらくは出来んだろうしな」
「ちなみにどのくらい向こうに?」
「なんだ、そんなに私がいないと寂しいのか」
クルミが腕を組み、仰け反りながら笑う。
身長差があるので、上から目線になっていないのが残念だ。
楓の答えは初めから決まっている。
「うん」
クルミいない日常を想像すると、無性に寂しい。
ゲームセンターやテレビゲームの遊び方は彼女から教わり、他にも現代の遊戯を色々と指導してくれた。
花札や蹴鞠で止まっていた楓には、衝撃的で総てが新鮮だった。
異世界人に教えられるというのも変な話だが、クルミはその辺の一般人よりも、勉学にも運動にも精通していたりする。
理由をつければたくさんあるが、とにかくいないと寂しいのだ。
「そうかそうか。ならば早めに帰ってきてやろう。ゲームをくれてやるから、私がいない間は、それで我慢しておけよ」
クルミは満面の笑みを浮かべ、何度も頷いた。
懐からゲームソフト取り出して、楓の胸に押し付ける。
「何で今ゲームソフトを……」
「布教用だ。そのために買ったのだから、気を遣う必要はないぞ」
「う、うん……」
勢いに押し切られ、言われるがままに受け取った。
布教用の意味はいまいち理解できないが、他人に売り込むぐらい、そのゲームが好きなのだろう。
帰ったらやってみよう、と、考えていると、クルミが楓の手を引っ張った。
「前の連中と距離が空いてしまった。急ぐぞ。まったく私の先を行くとは不敬な奴らめ」
「いや自分から後ろに下がったんじゃ……」
「いいからいくぞ。転ぶなよ」
クルミにつれられて、和也達の方に向かう。
前方の集団は振り返って立ち止まり、笑顔で迎え入れてくれる。
和也に楓に武蔵にクルミにフリーネも舞に、そして雪乃。
また今日みたいに全員で楽しくできたらいいな、と思いながら、楓は彼らのもとに駆けていった。
――妖怪大戦争勃発まで、残り13日。
次の話も短いので、明日更新します




