クロード・ハーディング④
そして黒幕は依然として判明せず、仕事に忙殺されながら教会派の貴族が関わっているらしいというところまで突き止めた時には、事件からすでに四年が経過していた。
その頃、シェリルが倒れたという一報が宰相室にもたらされた。
毎晩、どれほど遅くなろうとも、私はシェリルが自室で眠っていることを確認し、しばらく様子を見ていた。
顔色もいつも通りだったはずだ。
――なぜ倒れたのか、理解できなかった。
仕事を放り出して急いで帰宅し、執事に事情を尋ねると、原因は魔力枯渇だと言う。
あれほど魔力量が多いのに、なぜ――。
すると、シェリル専属のメイドであるサラが現れた。
「あの、シェリルお嬢様は……魔法を使おうとしたようでして。それでこのような状態に……」
すぐに理由は理解できた。
魔法は魔力を練ってから放出するものだが、その過程を経ずに使おうとすると、魔力が体外に漏れ出すだけになる。
実際、シェリルの部屋は魔力で満ちていた。
心配で離れられず、じっと様子を見守った。
頬が上気し、苦しそうに呼吸している。
(代わってやれたらいいのに……)
そんなことを思いながら、ただ早く回復するよう祈ることしかできなかった。
時折目を覚ましていたようだが、毎回私が席を外しているときだったため、起きている姿を見ることはできなかった。
二日後には熱も下がり、容体も安定した。
そのタイミングを見計らったかのように城から迎えが来て、私はしぶしぶ戻ることになった。
深夜、帰宅して再び様子を見に行くと、シェリルは穏やかに眠っていた。
自分の目で確認できて安心した。
その後、無視していたアスターとも会話するようになったと報告を受けたが、シェリルの目はさらに冷たいものになっていた。
すでに軽蔑されているのだろうと感じた。
理由がわからず途方に暮れる。
人間関係が得意ではない私には、どう接すればいいのかもわからない。
八方塞がりだった。
必要最低限の会話しかできないまま、時間だけが過ぎていった。
ある日、宰相室の机に置かれていた水晶が赤く光った。
緊急信号だ。
転移魔法が仕込まれた結晶を割り、自邸へ戻る。
私に緊急信号を送った執事が待っており、事情を聞きながら庭へ向かった。
すると、アスターの怪我をシェリルが治療しているところだった。
聖属性を持っていることに驚いていると、シェリルの体がふらりと傾いた。
魔力枯渇だと即座に察し、支えて自身の魔力を流し込む。
一瞬シェリルと視線が合ったが、そのまま気を失った。
魔力補填は、血縁が近いほど行いやすい。
それこそ親子ほどの近さでなければ難しい。
顔色が戻り、安心する。
抱き上げてベッドへ運ぼうと歩き出す。
執事が代わろうとしたが、この状況でも久しぶりに抱き上げられたのだ。
譲る気はなかった。
ひとまず神殿に多額の金を支払い、魔力鑑定を依頼した。
相場がわからなかったため、城がいくつも建つほどの金額を用意して交渉したところ、すぐに承諾された。
一連の手続きを終え、まだ目を覚まさないシェリルを見つめる。
顔色は良いが、目覚めなければ安心できない。
日が沈み、辺りが暗くなった頃、瞳が開き、視線が合った。
驚いた拍子に肩が跳ねたが、気づかれていないと思う。
仕事を調整し休暇を取り、神殿へ向かった。
シェリルは珍しいのか、神殿内をきょろきょろと見回している。
そんな姿も愛らしく思えた。
鑑定後、「もう終わり?」と言いたげな顔をしたのも可愛かった。
結果、聖属性も持っていることが判明した。
これが広まれば、複属性持ちの上に聖属性という希少性から、他国の王族から縁談が殺到する可能性がある。
シェリルには、近くにいてほしい。
―― それだけで、よかった。
対策を考えなければならない。
最も手っ取り早いのは婚約を結ぶことだが、シェリルを幸せにしてくれる相手でなければ意味がない。
本当は何もせずとも公爵家にいてほしいが、そうもいかないだろう。
考えを巡らせているうちに、いつの間にかアレクシス殿下の婚約者になっていた。
誕生日パーティーで隠れてシェリルを見ていたのは知っていたが、まさかここまで早いとは思わなかった。
王子の婚約者であれば、遠くへ行くことはない。
それだけで、十分だった。
シェリルも婚約を望んでいるようだったため、了承した。
――あの王子は、すでにシェリルを自分のものだと示したいのだろうか。
そう考えると苛立ちを覚えた。
事件に関しては、先日シェリルが遭遇した人攫い事件も関係している可能性があると判明したが、手詰まりだった。
それから五年が過ぎたころ。
新緑祭で事件が起こった。
事故か事件かは不明だが、火がついたのは今日初披露の花火だろうと推測した。
シェリルを守る一心で火消しに回る。
私も魔力は多いが、すでに消耗していた。
鎮火し周囲が騒ぎ始めた頃、シェリルを狙う人影を見つけた。
その瞬間、無我夢中だった。
たった一人の生きがいを――
失うわけにはいかない。
魔法を使おうとしても、焦りで魔力を練ることができない。
――こんなはずではなかった。
これほど焦ったのは、十二年前の事件以来だった。
必死に走り、ナイフとシェリルの間に体を滑り込ませ、彼女を抱きしめる。
腰に強烈な痛みが走り、熱が広がった。
しかし思ったのは、シェリルがいつの間にこんなに大きくなったのかということと、守ることができたという安堵だった。
安心したと同時に視界が歪む。
魔力と体力を使い果たし、意識が暗闇に沈んでいく。
最後に、戸惑いながら私を呼ぶシェリルの声が聞こえた気がした。
――シェリル。
何よりも大切な存在。
お前が幸せに生きてくれるのなら、何を差し出しても構わない。
たとえこの命であっても、惜しくはない。
◇◇◇
(今のは……走馬灯だろうか)
死の間際、人は過去を思い出すというが、これがそうなのだろうか。
深い水の底で揺られているような感覚がある。
「あなた、目を覚まして。……クロード様!」
かすかに懐かしい声が聞こえ、ゆっくり目を開いた。
一面真っ白な空間だった。
そこに、アシュリーがいた。
「アシュリー……? ずっと……君に会いたかった……」
目頭が熱くなり、アシュリーの手を両手で握り、額を寄せて縋る。
アシュリーも泣きそうな、しかし嬉しそうな顔をしていた。
しかし状況を理解し、額から離れる。
手は繋いだままだ。
「君がいるということは……私は死んだのだろうか」
「いいえ、死んでいません。まだシェリルの幸せを見届けていません。……今は、泣いています」
「シェリルが泣いている……? なぜ……」
シェリルが泣く姿など見たことがない。
報告でも聞いたことがなかった。
「ふふっ。それはご自身で聞いてください、不器用さん。……ほら、目を開けて。私はずっと、あなたとシェリルのそばにいますから」
アシュリーの声が反響しながら遠ざかり、白く光って消えていく。
握っていたはずの手の感触も消えた。
遠くで「お父様!」という声が聞こえる。
その声に導かれるように意識が浮上していく。
夢ではなく現実だと理解する。
左手が温かいもので包まれていた。
シェリルが手を握っていた。
アシュリーに似た顔のシェリルは、私に似て――だが、私には持ち得なかった光を宿した瞳で、私を見つめていた。
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