53.いつかのやり直しを
最終話です。
あれから2年。
アレク様は17歳に、私は16歳になった。
この国では17歳になったら男女ともに結婚できる。
私とアレク様の婚姻式まで、あと半年を切った。
なんでも早く結婚したいアレク様が渋るお父様を押し切って私の誕生日に式を挙げることを強行したようだ。
アレク様が「あと〇日だね」と指折りカウントダウンをする。なんか細かい。
「ずっと、ずっと君との結婚を夢見ていたんだ。前はプロポーズもできなかったんだから、しょうがないだろう」
そんなことを言われると何も言えなくなる。
私たちの式は国の一大行事のため招待する来賓の数も面子も凄まじいことになる。
前日から王城では来賓への歓迎パーティが行われ、当日は式のあとパレードをして王城でのパーティとなっている。
式までに決めることもやる事も多く、目が回る忙しさとはこのことかと思う今日この頃。
国内は既にお祭りムードが漂っており、王太子殿下のご成婚なので、それにあやかって今年結婚する人も多いようだ。
そんなことをしていたらあっという間に半年過ぎ──
結婚式前日。
いろいろ準備に追われ、一生懸命進めていたらなんとか昨日全て終わった。すでに達成感がある。
今日はエステのようなマッサージがあるだけだ。
そんな私は1週間前から王城の王太子妃の部屋で生活をしている。
のんびりと紅茶を飲みながら物思いに耽る。
結婚……前世でも経験がない。
今世を振り返ってみると──
お父様に愛されてないと思ってそれは諦めて。
前世のことを思い出して人と一線を引こうと思ったけど、処刑回避のためにそんなこともいってられなくて。
やりたいことをやって、目の前のことを頑張っていたら事件に巻き込まれて。
それから実はお父様は私を愛してくれていたことを知った。
それから自分に少し自信もついて。
アレク様…斗真さんに向き合う勇気を持てた。
前世のことは誤解だとわかり、言葉にすることの大切さが身に沁みた。
アスターとも本当の意味で仲良くなれた。
そして色々な人に守られていることを知った。
これから何かあっても、人を信じることができると、そう思う。
こんなふうに物思いに耽るのはマリッジブルーというやつかな、と考えていたとき。ノックの音が静かな部屋に響いた。
すぐにラニアが確認してくれたが、ドアからアレク様が顔をだした。
「シェリル、今日は時間が空いたと聞いたんだが……」
「はい。無事全ての確認も終えて、のんびりしていたところです。何かありましたか?」
「こちらの方もいろいろと終わったから、暇なら出かけないかと思って…」
「いいですね!行きましょう!」
ーーーーーー
私たちは城下の商業通りに来た。特に欲しいものとかはなかったのでウィンドウショッピングみたいな感じだったけど。
あっという間に時間が過ぎ、日も暮れ始めた。そろそろ帰る時間かと思っていると、夕食はお店を予約してくれているとのことだった。
王城の食事は言わずもがなとても美味しいが、外で食べるのもまた違った美味しさがある。
アレク様に二つ返事で了承し、馬車に乗り込んだ。高台にあるレストランらしい。
程なくしてレストランに到着するも、他にお客さんはいない。王族がくるからか貸切にしてくれたのか。
申し訳なくもありがたく思っていると、テラス席に案内された。
「うわぁ…綺麗……!アレク様も見て下さい!」
「…あぁ、見ているよ」
そこからは城下が一望できた。夕焼けに染まる街はとても綺麗で、息を呑むほどに美しい景色が広がっていた。
アレク様は私の後を追いかけて歩いてくる。
振り返ると、とても優しい顔で微笑みながら私を見ていた。
子供みたいにはしゃいでしまって少し恥ずかしくなったところで、こちらです、とウェイターさんが椅子を引いてくれた。
「こんな素敵なお店、よく知ってましたね」
「あぁ……なかったから作らせた」
「──え?」
「なかなか理想に合うところがなくてね。こういうときにはこういう立場も悪くないと思えるよ」
にこやかにそう言ったアレク様はわたしから視線を逸らさない。
「な、なんで…」
「…シェリルに、喜んでほしかったから」
それだけでこんなことをしてしまうなんて。
でもこのレストランは貴族はもちろん、平民でも利用できるとあれば、人気になるだろうことがわかるほど素敵なところだった。
そんな話をしている間にも料理が運ばれてきた。コース料理のそれはとても美味しく、あっという間になくなってしまう。
「うーん!!美味しい!」
「それは良かった」
「はい、とっても美味しいです!幸せ…」
「そうか。そんなに幸せそうに食べてくれると考えた甲斐があったよ」
語彙力の乏しい感想しか言えなくなった私にも、アレク様は優しく見つめて相槌をうっていた。
メニューもアレク様とシェフが一緒に考えたものだそうだ。こんな才能もあっただなんて。
さすが主人公、なんてことを思ってしまうくらいには本当に全部美味しかった。
「ここには庭園もあるんだ。夜はライトアップされて綺麗だから、これを食べ終わったら行かないか?」
「え!庭園まであるんですか!ぜひ!」
食後のデザートに差し掛かった時、アレク様がそう提案してくれた。
もとは魔素の関係で庭園の散歩を取り入れただけだったが、それがきっかけで花が好きになった。
そんな私のことをわかっているのだろう。
そして、アレク様にエスコートされながら夜の庭園を歩く。
前世のライトほど強くはない魔石でのライトアップは、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
静かな庭園に風が優しく吹いており、花が揺れている。
少し歩くと噴水もあり、他の場所と比べると比較的明るい。噴水の周りには私の家にあるバラと同じ種類…シェリルというお父様が開発したバラと、鈴蘭がなんともちょうどいい素敵なバランスで植えられていた。
噴水よ水飛沫が魔石の灯りに照らされ、バラと鈴蘭が色を添えている。
静かな庭園には噴水の落ち着く水音が響いていた
「素敵……」
思わずポロリと溢れた言葉は夜の庭園に吸い込まれていった。
しばらく立ち止まり見入っていると、アレク様が動いた気配を感じたため振り返る。すると私を愛おしげに見つめる優しい瞳と目が合った。
やがてアレク様はふわりと笑うと、私の前に跪いた。
「……アレク様?」
アレク様は上着の中から小さな箱を取り出すと、長い指でそっとそれを開けた。その中にあったのは、イエローダイヤモンドの付いた指輪だった。
状況がまったく飲み込めず呆然としている私に、アレク様はそれを差し出して言った。
「シェリル…君を…君だけを愛している。俺と結婚してください」
私は今、プロポーズをされているのか。
この国、というよりおそらくこの世界には、婚約指輪というものはない。
つまりこれは前世をもとにアレク様が用意してくれたのだろう。
『なかったから作らせた』
──もしかして
はっとしてアレク様を見る。アレク様の眩しい黄金色の瞳と視線が絡む。私が気づいたことにも気づいたのか。その形のいい唇には、愛しさに満ちた微笑みが浮かんでいた。
「…そうだよ。前世…瑠璃にしようと思っていたプロポーズ。………やっと…やっと、言えた」
そういうと、アレク様の顔は嬉しそうに、しかし目元には涙が滲んでいる。
私たちの結婚はもう決められているものだったため、プロポーズされるなんて思ってもいなかった。さらに…おそらく前世計画していたことを再現するだなんて。きっと、私が大切にしていた紫苑の気持ちも汲んで再現することにしたのだろう。あまりのことに驚きすぎて言葉が何も出てこない。
そんなアレク様の前世から続くまっすぐな愛情が伝わってきて、次第に涙腺が緩んでいく。
生きてきた中で今が最も嬉しくて幸せで、アレク様への想いが込み上げてくる。そんな気持ちは涙となって、溢れて止まらなくなった。
「私もアレク様と、ずっと一緒にいたいです……愛しています」
「ありがとう…本当に、ありがとう。絶対に幸せにするから。……愛しているよ」
この先、どんなことがあっても今日のことを忘れない。
私はきっと、アレク様と幸せになるために、前世の記憶を思い出したんだな、と思った。
そんな気持ちを込めて想いを伝えると、アレク様は幸せそうに黄金色の目を細めた。堪えきれなかったのか涙が一粒流れ落ちた。
そしてどちらからともなく、求め合うように唇を重ね合う。頭に手を回され、さらに深く口付けられた。
やがて唇が離れると顔を見合わせて微笑み、アレク様にぎゅうっと抱きしめられた。
私はこの幸せがいつまでも続きますようにと願うのだった。
読んでくださり本当にありがとうございました!
ここまでお付き合いいただき本当に感謝しております!
いいね・評価・ブクマもありがとうございました。
最初の方からずっといいねしてくださった方もいて、皆様のおかげで初めての連載を完結まで頑張ることができました!
まだまだ上手く文章にできないところが多いですが、これからも何か書ければ投稿したいと思います!
本当にありがとうございました!




