↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛する気はない悪役令嬢ですが、王太子の執着から逃げられません〜前世で妹と恋人に裏切られたので穏やかに生きたいだけなのに〜  作者: はな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/65

45、私の気持ち



 「……アスターは……5年ほど前から鍛えていたと言っていましたが、ご存じでしたか?」

「ああ。シェリーももう知っていると思っていたが……まだ知らなかったんだな」


 意外そうにそう言うアレク様は、いつもと同じくぴったり横に座り、しっかりと私の腰に腕を回している。


 ……私だけが知らなかったのだと気づいて、胸の奥がちくりと痛む。


 それを察したのか、アレク様は私の頭をよしよしと撫でている。


「あのパーティーのとき、シェリルに守られるのではなく、守りたいと強く思ったそうだ。アスターが十六歳になったら、騎士団入団試験を受けるつもりらしい」


「え!? 騎士団の!? そこまで……」


「これからもシェリルと共にいるために、王太子妃専属護衛騎士になりたいそうだ。ときおり騎士団に混ざって訓練していると聞いている」


 もう小説の話から逸脱しすぎていて、なんとも言えない。


 私にとっては小説ではなく現実だったから、そこまで物語に囚われていたわけではないけれど、それでも小説の中で騎士云々の話はもちろんなかった。


「主人公のポテンシャルが高すぎる……」

「……主人公?」


 思わず漏れた言葉に対し、アレク様がきょとんとした様子で繰り返す。


「あ、そういえばこの話はしていなかったわ。この世界、前世で読んだ小説の世界だと思うんです」

「は? 小説?」

「はい。紫苑に勧められて……。でも私も流し読みだったので、あまり詳細は覚えていないのですが……」


 目を丸くして驚いているアレク様に、ざっくりと内容を説明する。


 おそらくポイズナー大司教は小説の黒幕と同じなのだと思うと締めくくると、アレク様は納得した様子だった。


「なるほど。そうだったのか……」


「すっかり小説のことなど忘れてしまっていて……。私としては現実として生きていた感覚の方が強く、もうだいぶ物語から逸脱してしまっていたので……」

「そうだろうな。たしかに、そういうラノベやアニメが流行っていたな……」


 懐かしそうに目を細めたアレク様に、先ほど生まれた疑問を投げかける。


「それにしても……どうして私とアレク様は前世を思い出したのでしょうか?」


 おそらく、アスターは紫苑だと思う。


 それをアレク様が知っているかはわからないが、前世の記憶はなさそうだった。


 私たちとの違いは何なのだろうか。


「そうだな……それはよくわからない。後悔や心残りが多かったのか、何か強い想いがあったのか……あるいはそれとは関係ないのか……」

「私は事故で前世が終わってしまいましたが……斗真さんはそのあと何歳まで?」


 少し聞きづらかったが、思い切って尋ねた。


「……瑠璃とのことはすべて覚えているが、その後のことはあまり覚えていない」

「そう……なんですか……」


 私の質問に対し、アレク様は顎に手を当てて真剣に考え込んでしまった。


「ちなみに、私は魔力枯渇を初めて起こしたときに思い出したのですが、アレク様はいつですか?」

「あぁ、それはシェリーと初めて目が合ったときだな」

「──え?」


 いつのことだろうか。


 最初のお茶会のとき?

 それにしては混乱した様子はなかったと思うけど。


「……アレク様は、斗真さんだった頃の記憶を思い出して、よかったですか?」

「当たり前だろう。瑠璃との思い出はどんなものでも、俺の中で何よりもかけがえのないものだ。……それがあるから、今の俺がある」

「……そんな、大袈裟な……」

「大袈裟などでは全くないのだが。……一生かけてわからせてあげることにしよう」


 そう言って微笑むと、アレク様は私の頬を撫でた。


 以前告白されたとき、『俺の世界を彩って、変えてくれた君をとても愛おしく思っている』と言われたことを思い出す。


 身に覚えはないと思っていたが、瑠璃のときも含めての言葉なのだろう。


 それでも、ここまで想われていることは不思議な感覚だった。


 すると、はっとしたように動きを止め、ごほん、と咳払いをして口元に手を当てたまま、少し頬を赤くして私を見る。


「そ、そういえば、先ほど……俺……とアスターのこともだけど……だ、大好き……と言ったか……?」


 もごもごと、ぎりぎり聞き取れる声量で確認される。


 先ほどアスターの反応を見て、以前アレク様が話してくれた前世の話は信じることに決めていた。


 それもあって出た言葉だったのが……


「……うーん、そんなこと言いましたかね?」

「え!? な、あの、その……俺の、聞き間違い……か……?」


 みるみるうちに顔色が変わっていく。


 少し照れくさくて出た言葉だったが、アレク様が予想以上にショックを受けたのか、顔色が赤かったのが一気に青くなる。


 それが面白く感じ、思わずふふっと笑ってしまう。


「な、か、からかったのか?」

「いいえ? ……でも……アスターと同じ『好き』でいいのですか?」

「!? そ、それは……嫌だ……」


 そう言うと腕を引かれ、抱きしめられた。


 ふわりとアレク様の良い香りと優しい体温に包まれ、鼓動が速くなっていく。


 アレク様は私をぎゅうっと抱きしめた。


「本当に、ずっと……ずっと君だけが好きなんだ……。わかってはいるんだ……一緒にいられるだけで感謝すべきだと……。幸せなのは間違いない。間違いないのだが……どうしても、それ以上を望んでしまう」


 耳元で甘く低い声が囁かれ、心臓が大きく跳ねた。


「アレク様、私……」 

「すぐに返事がほしいわけじゃない。ひとまず婚約を継続してくれることに感謝している。でも……いつか、いつか……俺をまた、好きになって……」


 最後の懇願の言葉はとても小さい。

 耳元で言われなければ聞き取れなかっただろう。


 いつも余裕の態度を崩さないアレク様が、私の前でだけこうなってしまうことに、とても愛しさを感じる。


 もう自分の気持ちに嘘はつけなくて、視界がぼやけていく。


 もう気持ちを抑えることなど、できそうにない。


「アレク様。私も……あなたが好きです」


 アレク様がぴたりと固まった。


 言葉にすると、思った以上にしっくりくる。

 胸がきゅっと苦しくなり、涙が込み上げてきた。


 しばらくしてやっと動いたアレク様の手が、私の頭をそっと撫でる。


 その手が震えているのがわかった。


「ほ、本当に……?」

「はい。私も、アレク様が好きです」


 もう一度同じ言葉を伝え、アレク様の胸元を両手で押して離れる。


 顔を上げると、至近距離で視線が絡んだ。


 アレク様は少し頬を赤く染め、目に涙を溜めていて、今にも零れ落ちそうだった。


 薄暗い中でも熱を帯びた黄金色の瞳は輝いていて、目を逸らせなくなる。


「……好きだよ」


 ひどく甘く優しい声が耳に届き、抗えないほど優しく包み込まれて、甘く優しい口づけが落とされた。


「シェリル……愛してる」


 アレク様は蕩けるように嬉しそうに笑うと、また私の唇に包み込むようなキスをした。


 目からは涙が一粒、零れ落ちた。





読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。