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アフターヒーロー  作者: 望月
第一章 帰還した勇者と清条ヶ峰学園
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番外編 また会う日まで

異世界での戦争が終わったあとのお話。

時系列は和也が日本に帰ってくる直前です。

物語開始の数ヶ月前にあたります。


「…………」


 一人の少年が月と星が輝く夜空の下で、静かに目を閉じていた。

 そこは周りを木々が円状に囲んでいる広場で、少年の足の長さぐらいの白い石碑が大量に建てられている。

 規則正しく並んでおり、万単位で大地に設置されていた。

 少年は数ある石碑の一つの前に立っていて、脇に土で汚れたスコップが置かれていた。

 彼の容姿は不揃いな黒髪に温和な目。細身ながら鍛えられた肉体。

 その少年の名を桐生和也と言う。

 現代日本から異世界レルービアに勇者として召喚され、魔王を殺し、今日まで生きてきた。

 そして今日。彼は元の世界へと帰還する。家族がいる世界に。日本に。

 和也の役目は終わった。この世界にいる理由はもうない。

 思い返すと、殺伐とした四年間だった。

 血を血で洗う凄惨極まる戦争。理不尽に死んでいった仲間達。遊ぶ余裕なんてなかった。

 それでも人生の四分の一をここで過ごしてきたと思うと、寂しくなってくる。

 辛い事も悲しい事もたくさんあった。同じように楽しい事も嬉しい事もあった。

 語り尽くせない程の思い出がいっぱいできたのだ。

 

 和也が感傷に浸っていると、背後から幼い子どものような声が耳に入ってきた。


「カズヤ。お別れの挨拶は終わったかしら?」


 地面に届く長さの藍色の髪。この世の物とは思えない白い肌に、藍色の瞳。

 頭には色とりどりの花で作られた冠を乗せている。

 とても小柄な体躯で、ランドセルが似合いそうな少女。

 声質に合ってない、色っぽい口調が特徴的だ。

 無地の白いワンピースを着用し、髪と瞳以外が真っ白に見える。

 彼女にはとある理由で、ここまでついてきてもらっていた。


「終わったよ。付き合ってもらって悪いね王様」


 この幼女。見かけに反してこの世界の王様だ。

 こんな頼りない姿だが、ちゃんと王様を務める理由はある。

 それはさておき、和也は短く答えた。

 お別れの挨拶。と言っても生きている人間相手ではない。それらは既に済ましてある。

 挨拶をしたのは、ここにある千を越え、万に及ぶ石碑に対してだ。

 これらは全て人間の墓。

 死人の多さを物語るかのように、大地を覆うほどの数だ。

 ここにはレルービアで起こった戦争で亡くなった人達が埋葬されている。

 超常現象を操る者同士の常軌を逸した、大規模な争いは多くの犠牲を生み出してしまった。

 本質的に平和を好むレルービア人。

 戦争が起こるまでは、人殺しなんて起こりもしない。

 そういう生き方をしてきた彼らが、簡単に殺しなんてできるはずがなかった。

 全員が戦闘向きの能力を持っているわけでもない。

 戦闘向きだとしても、殺し合いに慣れている人間はいない。


 そしてレルービア人は戦争開幕からの二年で、一千万人いた人口の七割が死亡した。

 魔王の軍勢が被害を顧みずに、暴れまわった結果だ。

 レルービア側にも実力者はいた。それでも被害の拡大を止められなかった。


 墓と言っても、中に誰も埋まっていない物が大半だ。

 敵による死体の利用を防ぐために、火葬されているが、そもそも火葬する死体が残っていない事が多い。

 化物に喰われたり、消し炭にされたりして、肉片一つ残っていないせいだ。

 この大量の石碑の中に和也の友人の多くが名を刻まれている。

 目の前にある石碑もその中の一つ。隣に石を使った小さな手製のお墓もある。


「それで? 今すぐ帰るの?」

「ああ。長い間こっちにいたんだ。家族が心配してるだろうしさ」

「あんたの事なんて忘れているかもしれないわよ? 最悪死んでいるかも」

「縁起の悪い事言わないでくれよ。これから帰るって時に。前から思うけど性格悪いよね王様」

「そうかしら。気のせいじゃない?」


 髪先を指でいじりながら返事をするレルービア王。

 和也に関心があるのかないのかよくわからない態度だ。

 出会った当時からこんな感じなので和也は地味に困っていた。

 それなりの付き合いだ、特に気にするまでもなく、会話を続ける。


「気のせい、ね。まあいいけどさ。勝手に召喚しといて、未だに一度も謝ってくれない事を気にしてなんてないし。あと俺と交換で送られたのが、石ころなのも気にしてない」

「絶対気にしているわね」


 スコップを地面に突き刺して、石碑の前に座り込む。

 この王様は和也を召喚した張本人。

 願掛けのつもりで、勇者召喚もどきを行ったところ、実際にできてしまったらしい。

 その召喚は一種のトレードのような物で、レルービアの道端に転がっていた石ころと和也は、世界を跨いで交換された。

 交換は何でもよかったのではなく、等価交換だ。

 等価交換とは同じ価値の物を交換すること。

 つまり和也とレルービアの石ころは同等の価値という事となる。

 

「まあ、石ころと等価交換のわりには頑張ったんじゃない?」

「自分でもかなり無茶したと思うけどね。魔王以外も強かったしさ」

「そうね。山みたいに大きい赤ん坊とか大気圏外から突撃してくる鳥人間とかいたわ」

「UMAみたいの引き連れてる奴もいたよね」

「ゆーま?」

「なんか意味わからん気持ち悪い動物みたいなのだよ。いたろ? 一面覆う数の」

「ああ、そいつのこと。足がたくさんあるキモいのとか、毛むくじゃらの大きいおっさんとかだったかしら? うじゃうじゃいたから気持ち悪かったわ……皆が瞬殺していたけど」


 例の戦争は魔王の軍勢も異常に強かった。

 どいつもこいつも自然災害クラスの力を持つ狂った連中だった。

 和也が召喚される以前の戦闘で低レベルの敵はほとんど死んでおり、強いのしか残っていなかったのだ。

 おかげで「え? 魔王じゃないの?」的な強さの連中しかいない始末だ。

 味方も敵もハイレベルで雑魚に類する存在は和也しかいなかった。

 召喚された当時の場違い感ときたら尋常ではない。

 ミサイルが飛び交う戦場に、石を持って乗り込むぐらいの差はある。


「まあ魔王に比べればマシじゃない? あれだけ戦闘力おかしかったでしょ」

「笑いながら隕石の雨を吹き飛ばしてたしね。よくあんなの殺せたと自分でも驚いてるよ……」


 オーバーな表現かもしれないが、魔王はそう評しても仕方ない強さを見せつけていた。

 そこらの石ころが最強最悪の魔王を殺せたのは、本当に奇跡だ。

 全てにおいて、圧倒的に和也は劣っていた。

 いくら劣化コピーで肉体を強化しようとも、魔王の強さには届かない。

 魔王の力があまりに強すぎたからだ。

 軍勢のトップだけあり、一人だけ別次元の強さを誇っていた。

 魔王の能力をコピーした事もあったが、彼の力は応用のしようがない能力だ。

 単純な力で、強力。劣化の組み合わせで戦う和也に一番相性が悪かった。

 それでもある種の反則技と直感のおかげで、殺しに成功。

 勝てたなんて未だに信じられない。


 「昔話はもういいわ。それよりも準備はいい? こっちも暇じゃないの」


 王様の顔が引き締まった。

 可憐な少女の姿をしていても、この世界の王。

 自然災害クラスの化物どもと対等に戦える人間達を率いるリーダー。

 刻まれた表情は大人をも凌駕する凄みがある。

 もう少し昔話を続けたかったが、この世界の王様だけあり、暇な時間はあまりない。

 ようやく戦争が終わって、これから復興していく最中だ。

 長い時間拘束してしまうのはレルービアの人間に悪い。

 

「準備万端だよ。用意してもらった服も向こうに行っても目立たないし」


 和也が着ている服は、どこにでもありそうな黒いパーカーとジーンズ。

 どちらも使い古された形跡があり、人ごみに簡単に紛れそうな地味な服装だ。

 

「ちゃんとあんたの要望通り作らせたから当然よ。使い古した感じも出してあるから何の問題もないでしょう?」

「うん。これなら違和感なく溶け込めると思う。この世界の服は俺の国だとかなり浮くから、助かるよ」


 若干色あせていたりして、妙なリアルさを醸し出している。

 異世界の服と日本の服とではデザインが大きく違う。

 一部例外はあれど、基本的に白を基調とした遊牧民のような出で立ちだ。

 人前に出れば、嫌な意味で注目の的。

 そのため、わざわざこうして製作してもらったのだ。

 無理な要求だと思ったが、さすがは超次元戦闘を繰り返した人間の集い。

 復興の片手間に、異世界の服の製作をしてしまった。

 さらに使い込んだ跡のおまけ付き。再現度の高さに和也の方が驚いたぐらいだ。 


 「ならいいわ。他に何か欲しいものはある? 最後だから何でもいいわよ。あ、でも私はダメだからね」


 両腕で体を包み込んで、身を隠そうとする王。

 小学生体型に手を出すほど獣だと思われているのなら心外だ。


「色々小さい子に興味はないよ。好みは母性ある人だから。母性の欠片もない王様は論外です」

「……冗談で言ったのに、本気で返されるとは思わなかったわ。あと隠すこともなく馬鹿にしているわね」

「馬鹿にしてない。事実を言ったまでの事だよ。王様みたいに小さくて薄い人はダメ。前々から思ってたけど、もっと王様は大らかさを身につけるべきだよ。何もかもが足りないんだからさ。そんなんだから皆に生暖かい目で見られてるんだ」

「言わせておけば……好き勝手に……」


 レルービア王が不機嫌そうに頬を膨らます。

 和也の好みは優しげで明るい女性。胸もそれなりにあると、なおよし。

 甲斐性の一つもなく、まな板の小さな王に興味を惹かれる要素は一切ない。

 髪が綺麗な所だけは唯一評価できる部分だ。


「まあいいわ。いえよくないけど。とにかく話を戻しましょう」


 咳払いして、話の軸を戻す。

 和也の欲しいものだったか。女性の好みを語ったせいで、忘れかけていた。

 やっと帰れる直前だ。特に欲しいものがあるわけではない。

 それに心の底から欲していた物はとっくに失われている。


「欲しい物はないよ。この服だけで十分さ」

「あまり欲張らないのね。能力もコピーしていないようだし。いくら劣化しようと、あなたの世界だったら簡単に征服ぐらいできそうなものなのに」


 見た目はいたいけな少女のくせに物騒な事を言う。

 世界征服なんて考えるのは小学生ぐらいのものだろう。

 能力のコピーをしていないのだって、平和的に生きたいからだ。

 この世界は隕石を雨のように降らす人もいるが、平均的とされる人ですら岩盤を貫通するレーザーを放ったり、風で人を切り裂いたりする。

 誰がそんな世界の住人の能力をコピーするものか。

 平和に生きたい人にとってはいらない力だ。

 そもそも力を持ち込んだところで、使うタイミングなんてない。

 家事向きの能力だって家族の前じゃ使用はできないのだ。バレたりするとかなり面倒なことになる。

 使えないなら持っていても意味はない。


「世界征服とか頭おかしいのか。まずうっかりで人殺しできる力はいらないって。今の体でもかなり危ないのにさ」

「あ、頭おかしいとは失礼ね! 冗談よ冗談!」

「はいはい。冗談ですね冗談」


 顔を真っ赤にして唸る小学生体型の王。

 威厳もへったくれもない残念な姿だ。

 和也は手馴れた様子で、それをあしらう。

 なんだかんだ長い付き合いになる。四年の間に扱い方を心得ていた。


「とにかく欲しい物はないよ。持ってく物はこれしかないから」


 パーカーのポケットに入れてある、こぢんまりした長方形の物体を取り出す。

 茶色の革製で、やや薄汚れた日記帳だ。

 和也がとある人物から渡されて、暇つぶしに書いてきた異世界生活の集大成。

 ただの、では済ましたくない事がたくさん書き連ねてある。

 もっとも戦場に出ていたり、面倒くさかったりして、毎日書いていたわけではないし、適当な内容が多かったりする。

 今見返すと、とても恥ずかしい文章があるが、これも思い出の一つ。

 誰かに見られなければ問題無い。

 写真も挟んでいるので、見られたら死ねる。

 

「それだけでいいの?」


 すっかり調子を持ち直した王が尋ねてくる。

 黄金など高価な物を持って行っても、色々怪しまれるのは確実。

 下手なものは持っていかない方が無難だ。

 父親の桐生智也は一流企業の社員。お金にも困っていなかった。

 世間一般から考えると、裕福な家庭に分類される。

 もしかしたらこの四年間で昇進しているかもして、もっといい生活になっている可能性もある。

 要するに無理をしてまで、持ち込むような物は現状ない。

 

「これだけでいいよ。他に何もいらない」

「ならいいわ。でもそれただの日記でしょ? 世界を超えてまで持っていく物? 他人に見られたくないのはわからなくもないけど」


 王が不思議そうに首を傾げる。

 いくら彼女が考えたところで、答えは出ないだろう。

 他人からしたら、ただの日記なのは変わりない。

 だが、これがただの日記だったら燃やして処分している。

 黒歴史的意味合い以外にも重要な物なのだ。

 和也は思い出すように星を眺めながら、


「また彼女と会う日までは手放せないんだよこれ。まあ俺が勝手にそうしてるんだけどさ」

「……そう。あなたまだ……」


 王は目を伏せた。

 これだけ言えば、彼女には心当たりがあるはずだ。

 表情を見るに言葉の意味がわかっているのだろう。


「辛いだけだと思うけどね。私が口出す事じゃないのだろうけど」

 

 それから王は問い詰めたりはしなかった。

 彼女なりに察してくれたのだ。

 和也としてもあまり話題にしたくない思い出だ。

 王の心遣いにひっそりと感謝する。


「……じゃあもう行くよ」


 その言葉と同時に、和也の足元が深緑の淡い光に輝く。

 召喚された時と同じ光だ。

 魔王が死んだ時から帰ろうと思えば帰ることはできた。

 準備などその他諸々の事情によって、今日までこの世界にいた。

 それもこれで最後。

 ごちゃまぜになった様々な感情が和也の心を締め付ける。

 この忌まわしい光すらとても懐かしく感じる。寂しくも感じる。

 もうすぐ元の世界へ帰れる。家族がいる世界に。

 そして第二の故郷とも言うべき、この世界ともおさらばだ。

 和也が思い出を振り返っていると、徐々に強まっていく光を見つめる王は、恥ずかしげに言った。

 

「……こうして話すのもこれで最後ね。さようならカズヤ。あなたの事嫌いじゃなかったわよ」

「それは初耳だ。俺もそこまで王様の事嫌いじゃなかったよ。あとこれは最後じゃない」


 光がどんどん強まっていく。月にも劣ろない輝きだ。

 それでも和也は光に負けんばかりの明るい声で応える。


「どういうこと?」

「俺たちはまた会う。いつかは知らないけど」

「へえ、そうなの。その根拠は?」


 王は驚いたように目を大きくした。

 和也も少しだけ驚く。

 王が驚いた姿を見たのは初めてかもしれないからだ。

 和也は一度小さく微笑むと、恥ずかしげもなく、


「勘だよ。ただの勘」

「……根拠も何もないわね」

「そんな事ないよ。俺の勘はよく当たるんだから」


 自信を持って和也は言う。

 一点の曇りもなく、言い切る和也に王は苦笑を漏らした。

 思えば一年前から口癖のように言っていた。

 ――俺の勘はよく当たる。

 自信はあるのに、絶対とは言わないのが和也らしいといえば和也らしい。

 王は珍しく、柔らかな表情を見せた。

 和也から見ても、少しは母性があるように感じる。


「なら言い直すわ。またねカズヤ」


 普段は優しげな声なんて出さないレルービア王。

いつもこんな表情だったらいいのに、と思いながら、


「またね王様」

 

 その言葉を最後に、和也は眩い光に全身を包まれ、音もなく消えていった。

 一瞬の出来事だ。

 まるで最初から何もなかったかのように。

 確かに少年はここにいたはずなのに。

 王はちょっぴり寂しく思う。あくまでちょっぴりだ。

 また一人、知り合いがいなくなると思うと悲しくなってしまうのは年寄りの思考だろうか。

 名残惜しそうに、和也がいた場所を見る。

 桐生和也は世界を渡り、元の世界に戻っているだろう。

 王がそういう調整をしたのだから、きっと無事に元の場所に帰れたはずだ。

 そうして、しばらく黙って佇んでいたが、

 

「やっば仕事仕事。早く帰らないと皆に怒られちゃう」

 

 和也が手にしていたスコップを拾って、焦り気味に駆け出して行った。


王様はロリBBA


この話はかなり重要だったりします

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