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アフターヒーロー  作者: 望月
第二章 帰還した勇者と忍ばない忍
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第一話 忍ばない忍は女神と遭遇す

1章のあらすじ


調子に乗った牛さんが、勇者と魔王と妖怪と忍者とドラゴンのオーバーキル戦力にボコボコにされた挙句、真っ二つにされました

 オレンジ色の太陽が照らす夕暮れ。

 帰路につく人々が街を賑わす。

 頃は五月下旬。

 もうじき梅雨がやってくる季節だ。

 街並みもそれに伴い、夏仕様に移り変わってきている。

 夏が近づき、やや暑くなってきた今日。

 悪態をつきながら、街を練り歩く少年がいた。

 

 「ちくしょう……ちくしょう……」


 染めたような金髪をオールバックにし、夏服に衣替えした学生服を着ている。

 見た目は不良だが、根は純情な忍ばない忍こと服部武蔵だ。

 忍者は人間に害を与える妖怪を、人知れず狩る事を生業とした集団。

 世間一般の技術の何十年も先をいく技術を持ち、人間より遥かに強い異形達を狩ってゆく。

 武蔵は父親の趣味で戦闘時は特撮ヒーローに変身し、自身の心を粉砕しながら敵を粉砕する。

 牛鬼率いる妖怪の一味による立花楓誘拐未遂事件から約二週間。

 学園生活はすっかり平穏に戻り、皆それぞれ日常を謳歌している。

 そんな中、武蔵は思いっきり肩を落としていた。

 理由は至って単純だ。

 学校帰りに可愛い女の子を見つけ、ナンパを決行。


「へーい彼女お茶しない?」

「結構イケメ……じゃない! キモい顔で近寄らないで変態!」


 いつもの下心丸出しの顔だったため、失敗。

 大声で変態と罵られ逃げられる。

 周囲から冷たい視線を浴びせられ、純情少年の心はバッキバキ。

 武蔵もまた、その場から全力で逃走した。


 「どうして俺のナンパは成功しねえんだよ……。可愛い娘の前で下心抱かない方が失礼だろうが……」


 この男、馬鹿である。

 しかも街中でブツブツと呟いているぶん、救いようがない。

 しばらく人目も気にせず、道なりに歩き続ける。

 次はどうすればナンパが成功するか計画しながらだ。

 

「和也を参考にすべきか。あいつの真似をすれば、モテるはずだ……女子ウケのいい和也の真似をすれば……」


 武蔵が在籍しているのは元勇者、魔王、妖怪、ドラゴン、忍者、異能者、一般人が通う清条ヶ峰学園。

 平和であるのが不思議なぐらい様々な生徒が集う。

 生徒も教師も学園長も規格外が揃い、妖怪勢力から目を付けられており、月に一度は問題が起こったり起こらなかったりする。

 そんな人外魔境な学園だが、構成する生徒のほとんどは一般人だ。

 そのせいもあって、こういった青春的な噂もよくある物。

 あの男子がカッコいいとか、あの女の子は可愛いだとか、普通の学校となんら変わりない。

 和也の女子からの人気はそれなりだ。

 かの雰囲気イケメンは入学して二ヶ月程で一定の人気を獲得。

 羨ましい限りだ。

 武蔵は女子に飢えている獣として認識されている。


「つってもあいつの場合人柄の良さだからな……俺には無理そうだ」


 武蔵は憎々しげに呟く。

 和也の人気の要因は、その人柄の良さからだ。

 優しげな口調に爽やかスマイル。容姿もそれなりに良い。細かな気遣いもできる。誰にでも優しい。 腕っ節も強い。相談にも嫌な顔もせずのってくれる。面倒見もいい。

 勉強は底辺でも、それ以外は超人レベルだ。

 真似をしても途方もないストレスが相当溜まる。

 いや武蔵に和也の真似なんてそもそもできない。

 それに変態というレッテルが貼られてしまった今では無駄な努力だろう。

 

「あの野郎は女の子とイチャイチャできていいよな……マジで……はあ……」


 電柱にもたれ掛かり、盛大にため息をつく。

 顔と勉強だけなら武蔵の方が上だ。

 好みの問題はあるが、和也はどちらかというとイケメンではなく、仏のような穏やかな顔。

 だが纏っている雰囲気はイケメン。

 高校生らしく遊んでいたりしているのに、雰囲気は高校生とは思えない。

 老成しているわけでもなく、子供っぽくもない。

 かといって大人な風格でもなかった。

 武蔵にも正確な表現は思いつかないが、とにかく女子受けは良い。

 たまに一般生徒がいる棟に行くと、女の子とよく喋っている。

 和也に好意を持って接近する女子も多いだろう。

 ただ立花楓――先の牛鬼襲撃事件の中心にいた大和撫子風少女と一緒にいることが多く、そこまで熱烈なアプローチは受けていないようだが。

 武蔵は男子とはすぐに打ち解けられるが、女子からの評判は地の底だ。

 近寄ろうとすると、足早に逃げられる。

 同時期に入学したはずなのに、この差。

 ため息の一つもつきたくなる。


「可愛い女の子とイチャイチャしてえなぁ……」


 とぼとぼと道沿いに歩き続けながら、愚痴をこぼす。

 愚痴でもこぼさなければ、とてもやっていられない。

 清条ヶ峰学園にやって来たのは、父親の魔の手から逃れる事と彼女欲しさから。

 というのにこの体たらく。

 好感を持ってもらうためとはいえ、一昔前の特撮ヒーローに変身。しかし失敗。

 加えて変態やらゴミやらと罵られ、彼女ができる気配は一向にない。

 最近罵倒される事に快感を覚えるようになった気がするが、きっと気のせいだろう。


「お、武蔵じゃないか。またナンパか?」


 そう武蔵に言葉をかけたのは、彼の友人であり、元勇者の桐生和也だ。

 相変わらずの爽やかスマイルとイケメンオーラがやけに眩しい。

 武蔵と同じく学生服姿だが、こちらは一番上までボタンをかけている。 

 和也とは知り合って間もない短い付き合いだ。

 よくできた友人で、同時にモテない男の敵でもある。


「まあな。ついさっき失敗しちまったけどよ……」

「そんなに気を落とすなって。武蔵ならすぐにいい娘が見つかるさ」

「だといいけどな。ところでお前は買い物の帰りか?」


 和也の手にあるエコバッグに顎をしゃくる。

 中身は見えないが、外観から物がぎっしり詰まっているのがわかった。


「そうだよ。もはや毎日の日課みたいなものかな」


 和也は肩をすくめる。

 学校帰りの買い物は入学してからほぼ毎日。

 桐生一家の帰宅の時間帯を考えると、和也しか買いに行けないためだ。

 大黒柱の智也は仕事。母の真美は入院中。妹の舞は部活。

 E組の面々は学校に馴染む事を最優先とするので、部活は二学期からとなっている。

 そうなると暇なのは和也だけ。

 買い物を担当するのは必然の理。

 そもそも家庭内における発言権が低い事もある。

 そう言った事情もあり、元勇者は今日も行きつけのスーパーで、安売りセール(戦争)に参加してきたばかりだ。

 今も、目当ての獲物をかっさらう主婦達の姿が脳裏にこびりついている。

 

「お前も大変だな。俺は寮生活だから飯は困んねえし」

「まあご飯作るのは好きだからいいんだけど、メニュー考えるの大変なんだよね。栄養とか色々あるから。あと掃除とか洗濯とか……」

「完っ全に主夫だなお前」


 憐れむような視線で和也を見る。

 ここまで主夫ぶりが板についた高校生がいるのだろうか。

 残念だが、ここにいる。

 一応異世界で魔王を殺した元勇者である。

 

 友人の家庭的な面に驚きを覚えながら、二人は歩く。

 時間的に遊ぶ時間は残されていない。寮の門限があるのだ。

 武蔵は見かけによらず、決まりは守る性格。

 周囲の人々と同じくこのまま帰る予定だ。

 まずナンパに失敗した時点で遊ぶ気力もない。

 和也も武蔵を見送ったあとに帰宅するつもりだ。


「そうだ今度女の子紹介してくれよ。大量の女の子と仲良いだろお前。一人ぐらい分けてくれよ」

「誤解を生む発言をするな。俺がタラシみたいじゃないか」

「違うのか?」


 武蔵は真顔で首を傾げる。

 彼は雰囲気イケメンの和也なら学園女子の一人や二人、既に食っていると本気で思っている。

 健全な男子高校生なら女の子に囲まれていたら手を出すに決まっているのだ。

 だが予想とは裏腹に、和也は呆れたように武蔵を睨む。


「違うよ。お前は俺を何だと思ってるんだ。そもそも今は彼女作る気なんてないし」

「はあ? 何言ってんのお前? お前なら彼女なんてすぐできるだろうに。ははあ、わかった。そうやって女の子に囲まれている環境が楽しいんだろ。んで俺みたいな非リア充を見て優越感に浸るんだろ」

「おい待て。いくらなんでも話が飛躍しすぎじゃないか? どんどん俺が下衆になってくんだけど」

「うるせえ! 黙れリア充が!」


 嫉妬から発展して負の感情が爆発する武蔵。

 もう少し落ち着いて欲しいと心底思う。

 育ち盛りの男子高校生にしても嫉妬がひどすぎる。

 感情が高ぶりすぎて目から涙が溢れてしまっていた。


「彼女が欲しい…彼女が欲しい……俺だけの女神が欲しい……」


 この世の物とは思えないぐらいぐしゃぐしゃだ。

 そろそろ可哀想になってきた和也は武蔵の肩を軽く叩いて宥める。


「そろそろ涙拭こうよ。せっかくの男前が台無しだぞ」

「おおそれもそうだな……ああ涙が止まらねえ……ハンカチは……あれ? つうか財布が……」


 ズボンのポケットに手を突っ込んでハンカチを掴む。

 そこで武蔵は気づいた。

 確か右のポケットに入っていたはずのあるものがなくなっていることに。

 高校生でなくとも、失くすとまずいアレがない。

 焦って胸ポケットからズボンの後ろのポケットをまさぐるが一向に見つからない。

 そう。財布がなくなっている。

 武蔵の頭はここにいたってようやく現状を認識した。

 

――やべ。どっかに落としたわ財布。

 ――え?


 言葉を語らずとも、目で分かり合う二人。


 「急いで探すぞ! どこで落としたか心当たりはあるか?」

 「さっき女の子から逃げられた時に走ったからそんときかも……」

 「すぐに戻ろう! 誰かに取られていたら取り返しのつかないことになる!」

 「そうだな……でも何でお前そんなに張り切ってんの?」

 

 武蔵が自分の問題を忘れ、疑問に思う。

 和也の言動がいちいち大げさだ。

 まるで自分の事かのように焦りまくっている。

 武蔵には理由が思いつかなかったが、単に友達思いなのだろうと勝手に納得することとした。

 それは半分ほどあっている。そしてあと半分は違う。

 実は常にお金に困っている桐生家の家計を担当している和也は、お金の話になるとよくわからない危機を感じてテンションがおかしくなってしまう性格になっているのだ。


「俺はこの辺を探してみるから、武蔵はそっちを頼む! お金は生活するのに必要不可欠! 絶対見つけるぞ!」

「お、おう」


 和也のあまりの剣幕に押されつつも、武蔵は心当たりのある場所を探しに行く。

 こうして武蔵は一人、元いた場所に走る。

 走りながら、武蔵の思考はどんどん暗くなっていく。

 本当に今日はツイていない。

 ナンパは失敗するうえにキモいと面と向かって言われ、友人の雰囲気イケメンと遭遇し、財布をどこかに落としてしまう。

 散々だ。厄日だ。神様が悪戯しているに違いない。

 そうとしか思えない。

 武蔵がいるかもわからない神様に怒りをぶつけていると、背後から声が聞こえてきた。


「すみません。この財布落としましたよ」


 少女の声。おまけに財布という単語。

 武蔵は反射的に足を止め、振り返る。

 茶髪のボブカット。可愛らしい、ほんわかした顔。服の上からもわかるほどの巨乳。

 制服から、清条ヶ峰学園の生徒だと判断できる。

 瞬時に武蔵の脳内のデータベースで検索をかける。

 学園女子の顔と名前はほとんど記憶済み。

 しかし、巨乳少女の女神のような顔を見てうまく脳が働かない。


「あの大丈夫でしょうか?」

「え? は、はい大丈夫でっす! えっと何の御用でっしょうか!」


 思わず声が裏返る。

 女子とのまともな会話なんて数える程度しかない武蔵には、可愛い女の子と面と向かって話せる事はできるわけがなかった。

 巨乳少女は不思議そうに、武蔵の顔を見つめている。

 それが武蔵の動揺を加速させた。


「この財布。あなたのですよね。急いで追いかけたのですが、迷っちゃいまして。時間がかかっちゃいました」


 てへっ、と可愛らしく笑う巨乳少女。

 彼女は財布を渡す際に武蔵の手に触れてしまう。

 きっと彼女にとっては何気ない事だったろう。

 だが武蔵は赤面どころかマグマのように顔を熱くさせる。


「ははい! それは俺のでございまっす! どうもありがとうごっざいます!」

「今度は落とさないように気をつけてねくださいね」


 巨乳少女はそう言い残して去っていく。

 聞きたいことはたくさんあったけれど、武蔵は呆然とその場に立ち尽くす。

 そして一言呟いた。


「女神だ……」

 



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