30、歩み寄りの一方で
目を覚ましたお父様は目を真っ赤にして大泣きしている私に動揺したのか、いつもは眉間にしわを寄せてしかいない顔が、おろおろしているのが伝わってくる。
幼馴染である陛下の前なのもあるのか、寝起きだからなのか。いつもとちがう、初めてみる顔だった。
「何故、泣いているんだ…。ランドルフ、お前私の娘に何を…!」
すると原因は国王陛下にあると思ったのか、ギロリと睨みつけている。
「私は、何も。昔話をしただけだ。無事目を覚まして安心した。これを機にゆっくり休め。まぁ仕事は溜まっているだろうが、こちらでできるものは処理しておこう。お大事にな」
陛下はしれっとそう言うと、私の肩をぽんっと叩いて出ていった。
泣き止まない私を、どうしたものかと引き続きおろおろしているお父様は新鮮だった。
私が落ち着いてきたころ、医者が来て診察が始まった。陛下が手配してくださったようだ。
「まだ安静が必要ですが、もう大丈夫でしょう」
そう言って私たちをにこにこ見比べて帰っていった。
お父様を再びベッドで寝かせ、休ませるために部屋を後にしようと腰をあげる。
「シェリル、待て。一体何があった。ランドルフ…国王陛下に何かされたのか。それなら…」
「いいえ、お父様。違いますわ。陛下には昔話をいろいろと伺っただけです」
微笑んでそう告げるとお父様は目を見開き、次いで眉間に皺を寄せた。いつもの顔に戻ったことがおかしく感じる。
「お父様、本日はもう帰りますけど…しばらく安静が必要なようなのですが…また明日、ここにきてもいいですか?いろいろとお話を聞かせて頂きたいのです」
「そ、れは…構わないが…」
「ありがとうございます。それでは失礼しますね。ゆっくり休んでください」
そう言って一礼し、困惑しているお父様を残して部屋を後にした。
こんなに泣いたのは初めてじゃないかと思う。頭がぐわんぐわんしてぼーっとする。
そんな自分の状態ではあるものの、気持ちは清々しいものがあった。
『クロードは間違いなく君を愛しているよ』
陛下が言っていた言葉が反芻している。
少し自分に自信を持つことが出来た。
次の日から、安静が必要なため少しの時間だがお見舞いに行きお父様といろいろな話をした。
陛下の言っていた通り、質問には全て何も隠すことなく教えてくれる。おそらくだが、口籠っているときは照れているのかもしれないと思えてくる。
お父様はとても私を大切にしてくれていた。
私がが会いたい時は何をしてても時間をとるからすぐ案内するよう執事には言っていたり、やりたいことがあればなんでも好きにできるよう、資金は十分に与えるよう言っていたり。
他にもバラ園のバラはお父様が品種改良して作り、シェリルと名付けたものだとか。白色が内側に向かってピンク色に色付いているバラ。あれは私をイメージして作ったものだそうだ。
陛下が言っていたことを確認しつつ、愛されているという確固たる自信が生まれてくる。
ただ意固地になっていないで、しっかり話せばここまで拗れなかったのかもしれない。
邸に帰ったら仕事で忙しいだろうに、朝食はなるべく一緒に食べてくれることになった。
初めて親子というものになれた、そんな心持ちだった。
まだだいぶぎこちないけれど、お父様とは今まで不足していた分の会話を積み重ねる。こればかりは時間が必要なのだと思う。
そして、話し合うことは改めて大事だと実感したことで、アレク様との話合いはやっぱり必要だと感じる。
お父様が目覚めた次の日、ゆっくりお話をした後にアレク様に忙しいだろうが時間が出来たら会えないか。という内容のお伺いを立てた。
しかし忙しいからまたの機会にと、いう返事が来るだけだった。また部屋の外にでるのもお父様のお見舞いだけで他は許されず、手紙のやりとりもアスターだけ、という日々が過ぎていった。
最初にアレク様にお伺いを立て1週間ほど経ち──
私はといえば。だんだんと腹が立ってきた。
お父様とは少しずつ関係を再構築できていっている。ええ、それはいいでしょう。
が、しかし。
話したいと言っているのにそれに関しては一向にいい返事はこない。2日おきくらいに手紙を書いているが、今は忙しいという。
そして先ほども会えないかというお伺いを立てたが断られた。
事件の件で忙しいのは百も承知だが、避けられているのは明らかだ。そして情報がなさ過ぎて今どれほど事件のことも進捗しているかわからない。
これに関しても情報が私に入らないよう手を回されているようだった。おそらく、というか絶対アレク様の指示だろう。
そこで。今お伺いをしてすぐに返事がきたということは執務室あたりにいるのだろう、と予想する。
(そうだ!執務室に突撃しよう!)
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いつものシェリルならこんな短絡的な行動はしないのだが。シェリルは父親とのことで後悔していた。
そして長年の父親との確執がなくなってきたことで、とてつもなく強気になっていた。アレクシスと何かあってもお父様がいるからいいいや、と。
ただもちろん、アレクシスとの関係が拗れるのは避けたかったことでこの行動に繋がった。
そして幸か不幸かアレクシスの執務室は近くにある。
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ハーディング公爵令嬢!おやめください!と止めようとする女性騎士たちを押しのけ、アレク様の執務室に向かった。執務室の扉横で警護している騎士も私に気づいて目を丸くしている。執務室には何回かきており、その騎士たちは顔見知りであった。
にっこり笑いかけるも、顔を青ざめさせて頬を引き攣らせている。
(なぜかしら。まぁいいわ)
そして騎士が戸惑っている間にも、有無を言わせず扉をその勢いのまま思い切り開け放った。
「アレク様!シェリルですが、失礼致しますわ!」
形ばかりの断りを入れ、バンっ!と大きな音が響く。
扉の真っ正面に置いてある机に座っていたアレク様が目を丸くしてこちらをみていた。
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