44、本当の終幕
ひと足先に、指示を出し終えたアレク様と王城に帰る馬車に揺られながら、少し前のことを思い返す。
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ヴァネッサを捕縛した庭園で、会場に向かって戻ろうとしたときのこと。
オーウェン先生がアレク様を揶揄ったあと、思い出したように言った。
「あ、そういえばこれを言いたかったんだった。今日の夜、動きそうだって」
「それは…まぁ同じ日に」
「まぁ、そうなるとは思っていた。……情報感謝する」
先日、行方不明の件を調査している過程で、理由まではわからずとも、ドレージュ公爵が私を狙っていることをアレク様と情報共有したお父様が突き止めた。
あとはいつ、それが行われるかというところだったのだが。まさか今日とは。
厄日だなと思いながら、しかし何故オーウェン先生が、という疑問が出てくる。
それが顔にでていたのかアレク様が答えてくれる。
「メイフェル伯爵家は教会派で、ドレージュ公爵家とも親しくしている。それでオーウェンに探りをいれてもらうよう取り計らったんだ……。シェリルのことなら動くと思ってな」
「え?なんて?」
最後すごく嫌そうな顔で絞り出した言葉は小さくて聞こえなかった。
「王太子様もけっこうな無茶振りするよね。あの家での俺の扱い知ってるくせに。……まぁ使い魔を忍び込ませたら意外とすぐにわかったけど…でもあのお嬢ちゃんがこう動くなんて聞いてなかったから驚いたよ」
「……扱い?」
「うん。……あれ、言ってなかったっけ?俺はメイフェル伯爵家の所謂庶子ってやつ。現伯爵と娼婦の間に産まれた子なの。だけど魔法の適性高かったばっかりに引き取られてさ……。まぁ、あの家での扱いがひどくて魔塔に所属できるようになってすぐに家を出たけど」
「そ、うだったんですか……」
前に庶子についての見解を話したとき、嬉しそうに見えたのはそのせいだったのかと腑に落ちる。
「まぁ、それはいいとして。どーするの?王太子様?」
「そうだな……」
「はい!私が!私が行きます!」
そんなとき、まるでピクニックにでも行くかのように、元気にアスターが言った。
「な!何を言っているのアスター!危ないわ!しかも狙われているのは私なのよ!」
「大丈夫です、お姉様。こんなこともあろうかとお姉様に変装する準備はばっちりです!」
「なんでそんな準備をしているの?!」
「……たしかに、それはありだな。考えていたものよりシェリルも安全だし、確実だろう。まぁ話術はあまり期待できないが……」
少し考えていた様子のアレク様が信じられないことを言い出した。
「!?そんな!アスターは普通の女の子なんですよ!危ないことは……」
「普通の…ね。普通ならこんな提案は受け入れないが…」
「え?どういう「大丈夫!お姉様!私、お姉様のフリをするならとても自信があります!」
私の心配をものともせず、食い気味に胸を叩いてアスターが得意げに言うが、問題はそこではない。
どう説得しようか考える効果的な言葉がでてこない。その間にもアレク様は方針を決めてしまったようだ。
「時間もないし、それでいこう。流石にもう会場に戻らなければ怪しまれる。似たドレスと場所が特定できるものなどは用意しておくから、シェリルは帰るとき会場にでてすぐの客間に行ってくれ。アスターは先に行って準備していろ」
「かしこまりました!」
元気よく返事をしているアスターを見てどうしようかと慌てふためくも、アレク様に腰を抱かれて促され、強制的に会場に戻される。
動揺を悟られないようにすぐに顔に笑みを貼り付けるも、内心の動揺は収まらない。
そして挨拶を終えるとすぐに国王陛下に辞去の挨拶を述べ、客室に向かうことになった。
そこにはすでに銀髪の鬘を被り今日の私と同じ髪型をした、同じような群青色のドレスを着ているアスターが待っていた。
私に気づくとすぐに駆け寄ってきてニコニコと話しかけてくる。
「お姉様!お疲れ様です!あとは私にまかせてゆっくりしていてくださいね。これが終わったら公爵邸でお父様も一緒に3人でお茶しましょう!」
「あ!アスター!」
そう言ってすぐ出ないと不自然なのでと言ってアスターはでて行ってしまった。
思わず私もついていこうとするも、会場に戻ったときからそばで控えているラニアに止められる。
「ラニア!アスターが!」
「アスターお嬢様は大丈夫かと」
「え?ラニアまでそんなこと……」
どうしてみんなアスターは大丈夫というのか。どう考えても普通の貴族令嬢でしかないはずなのに。
「ひとまず、シェリルお嬢様はこちらで、アレクシス王太子殿下がいらっしゃるまでしばしお待ちください」
「そんな……」
そんなことがあり、ターゲットがアスターにひっかかったとアレク様が来た時も城にいるよう言われたが、そんなことできるわけもなく。無理やりついていくことにしたのだった。
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ヴァネッサが引き連れていた暗殺者たちは、ポイズナー大司教が紹介してドレージュ公爵が雇った人たちだったそうだ。ヴァネッサの指示に従ったふりをして、バレないようにシェリルをあのログハウスに傷つけずに連れてくるよう指示をしていたらしい。
そしてドレージュ公爵は私をあそこに住まわせて、通う予定だったとか。
ドレージュ公爵は黙っていたが、ポイズナー大司教がアスターが横に控えていたらひどく怯えてペラペラ喋っていた。
ひとまずわかったのはそこまでだが、今後さらなる尋問と、その証言をもとに調査することになるそうだ。
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