第十三話 忍ばない忍は絶望する
(やっべー……マジどうしよ! つうかどこで落とした!?)
武蔵は脳内をフル回転させて、打開策を練る。
この騒動の中心であり、武蔵の最終手段でもある、超戦士装甲は落としてしまった。
どこで落としたか考える時間はない。
考えるべきは、どうこの危機を突破するかどうか。
位置的には森までそこまで離れていない。
せいぜい一〇メートルといったところだ。
だが、その一〇メートルが遠い。
現在の手持ちでどうにかするしかない。
いや集団で囲まれているだけでなく、女性を一人抱えている状況だ。
しかも、あの変態タイツスーツの外見はともかく、ここは敵の拠点。
無傷で切り抜けるのは不可能に近い。
森に逃げるまでに、どうしたって攻撃を受けてしまう。
さっきは勢いで色々と口走ってしまったので、甲賀も武蔵が超戦士装甲を紛失したのはバレている。
武蔵自身はいくら傷つこうが構わない。
しかし、腕の中で眠る紗和に傷を負わせるわけにはいかない。
この状況で、一番彼女に被害が及ばない方法は一つ。
今にも武蔵達を襲いかかろうとしている甲賀の忍に叫ぶ。
「超戦士装甲どっかに落としちまったんだが……俺は拾いにはいかねえ! 別に全部言わなくても、あんたらならこの意味がわかるはずだ!」
甲賀の忍の動きが一時的に止まる。
彼らの目的は超戦士装甲のみ。
紗和の誘拐も手札を増やすためだけにすぎない。
ならば、くれてやればいい。
奴らに拾いに行かせて、その隙に逃げ出す。
超戦士装甲の技術の流出は痛いが、どうせ困るのは忍者のみ。
伊賀の里と父親には後で謝ればいい。
多分なんとかなるはずだ。
「悪いが俺はしぶといぜ? 人を担いでいようともな! 俺も忍者界きっての天才の息子。どんな兵器を持ち込んでんのか……超戦士装甲を欲しがってるなら察しはつくだろ」
不敵な笑みの武蔵だが、実際のところ、大したものは持っていない。
手持ちのほとんどは学園の薬品やらで作ったお手製の爆弾だ。
爆弾とは言っても威力はたかが知れるレベル。
甲賀の装備には効果が薄いだろう。
ここは真実と、それっぽい嘘で、敵を誘う。
「それにいつ学園側のやべえ奴らが出てくるかわかんねえんだ。ここで俺と戦って時間を取るよりは建設的だろ?」
ほぼありえないとは思うが、学園長の気が変わるかもしれない。
ありえないとは思うが、クルミが戦ってくるかもしれない。
唯一ありえそうなのが、ドラゴンのフリーネだが、あれはクラス内で一番事情がややこしい存在だ。
正体が露見するとまずい。
……やはり誰も来なさそうだ。
しかし、効果はある。
甲賀側は目に見えて、動揺していた。
オペラ声の甲賀の頭領(触角付き)が言った。
「確かに我らも無駄に時間は消費したくない。この戦力でどうにもならない存在が学園にいるのも事実だ。ここは超戦士装甲の回収に全力を傾けるべきではある」
だったら、と言おうとする武蔵を制するように、甲賀の頭領が左手を挙げた。
「……それが本当なら、な」
オペラ声の触覚の男は冷静だった。
「もしかしたら君が隠し持っていて、我らの不意を狙っているかもしれない。本当に落としていたら……まあ諦めてくれ。どちらにしろ君を逃すという選択肢はない」
頭の触角をいじりながら、武蔵を見据える甲賀の頭領。
格好は変態のくせに、頭は回るから厄介だ。
武蔵がまた別の手段を考えようとすると、頭領は小さく笑った。
「だが、一応探索用に人員は割かなくてはな。全員で君を叩く必要はない。侵入口はあの廃工場付近だろうから、ある程度は絞り込める。我らは甲賀の精鋭中の精鋭。探索用のマシンもある。数人で足りるな」
今回、甲賀はオペラ声の頭領を筆頭に、少数精鋭の部隊で臨んでいる。
忍者による数の暴力では学園をどうこうできないのは、よく理解しているのだ。
触角が周りの人員に指示を出し、数人が離れていっても、まだ十倍以上の戦力がある。
おまけに『鋼丸』という対妖怪用兵器も一機残っている。
頭領は触角を揺らしつつ、武蔵を包囲するように残っている部下(触覚なし)に命じた。
このままでは包囲網が完成し、なすすべもなく捕まるだけだ。
「時間がない。我らが受けた傷も浅くない。超戦士装甲は頂戴して、帰還させて貰おうか」
頭領の声は自信に満ちていて、負けるはずがないと思っている。
頬を伝って汗が流れる。
こんな口車に乗ってくれる程、甲賀は愚かではなかった。
これが調子に乗っている妖怪だったら、最低でも油断はしてくれたのだろう。
なら、別の手段だ。
やりたくはなかったが、仕方ない。
武蔵は背負っていたリュックから目覚まし時計だけ取り出し、足元に置く。
リュックその物は、背中から下ろし、甲賀の忍に見せつける。
何をするのか?
どうしてリュックを前に突き出すのか?
まさか服部家の最新兵器ではないのか?
彼らの視線がリュックに集中する。
甲賀の忍の目をひきつけた後、武蔵はリュックをひっくり返す。
重力に従って、中身がどんどん落下していく。
瓶だったり、薄いテープだったり、何かのスイッチだったり、如何にも爆弾ですと主張しているようなタイマー付きの物体だったり、色々な物が山となっていく。
「なっ!?」
甲賀側の驚愕の声を無視し、中に何も残っていないのを確認し、空のリュックを彼らの前に放り投げる。
「見ての通り、俺が持ってきた装備の全部だ。あとこのナイフと銃も」
腰に装備していたナイフと拳銃も、見せつけるようにして地面に捨てた。
武蔵が余裕の表情なのもあって、甲賀の頭領も判断を決めかねているようだ。
口元を愉快に歪ませながら、武蔵は足元に置いた目覚まし時計を手に取る。
「そんで、これが俺が今唯一持ってるもんだ。これが何だかわかるかなー?……そろそろ片手で先輩支えんのキツく……あれ何か寒気が……」
「そんな事はどうでもいい! それは何だ!」
「あーやっぱり気になっちゃう?」
謎の悪寒を感じたが、気のせいだっただろうか。
それはひとまず流しておくとして、質問に答えてやるとしよう。
「爆弾だよ。それもそこらで爆発してたのとは比べもんになんねえレベルのな。なかなかいいデザインしてんだろ?」
武蔵は間髪入れずに、この目覚まし時計型の超弩級爆弾の説明を付け加えた。
「爆破の威力は正確に言うと……そうだな、こんな森は余裕で消し飛ぶな。てめえらもスピード重視で必要最低限のもんしか持ってきてねえのは、ここらを見りゃわかる。防ぐすべはねえわな」
武蔵は飄々としながら、目覚まし時計を弄ぶ。
もうひと押しだ。
甲賀忍者から、狼狽の色が顔からうっすらと滲んでくる。
触覚を大きく揺らし、甲賀の頭領が語気を荒げた。
「そんな物があるならどうして危険を冒してまで、ここまでやって来た! その異能者の女を助けに来たのだろう? 我らも、その女も、お前も死ぬんだぞ!」
「まー確かに? 俺も生きて帰りたいけど? 逃げられなきゃ意味ないし? 死んで永遠に一緒っつう考え方もあるし? まーいいかなーって」
「くっ……あの男の息子なだけあるな。狂っているとしか言い様がない」
甲賀の頭領はそう言って、部下たちに手は出さないように、と厳命する。
武蔵は目覚まし時計をちらつかせ、甲賀はそれを注意深く見張っている。
膠着状態だ。
予定は大幅に修正されたが、現在の状況を考慮すれば、まずまずといったところだ。
こうして余裕綽々としている武蔵だが、
(ま、嘘だけどなぁああああああああああああ! うっかり持ってきちまった、ただの目覚まし時計だバーーーーーーーーーーーーーーーーカ! 目覚まし時計型の爆弾作る意味なんざあるか! つうか頭おかしいのテメエらの間違いだろうが!)
脳内で散々に馬鹿にしていた。
死んで永遠の愛とかそんな阿呆な思考回路はしていない。
必ず二人共生きて帰るのだ。
そして、これは正真正銘、ただの目覚まし時計。
誤って爆弾を爆破させてしまった場合、紗和が傷つく事もないとは言い切れない。
なので、間違えて入れてきた時計を選んだのだ。
装備を捨てたのは武蔵が本気だという姿勢を見せつけるためだ。
これが最終手段と納得させるには手っ取り早い方法だ。
雑に扱ってしまったが、テトロドトキシンを含んだ注射器等もあるので、非常に危険だったりする。
一応はうまくいったが、未だ状況は断然甲賀が有利。
敵の包囲は依然として続いている。
あくまで時間稼ぎだ。
その間に、何か手を打たなければならない。
(敵の数は一五人。んで……鋼丸だったか? それが一機。こっちは目覚まし時計だけ、か。いつまでも睨み合いのままってわけでもないだろうし、何か、何かないのか!)
表情に焦りなど微塵も感じさせずに、周囲を探る。
自身が言ったように、甲賀は迅速な行動を重視して、重火器など大量破壊兵器の類は持ち込んでいない。
全て人間で持ち運びできる物で、ここは構成されている。
武蔵が敢行した爆破により、野営地自体も少なからずダメージを負っている。
多少の戦力は削れているだろう。
それでも、まだ足りない。
甲賀を叩き潰すどころか、逃げることも叶わない。
(森ん中に仕込んだアレも、今じゃ意味ねえし……)
逃げる時の時間稼ぎ用として、仕掛けた物だが、森に逃げ込まなければ意味がない。
第一、森に探索に行った忍に発見されたらアウトだ。
時間がなかったし、逃亡用の保険として用意した物だったので、カモフラージュは最低限にしか施していない。
手がないわけではない。
だが――
(先輩……)
武蔵がこれからする事は、彼女の死亡率を高める事に繋がる。
そんな事はしたくない。
しかし、このままでは二人とも捕まるか殺されてしまう。
武蔵は捕まっても利用価値はあるのだろうが、紗和は違う。
紗和は武蔵の人質であり、超戦士装甲や服部家に対しては何ら影響はない。
いくら名家といえども、所詮は一般人。
殺されはしないだろうが、貴重な異能者として実験体とされるだろう。
どういう目に遭うかは、忍者の武蔵が一番知っている。
やるしかない。
紗和に危険が及ぶが、武蔵が壁となって防ぐ。
傷の一つだって負わせはしない。
「おーい甲賀の忍ども! 俺は今からこいつを爆破させる!」
腕を突き出し、強調させる。
後には引けない。
だから、盛大に、大げさに、格好つけて、やってやる。
「待て! 落ち着け! 早まるな! 生まれて二〇年も経ってないだろう? この先、生きてればもっと良いことがあるぞ! そして世界は広い! 知らないことだってたくさんあるだろう! だからこんな場所で死のうとするな!」
「生まれて一五年が俺の人生の全てなんでね! この先とか知ったことか! 俺はやるとは言ったらやるぞ!」
何だか自殺する若者と、それを説得する刑事みたいになっているが、若者の方は真っ黒のぱっつんぱっつんのスーツ。刑事の方は触覚付きの全身タイツ。
傍から見たら滑稽にも程があるが、本人達は至って真剣である。
武蔵は目覚まし時計のスイッチ部分にゆっくりと指を近づける。
「押すな! 絶対に押すなよ!」
「それは押せって言ってんのか?」
「違う! クソ! こうなったら無理やり……!」
「おっと! いいのかなー? お前らが何かするよりも早く押す自信はあるぜ」
「我らがどうしようと、どうせ押すのだから変わらんだろう!」
下手に煽ったせいで、覚悟を決めてしまったようだ。
丁度いい。
このタイミングなら効果も絶大だろう。
「あー残念。これ見た目通りに、目覚まし時計なんだけどよ。ちゃんとタイマー機能は残ってんだよ。んでもって既に設定済みなわけなんだなコレが」
時計の針が刻む音が一段と強くなった気がした。
甲賀の頭領がごくりと唾を飲み込む。
「まさか……」
「爆発するな。あと五秒で」
あまりに簡単に言ってのける武蔵に言葉も出ない忍者達。
その隙が致命的だった。
鋼丸に指示を出す判断もできず、ただただ、つっ立っていた。
「ほらよ!」
武蔵は爆弾でも何でもない、正真正銘ただの目覚まし時計を甲賀の頭領に向かって放り投げた。
綺麗な弧を描いて、宙を漂う目覚まし時計。
忍達の視線は一点に注がれ、それを尻目に武蔵は森に向かって駆け出した。
振り返って確認する余裕はない。
全力で走る。
とにかく走る。
森に突入した瞬間、後ろで時計の鳴り響く音がする。
甲賀も単純な罠に嵌っていたと自覚しただろう。
弾丸やら何やら飛んでくるが、森に逃げ込んだ今なら、簡単に当たる物ではない。
木々の間を駆け抜け、街までノンストップで駆けていく。
「鋼丸! 奴を追いかけろ! 殺しても構わん!」
「そんなキレちゃって、カルシウム足りないんじゃないんですかぁああああああああ!」
逃げる間も煽りを忘れない。
冷静さを欠かせておけば、逃げることも容易くなる。
闇雲に追いかけてきて、女の子を抱えていたとしても、武蔵なら何とか逃げられる。
ただし。
それも人間相手ならの話だ。
「鋼丸! 奴を撃て!」
強襲型の対妖怪用兵器はどうにもならない。
いくら強化スーツを着込んでいようとも、走って逃げる事は不可能だ。
装備を全て捨てて、身軽になっても、それは変わらない。
現に木を粉砕しながら突撃してくる。
障害物の多く、忍も被害に遭いかねないため、ミサイルは使われないのが、せめてもの救いだ。
「ミサイルだ! 我らを巻き込んでもかまわん!」
『了解。対象・服部武蔵。……捕捉完了』
「うっそォ!」
よほどあの変態タイツに自信があるらしい。
もしくは、そこまでしても武蔵を始末したいのか。
何しても逃げるしかない。
武蔵と紗和を鋼鉄の殺意が襲う。
「死んでたまるかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ミサイルやら銃弾の雨を木を利用し、躱しながら、走り続ける。
その際も紗和が傷つかないように配慮している。
紗和に怪我をされたら死んでも死にきれない。
爆風で倒れそうになるのを耐え、木の破片が頭部を傷つけるのも堪え、外に向けて走る。
逃げて、逃げて、逃げまくる。
父親の支配から逃げ出した時と似ている。
あの時も確か、服部家特製のマシンに追跡されていた。
初めはトリモチや網で捕獲しようとしていたが、途中から爆弾やら衛星レーザーに切り替えられた。
地雷原だって突破した。
大海原だって泳ぎ切った。
それと比べれば、たかがロボット一機と武装した変態タイツの集団なんて可愛い物だ。
そうやって気持ちを持続させ、スピードを緩めない。
『鋼丸』は引き離せないが、甲賀の忍とは距離が離れてくる。
(あともう少し……! 先輩を奪還できさえすれば後は――)
思考が無理やり中断される。
ミサイルが武蔵の近くで爆発し、その衝撃で吹き飛ばされる。
あまりの衝撃に紗和を離してしまいそうになるが、体から悲鳴が上がるのを無視して、抱き込んだ。
勢いのまま地面を転がっていく武蔵。
土が口に入ろうが、石が顔に当たろうが、紗和は決して離さなかった。
大木に衝突して、ようやく止まる。
当然、紗和がぶつからないように武蔵が壁となってだ。
相当のダメージを受けたせいで、着用していたスーツは破損した。
口の中に鉄の味が広がる。
体全体がずきずきと痛む。
体中が痛いが、骨折はしていない。
忍者として体を鍛えておいたのが幸いした。
紗和は制服に汚れがついてしまったものの、目立った外傷はない。
それだけ確認すると、武蔵は再び立ち上がろうとする。
だけども、体が言う事をきかない。
爆発の衝撃が大きく、吹き飛ばされ、地面をサイコロのように転がってしまったからだ。
「くそっ! あと少しだってのに! 動けよ! 俺の体!」
紗和だけでも逃がさないといけないのに、このザマだ。
無様だとクルミは笑うのだろうが、それで結構。
武蔵としてはもっとスマートに助けたかったが、どんな形でも彼女を救えればそれでいい。
『標的・完全捕捉』
『鋼丸』がもう、すぐそこまで来ている。
というか目の前だ。
武蔵の額にご立派な二連装マシンガンを突きつけている。
まともに喰らったらミンチよりもひどい事になる。
最早諦めるしかない状況。
どう足掻いたところで、脳をぶちまけて終了だ。
それでも、武蔵はここまで逃げ切った。
ここは――
「へっ。残念だが、俺は殺せねえよ。もうテメエは範囲内に入っちまったからな!」
武蔵の視線が空へと移る。
雲が漂い、鳥が飛び、太陽が輝いている。
まだ午後三時を過ぎて数十分。
眩しいぐらい太陽が自己主張しているため、星は一切見えない。
そう。
本当なら星は見えるはずがない。
しかし今は。
不自然に光る赤色の星があった。
『超高温の熱を探知。迎撃不可。回避不――』
星が降ってくる。
正確には。
服部(父)特製、対上位妖怪用衛星兵器『スペースサンダー』による高出力レーザー攻撃。
赤の流星は、木々を灰にし、地面を抉り、弾けさせ、全てを消し飛ばす。
体をどうにか動かし、レーザーの方に完全に誘導された『鋼丸』から離れる。
数瞬の後、『鋼丸』は為すすべもなく、消し炭と化した。
武蔵は巻き添えをくらわないように、味方判別されるための超小型信号機を、体内に仕込み済みだ。
道中、武蔵が仕掛けていたのは、レーザーの照射地点のマーキングだ。
今もそこかしこにビーズに似た物が散乱している。
これは何かに使えないかと、実家からくすねてきたものだ。
『スペースサンダー』はあまりの高火力と、反則級の射程距離から、服部家の最終兵器という位置づけとなっている。
そしてその使用権限は父親と武蔵の二人のみ。
権限は父親の方が上だが、武蔵も使えないこともない。
ちなみに、かつて武蔵が父親の根城から逃走するときに、対上位妖怪用なのに武蔵捕獲に使用された実績持ちだ。
「はっは、まるでゴミのようだぜ……」
疲れ果てた体で呟く武蔵。
ゴミ以前に炭となっているが、似たようなものだ。
甲賀の忍も恐れをなして、避難している。
誰も殺す気のない武蔵としては、正常な判断をしてくれて助かっている。
元々足止めとして使う予定だったので、過程は狂っても結果は同じだ。
「よし。後はゆっくり帰れるな……ってアレ!?」
赤色の流星群が段々と武蔵の付近に降ってくる。
確かに体内に味方判別機を入れてあるはずなのに。
ふと嫌な予想が頭をよぎる。
「まさか……ぶっ壊れたのか? いや体内にあってメンテめんどいから放置してたけど……仮に壊れてたとすると……」
もしかしなくとも、武蔵にも当たる。
掠るどころか、近くに落ちても死確定のレーザー。
生身の人間なんて死体も残らず、蒸発してしまう。
人生の中で一番顔から汗が流れる。
「やべええええええええええええええええええええええええええ! 逃げねえと死ぬううううううううううううううううううううううう!」
とにかくビーズがまいてある場所は避けなくてはならない。
スーツが壊れてしまったので、紗和が重く感じるが、火事場の馬鹿力という奴で、地雷原もといビーズ原を駆け抜けてゆく。
甲賀も下手に動けないから、衛星レーザーから逃げる事に専念する。
地面に埋めたり、木の根に隠したりしたため、見つけにくいったらありゃしない。
どうせ今後使う予定もないと、全部投入したのが、ここで裏目に出た。
(あともうちょい……!)
武蔵が仕掛けたビーズ原の終わりは近い。
残った体力を振り絞る。
体の傷が何だ。
そんなのは自業自得だ。
紗和は完全に武蔵の事情に巻き込まれただけの少女。
震える足に鞭を打ち、雄叫びを上げながら、ついに武蔵は突破した。
マーキング箇所も段々となくなり、『スペースサンダー』も収まりつつある。
レーザーの雨に注意しつつも、甲賀も動き始めている。
しかしこれだけ距離が離れてしまえば、こっちのものだ。
あとは悠々と、
「そこまでだ」
逃げる事は叶わなかった。
全身タイツの男二人が武蔵の前に立ち塞がり、対妖怪用のアサルトライフルを構えていた。
超戦士装甲を探しに行った忍者だ。
その場しのぎで適当な事を言ったツケが、こんなところで回ってきた。
最悪のタイミング。
体は傷だらけ。
武器もない。
紗和は薬で気を失ったまま。
彼女を安全圏に運べてすらいないのに、自分はここで捕まってしまうのか。
武蔵も忍だ。
覚悟はできている。
だが、紗和はどうにかして逃がしたい。
周りに何か使えそうな物がないか探す。
あるのは木に石ころ。
武装した忍に通用する物ではない。
完全に万事休すだ。
一歩、また一歩と忍が近寄ってくる。
折れそうになる心を奮い立たせ、忍を睨む事だけは止めなかった。
(ちくしょう……こんなところで終われねえのに……もうダメなのか……)
「まだ諦めるのは早いぞ武蔵」
一瞬の出来事だった。
疾風の如き影は、眼前の忍二人を視界から消し去った。
消滅したのではなく、目に追えない速さで、彼らを地面に叩きつけたのだ。
生きてはいるようだが、意識は完全に刈り取られている。
衝撃で土埃が舞い、前が見えなくなる。
不安はなかった。
誰の仕業かなんて、すぐにわかった。
この声の主は、
「やっぱ生きてたんだな和也……」
武蔵は友人の衝撃の姿に言葉を失った。
失うしかなかった。
「あれぐらいじゃ死なないよ。そっちも一応無事みたいで何よ……ってどうした?」
土埃が晴れ、その全貌があらわになる。
シルエットは、武蔵の知っている姿と同じだ。
だがおかしな部分があった。
それは――
「何でパンツと靴下しか履いてないんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
武蔵の絶叫が森を木霊する。
今まで何していたかとか、そんなのは頭にない。
元勇者の姿は灰色のトランクスに靴下という、変質者スタイルだったからだ。
しかも堂々として、恥ずかしがる素振りもない。
「絶望した……結局俺の周りは変なのばっかりだったのか……」
この少年だけはまともだと思っていたのに。
こんなの絶対おかしいよ。
「爆破に飲み込まれた時に燃えちゃってね。今履いてるパンツと靴下は……まあ特別製って事にしておいてくれ」
このパンツと靴下は異世界、レルービアで最高の職人とその他様々な超常能力者が全力を出して製造した品だ。
耐寒耐熱耐水耐電耐毒、ありとあらゆる耐性を備え体感も抜群だ。
一ヶ月洗わなくても、臭わない。一〇秒水に浸せば新品同然という無駄に高性能だったりもする。
「そういえば落ちてたよ、コレ」
小さな長方形の物体を武蔵に渡す。
甲賀の目的であり、武蔵にとっての最終兵器。
「超戦士装甲じゃねえか! ありがとう! マジでありがとう! これでもう何も怖くねえ! どこで見つけたんだ?」
「あの潰れた工場から、森入ってすぐのとこ」
「そんな場所からかよ……それにしてもよく見つけたな。俺がそこから入っていない場合もあるのによ。勘か?」
「俺の勘はよく当たるんだよ……おっと敵さんのお出ましだ。下で寝てる人もそうだけど、どうしてこんな変態みたいな格好してるんだ?」
「誰もお前に言われたくねえと思うが……何かここ変態の集会みたいだな……」
絶望状態の武蔵だが、気力は全く衰えていない。
衛星レーザーの雨はすっかり収まってしまい、甲賀の忍がぞろぞろと出てくる。
全員が完全武装し、どれも脅威だ。
「よくもやってくれたな……一人増えようが関係ない。全員かかれ!」
それもさっきまでの話だが。
武蔵は紗和を木の根元にゆっくり下ろすと、超戦士装甲を力強く握る。
これからは武蔵のターンだ。
「いくぜ! 正義の証明を此処に!」
超戦士装甲を天に掲げる。
暗闇を払うように。
「魔に汚れし邪悪を解き放て!」
掲げた腕を甲賀の忍に向かって突き出す。
「研ぎ澄ませ! 日輪の刃を!」
掛け声に応じて、物体が黄金に光り輝き出す。
まさしく日輪が如く。
そして大きく両腕をクロスさせる。
光がさらに増していく。
「シノビチェンジ!」
今度こそ、忍ばない忍による反撃の時間だ。
元勇者のパンツ(耐久EX 幸運A+)
異世界レルービアから和也が帰還するときに、レルービア人が悪ふざ……餞別で作った超高性能衣服。
地球にはない物質を超能力的な物で超強化し、レルービア最高のパンツ職人によって織られた物。
結果、燃えない濡れない汚れもつかない神秘的なパンツになった。
その他、元勇者のパーカー、元勇者のTシャツ、元勇者のジーンズ、元勇者の靴、元勇者の靴下も存在する。




