クロード・ハーディング③
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兄上は気づいていたんだ。私の気持ちに。
そしてこのままだと私たちが結ばれないから家を出て行ったんだ。
そこで感じたのは罪悪感だった──
しばらく兄上の捜索はされたが、2ヶ月経っても見つけることができなかった。
失ったものの存在はとても大きく失意の中塞ぎ込んでいると、アシュリーが訪ねてきた。
そういえば婚約はどうなるのか。今の環境があるのは兄上との婚約があったからだ。
アシュリーは私の顔を見て泣きそうな顔をしていた。でも俺は何も反応を返すことができなかった。
そして近づいてきて私をそっと抱きしめてくれた。
その温もりに包まれたとき、涙が溢れてきた。私はこの時、物心ついて初めて涙を流したと思う。
私が落ち着いたころ。兄上との婚約はクロードとそのまま継続することになったとアシュリーに教えてもらった。
兄上が失踪前に再度アシュリーの有用性を語り、失踪の際に両親にも手紙を残していたらしい。
その手紙にはアシュリーはそのままクロードの婚約者に。時期当主もクロードに。ということが書かれていたそうだ。
兄上の失踪に怒り狂っていたが、結局両親は今後の利益になるだろうとそのような決断をしたようだ。
「クロード様。私はエリオット様の気持ちを無碍にしたくありません」
「…」
「何より、もう自分の気持ちに嘘をつきたくありません。クロード様のことが好きです。ずっと、ずっと前からお慕いしております」
私は驚きのあまり目を見開いて固まってしまった。それこそ、アシュリーは兄上のことが好きなのだと思っていたのだ。
兄上がいなくなったからそう言っているのかと一瞬思うも、私を見つめる目は真剣で、頬は少し赤らんでいる。
よく、みる表情だった。兄上との婚約前までは。
兄上の手紙の内容を思い出す。2人で幸せになって。と書いてあった。兄上にはきっと、アシュリーの気持ちも筒抜けだったのだろう。
ここまでお膳立てされたら、腹を括るしかない。そのとき、いろいろと思うことはあったけれども、ピタッと気持ちが固まった。
「僕も、ずっと前から…アシュリーが好きだよ。愛してる」
大泣きしたあとだしおそらく顔は大変なことになっている。ちっとも格好つかないだろうけど。しっかりと気持ちを伝えることができた。
その後すぐに婚約は結び直され、その2年後には結婚をした。
エリオットへの感謝と罪悪感は常に持ち続けていたが、その分全てにつくそうと思った。
結婚して1年後。シェリルという目に入れても痛くない娘が生まれた。
瞳の色以外はアシュリーににてとても可愛い。
俺に似なくてよかった。終始、表情は緩んでいたと思うが、アシュリーと昔から付き合いがあり仲が良いランドルフ以外の周りからは変わらず無表情だと思われていたらしい。
アシュリーは産後、たびたび体調を崩すようになった。シェリルに大きく魔力が移った反動だろうと医者が言っていたが、気が気ではなかった。
そしてしばらく、空気のいい静かなところで療養することにした。アシュリーもシェリルもいなくなるのはとても寂しい。
しかし体調を考えると致し方ないと休みをとって必ず会いにいくことを約束して送り出した。
そして、とぼとぼと(周りには普通に見えるが)王宮に向かい、宰相補佐の仕事をしてお昼に差し掛かった時。
宰相補佐室の部屋の扉がノックされて王城の門番が首を傾げながら入ってきた。
「あの…宰相補佐殿。急に平民の女性がこれをあなたに渡して欲しいと託されまして…普通は受け取らないのですが、エリオットというものからだと、奥さんと娘さんの命が危ないと切羽詰まった様子でいうものですから…」
その言葉に耳を疑った。エリオットは失踪してから捜索は今も続けられているが見つけられてない。 結婚式の日にはおそらくエリオットと思われる匿名の手紙と贈り物があったくらいだった。
そしてその女性が言っていた言葉が本当であるのなら。
急ぎ手紙を受け取り確認する。筆跡は慌てて書いたようだが間違いなく兄上のもの。
そして内容は──
それからの行動は早かった。ランドルフにすぐ騎士団を借りることを了承させ、城で管理している駿馬を奪うように借り、騎士団も追いつけない速度でアシュリーたちの乗る馬車を追いかけた。
そして別荘へ向かう道の途中、不自然に広けた場所に出た。
そこに到着したとき、血まみれで虫の息のエリオットをみつけて駆け寄った。腕にはシェリルがいて気絶しているが無事だった。
「ク、ロード…久しぶりだな…」
「兄上!今は喋らないでください。すぐに神官を…」
「いや、さすがに自分の最後くらいは…わかる。この子はおそらく無事だ…。アシュリーが…この子を守ろうと魔力暴走を起こしたみたいだ。少しだけ、俺の魔力で相殺できたんだが……。心残りは娘…アスター、と妻のこと。クロード、頼む。俺の、代わりに…」
その言葉を最後に目から光が失われた。
しばらく呆然と見ていたが、シェリルに気づきハッとしてそっとエリオットの瞼を下ろし、シェリルを抱きかかえた。
「…アスター…」
この日、私は一度に2人も心から大切に想う人を亡くした。
もう私にはシェリルしか残っていない。
絶望していたが、こんなときでも頭は回り兄上の家族を保護するために何をするかを考えていた。
気を失っているシェリルをそっと抱き直し、今到着した騎士たちに状況を説明し指示をだした。
事件のことを調べたりアスターを探したりしているうちに、ランドルフの戴冠式が行われることになった。それにともない、宰相になることが決まった。
正直いまはそれどころではないのだが、権力はあるに越したことはないだろうと拝命した。そしてシェリルの守りを固めるため、手始めに魔法騎士の規則を緩和した。
そしてこの機会に、常々自分の利益しか考えない無能と思っていた両親を領地の隅においやった。公爵家の当主と公爵家子息では大きく違う。当主の立場も必要だと思った。
事件についてはクォーツ伯爵家の処罰が言い渡され、伯爵夫妻は公爵夫人への恐喝と、ナターシャの悪事を知っていたにも関わらず止めなかったとしてナターシャと同様に罪は重いと判断された。ナターシャは公爵夫人殺人に加え、暴行も合わさりクォーツ伯爵一家は処刑となった。
そして事件から2年たったころ、やっとエリオットの家族を見つけることができた。急ぎ迎えに行かせるも、兄上の妻が亡くなったという最悪のタイミングだった。アスターは少しやせてはいるが健康であるとのことは不幸中の幸いだった。
兄上に合わせる顔がないが、その分アスターをしっかり養育しなければと思考を切り替えた。
アスターについては私が兄上に救われていたことから、シェリルにも姉妹ができるのはいいだろうと紹介したのだが。その直後からそれじゃなくてもそっけなかったのに、さらに冷たく睨みつけられるようになった。人間関係が疎くはあるが、シェリルがとても冷めた目をしているのはわかる。
理由がわからず、そんな目で見られるのがとても心に刺さり、朝食をささっと食べ終え逃げ出してしまった。今朝は久しぶりに娘と朝食を共にできるのを楽しみにしていたのに。
その後も何度か会っても視線は冷たいままだった──
読んでいただきありがとうございます。




