アレクシス視点③
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──閉じ込めてしまおうか
そう、無意識に出た考えを振り払いつつ、今話し合ってもひどいことを言ってしまいそうだった。
自分が何をするかわからない懸念があり、シェリルから目を背けた。
シェリルを王太子妃の部屋に送り届けたあと、女性騎士を手配し部屋からは一歩も出すなと指示をして事件の後始末に追われた。
部屋はもうすでにシェリルのためにいろいろ準備はできていたから問題はない。
それより何より、シェリルが狙われたことが1番の問題である。先ほどの男からなにか情報が取れたか。
シェリルを狙うなど…生きていられると思うなよ。まぁすぐには殺さないけど。
そんなことを考えている時、ルカが来た。
「…アレク、ひどい顔色だな。それにびしょ濡れだぞ。一度シャワーでも浴びて着替えてきた方がいい。事件のことは聞いているがまずは行ってこい。その間に情報をまとめておくから」
その言葉で自身の格好が酷いものだということを思い出す。しかしシェリルのことで頭がいっぱいで忘れていた。
「わかった。頼む」
それからは調べさせてどんどん入ってくる情報を精査しながら、調査を進めていく。
調べを進めるうちに、やはり、あの爆発は人為的なものだとわかった。それは予想通りだったが、魔塔が調べた結果、そこには魔法の残滓があったそうだ。
つまり、今回の実行犯は魔道具を使ったか、火魔法が使える人物か。
魔道具の場合は誰でも使えるが物的証拠が残る。火魔法が使える人物は多くいるが、貴族となり数が限られているため特定できる可能性が高い。証拠がなかったことからおそらく後者だろう。
その方向性で調査を進めていた。
事件から3日後、シェリルが公爵の見舞いに行きたいと言っていると告げられ、公爵が刺されたときのシェリルを思い出す。
安心させてあげるためにも行かせてあげたい。しかし、そのあとに話した婚約を破棄してほしいというシェリルの言葉も一緒に思い出した。
──もし、お見舞いを許可してその隙をついて逃げたら?
ついついそんな考えが浮かんでしまう。保護も兼ねているからそんなことにはならないだろうと考え直し、万が一のため女性騎士の配置を指示してその条件ならと許可を出した。
それを聞いていたルカにはドン引きされた。でも本当はもう少し人数を増やそうと思ったが、これでも思いとどまった。自分でも相当だとは思う。それでも何かあるよりはいいと自分を納得させ、業務に戻る。
しばらくするとハーディング公爵も目を覚ましたと連絡が入った。
次の日にはもう、その公爵がシェリルがいないときに会いたいと、目が覚めたばかりでまだ本調子ではないだろうに手紙をよこした。
何か事件に関わることか。そう思い手紙に書いてあった時間に公爵に会いに行く。
公爵は思っていたよりも顔色もよく、どことなく花も飛んでいた。先ほどまでシェリルがいたそうだ。
不仲だと聞いていたが…まぁ、父上は何か擁護していた気がするし、今回の事件でそれだけではないと思っていたが…
とりあえず、と頭を切り替えて要件を聞くと、やはり事件のことだった。
公爵の頭を借りられるなら頼もしいと思い、事件の現在わかっていることの調査報告をした。公爵のほうでも公爵家の影が動いていたようだったため、話をすり合わせていく。
あの発火元の火消しをしたのは公爵で、そのときの魔法の残滓とから、ある貴族の疑いが浮上した。
ただこれは公爵が感知したというだけで物的証拠があるわけではない。そして12年前の事件についても聞いた。
いろいろ話しているとまだ本調子ではないからか公爵の顔色も悪くなってきたため、続きはまたと部屋を後にした。
そんな日々を過ごしながらも、少し休もうとすると、やはり思い出してしまうのはシェリルのことで。
シェリルの雨の中で懇願されたことを忘れたわけではない。考えたくないだけ。だけど。
──いくら悩んだところで、シェリルから離れるという選択肢はない。
婚約の解消を万が一したとして。結婚しないならまだしも、それはきっと公爵令嬢のシェリルには無理だろう。シェリルが俺以外の誰かと添い遂げる?そんなのは許さない。
シェリルが幸せならばそれでいいなどとは一切思わない。他の男に彼女の全てを委ねるなど考えるだけで気が狂いそうだ。
きっと、最愛の人を1度失った時点で自分は狂ってしまったんだろう。
彼女の身も心も全て自分だけの物にしてしまいたい。誰にもその体に触れさせたくない。そんな仄暗い独占欲をいだいているのはバレていないと思う。ルカにはバレていそうだが。
昔はお前を殺して俺も死ぬ、みたいな心中するやつの気持ちはわからなかったが、今はよくわかるようになってしまった。
そしてなおさら考えたくなくて仕事に打ち込んでいたらルカにいい加減に少しは休めと怒られた。
それでもまだシェリルが狙われている状況で休めるわけもなく、最悪なことを考えてしまうので眠れるわけでもない。
何をいっても休まない俺についに見兼ねたルカは俺を部屋に押し込めた。仕方なくベッドに横になるが、体は疲れているはずなのに眠気が全くない。
ベッドサイドテーブルの上に飾った鈴蘭を飾った写真立てを眺める。
これは街で誘拐されそうになったときにシェリルが忘れていったもの。それを持って帰ってきて押し花にして飾ったものだ。
瑠璃が好きだった花。そして今の俺にとっても大切な花になった。
鈴蘭の花言葉の中の1つは「幸福の再来」
俺にとってまさしくシェリルがそれだった。
シェリルさえいてくれれば俺は幸せになれる。
シェリルさえいてくれれば、他に何もいらない。
シェリルに、会いたい。
でも、まだ会う決心がつかない。
ひどいことをしてしまうかもしれない。
ひどいことを言ってしまうかもしれない。
シェリルの幸せを1番に考えている一方で、シェリルが俺から離れるなんて考えるだけでも嫌だった。
俺からシェリルを奪うのは許さない。許せるはずもない──
結局考えてしまうのはやっぱりシェリルのこと。眠ることができず、部屋のあちこちに置いてあるシェリルからもらったプレゼントを眺めたり、事件の見落としはないかとルカには内緒で持ち込んだ資料を読み返したりしていたら朝を迎えた。
朝迎えに来たルカは俺の顔を見るなりびっくりした顔で、それ以降呆れたのか何も言わなくなった。
そんなとき、寝てない分普段の仕事は終わっており、事件の調査報告を待っていると廊下が騒がしくなった。
何かあったかと扉の方を見ると、いけません!という声が聞こえたかと思ったら扉がすごい勢いで開き、とってもいい笑顔をしたシェリルがいた。
無意識に背中に冷や汗が伝った。
一瞬会いた過ぎてついに幻覚まで見えたのかと思ったが、笑顔なのに強すぎる圧を感じて本物だとわかる。俺と目があったらひどく驚いた顔になった。
先ほどは、なんと言っていたか…?
シェリルは、怒っていたのか?
シェリルが自分のことで怒っているということを遅れて理解し、驚く。それこそ、前世を含めても自分のことで怒っているのをみたことがなかったから。
少し安心してしまった。自分のことで怒れるほど、今は精神的にゆとりがあるのか、と。
寝不足のせいかあまり頭が回っていない状態でその気持ちのまま話すと、さらに驚愕の表情をする。
(あぁ、やっぱり。そうなんだ)
あの事件の日。雨の中で頭によぎった疑惑。それが確信に変わった。
そして彼女の今までの言動の理由がわかってくる。
それであれば。
もう叶わないと思っていたけど。
ずっと伝えたかったことがある。
ただの独りよがりで自己満足でしかないかもしれないけど。
1人で抱えているにはあまりにも大きくて。
気づけば思い切り抱きしめて、涙を流しただひたすらに謝っていた。
感情の波がいつもより大きいことを感じつつも、やっと伝えることができた、という気持ちになる。
そう思った途端、プツンっと意識が途絶えた。
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